ぼくは今日も胸を揉む
#11 すごく……大きいです……
本気で帰りたくなってしまったが、そうは問屋が卸さない。
王の鋭い眼光に怯えながら、ネルソン王子の話を聞き続ける。
「僕は、彼女を愛しています。この気持ちは、他の者に対して抱くことなどないでしょう。ですから、彼女との交際を認めてはもらえないでしょうか」
よくもまあ、こんなに恥ずかしい台詞を吐けるものだ。
ぼくは別に本当の彼女というわけではないので本心ではないんだろうけど、いくらお見合いをしたくなくて王に認めてもらうためとは言っても、ぼくならここまで面と向かって言うなんてこと恥ずかしくてできない。
……何だろう、この場違い感。
早く家に帰って、ユズにセクハラしたりミントと一緒に入浴したい。
「……名は何と申す」
「あ、ライム・アプリコットですっ」
王に問われ、ぼくは頭を下げて名を名乗る。
まさか、王様に自己紹介をするのが、ここまで緊張するものだとは。
ぼくと大して身分の違わない人となら普通に接することはできるけど、王様くらい上の立場ともなるとさすがに縮こまってしまう。
まあ、ぼくってこう見えて小心者だし仕方ないね。
「……かわええのう」
「え?」
「ゴホン。朕はドリアン・バピオール。知っての通り、王都〈ホームベル〉の王だ」
途中で咳払いをし、王は気を取り直したように名を名乗った。
今、厳格な王らしからぬ発言が聞こえたような気がしたのだが……気のせいだったようだ。
まあ、こんな外見をした厳しそうな王様が、そんなこと言うわけないか。
「容姿の可憐さは認めよう。が、その点だけでは王子の交際相手と認めるわけにはいかん」
やはり、か。
ドリアン王が強い口調で発した言葉に、ぼくは納得しつつも多少の悔しさを覚えていた。
ある程度分かっていたこととはいえ、そう簡単に解決はできないのだと改めて思い知らされたのだ。
どうしよう。
もしこれで依頼失敗なんてことになったら、当然報酬はゼロということになり、ぼくが少し恥をかいただけで帰ることになってしまう。
もうこの際さっさと帰れるならそれでもいいんだけど、わざわざぼくに依頼をしてくれたネルソン王子に申し訳ない。
「あ、あの……何をすれば、認めてくれるんでしょうか」
だから、ぼくは思わずドリアン王にそう訊ねていた。
いくら金持ちのイケメンとはいえ男とそういう関係にあるなどと思われること自体嫌だが、こうなってしまっては仕方ない。
ぼくたちの生活費のため、そしてぼくの体裁のため。
怖いし緊張するし不安だし心臓の鼓動がうるさいけど、何とか認めさせてやろう。
「ネルソン王子に釣り合う、相応の資格があることを見せてもらおう」
するとドリアン王は立ち上がり、大きな図体でぼくを見下ろす。
すごく……大きいです(体型が)……。
服の上からでもはっきりと分かるほどの、がっちりとした太い筋肉も相まって、普通に怖い。
「ついてこい。ネルソン、お前もだ」
それだけを告げ、ドリアン王はどこかへ向かって歩む。
ぼくとネルソン王子は顔を見合わせ、訝しみながらも後を追った。
§
やがて、到着したのは。
必要最低限以上のものがたくさん揃った、とても大きな調理室だった。
今ここにぼくたち三人しかおらず、他の人は玄関先で会ったマリアージュさんしか見ていない。
王の住む城ということで使用人がいっぱいいるのかと思ったが、そういうわけではないのかな。
「あの、他の方――執事やコックとかはいないんですか?」
「家事は全て、マリアが一人でこなしている。他の者を雇う必要もない」
試しに訊いてみたら、無愛想ながらも答えてくれた。
巨乳美人なだけでなく、家事全般が完璧なメイドさん……非の打ちどころがない理想の女性だなぁ。
欠点とかもあまりなさそうだし、素晴らしい。
