ぼくは今日も胸を揉む
#14 兄妹モノって、いいよね
「……それでは、頂こう」
ドリアン王が、そう言って。
ネルソン王子もシナモン王女もセネカ女王も、一斉に味噌汁を口に運んだ。
中に入った獣肉などの具や汁を口内に注いでいく王族のみんなを、ぼくは緊張しながらも見守る。
騒がしいくらいに激しさを増す心臓を押さえ、味噌汁を食すその一挙手一投足から一切目を離すことはできなかった。
一番最初に口を開いたのは、セネカ女王だった。
「……ふはぁ、美味しいわぁ」
そんな、満足そうな笑みを浮かべて。
ぼくは思わず心の中でガッツポーズをし、次なる言葉を待つ。
「凄いじゃないか。美味しいよ、ライムさん」
ネルソン王子も、嬉しいことを言ってくれる。
正直ぼくが作ったわけではないけど、そんなことを言えるわけもないし、素直に嬉しい。
対して、ネルソン王子の妹――シナモン王女は。
「……ふ、ふんっ、こんなの、全然、美味しくなんかないしっ……んぐ、うちのマリアのほうが、もっと美味しいものくらい、作れるし……ずずず」
素直じゃないことを言いながら、空っぽになるまで味噌汁を啜っていた。
喜んでくれて何よりだけど、シナモン王女の言う「うちのマリア」が作ったものなんだよなぁ……これも。
でも、ここはぼくが作ったことにしなくてはいけない。
三人からの評価は上々。
残るは、肝心のドリアン王のみ。
「……次は、こちらを頂く」
しかし、ドリアン王は味噌汁に対する感想を何も言うことなく、ハンバーガーを手にした。
それに倣い、他のみんなも同様にハンバーガーを取る。
この世界にはハンバーガーという食べ物は存在しないらしく、訝りつつ上から下まで舐るように見ていた。
が、やがて誰からともなくハンバーガーに齧りつく。
「なにこれ、美味しっ……あ、いや、ま、まだまだね。こんなのじゃ、うちのマリアには敵わないわ」
思わず漏れた言葉をすぐさま否定し、どうしてもメイドのマリアージュさんを持ち上げたいシナモン王女。
全く素直じゃないけど、とりあえず美味しいと感じてくれて何よりだ。
たぶん、というか間違いなく、マリアージュさんがいなかったらこんな高評価は貰えなかっただろう。
まだ会ってから間もないものの性格の良さは分かったし、料理の腕は言わずもがな。
マリアージュさんの理想の女性っぷりが凄い。結婚したいレベルだ。
シナモン王女以外の三人も、感想を言う暇もないくらい黙々とハンバーガーを食べている。
この調子なら、何の問題もなく無事に終われるかもしれない。
全員ハンバーガーを胃袋の中に入れ、最後の一品でありつつ最もシンプルで簡単な卵かけご飯の番となった。
こちらもハンバーガーと同様に「何でご飯に卵をかけてるんだ?」といったような、怪訝そうな様子。
うーん、この世界の住人には卵をご飯の上に乗せるという発想は出てこないのか。
普通に合いそうな組み合わせだと分かりそうなものなのに。
卵を混ぜ、ご飯を口に運ぶ。
おそるおそるといった者もいれば、先ほどまでの料理からして不味いはずがないと確信してそうな者もいた。
――すると。
「……む、んぐぐぐぐ」
ネルソン王子、シナモン王女、セネカ女王のみんなが一言を発するより早く。
ドリアン王が、何やら難しい表情で唸り声をあげた。
ぼくも含め、その場の全員が一様に訝しむ。
何だ。もしかして、王様の口に合わなかったのだろうか。
卵が好きだと聞いたから、卵かけご飯ならイケると踏んだのに。
だが、その直後に王から発せられたのは、そんなぼくの予想に反する言葉だった。
「……美味い」
「…………はぇ?」
思わず、ぼくの口からも変な声が漏れてしまう。
いや、確かに美味しいならそれでいいし、かなり嬉しいことではあるんだけど。
だったら、さっきの唸り声は何だったのか。
それに、他の二つのときは何も味の感想は言わなかったのに、どうして卵かけご飯のときだけ……。
一番簡単で、一番時間をかけなかったやつですよ、それ。
