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第十三章 勅命


どうしてこうなった!?

銀髪女の横薙ぎの一閃をしゃがんで避ける
距離が離れ、杖を構えた所で銀髪女はゆったりとした動作で右目を手の平で隠しながら静かに発する

「動くな」

声が耳に到着すると体が自分の物では無くなったように動かなくなる
ポーズを決めたままの銀髪女が左手の片手直剣の切っ先をこちらに向け
ゆったりとしたペースで近づき振りかぶる

声も発せない状況下、杖の先端に当たった風の精霊に念じ
自らに風をぶつけて再び横薙ぎの一閃を回避する

あぁ!ほんとに!どうしてこうなった!

そう思いながらこうなった原因を思い出す



「やってしまった」

全身を黒い服で固め、腰の左右にそれぞれ赤と黒のシミターをつけた馬鹿兄
†エンドシャドウ†に石つぶてを放った所クリティカルヒット
HPが半分消し飛び気絶の状態異常を引き起こして床に突っ伏している

杖でつつくが全く反応がない

「どうしたもんかな、これ」

グラフ草原の東に居を構えたとか言っていたが
まさかこんなただの岩山とは

サービス開始したばかりのゲームでホームを持ってたらそれはそれですごいが
そう思いながら岩山という名の拠点を見ていると中から新しい人影が出てくる

銀髪ショートで赤い瞳、全身銀色のコートに真っ黒な片手直剣を腰に携え右目を手の平で隠している
そんな厨二第二号がこちらに気付いたのか近づいてくる

「汝、我が社に何用か」

あっこの人絶対馬鹿兄が言ってた盟友だ

「偶然ここでスキルの調整をしていただけなんですが」

ここで銀色女が足下の馬鹿兄を見て驚いた表情を浮かべる
マズイ、驚いた顔から無表情にこちらを見る銀髪女に慌てて弁明する
このままでは勘違いからPVPに発展しそうな、そんな睨みをきかせてくるからだ

「いや、この人は俺のバ」
「喋るな」

次の言葉が出なくなる

「そこを動くな」

足が動かなくなる
えっ?なにこれ?

困惑する俺の目の前で銀髪女が真っ黒な片手直剣を振りかぶる
ヤバイ
そう思った時横合いから軽い衝撃、ジローが俺を押し出し剣の間合いから外れる

我に返りジローの頭を撫でながら礼を言う

「・・・サンキュージロー・・・ナイスサポート」

銀髪女はこちらとジローを交互にみながら声を発する

「しまえ」

ジローが白い光に包まれ消え、アイテムストレージに戻る
アイテムストレージに戻すディレイで動けない所に、両手で片手直剣を構え左下から切り上げてくる
ディレイが解けた瞬間に杖を横に構え、剣の軌道を逸らす

バックステップで距離を取りながら
風圧で自分を押し出し少しでも距離を取る

銀髪女は自分と剣を交互に見比べながら再び切り掛かってくる

「どうしてこうなった!?」



原因を思い出しながら自分に当てた風の痛みに顔を顰め
受け身もとれず顔面から地面に突っ込む

ここまで派手に倒れては自然調和も意味をなさず、更に追撃がかかる
単純な切りあいなら互角のようで、なんとかなっている現状
しかし再びポーズを決める銀髪女に戦慄を覚える

「跪け」

体が勝手に跪く
地精霊で地面を押し上げ転がるように後ろに倒れこむ
謎の強制命令があり、完全に不利な状況に陥っている
俺としては話し合いで解決できると思うんだが

「あの!これは誤解で!」

一閃をいなしながら叫ぶ

「余の半身が伏せているのに関係が?」

剣に力が篭るのも感じながらも弁明する

「確かに気絶させてしまったんですがぁあ!?」

気絶させたという単語に更に攻撃が加速する

「もう良い、喋るな」

くそ!ポーズを決めている時だけかと思ったら!
どうやら言葉自体に強制効果があるらしくそれ以上の言葉が出せなくなる
力のこもった攻撃によろめき尻餅をつく

「余の勅命にあらがい、ここまで耐えた事褒めてつかわそう」

だが・・・と怒りが篭った声で続きを話す

「余の半身を傷付けた罪、万死に値する」

その言葉と同時に再び剣を振るう

再び打ち合いに発展する
このままじゃジリ貧だ・・・

「そうだ!」

とある作戦を思い付き、後ろに飛び退く
銀髪女はポーズを取りながら再び一言

「動くな」

動けなくなると同時に作戦を実行に移す

動けない時、精霊の使用は出来、精霊を自分にぶつければ自分の位置をずらす事が出来た
ならば精霊を連続で使用して動けば良い
そんな暴論を頭によぎらせ地精霊で足下の地面を隆起させ空中に躍り出た所で風精霊を全身に浴びながら宙を舞い、そのまま突撃する