「ライム・アプリコット――まずは、料理を作ってみせろ」
「え? 料理、ですか?」
「そうだ。王子の交際相手たるもの、料理の一つもできないようでは任せることなどできはしない」
どうやら、ドリアン王は息子の彼女に家事スキルを求めるタイプだったらしい。
でも共感はできる。ぼくだって料理が上手い女の子は素敵だなって思うし。
……料理、か。
これは困った。大変困りました。
ぼくが作れる料理のレパートリーなんて、卵かけご飯、スクランブルエッグ、目玉焼きだけだ。
それで許してくれないかな……無理だよね。
「ここに置いてある食材ならば、何を使っても構わない。完成したなら、朕は食堂にて待っているからそこに持って来い。朕だけでなく、他の二人の舌をもうねらせることができれば認めよう」
ぼくの返事を待たず、ドリアン王は調理室から出ていく。
あとの二人って誰だろう……なんてことを気にしている余裕はない。
まずいですよ。
どうせぼくが知っている食材は一つもないんだろうし、そんなものを使って美味しい料理を作るなどという無理難題を課せられた。
うん、これは不可能だ。少なくともぼくの腕だと、星一つ貰うことすら危ういかもしれない。
「……あぁ、どうしよう……」
思わず頭を抱え、その場に座り込む。
もう諦めて、帰ってしまったほうがいいのではなかろうか。
そうなるとネルソン王子は間違いなくお見合いをすることになるだろうから申し訳ないが、そもそもぼくは赤の他人なんだし。
でも、ぼくにも一応罪悪感は存在するもので。
そうやって、ひたすら悩んでいたら。
背後から、扉の開く音が聞こえた。
訝しみつつ振り向くと、そこにはメイド服を身に纏ったマリアージュ・ウインクさんの姿が。
「ライム様、そんなに気に病むことはありません。わたくしが、料理を教えて差し上げますから」
そう言って微笑むマリアージュさんは、今のぼくには女神か天使のように見えた。
王の鋭い眼光に怯えながら、ネルソン王子の話を聞き続ける。
「僕は、彼女を愛しています。この気持ちは、他の者に対して抱くことなどないでしょう。ですから、彼女との交際を認めてはもらえないでしょうか」
よくもまあ、こんなに恥ずかしい台詞を吐けるものだ。
ぼくは別に本当の彼女というわけではないので本心ではないんだろうけど、いくらお見合いをしたくなくて王に認めてもらうためとは言っても、ぼくならここまで面と向かって言うなんてこと恥ずかしくてできない。
……何だろう、この場違い感。
早く家に帰って、ユズにセクハラしたりミントと一緒に入浴したい。
「……名は何と申す」
「あ、ライム・アプリコットですっ」
王に問われ、ぼくは頭を下げて名を名乗る。
まさか、王様に自己紹介をするのが、ここまで緊張するものだとは。
ぼくと大して身分の違わない人となら普通に接することはできるけど、王様くらい上の立場ともなるとさすがに縮こまってしまう。
まあ、ぼくってこう見えて小心者だし仕方ないね。
「……かわええのう」
「え?」
「ゴホン。朕はドリアン・バピオール。知っての通り、王都〈ホームベル〉の王だ」
途中で咳払いをし、王は気を取り直したように名を名乗った。
今、厳格な王らしからぬ発言が聞こえたような気がしたのだが……気のせいだったようだ。
まあ、こんな外見をした厳しそうな王様が、そんなこと言うわけないか。
「容姿の可憐さは認めよう。が、その点だけでは王子の交際相手と認めるわけにはいかん」
やはり、か。
ドリアン王が強い口調で発した言葉に、ぼくは納得しつつも多少の悔しさを覚えていた。
ある程度分かっていたこととはいえ、そう簡単に解決はできないのだと改めて思い知らされたのだ。
どうしよう。
もしこれで依頼失敗なんてことになったら、当然報酬はゼロということになり、ぼくが少し恥をかいただけで帰ることになってしまう。
