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第六十三章 赤金の鷲

「汚物は出荷よー」

無心でフォレストトレントの戦闘の後始末をしていた俺は
周囲の死体にHPゲージを見つけ、急いでPTメンバーに声をかける

「フーキ!フォレストゾンビだ!」

フーキがそんな馬鹿な!?と言いながらこちらに駆け寄って来る

「何かおかしいのか?」
「エリアボスのフィールドに雑魚モンスターはポップしないはずなんよ・・・!」

だが実際ポップしている
しないという情報のほうが間違っているのではないか?
尚も困惑した表情を浮かべるフーキをよそに例によって回復魔法をかけようと近づく姉
周りの死体が復活する前に倒せるならそれに越したことはない
止めずに様子を伺う
姉の回復魔法をかけられたゾンビは光を帯び・・・HPが満タンまで回復する

「あれ?なんでゾンビのHPがかい・・・」

俺が最後まで喋る前に隣で話していたフーキが消える

「マッスル・・・ソニックパンチ!」

姉が回復したゾンビがきりもみ回転しながら地面に落下する

「気をつけろ皆!こいつらプレイヤーや!」

周りの死体・・・否!プレイヤーが動き出す
おいおい!この量のプレイヤーとPVPなんて勝ち目ないぞ!?

「フーキ!今なら謝ったら許してもらえる!ほら!誤って!土下座だ土下座!」

フーキの頭を押さえつけようとするとフーキがガントレットを構える

「無駄やアズ・・・あいつら赤金の鷲や」

フーキが宣言すると周りの腐ったプレイヤー達はそれぞれに笑いだす

『そう!俺達は泣く子も黙る赤金の鷲!』
『我らがクランは最狂にして最凶!』
『俺達に目をつけられるとは運がないな!』

俺は腐ったプレイヤーを見て・・・

「赤金の鷲・・・誰だっけ・・・」

頭にはてなを浮かべていた
その場にいた全員が驚きの目をこちらに向け・・・腐ったプレイヤーはなぜか落ち込んでいる

『我らを知らないだとぅ!?』
『おいおい・・・最近は誘拐クランってことで少し知名度上がってたと思うんだが・・・』
『よし落ち着け!まずは素数を数えるぞ!』

あ・・・なんかすみません・・・
しかし彼らの言っていた誘拐クランという言葉で思い出した

「こいつらが海賊の裏で手を回してたやつらか!」

俺の言葉で元気を取り戻した腐ったプレイヤー達が再び笑い声をあげながら各々の武器を構える
絶望的な状況で・・・どこか嬉しそうな女性の声が響く

「あら?もしかしてこの人達全員・・・倒してしまっても良いの?」

AKIHOが口を三日月のように歪ませてプレイヤーに対峙する
明らかに異質なその笑みに何人か腰を抜かせている

「・・・なんかAKIHOのほうが悪役っぽいなぁ・・・」
「アハハハハハハハ!さっきの戦いじゃあ物足りなかったの!たのしませて!」

AKIHOが陽炎を残しながら分散してプレイヤー達に斬りかかる

『たかが一人でなにひでぶ!?』
『こっちは多勢だ!かこめかこげふ!?』

AKIHOのおかげか敵が混乱している
遠距離攻撃は潜伏しているアレクが上手く叩き落としているし・・・
もしかしてこのままいけるんじゃないか?

完全に傍観者になりつつある俺達の前に、巨大なツーハンドソードを担いだ赤髪の男が歩み出てくる
こいつは・・・他のやつとは違うな
杖を構える俺をフーキが止める

「アズ・・・お前は下がってろ!」
「何言ってんだ?俺も戦うに決まってるだろ?」

フーキが困ったような顔を浮かべる

「でもなアズ・・・」

尚も説得をしようとするフーキがガントレットを抜き出し
赤髪のツーハンドソードを弾く
なんだこいつ!かなり速い!
戦力の違いに驚いている俺をよそにフーキと赤髪が話を始める

「ほう・・・あの時のいけすかねガキじゃねえか!」
「なんや・・・あの時のチンピラやん・・・」
「ちょうどいい!あの時の借りかえさせてもらうぜ!」

赤髪がもう一個のツーハンドソードを取り出す

「・・・そんな重そうな武器二つでどうやって戦うん?」
「それはな・・・こうやるんだよ!」

赤髪が片方のツーハンドソードを地面に突き刺しもう一方を空中に放り投げる

「ブラックミスト!!!!」

赤髪から黒い靄が飛び出すと投げ出されたツーハンドソードを掴む
赤髪と全く同じ背丈、体格の黒い靄がツーハンドソードを構える

「また・・・珍しいスキルを・・・!」

黒い靄と赤髪が同時に構えるとフーキに斬りかかる
靄の斬撃をガントレットで弾くが大きく体勢を崩すフーキ

「フーキ!今助太刀をっとお!?」

殺気を感じ咄嗟に回避行動をとる

「悪いけどよ~?邪魔はさせねえぜぇ~?」

整った顔の金髪がレイピア片手に顔を醜く歪ませる

俺は残念顔からの攻撃を杖で捌き・・・腹と足に痛みが走る

「な・・・!?」
「シャドウピアス!俺のレイピアを避けれるやつは!あんまりいないぜぇ!」

足を負傷したことによりその場に崩れ落ちる

「じゃあなガキ!」

レイピアが俺の脳天目掛けて迫る
残念顔は勝利を確信して・・・動きを止める

「な・・・!?なんだこりゃ!?」

いくつもの蔓で体を拘束され驚愕の表情を浮かべる残念顔
その様子を見て俺は笑みを浮かべる

「フォレストトレント直伝拘束術だ!」

驚愕に目を見開く残念顔目掛けてとびっきりの土精霊をぶつけ気絶させる

「今いくぞ!フーキ!」

俺は杖で地面を突きながらフーキの元に向かう

             ◇

「アハハハハハハ!」

かつてここまでの人数との戦いはしたことが無い!
狂気に彩られた笑みを浮かべる

「アハハハハハハハ!楽しいわ!楽しいわ!」

流石はプレイヤー、どの対戦相手も一撃殴ったくらいじゃ全然HPが減らない!
いつまででも戦えそうな雰囲気に気分がどんどん昂っていく

「っく!はなせ!?」

昂りを冷めさせるような唐突な雑音の正体を睨む
そこには盗賊に手首をつかまれているアレクがいる

「こいつさえ手に入れれば私達の勝ちだ!」

昂っていた心が急激に冷める
アレクを掴んでいる盗賊の腕を切り落とす

「へ?ぎゃああああ!?」

とどめを刺すべく竹刀を振り上げる

「ま・・・待ちなさい!私はNPCよ?死んだら終わりなの!殺さないで!」
「あなた・・・レイノール商店に居た子よね?」
「へ?ええそうよ!今後の為にも私はころ」

盗賊の首を切り落とす
この盗賊が今回の事件の発端の一人だと直感が告げたのだ
地面を転がる首に顔を青くしているアレクに手を貸す

「すまないAKIHO!」
「・・・君は・・・私の獲物よ?」

びくりとするアレクを無視して右手に竹刀、左手に木刀を持つ

「冷めたわ・・・もう終わりにしましょう・・・」

近くにいたプレイヤーの首を切り落とす
隣にいたプレイヤーは何がおきたかわからないといった様子で・・・首を落とされる
動揺する赤金の鷲のプレイヤーは、その日グラフ樹海で悪夢を見る事になった

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