シニガミヒロイン~プロトタイプメモリー~

山本正純

第19話 終焉の実験

数時間後、椎名真紀は二畳ほどの狭い部屋の中で目を覚ました。四方を銀色のシャッターで覆われた奇妙な空間の中には、真紀の他に黒ずくめの男が黒い首輪を手にして立っている。
しばらく経つと、どこからかラブの声が届く。
「皆様。お目覚めでしょうか? ゲームに負けた皆様を殺害するために、再び拉致しました。とはいえ、すぐには殺しません。これから行う実験に成功した方は、命だけはお助けします。尚、実験を拒んだ場合、すぐに射殺します。十秒以内に目の前にいる黒服にタッチしなかったら、即死亡。それでは、最後のゲームのスタートです♪」

虚ろな目をした椎名真紀は、すぐに黒服の肩を触る。その合図を待っていた黒服は、少女に首輪を填めた。
十秒後、再びラブがアナウンスする。
「はい。制限時間終了です。残念ながら池澤様は実験を拒み、射殺されました。ということで、簡単に実験内容を説明します。こちらもゲームと同様、単純明快です。これから一分間、意識を保つだけ。それでは、実験スタート」
意味不明な実験が始まり数秒後、椎名真紀と名乗る少女に異変が起きた。鋭い頭痛が少女を襲い、全身が焼けるように熱くなる。
虚ろだった意識は覚醒して、彼女はさらなる異変に気が付いた。両手両足の指が白く光っている。やがて光は両腕両足を包み込んでいく。一体何が起きているのか? 椎名真紀は怖かった。
謎の光が全身に及ぼうとした頃、少女の耳にラブの声が届く。
「一分経過。実験終了ですね」
アナウンスと同時に白い光が消え、首輪も外れた。四方のシャッターも降りていき、何とか意識を保つことができた真紀は安心した。
だが、その安心は異様な光景の前で終わりを迎える。シャッターが完全に降りた時、少女の体は小刻みに震え始める。
最初に飛び込んできたのは、池澤文太が頭から大量の血液を流し絶命している光景。
吉岡敦彦は座り込み、固い床に爪を立て、ひたすら引っ掻いている。床が血の色で染まるまで何度も。
蒼乃恵美は、涙が枯れるほど泣き続け、東大輔は恵美の右腕に噛み付いた。男の歯で肉が引き裂かれ、恵美の腕から血液が落ちていく。
黒墨凛は虚ろな目で残虐な行為を見つめ、一歩も動こうとしない。
「明美」
足を骨折して起き上がることすらできない谷村太郎は、七年前に亡くなった少女の名前を呟く。まさか谷村は壊れていないのか? そう期待しながら真紀は彼に声を掛けてみた。
「谷村君。大丈夫?」
しかし、彼は意外な答えを口にする。
「明美」
少年の目は虚ろで、何を言っても「明美」という言葉しか返ってこない。
「また自分だけ生き残っちゃったね」
真紀は背後を振り向く。いつの間にか彼女の背後にはラブが立っていた。


「みんなに何をしたの?」
ゲームマスターを問い質すと、ラブはニヤっと笑う。
「聞いていませんでしたか? 実験です。体ごと仮想空間へ送り込む技術。結果的に普通の人間は廃人になるということは分かりました。プログラム上白い光が全身を包み込んだら仮想空間に行けるんだけど、一分以上は時間がかかり過ぎですねぇ。色々と改良が必要だわ」
なぜ自分だけが生き残ってしまったのか。あの時と似た罪悪感が、少女の心に深く刻み込まれる。
同じ実験なのに自分だけ壊れていないのはなぜ? まさか、本当に自分は人造人間なのか? 疑念が強まる中で、ラブは真紀の顔を覗き込む。
「これで分かったでしょう。あなたは存在してはいけない人造人間だってこと。あなたには昨日の記憶がない。その理由はシンプルです。昨日学校に通っていたのは私だから」
「まさか、それを証明するためにみんなを壊したの?」
椎名真紀は顔を暗くして尋ねた。すると、ラブは当然のようにハッキリと答えた。
「もちろんです。こうでもしないと理解できないでしょう? あなたは私が人造人間かもしれないって疑うから」
「酷い」
絶対に許さない。椎名真紀はラブを睨み付ける。だが、ゲームマスターはそんなことを気にせず、右手を差し出す。
「そろそろ行きましょうか? ここは危険。続きは安全なところで行います」
怒りで血が頭に昇る真紀はラブの手を振り払う。
「触らないで。あなたと話なんてしたくない」
「そんなこと言って、気になっているでしょう? どうして私は生まれたのかって。その答えを知れば、あなたは協力を余儀なくされる」
ラブは覆面の下で笑顔を作り、夢を語る。「私はもう一つの世界を創りたい。七年前の震災で亡くなった真紀の友達が生きる世界を。高校生になって普通に恋愛したりできる世界。そのために老化しない人造人間が必要だった。私の創る世界には、椎名真紀の存在が必要になるからね。今後のことも考えて、影武者も必要になってくるから作って損にはならないと思った」
「今後のこと?」
ラブの目的を知り、真紀は首を傾げる。
「そう。サンプルの収集です。世界を創るためにはサンプルが必要ですからね。私は今後もゲームを続ける。マニフェストゲームは面白かったけど、買い物競争はリスクが高いってことが分かったので、ボツネタです」
「どうして私達をプレイヤーに選んだの?」
藪から棒な少女の疑問をラブが笑う。
「もう一度言いますよ。サンプルが欲しかったんですよ。彼らは私が選別したもう一つの世界に必要そうな素材。彼らが気絶している間に、それぞれ違う世界の見え方や記憶をスキャンして、コンピュータに取り込んだから、用済みだよ」
ラブは壊れたプレイヤーたちを見下し、真紀の耳元で囁いた。
「あなたも見たいでしょう? 突然震災に巻き込まれて死んだ友達が恋愛するところ」
ラブの声によりトドメを刺された真紀の瞳が黒く染まる。暗い闇の底まで引きずり込まれた少女は、覆面の人物の冷酷な瞳を見た。
「分かった。その代わり、一つだけ約束して。谷村君と明美を会わせるって」
少しだけ照れながら頼み込む真紀を可愛く思ったラブはクスっと笑う。
「優しいですね。分かりました。彼は生かしておきます」

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