シニガミヒロイン~プロトタイプメモリー~

山本正純

第12話 新たなゲームのステージへ

ラブはテンキーが設置された行き止まりまで、6人のプレイヤーを連れていった。ゲームマスターは、鼻歌混じりにパスワードを入力する。その後で覆面の人物は振り向き、プレイヤーたちと顔を合わせた。
「先程も言いましたが、これから後半戦のゲームの舞台に移動します。最初に予告しておきますと、後半戦のゲームは趣向が異なります。それでは、外に車を停めています。出口でアイマスクを受け取ったら、乗り込んでください」
出入り口は簡単に開き、切れかけの電燈が点滅する空間が解放された。そこから下り階段が続いている。最初にラブが解放された空間に足を踏み入れ、他のプレイヤーたちが足を進めた。
一番後ろを歩く椎名真紀は、隣を歩く黒墨凛に小声で話しかけた。
「誰が山吹さんを殺したんだと思う?」
少女の愚問を聞き、凛は視線を前方の東大輔と池澤文太、吉川敦彦に向ける。
「私と椎名さん、谷村君にはアリバイがある。犯人は私達三人以外の誰か」
「やっぱりそうだよね」
そう言いながら真紀は容疑者に疑いの視線を向けた。犯人はアリバイがない三人のプレイヤーたちの中にいるかもしれない。最もラブや謎のゲームを開催している運営の中にいる可能性も否定できないが、犯人は校舎内にいた人間に違いない。
「どうして山吹さんは殺されたんだと思う?」
真紀は似たような質問を繰り返した。そのことに対して、凛は相変わらずの無表情で呟く。
「犯行動機は大体怨恨」
当たり前な凛の発言を聞き、真紀の疑問は強まっていく。
先頭を歩くラブは、一瞬だけ真紀の悩む顔を見て、覆面の下で頬を赤く染めた。
階段を最後の一段まで降りたラブが隣接する廊下を右に曲がる。そこで十人の黒いスーツに黒サングラスというコーディネートの男達が、綺麗に二列に並んでいる。一番奥にいる男だけがアタッシュケースを手にしていた。
彼らの間を歩ききった先で、八人乗りの大型ワンボックスカーが一台停まっていた。
アタッシュケースを持っていた黒ずくめの男は、ラブに近づき、ケースを開ける。その中身を確認したラブは、手を叩いた。
「皆様。自動車に乗り込んでください。その前にアイマスクを取ってくださいね。車内ではアイマスクを取り外さないでください。尚席は自由ですが、変な事はしないでくださいよ。例えば、アイマスクで何も見えない女子の太ももを触る変態行為」
注意したゲームマスターは、そのまま自動車の助手席に座る。一回程深呼吸したラブは瞳を閉じた。


あれはいつ頃のことだったのか?
少女は透明な楕円形のカプセルの中で体を丸くして浮かんでいた。カプセルは緑色の液体で満たされている。
腰の高さまで伸ばされた長い髪が、カプセルの中で揺れ、少女は外の世界を見る。だが、外の世界は殺風景。彼女の世界は、カプセルが設置された真っ白な空間でしかない。
定期的に液体が交換され、誰かが彼女の世界を訪れるだけの毎日。名前さえ分からない訪問客だけが少女の楽しみ。
目の前に見えるドアが開くたび、少女の胸の鼓動が高まる。突然現れた白衣の人物の顔はぼやけていて分からない。
「相変わらず、その恰好が好きですね。私と同じ眠る時の姿勢。定期的に体を伸ばした方がいいですよ」
優しい訪問客の声を聞き、少女は嬉しくなって、笑顔になる。その顔を見て、訪問客は優しくカプセルに触れた。あの日のことをラブは忘れない。


「大丈夫」
自分に言い聞かせるようゲームマスターが呟く。その外でプレイヤーたちはアイマスクを受け取り、次から次へと自動車に乗り込んでいく。
「ラブ様。全員乗車しました」
いつの間にか運転席に座った黒服の男はラブに声をかける。だが、ラブは返事をしなかった。
「ラブ様?」
二回目の問いかけで反応したラブは、隣に座る男の顔を見る。
「ごめんなさい。少し考え事をしていました。えっと、全員乗車しているのなら、出発してください。一応検問に注意してね」
「了解です」
運転手の男は首を縦に動かし、自動車を走らせた。後半戦のゲーム会場に向かうために。


それから何時間程が経過したのか? プレイヤーたちは暗闇によって視界が塞がれているため、時間が分からない。音楽も流れていなければ、誰一人喋ろうともしない。
退屈な空気が車内に充満しようとしていた頃、ラブは両手を合わせる。
「そうでした。皆様。ラジオでも聞きませんか?」
覆面の下でニコっと笑ったラブは、彼らの答えを聞かず、カーラジオのスイッチを入れた。すると、丁度良いタイミングでニュースが流れる。
『ゲームセンターホワイトウッドの前で起きた通り魔事件の被害者である女子中学生の意識が回復しました。警視庁は女子中学生から事情を聞きだして、容疑者の男の行方を追うと発表しました』
このニュースを聞き、ラブはコメンテーターのような発言を、プレイヤーたちに言い聞かせた。
「森園薫子さん。一命を取り留めたようですねぇ。良かったです。この通り魔事件はすぐにでも解決するでしょう。もしかしたら、後半戦のゲーム会場で捕物帖が見られるかもしれません」
ラブは最初から通り魔が誰なのかを知っているような口ぶりだった。それどころか報道されていないはずの被害者となった女子中学生の名前まで知っている。何かがおかしいと真紀は暗闇の中で思った。

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