「父様、これで料理の件は満足なんじゃないですか?」
「……むっ、そうだな……認めざるを得ん」
確信を抱いたかのようなネルソン王子の発言に、ドリアン王は渋々といった様子で頷いた。
ぼくは、つい口からため息を漏らす。
もちろん落胆や疲労の吐息ではなく、心の底から安堵し、そして落ち着いたあまり力が抜けてしまったから。
よかった。特に何事もなく、無事に解決できた。
ただ単に、そのことにほっとする。
「ま、待って! あたしは認めてないわよ!」
「別に、シナモンに認めてもらう必要はないだろ。それに、君もあんなに美味しそうにしていたじゃないか」
「あれは違っ……違うの! 美味しかったとか、そういうんじゃなくてっ」
赤面しつつも、ネルソン王子の言葉を否定するシナモン王女。
この王女は、ブラコンちゃんなのかな。
恋愛なんてものは人それぞれだし、ぼくは別にいいと思います。
兄妹モノって、いいよね。
「そこの身の程知らずな女……えっと、ライムだっけ? あたしは、あんたのこと全然認めてないんだからね! ……あ、でも、できれば、また食べさせてくれると……」
「気に入ったの?」
「ち、違う! 調子に乗んなっ!」
「……ごめんなさい」
何で、こんなにぼくに対して冷たいんだろう。
大好きなお兄さんを取られたくないのかな。もしそうだとしたら、こっちは取りたくもないのだから安心してほしいんだけど。
でも、口では色々言っていても気に入ってくれたようでよかった。
作ったのがぼくじゃなくてマリアージュさんだって知ったら、態度がもっと悪くなりそうだから言えないな。
一時はどうなることかと思ったが、なんとか平和に解決できた。
一応これで依頼達成となり、後でネルソン王子から大金を貰えるのだろう。
今からドキドキしてきた。
だが、楽しみで逸る鼓動は。
一瞬で、別の意味の動悸へと一変してしまう。
「……ドリアン王、大変ですッ!」
そんな、突如として駆けてきた男性の、切羽詰まったような叫びによって。
ドリアン王が、そう言って。
ネルソン王子もシナモン王女もセネカ女王も、一斉に味噌汁を口に運んだ。
中に入った獣肉などの具や汁を口内に注いでいく王族のみんなを、ぼくは緊張しながらも見守る。
騒がしいくらいに激しさを増す心臓を押さえ、味噌汁を食すその一挙手一投足から一切目を離すことはできなかった。
一番最初に口を開いたのは、セネカ女王だった。
「……ふはぁ、美味しいわぁ」
そんな、満足そうな笑みを浮かべて。
ぼくは思わず心の中でガッツポーズをし、次なる言葉を待つ。
「凄いじゃないか。美味しいよ、ライムさん」
ネルソン王子も、嬉しいことを言ってくれる。
正直ぼくが作ったわけではないけど、そんなことを言えるわけもないし、素直に嬉しい。
対して、ネルソン王子の妹――シナモン王女は。
「……ふ、ふんっ、こんなの、全然、美味しくなんかないしっ……んぐ、うちのマリアのほうが、もっと美味しいものくらい、作れるし……ずずず」
素直じゃないことを言いながら、空っぽになるまで味噌汁を啜っていた。
喜んでくれて何よりだけど、シナモン王女の言う「うちのマリア」が作ったものなんだよなぁ……これも。
でも、ここはぼくが作ったことにしなくてはいけない。
三人からの評価は上々。
残るは、肝心のドリアン王のみ。
「……次は、こちらを頂く」
しかし、ドリアン王は味噌汁に対する感想を何も言うことなく、ハンバーガーを手にした。
それに倣い、他のみんなも同様にハンバーガーを取る。
この世界にはハンバーガーという食べ物は存在しないらしく、訝りつつ上から下まで舐るように見ていた。
が、やがて誰からともなくハンバーガーに齧りつく。
「なにこれ、美味しっ……あ、いや、ま、まだまだね。こんなのじゃ、うちのマリアには敵わないわ」
思わず漏れた言葉をすぐさま否定し、どうしてもメイドのマリアージュさんを持ち上げたいシナモン王女。
全く素直じゃないけど、とりあえず美味しいと感じてくれて何よりだ。
