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第八章 冒険者ルピーの軌跡


「クエストは俺がクリアしとくからここで休んでて!」

フレンドのアズがそう言って悪夢の世界に戻っていく
そんな後ろ姿を見送り、ぼんやりとした意識の中
ルピーはBGOを開始するまで、開始してからの事をぼんやり思い出していた


私、紅川玉樹(あかがわたまき)は7月の誕生日にヘッドギアを両親から貰った。
電子機器に弱い私は一体何を貰ったかわからず父に説明を求めた

「お父さん!これなぁに?」
「フフフ・・・これはヘッドギアと言ってね…」

と長々説明をされたが要約するとゲームや映画を見るものらしい

最初はあまり興味がわかなかった
なんせゲームなど生まれてこの方、友達が学校で隠れてやっているのを見る程度だ

せっかく貰ったヘッドギアは箱の中に入ったまま夏休みまで開封すらしなかった
夏休みに入り、時間が出来て暇を持て余した私はヘッドギアを試して見る事にした
最初は映画を観るつもりだったがDVDを買いに行くのが煩わしく、無料でできるオンラインゲームに目をつけた

「ダウンロードって長いんだな・・・」

そう呟きダウンロード終了を待つ
結論から言うとその日、私の見る世界が変わった
OPからキャラクリまで感動の嵐だった
私の名前は紅川玉樹、そこから紅玉という単語を取り出しルビーと名付けた
待機画面が終了すると、唐突に視界が明るくなった
透き通る風は気持ちよく草原の匂いが鼻に押し寄せる
空は青色、日差しが眩しいくらいだ

私の周りには色々な人がいて
露店を開く者、クラン?の勧誘に励む者、剣を携え草原にかけて行く者
後から知った事だが私が初めてログインしたのはスタートダッシュ組の後、暫くしてからだったらしい
何もかもが新しい地でキョロキョロしていると、露店商の人が話しかけてくる

「嬢ちゃん?新米だな?よかったら見て行かないかい?」

小太りな体型に背中には大きな金槌を背負った褐色のおじさんが話しかけてきた

「俺はこう見えて最前線で攻略してる冒険者でな、ちょっと金が必要で今まで手に入れたもんを新米冒険者に売ってるんだ」

おじさんは人懐こい笑みで私に話しかける

興味があった私は商品を見て回る、なかなか沢山ある
その中でも目を引いたのは花柄黒色の小太刀、値段は100R

「なかなか目が高いな、そいつぁ今んとこ一本しか見つかってないカテゴリーの小太刀って武器で名前は花錦(はなにしき)、なかなかのレア物で新米冒険者の所持金全額と交換になるがどうだい?」

後から知った話だが100Rは結構な額らしい
ゲームに慣れるまでの衣食住、すべてに使った上で更に装備をある程度整えれるぐらい
そんな事を知らない私は思わず購入
商人は吹き出し、ニヤニヤしながら花錦を私に渡す

「毎度どうも!これから大変だと思うが頑張れよ」

対する私もニマニマしながら露店を離れる、草原にかけて行く人にならい草原をかける
するとすぐにキーキーという鳴き声と共にネズミを青くして幼児サイズにしたモンスターと鉢合わせた
周りの人が戦っているのを見て私も抜刀
戦闘が終わった人達がこっちを見ているのは、きっとピンチになったら助けてくれるつもりなのだろう、これなら新米の私でも安心して戦える

私はジリジリ間合いを詰めてくる青いネズミから目を離さず正面から睨みつける
睨みつけた瞬間、青いネズミは私に牙をむき出しに突撃してくる
ギリギリの所で回避した私はすれ違いざまにネズミを斬りつける、
苦しそうに鳴き声を発しながらもすぐに体制を立て直し
再び私目掛けて牙を剥く、それをギリギリで回避して更に斬りつける

そんな攻防が何度か続くとネズミがキィ・・・と力なく倒れる
私は勝利の喜びと疲労感で腰が砕ける
それまで私達の戦いを真剣に見ていた人達は何事もなかったかのように解散していった、私が戦っている間一人も目を離そうとしなかった、優しい人達だと自然と笑みが漏れる

勝利の余韻が消えないうちに私は次々と目標を視認
1回目の戦闘以降体が軽くなった気がしてドンドン敵を切り伏せる
何時間戦っただろうか、周囲にいたモンスターは最初こそ戦う気まんまんだったが今では私の方をみて放心状態、それでも私は切り伏せ続けた。

