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第六十四章 目覚めぬ者


「なんだ・・・?悲鳴?」
「よそ見はいかんで?」

後ろを振り向こうとする赤髪をガントレットで殴り飛ばす
赤髪の仲間は劣勢を悟ったのか徐々に逃げ出している

「兄者~ご苦労さん!後は任せたぜ~」
「なんだと!?貴様」

金髪のレイピア使いが戦場から逃げ出す頃には赤髪の混乱がピークに達する

「くそ!どうなってやがる!?」

黒い靄がわいに斬りかかろうとするところを、大量の土弾が打ち抜き霧散する

「おそかったな!あ・・・ず・・・」

そこには足と腹から出血しているアズの姿
本来冒険者はNPCと違い状態異常を除き出血することは無い
まさか!?
不意打ちで隙だらけの赤髪を無視して急ぎアズに回復ポーションをぶっかける

「ぶは!?なんだフーキ!?今チャンスだったのに!?」

出血がおさまり立ち上がってわいに抗議するアズの姿に胸をなでおろす

「てめぇら・・・!もう許さねぇ・・・!」

周りの状況を理解した赤髪が憤怒の表情でこちらを睨んでいる
片方のツーハンドソードを地面に突き刺しもう片方を両手で肩に担ぐ

「なんや?ブラックミストとやらは使わんのん?」
「あの召喚術はMPの消費が激しくてな!戦士職がおいそれと使えねぇんだよ」

ツバを吐きながらその場を一歩も動かない赤髪

「だが安心しな・・・俺はこっちでも強いぜ!」
「それは・・・楽しみやね!」

相手の様子を見ながらアズに耳打ちをする

「明らかに防御からのカウンタースタイルやね」
「?そうなのか?」
「そそ、本当は戦ってみたい所やけど・・・」
「なんだぁ?チャンピオンともあろうお方がびびってんのかぁ?」

こそこそと作戦を説明するわい達を挑発する赤髪を無視して、アズが遠距離から精霊を放つ
地面のツーハンドソードを蹴り上げて縦回転しながらすべて打ち落とす赤髪

「へ!遠距離攻撃なら倒せるとでも思ったか?MPがなくなるまで付き合ってやるぜ?」

アズが棒読みで赤髪に笑顔を向ける

「へーMPが無くなるまで付き合ってくれるのかー」

アズの精霊術はMPなんて使わないから無尽蔵なんよなぁ・・・
何も知らない赤髪にニコニコ笑顔を向けて精霊を使い続ける作業が始まるのであった
                  
         ◇

いつの間にか死んだのだろう姉さんを除き
途中邪魔は入ったが無事に黄国まで到着した俺達は解散する事になった
今回狙われたであろう、今後も狙われる可能性の高いアレクには
木漏れ日荘のパートであるオクトリア兵を護衛につけておく

「じゃあアレク!くれぐれも変な人についていかないように!」
「アズは心配し過ぎだ、サトミさんによろしく言っておいてくれ」

アレクに別れの挨拶をしてシステム画面からログアウトする
ログアウトした俺は肩をもみながらヘッドギアを机の上に置く
今頃姉はゲームからログアウトしているだろう

そう思い姉の部屋をノックするが反応は無い

「姉さん?入るぞ?」

真っ暗な部屋の中で姉がヘッドギアを装着して横になっている
俺達って普段外から見たらこんな状態なのか・・・
うわぁ・・・と軽くドン引きしながらヘッドギアを見るとまだ電源が入っている

「なんだ?まだログアウトしてなかったのか?」

本来ならばあまりしたくは無いが・・・
姉を覗き込みヘッドギアの強制終了ボタンを押す

「おーい?姉さん?どこほっつきまわってたんだよ」

ヘッドギアを外した姉はスースーと寝息をたてている
・・・こいつ!寝落ちしたな!

「姉さん?起きろ!はやく!なう!」

姉を揺さぶるが気持ちよさそうに寝ている
まぁ今日は疲れただろうし・・・このまま寝かせといてやるか

                ◇

昨日は徹夜で疲れたけど・・・無事に目的の黄国まで到着したね
これから様々な技術を盗み見る事ができると思うと口元がにやける

「ほんま格闘大国バンザイやね」

はやくBGOをしたい思いを抑えつつカップ麺にお湯をいれて3分待つ
ちなみに今日は学校の日だがずる休みをするつもりだ
スマホをいじっていると着信が入る
発信元は青葉大和
さては大和もずる休みして黄国に行くつもりやな?

「大和?こんな朝早くにどうしたんやろ」

スマホの向こう側からはすすり泣くような音が聞こえてくるばかりだ
電波の調子でも悪いんか?
訝しみながら返事を待つ

「もしもし?どうしたん?」
「・・・フーキ・・・姉さんが目を覚まさないんだ!」

スマホ越しにも伝わってくる大和の声は尋常ではなかった
なんやて!?サトミ姉さんが目を覚まさん!?
焦りそうになる気持ちを抑え冷静に分析する

「大和、まずは落ち着き・・・どういう状況でどうしてそうなったかを教えてくれへん?」

大和からの情報と今までのわいの情報を照らし合わせてある仮説を思いつく

「大和、まずは太郎兄を呼ぶんや」
「太郎兄を・・・?なんで・・・?」

泣きそうな声で聞いてくる大和に強く言い聞かせる

「いいから、言うとおりにするんや」
「・・・!わかった」
「それからわいはサトミ姉の容態について色々調べてから合流する」
「・・・頼んだ・・・」

大和との会話もそこそこにわいは適当な服を着て外に出る
あの人ならなんか知っとるかもしれん!

               ◇

白い空間には二人の人影と一つの発光体
そのうち一人は地べたで倒れている

「ついに手に入れましたよ~?」

グランは青い光を放つ発光体に愛おしそうに頬釣りをしながら
地べたで痙攣する赤金の鷲のサブマスを見て口角を吊り上げる

「あらら?もう壊れちゃったんですかね?」 

この男はなかなか役に立ったが・・・もう必要ない

「さて?まずは散々邪魔をしてくれたあのお方に挨拶に行きましょうかねぇ?」

白い空間にグランの笑い声がこだまする
いつまでも続くかのような、長い笑い声が

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