もうこの際さっさと帰れるならそれでもいいんだけど、わざわざぼくに依頼をしてくれたネルソン王子に申し訳ない。
「あ、あの……何をすれば、認めてくれるんでしょうか」
だから、ぼくは思わずドリアン王にそう訊ねていた。
いくら金持ちのイケメンとはいえ男とそういう関係にあるなどと思われること自体嫌だが、こうなってしまっては仕方ない。
ぼくたちの生活費のため、そしてぼくの体裁のため。
怖いし緊張するし不安だし心臓の鼓動がうるさいけど、何とか認めさせてやろう。
「ネルソン王子に釣り合う、相応の資格があることを見せてもらおう」
するとドリアン王は立ち上がり、大きな図体でぼくを見下ろす。
すごく……大きいです(体型が)……。
服の上からでもはっきりと分かるほどの、がっちりとした太い筋肉も相まって、普通に怖い。
「ついてこい。ネルソン、お前もだ」
それだけを告げ、ドリアン王はどこかへ向かって歩む。
ぼくとネルソン王子は顔を見合わせ、訝しみながらも後を追った。
§
やがて、到着したのは。
必要最低限以上のものがたくさん揃った、とても大きな調理室だった。
今ここにぼくたち三人しかおらず、他の人は玄関先で会ったマリアージュさんしか見ていない。
王の住む城ということで使用人がいっぱいいるのかと思ったが、そういうわけではないのかな。
「あの、他の方――執事やコックとかはいないんですか?」
「家事は全て、マリアが一人でこなしている。他の者を雇う必要もない」
試しに訊いてみたら、無愛想ながらも答えてくれた。
巨乳美人なだけでなく、家事全般が完璧なメイドさん……非の打ちどころがない理想の女性だなぁ。
欠点とかもあまりなさそうだし、素晴らしい。
「ライム・アプリコット――まずは、料理を作ってみせろ」
「え? 料理、ですか?」
「そうだ。王子の交際相手たるもの、料理の一つもできないようでは任せることなどできはしない」
どうやら、ドリアン王は息子の彼女に家事スキルを求めるタイプだったらしい。
でも共感はできる。ぼくだって料理が上手い女の子は素敵だなって思うし。
……料理、か。
これは困った。大変困りました。
ぼくが作れる料理のレパートリーなんて、卵かけご飯、スクランブルエッグ、目玉焼きだけだ。
それで許してくれないかな……無理だよね。
「ここに置いてある食材ならば、何を使っても構わない。完成したなら、朕は食堂にて待っているからそこに持って来い。朕だけでなく、他の二人の舌をもうねらせることができれば認めよう」
ぼくの返事を待たず、ドリアン王は調理室から出ていく。
あとの二人って誰だろう……なんてことを気にしている余裕はない。
まずいですよ。
どうせぼくが知っている食材は一つもないんだろうし、そんなものを使って美味しい料理を作るなどという無理難題を課せられた。
うん、これは不可能だ。少なくともぼくの腕だと、星一つ貰うことすら危ういかもしれない。
「……あぁ、どうしよう……」
思わず頭を抱え、その場に座り込む。
もう諦めて、帰ってしまったほうがいいのではなかろうか。
そうなるとネルソン王子は間違いなくお見合いをすることになるだろうから申し訳ないが、そもそもぼくは赤の他人なんだし。
でも、ぼくにも一応罪悪感は存在するもので。
そうやって、ひたすら悩んでいたら。
背後から、扉の開く音が聞こえた。
訝しみつつ振り向くと、そこにはメイド服を身に纏ったマリアージュ・ウインクさんの姿が。
「ライム様、そんなに気に病むことはありません。わたくしが、料理を教えて差し上げますから」
そう言って微笑むマリアージュさんは、今のぼくには女神か天使のように見えた。
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