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第三十八章 でもそんなの関係ねぇ!

姉が沸かした後なのだろう
風呂が温かい事を確認して浴室に入る
汗まみれだったからまじで生き返る・・・

「ふへぇぇぇぇ・・・」

 小さくなって風呂でこんなに救われたのはゲーム内以来だと感慨深く自分の体を確認する

結局この数日元に戻る方法すら考えていない・・・後三日で夏休みが終わるのに・・・
同時に小さくなった自分を見てゲーム内の出来事を思い出す

「トウヤは大丈夫かなぁ・・・」

あの爆風だ・・・恐らく俺と同じでHP全ロスト、強制ログアウトを受けているかもしれない
湯船に顔まで浸かりぶくぶく呟く

「あんなのチートだよ・・・チーターだよ・・・」

 風呂に入って頭がスッキリしてきた!
後でログインしたらトウヤとリベンジしよう!
 寝巻に着替えキッチンでカロリーメイトを漁っていると浮遊感に襲われる

「何事だ!?」
 「ひろひろ!ご飯できてるから一緒に食べようー!」

 姉がPOPしたようだ

「っていやいや!あれ!?」

 姉はBGOに完全にハマらせたから今の時間リアルで会う事はないはず!?
いや!?そもそも小さくなった俺に対していつも通りの反応!?
 様々な事が頭の中をぐるぐる回りながらも姉に対して届かない拳を振りながら叫ぶ

「や・・・やめろおぉぉ!歳を考えろ!歳を!!」



 『本日未明東京都〇〇区にて謎の焼死体が発見され・・・』

テレビのニュース流れる居間にて
スマホを見ながら姉が飯の支度を終えるのを待つ

<BGO緊急メンテナンスのお知らせ>・・・か
最近メンテナンスが無かったので完全に油断していた

「タイミング最悪・・・それにしても姉さん何も言ってこないなぁ・・・」

てっきりリアルで小さくなった事を詰問されると思ったのだが・・・
 チラリと姉を見ても鼻歌混じりにスパゲッティを茹でている
意を決して質問してみる

「姉さん?最近の俺どう思う?」
 「・・・ひろもお年頃だもんね!大丈夫!自分に自信持って!」

 姉が優し気な笑みを浮かべてスパゲッティを持ってくる

「ちげぇよ!?何思春期の子供を見るような目で俺を見てるの!?」
 「太郎ちゃんはよく言ってくるよ?」
 「あれと一緒にしないでくださいませんか!?」

 机をバンバン叩きながら抗議の声をあげる

「そうじゃなくて・・・小さくなってるじゃん?」
 「うん!最近小さくなったね!」
 「普通おかしくない・・・?」

 当然のように笑顔で姉が答える

「でもそんな時もあるよね?」
 「ねえよ!」

 小一時間姉と話し合ったが姉は決して折れずに俺の変化を普通に受け入れていた
 この人はゲームと現実の区別がついてないのかもしれない
試しに厨二真っ盛りの太郎兄を呼ぼうとしたが姉曰く最近外泊が多いらしい

「もう・・・いいです・・・」

 深く考えていた俺が馬鹿らしくなった
 いっそ学校もこのぐらいの包容力があったら楽かもしれない

                                     ◇

久しぶりに俺のご飯を食べたいという姉の意見に従い買い物に行く事になった俺は
今の見た目だと目立ちそうなので
ガラシャツにデニムパンツ、髪をすっぽり覆うようにニットキャップ、サングラスで目を隠している

商店街のベンチにエコバッグを置いて道行く人を見ながら呟く

「もしかしたら俺みたいな人がいるかもと思ったけど・・・そんな人いないよな」

いたとしても外で平然と歩いていないかもしれない
髪や目の色は何かしらの方法で隠しているのかもしれない
 ニュースサイト等を調べたが現在手掛かりや同じ境遇の人は見かけていない
溜息混じりにスマホでBGOのメンテナンス内容を検索する

<イベント 炎の魔人の討伐 >
 <和の国にて炎の魔人が出現しました、冒険者の方々は至急炎の魔人の討伐に向かってください>
 <このイベントでは5人PT、出現個体は一体のみ、討伐した方にのみアイテムが支給されます>

 和の国の炎の魔人って・・・
昨日トウヤと遭遇したあいつじゃないか?
もしそうだったら冒険者の進行度でこれからもメンテが挟まれる事になるぞ・・・
面白そうだが面倒そうな仕様を叩きつけられ微妙な顔をしつつ空を見上げる

「あのウサミミ男・・・GMサイドの人だったのか・・・」



 欲しかったゲームや漫画を買っていたら結構な時間になってしまった
夕食の支度の為急いで家に向かっていると
 いかにもな男が二人、女学生にからんでいるのを見つける
触らぬ神に祟りなし・・・時間もないし無視だ無視

そう思い通り抜けようとしたが女学生と目が合う
今の俺は見た目完全小学生低学年かそこらだ
 ここで無視してもあの子はしょうがないと諦めるしかない
 そのまま通り抜けようとしたが足が止まる

「・・・仕方ない」

 元の姿でも絶対関わりたくない場面だが罪悪感がかってしまったようだ
女学生の手をつかんでいる男に大声で語り掛ける

「ちょっとちょっと!その子困ってるじゃん?やめなよ!」
 「あぁ!?・・・誰もいねぇ・・・」
 「おいお前!少し下を見ろよ!いない者扱いするな!」
 「うお!なんだガキかよ・・・どっかいってろ」

 男が俺の腹に蹴りをいれる
 ぐお!こいつ・・・小さい子供に容赦なく蹴りいれるとかヤバイやつだ・・・
痛みで腹をおさえてうずくま・・・

「あれ・・・?」

 思ったより痛くない、というか軽く小突かれた程度の感触しかない
男が蹴りを入れたポーズのまま頭にはてなを浮かべている

「あ?なんだこのガキ?」

もしかして・・・
一つ仮説が頭によぎった
男の足を掴み下半身に力を込め体をねじるように男を後ろに投げる
男は大した抵抗もなく電柱にぶつかり苦しそうにうめいている
俺の仮説は確信に変わる

 あ!これ!強さもゲーム内のままだ!
その確信を得たらもはやさっきまで怖かった男がゴブリン以下の戦闘力の雑魚にしか見えない

「手加減しとくから恨まないでね!」

 満面の笑みで呆然としているもう一人の男の顎にアッパーをしかけて気絶させる
残された女学生はポカンとしてこちらを見ている

 エコバッグを担ぎなおした俺は女学生に一言告げてそのまま立ち去る
良い事した日は気持ち良いものである
 しかしあの子どこかで見たことあるな・・・まぁいいか

夕暮れ時、橙色の空の下、鼻歌混じりに帰路につくのであった


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