さすがの銀髪女もこの動きは予想出来なかったのだろう
本日二度目、クールに決めている表情が動くのを見る

衝突する瞬間
全身黒い服で固めた男が俺を蹴り落とす
思わずへぶ!っと情けない声が出る
男は赤色のシミターを俺の首筋に
黒色のシミターを銀髪女の首筋に突きつけながらクールに言い放つ

「そこまでだ」

決まった・・・といったような恍惚な表情を浮かべながら†エンドシャドウ†が良い笑顔を浮かべている

いや、お前も原因の一つだからな?
というか気絶が大分前に解けて良いタイミングで出て来ようとしてたの見えてたからな?
恨めしい目で見上げながら今日何度目かの言葉を力なく呟く

「どうしてこうなった・・・」



口元がニヤニヤしてポーカーフェイスが出来てない馬鹿兄
無表情で虚空を見つめている銀髪女改めフィン
青髪ロングでメイド服のメアリーがフィンの後ろ控える

構成人数三人のクラン†断罪者†で改めて話をする

「余の半身の血縁であったか・・・ならば此度の無礼許す」

 フィンが虚空を見つめ無表情に言い放つ

フィンとの戦闘は、乱入してきた馬鹿兄のおかげで無事終演を迎え
三人で本拠地(笑)の岩山の空洞に帰った所、メアリーが四人分の菓子を準備して待っており
お茶をしながら馬鹿兄との関係を話して事なきを得た

「しかし帝様、兄とは言えいきなり手を挙げるのはどうかと」

 フィンにメアリーが言うと

「良い、血縁の争いに余が介入することも無し」
「御心のままに」

 そんな言い合いを眺めながらため息ひとつ
 
「そういえば皆さん良い装備してますよね?Rとか足りなそうですけど」
 
ふとした疑問を発する

「盟友の領民によるRだ、少数精鋭故個々の装備が整っている」

馬鹿兄が得意気に話す、気に入らない
つまりクランの領土戦で収めた地域の税収で買ったのか
装備の前にホームを買ったらどうなんだろう

 「ホームはRが異常に高いのですよ」

 こちらの心を見透かしたようにメアリーが言う

「ちなみにグラン東の領地はほぼ我ら断罪者が収めているのですよ?」

 今度は聞いてないのに満面の笑顔で言うメアリー
 しかしグラン東の領地ほぼ全部って凄いな、クランの詳しい所がどうなっているかは知らないが

「現在、北の大森林を小鳥の会、南の河川を漁業組合、西を円卓の騎士団が収めている」

統治している団体名を聞き凄くない気がしてくる
微妙な顔をしていると
虚空を見つめていたフィンがこちらを向く

「此度の件、余にも思う所がある」

 フレンド申請が飛んでくる

「何かあれば力を貸そう」

特に断る理由も無いのでYES
ついでに†エンドシャドウ†からも来ていたがNO

フィンさんのスキルは凄い気になっていたので早速ステータスとスキルを確認

<Lv6
<HP15 MP40 力15 防御5 知力20 俊敏14 運5 残0P 
<スキル:剣術、囮、リーダー、明鏡止水、勅命

<勅命>
<MPを消費し、人類種に対して強制的な命令を執行することができる
<取得条件:一定回数意のままに命令に従わせる

<明鏡止水>
<瞑想を行うとMPが回復する、その間動くことはできない
<取得条件:一定時間瞑想を行う

ステータスは戦闘スタイルの割に意外とMPと知力が高い
しかし思ってた通りとんでもスキルだな
この明鏡止水の効果でMPを回復しながら勅命をうっていたわけだ
明鏡止水は多分あのポーズで発動していたのだろう
ポーズがなかった時は接近戦が続いた事からそう推測する
本人も好きでやってる所がありそうなので彼女にうってつけのスキル構成と言える

用事も済んだしとっとと帰るとしよう

「じゃあ俺はこれで・・・こっちも何かあったら手伝いますので気軽にメッセージください」

今日は慣れないPVPで疲れた、街の宿でログアウト
そのまま明日の献立を考えながら深い眠りにつくのであった

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