そんな折り、赤色のネズミが現れた
他のネズミと違いすれ違いざまに斬りつけるも爪で塞がれそのまま大きく後ろに飛んだかと思うと口から炎の球を三発、私に向けたものと左右に一発撃ってきた
左右に避けても当たる位置にいる私は炎の球を正面から見据え着弾のタイミングで花錦を斜め上に切り上げる、炎の球は真っ二つに切れ鎮火、そのまま距離をつめ花錦を逆手に持ち片手で赤いネズミを斬りつけ蹴り上げる

赤いネズミはキー!と叫ぶと口から何かを吐き出し逃げ出した
何が落ちたのかとよくみると小型のバーナーだった
手で触れた瞬間光の粒子になって消えた
今日何度目かの不思議体験に困惑していると
急激にお腹が空いたのだ。

何も知らない私は現実でお腹ぎ空いたと思いログアウト
だが現実に戻ると全く空腹感が無いのだ
不思議に思い父にゲームの話をすると得意げに色々な事を教えてくれた、ゲームの基礎知識から用語まで、前ヘッドギアを説明された時より真剣に話しが聞けるのは私が完全にあの世界に魅了されたからだろう

ちなみに今回の空腹は満腹度の低下が原因らしい
現実でもちょうど食事時だったのもあり
食事を済ませた私は再びヘッドギアを被った

<緊急メンテナンスのお知らせ>

結局その日、BGOにログインする事はできなかった

メンテナンス終了後、再び狩りを続けながら街に食料を求めて進軍、父の教えに従いレベルアップによるステータスの割り振りを行ったり
ドロップしたアイテムの収集を行う
光の粒子になって消える素材を見てアイテムストレージを開くと素材がちゃんと入っている、小型バーナーも収集されていた

途中空腹で倒れそうになり思わず座り込む、いつの間にかHPが残り僅かになっている
狩りの途中ダメージを受けた様子のなさから、満腹度0%による空腹ダメージだろう

あまりの空腹に耐えきれず、ブルーラットの肉をバーナーにかざして山賊焼の如く食べたら視界が紫色に、ステータスを見ると毒になっていた
名前がブルーラットの生焼け肉と書いてあった事から
次にジックリ焼いてから食べた肉はとても美味しかった

だがすぐにお腹が空き、物足りない
急ぎ足で街に着いた私は一にも二にもご飯が食べれる場所へ向かいたい衝動を抑え、父が言っていた冒険者ギルドでブルーラットの素材を売り20R
ちなみにログイン当初から倒した数を合わせるともっと高くなるけどその時はドロップ回収を知らなかった

出来たお金で酒場に駆け込む。
後はひたすら食べる事に専念、最初はお世辞にも美味しいとは言えない食事だったが、途中から味がどんどん美味しくなる
周りで食べてた冒険者もそれに気付くと他の冒険者に宣伝し始めたぐらいだ

そんな中でも厨房で一際動いている青い髪に金色の目をした子のご飯が絶品!
あんな子と旅をしたらいつでも美味しいご飯・・・もとい楽しい冒険が出来そうだなーと思いながら黙々とご飯を食べる

リボルボアの卵炒め、アビルスライムのスープ、ブラックサンギョのソテー、イソギンチャクの素麺等とても美味しかった



そこで私は意識が覚醒した

イソギンチャクの素麺を作れる可能性を感じて

一歩、あの地獄の風景へと踏み出す
二歩目にはもう食材の宝庫としか見れず
私は駆け出した!ちょうどアズを飲み込むばかりの勢いで黒く焦げた触手を大きく広げているイソギンチャクを切りつけ、怯んだ瞬間にイソギンチャクの部分だけを斬りつけると、ジン魚は糸が切れたようにそのままピクリとも動かなくなった

「え・・・あ・・・あれ?」

目をまん丸に広げたアズがこちらを驚愕の眼差しで見ている
とりあえず笑顔を作っておくと、バツが悪そうにアズがお礼を言う

「あ・・・あー、ありがとうルピー」

さぁーこれからイソギンチャク狩りだ!と思ったが今きになる発言があった
ルピー?私はステータスを開き名前を確認する、紛れもなくルピー、私は顔を覆いうずくまることになった

名前入力・・・間違えてる・・・

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