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第五十七章 アレク対AKIHO!

普段穏やかな時間が流れる木漏れ日荘の中庭
新緑の光が気持ち良く、管理人のお気に入りのスポットであるここではよく管理人が居眠りをしており
いつしか冒険者の中で天使の中庭と呼ばれてたり呼ばれなかったりしている
そんな中庭が今日はいつもと違う盛り上がりを見せている

           ◇

『やっちまえー!アレクの嬢ちゃん!』
『新人さんがんばれー!』
『はいはーい!賭け金はこちらだよー!』
『アレクに100R!』
『新入りに200R!』
『ホッピーコーラはいかがですかー?』

いつもの穏やかな中庭が一変して冒険者の賭場にかわっていた
決闘を始めると周りの冒険者がこうやって賭けを始めるのはいつもの事だが・・・
こんなに人が集まる事はまずない

「こいつらどこから出て来たんだ?」

俺の疑問にフーキは苦笑いを浮かべている

「知らぬが仏ってやつやね・・・」

どういうことだ?
まぁその話は後で聞くとして・・・

「チャンピオンはこの決闘どっちが勝つと思う?」
「せやね・・・普通に考えたらレベル1冒険者と一般市民は同じくらいの強さやけど・・・」

フーキの視線を追うとアレクが杖の振り心地を確かめている
海賊船で共に戦った時の強さは決して一般市民のそれではなかった
そんなアレクはウェイトレス衣装から誘拐されていた時の服に着替え、腰には短剣やフラスコ等アイテムをぶらさげている
右手には海賊戦の時に渡した杖を持ち歴戦の冒険者を思わせる風格を漂わせている

お次にAKIHOを見る
レベル1の彼女は初期装備のぼろ服に木刀を携え
まるで幽鬼のような立ち振る舞いだ
なぜかこちらを見て口を歪ませ立っている
リアルであったらトラウマになりそうな雰囲気にアレクとは違う意味で息をのむ

「明らかに二人とも熟練者のそれなんよね・・・」

俺達の会話もそこそこに準備が出来た二人は臨戦態勢に入る

「改めて・・・よろしくね?」
「よろしくお願いします!」

二人が距離をとったところでフーキが合図をする

「二人共・・・準備は良さそうやね?決闘開始!」

最初に動いたのは・・・アレクだ!
達人のような足捌きで距離を縮め杖で一突き、AKIHOを貫く

「はやい!決まったか!?」
「あの足捌き・・・参考になるね・・・」

フーキが模倣眼を発動しながら呟くのを半目で睨む
こいつ・・・もしかして最初から技を盗むつもりだったんじゃないか?
俺の視線に気づいたフーキが咳払いを一つする

「まだ決まってないよ?見てみ?」

言われて戦況を再度確認して驚愕する

「なんだあれ!?」

貫かれたAKIHOの隣にAKIHOが妖艶な笑みを浮かべて立っている
会場にどよめきが走る中フーキが冷静に分析する

「恐らくあれが・・・陽炎スキルやね・・・」

貫かれた陽炎はもとから何もなかったかのように姿を消すが
AKIHOが体をゆらゆらと揺らすと残像のように陽炎が大量に発生する

「模倣眼持ちにはうれしい状況だな・・・?」
「残念ながらわいの模倣眼はスキルは真似できないんよ」

悔しそうなフーキ、だが逆を言ったらスキル以外の技はなんでも真似できるってことだな?

「このチート野郎が!」
「なんで急に罵倒されたん!?」

チート野郎に侮蔑の眼差しを向けていると決闘に動きが生じる
今度はAKIHOがノーモーションから超高速で距離をつめる

「なんだあの移動のしかた!?あれもスキルなのか!?」
「疾風スキルを使った移動技やね!しかも疾風の効果が乗るのは移動だけやないよ!」

AKIHOの木刀が瞬間移動したかのように右から左に位置を移動しアレクが後ろにのけぞる

「なんやあの速さ!?疾風スキルと単純な体術やで!?」

観客が驚愕している中試合は更に動く
直撃したと思った攻撃をアレクは短剣で捌き威力を軽減させていた

           ◇

流石冒険者!僕の想像の遥か上を行く!
のけぞったままの状態から腰にぶらさげていたフラスコをAKIHOに投げつける

中には猛毒と麻痺毒が詰まっている
AKIHOはフラスコをたたき割らずに大きく飛びのく

「やっぱりアズが言ってた通り耐久力が少ないんだな」
「ええ・・・それにしても・・・どうやって私の初撃を防いだの?」
「あんなの攻撃がくるとわかっていればどうということはない」

僕の発言にAKIHOが三日月のように口を歪ませ・・・戦いが始まって初めてこっちを見た

「良いわね・・・君も・・・欲しくなっちゃったかも?」

ぞくりと背筋に嫌なものが走る

「う・・・うおおお!」

嫌なものを取り払うかのようにAKIHOに接近して攻撃を加える

「今度は陽炎を発生させる間も与えなかったはず・・・!?」

そこにいたAKIHOが霧散する
疾風か!
咄嗟に前方に回転する

「へえ・・・今のも避けるんだ・・・」
「前にいない、横にもいないなら後ろしかないからね!」

僕のカウンターをいともたやすく避けるAKIHO

「なら・・・これはどうかしら?」

今度は・・・陽炎か!?実物か!?
前の陽炎に短剣を投げつけ後ろを杖で薙ぎ払う

「誰も・・・いない・・・?」

後ろに誰もいない事を確認すると背中に強烈な痛みが生じる
そうか!陽炎の後ろに隠れていたのか!
自分の赤いゲージが3割減っている
流石冒険者だ・・・勝てる気がしない
半ば諦めかけた俺の視界に心配そうにこちらを見ているアズがうつる

もしここで負けたらアズは俺を連れて行ってくれるだろうか・・・?
使えない僕はまた捨てられるのではないだろうか・・・?
嫌な思想が頭を支配していく

それは過去の記憶(とらうま)

「負けたくない・・・!」

アズから借りている杖を再度強く握る

・・・?これは?
周りに今まで見た事のない青や緑、黄色の発光体がうつる

「何を・・・ほうけているの?」

AKIHOが緑の発光体と赤の発光体を残し消える
直感で緑の発光体の向かった先に杖を振るう

「!?」

驚愕の表情を浮かべるAKIHOが後方に吹き飛ぶ

「や・・・ったのか?」
「アレク!」

アズが血相を変えてこちらに走り寄っている
何をそんなにあわて・・・て?
体に激痛が走る
よくみると僕の胸元辺りが出血している

「負けてた・・・のか・・・」

僕は全てを悟り意識を失った


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