たぶん、というか間違いなく、マリアージュさんがいなかったらこんな高評価は貰えなかっただろう。
まだ会ってから間もないものの性格の良さは分かったし、料理の腕は言わずもがな。
マリアージュさんの理想の女性っぷりが凄い。結婚したいレベルだ。
シナモン王女以外の三人も、感想を言う暇もないくらい黙々とハンバーガーを食べている。
この調子なら、何の問題もなく無事に終われるかもしれない。
全員ハンバーガーを胃袋の中に入れ、最後の一品でありつつ最もシンプルで簡単な卵かけご飯の番となった。
こちらもハンバーガーと同様に「何でご飯に卵をかけてるんだ?」といったような、怪訝そうな様子。
うーん、この世界の住人には卵をご飯の上に乗せるという発想は出てこないのか。
普通に合いそうな組み合わせだと分かりそうなものなのに。
卵を混ぜ、ご飯を口に運ぶ。
おそるおそるといった者もいれば、先ほどまでの料理からして不味いはずがないと確信してそうな者もいた。
――すると。
「……む、んぐぐぐぐ」
ネルソン王子、シナモン王女、セネカ女王のみんなが一言を発するより早く。
ドリアン王が、何やら難しい表情で唸り声をあげた。
ぼくも含め、その場の全員が一様に訝しむ。
何だ。もしかして、王様の口に合わなかったのだろうか。
卵が好きだと聞いたから、卵かけご飯ならイケると踏んだのに。
だが、その直後に王から発せられたのは、そんなぼくの予想に反する言葉だった。
「……美味い」
「…………はぇ?」
思わず、ぼくの口からも変な声が漏れてしまう。
いや、確かに美味しいならそれでいいし、かなり嬉しいことではあるんだけど。
だったら、さっきの唸り声は何だったのか。
それに、他の二つのときは何も味の感想は言わなかったのに、どうして卵かけご飯のときだけ……。
一番簡単で、一番時間をかけなかったやつですよ、それ。
「父様、これで料理の件は満足なんじゃないですか?」
「……むっ、そうだな……認めざるを得ん」
確信を抱いたかのようなネルソン王子の発言に、ドリアン王は渋々といった様子で頷いた。
ぼくは、つい口からため息を漏らす。
もちろん落胆や疲労の吐息ではなく、心の底から安堵し、そして落ち着いたあまり力が抜けてしまったから。
よかった。特に何事もなく、無事に解決できた。
ただ単に、そのことにほっとする。
「ま、待って! あたしは認めてないわよ!」
「別に、シナモンに認めてもらう必要はないだろ。それに、君もあんなに美味しそうにしていたじゃないか」
「あれは違っ……違うの! 美味しかったとか、そういうんじゃなくてっ」
赤面しつつも、ネルソン王子の言葉を否定するシナモン王女。
この王女は、ブラコンちゃんなのかな。
恋愛なんてものは人それぞれだし、ぼくは別にいいと思います。
兄妹モノって、いいよね。
「そこの身の程知らずな女……えっと、ライムだっけ? あたしは、あんたのこと全然認めてないんだからね! ……あ、でも、できれば、また食べさせてくれると……」
「気に入ったの?」
「ち、違う! 調子に乗んなっ!」
「……ごめんなさい」
何で、こんなにぼくに対して冷たいんだろう。
大好きなお兄さんを取られたくないのかな。もしそうだとしたら、こっちは取りたくもないのだから安心してほしいんだけど。
でも、口では色々言っていても気に入ってくれたようでよかった。
作ったのがぼくじゃなくてマリアージュさんだって知ったら、態度がもっと悪くなりそうだから言えないな。
一時はどうなることかと思ったが、なんとか平和に解決できた。
一応これで依頼達成となり、後でネルソン王子から大金を貰えるのだろう。
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だが、楽しみで逸る鼓動は。
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