シニガミヒロイン~プロトタイプメモリー~

山本正純

第17話 吉岡敦彦と黒墨凛

吉岡敦彦が起こした騒ぎは、すぐに巡回中の警察官の耳に知れ渡る。彼らは見事な連携で吉川の周りを囲んだ。
「馬鹿な真似はやめるんだ」
吉川を前にした刑事が説得を始めた。だが、吉川は聞く耳を持たない。
「要求を聞けば人質を解放する。まず、モール内にいる全ての警察官と、保護されている東大輔君と池澤文太君をこの場に連れて来い。十分以内に要求が叶えられなかった場合、コイツを殺す!」
籠城犯が要求を伝えると、警察官は互いの顔を見合わせた。
その間、人質役になった黒墨凛は小声で吉川に話しかける。
「大丈夫? こんなことをしたらあなたは……」
「警察に捕まるんだろう」
「だったら、どうして?」
「罪を重ねても犯罪者は犯罪者。お前の友達を襲ったのは俺だ。俺は山吹さんも殺した。全てはお前と俺の関係を守るためだった」
予想外な告白に、凛の顔付きが次第の暗くなっていく。
「そんなことのために殺したの? そんなことのために薫子を……」
「すまなかった。悪いのは俺だ」
「違う。悪いのは私」
そう呟いた凛は瞳を閉じた。
警察との交渉が硬直状態に陥る中、吉川は凛の耳元で囁く。
「お前に預けている荷物の中に、ペンが入っている。それはお前へのプレゼントだ」
「バカ。こんな時に言うこと?」
「こんなときだからだ。こうでもしないと、お前は俺を認めない」
本気な吉川の発言に、凛は顔を赤くした。
「やっぱり許すと決めた。あのことを教育委員会が知ったらアウトだってことは分かっている。でも、そこから新しく始めよう。待っているから……」
黒墨凛は、少し照れながら吉岡敦彦に囁く。「お母さんの元不倫相手」
「そこは名前を呼べ!」
吉川敦彦は思わず大声で笑った。緊張感が漂う現場であることを忘れて。

その頃、椎名真紀と谷村太郎は周囲を警戒しながら、一階の廊下を歩いていた。タイムリミットまで残り十分。このままゴールの地下駐車場に行くべきか、それとも時間ギリギリまでどこかに隠れるのか。
眉間にしわを寄せて悩む谷村の顔を、真紀は覗き込んだ。
「大丈夫。今のところ私達を追う影はないみたいだから、このままゴールに向かおう。五分前にゴールしないといけないってルールはないんだから、早めに行っても大丈夫なはず」
「そうだな。黒墨さんと吉川先生の頑張りを無駄にしないためにも、先にゴールしないとな」
真紀に促され、方針は決まる。このまま二人でゴールして、あの二人が連れてくる東と池澤を待つ。
しかし、問題はゴールした後のこと。ゴールに警察が待ち構えていては、クリアすらできないだろう。ゲームのクリア条件は、午後一時時点でゴールにいること。
だが、ゴールに行ってみなければ、状況は分からない。
「ラブって奴が俺達を守ってくれたら一番いいんだけどなぁ」
谷村はついつい本音を漏らしてしまった。それに同調するように、真紀も溜息を吐く。
「怖いよね。でも今は、ゴールに行くっていう判断が正しいのかどうか、賭けないといけない」
「やっぱりそうだな。いざとなったら僕が椎名さんのことを……」
「やっぱり?」
椎名真紀は妙なところに食いついた。
「何か変な事を言いました?」
そう聞き返され、真紀は首を横に振る。
「黒墨さんが言っていたよね? やっぱり、予想通りの推理。この発言ってラブがウソを吐いているっていうように聞こえる。最初ラブは、私達プレイヤーは学校裏サイトの人気投票で選ばれたって言っていました。でも、実際は、あの通り魔事件の日、森園さんと関わった人を選別して、ゲームに参加させています。ここで疑問なのは、どうして黒墨さんは、ラブがウソを吐いているって分かったのか」
「言われてみたら、おかしいな。もしかして黒墨さんが黒幕」


真紀と谷村が疑念を抱いていた頃、籠城中の吉川は人質の凛に尋ねた。
「一つ聞いておきたいことがあった。なぜ凛は、裏サイトのことを聞いて顔を曇らせたんだ。明らかに動揺しているようだった」
吉川の疑問に対して、凛は小声で淡々とした口調で説明を始める。
「私が裏サイトの管理人。三日前、サイトが誰かに乗っ取られた。当然人気投票は公開できない。そんなときにゲームのプレイヤーとして拉致された。その時ラブが裏サイトに言及して確信した。ハッカーはラブかもしれない」
「そういうことだったのか」
「次は私の疑問。どうしてあなたは、ゲームを早く終わらせようとしたのか?」
「早く出頭したかった。お前とやりなおすために」
「そう、もう一度だけ言う。待っている」
お互いの疑問を解決した時、周囲の警察官たちは動き始めた。


ゲーム終了まで残り七分。愛澤と名乗る刑事は、両手を上に挙げて無抵抗をアピールした。
「残念ながら要求が叶うことはありません。あの二人は警察署に移送中。今から引き返させても、間に合いません」
「なぜそのことを伝えなかった? 俺がここに立て籠もってから言えば良かっただろう。間に合わないって。こんなに遅いってことは、お前の言っていることがウソだってことだ」
核心を突く籠城犯の発言に、刑事は唇を噛んだ。刑事と対峙する犯人の顔から焦りが漏れる。残り二分以内に警察があの二人を連れてこなければ、計画は破綻する。最もその場合はプランBに切り替えればいいだけの話。
「分かった。だったら私が人質になろう」
そう言いながら愛澤は吉川に迫る。このままでは、二人共脱落するかもしれない。そう察した彼は、プランBを実行する。
「お前だけでも逃げろ」
突然のことで凛の頭は真っ白になる。
「えっ」
「逃げろって言っているんだ。籠城作戦は失敗だ。今からゴールに向かえば間に合う。お前だけ助かれば、それでいい」
吉川は凛の体を突き飛ばす。人質がいなくなる瞬間を狙い、刑事は吉川を拘束した。
「バカ」
逮捕の瞬間を目の当りにした凛は短く呟き、警察の前から姿を消すべく、近くの階段を降りようとした。だが、それを組織が拒む。
階段の前に屈強な男が横一列に並び、周囲には多くの警察官の影。
「ゲームオーバー」
非力な少女は、警察の包囲網から逃げることもできず、そのまま保護された。

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