シニガミヒロイン~プロトタイプメモリー~

山本正純

第7話 震災の記憶

このまま種明かしをしてしまえば孤立してしまうのではないかと多くの人は思うだろう。だが、黒墨凛という少女は違った。自分にスポットライトが当たると、ペラペラと話し始めたのだ。
「簡単なトリック。ライターで東君のマニフェストを書き換えただけ。正確に言うなら入れ替えたと言った方がいいかもしれない」
「入れ替えた? そんなことができるのか?」
東たちは驚きを隠せなかった。黒墨は首を小さく縦に振る。
「そう。二票以下のマニフェストの文言を一語一句間違えずに、二票以上四票未満のマニフェストに上書きしただけ。それで本来の二票以上四票未満のマニフェストも同じようにして、本来の二票以下の物に書き換える。これを投票終了直前にやれば、誰にも気づかれずにマニフェストをコントロールできる」
「じゃあ、椎名さんと蒼乃さんは本当のことを言っていたんだな」
池澤の声を聞き、黒墨は頷いた。
「うん。一番ポイントが多い私は狙われると思ったから、先手を打ってバンクでこの中の誰かにハートを勝手に預けた。ハート二個だけ残して。こうすることで、誰かがチェンジを使ってきても、相手にハート二個渡るだけになる。これで相手はもう一度チェンジ買えない。ハートなくなるから」
黒墨凛は上手だったと全員が思った。こうなることを見越していたのか。東が蒼乃にポイントを預けていたことを知っていて二人を罠に填めたのか。様々な憶測が考えられるため、多くの人々は彼女を警戒する。
一方で黒墨凛が仕掛けた巧妙な罠を知った影の緊張は和らいだ。まさか自分以外にもゲームを早く終わらせたいと考えている奴がいたことは、裏切り者にとって想定外なことだった。上手く凛を仲間に入れることができれば、次のターンでゲーム終了。そんな期待を抱きながら、影は頬を緩めた。
一通りの種明かしタイム終了後、黒墨凛は東の怒りを買う。このセリフを近くで聞いた真紀は、凛が悪人に思えた。
「彼女さんを罠に填めた私にペンをプレゼントしないと、あなたの負け」
「言われなくても分かっている。次のターン、俺はお前を追い詰めるからな。覚悟しとけよ」
東は因縁の相手を睨み付けると、教室から飛び出した。
その直後、池澤文太は絶叫する。
「ちょっと待てよ。俺のマニフェストはどうなるんだ?」
「えっと。池澤様のマニフェストは、蒼乃恵美に床ドンでしたね。残念ながら蒼乃様は脱落したので、実行不可能です。よって規定によりハート五個頂きます」
ラブはニコっと笑い、一人の少年を絶望させた。その後、黒墨凛はバンクで他人に預けておいたポイントを引き出した。
それから彼女は、絶望により顔が強張っている池澤の右肩に触れる。
「大丈夫。池澤君死なない」
そう語り掛けた時、突然クラッカーのような音が凛の端末から鳴り響いた。どうやら、凛のマニフェストは達成されたらしい。
一部始終を見ていた真紀は、疑問に思った。なぜ黒墨凛は、大胆な作戦を実行したのか?
まるでゲームを早く終わらせようとしているような気がする。何か秘密があるのではないかと真紀は思った。


真紀が疑いの視線を凛に向けている時、谷村太郎は椎名の前に立った。
「椎名さん。ちょっと話を聞いてください」
そう話しかけられ、真紀は始まったと思った。谷村太郎のマニフェスト、椎名真紀に昔話をする。おとぎ話でもするのかと思った真紀は、谷村の話す意外な話に驚いた。
「実は僕、椎名さんに十年前に会っているんです。七年前の七月二十五日、福井県で震災があったでしょう。あの時……」
七年前の夏休み初日、福井県で起きた震災。
その日のことを聞いた真紀の瞳が、一瞬だけ虚ろになる。そして、次の瞬間、椎名真紀の体は崩れ落ちた。谷村は慌てて、彼女の体を支える。
突然彼女を襲ったのは、震災の記憶。あの日、幼かった真紀は父親に抱きかかえられて、避難した。そこで記憶が途絶え、次に浮かんだのは、変わり果てた小さな村の景色。無数の瓦礫の山の前で、椎名真紀は泣いていた。
覚えている震災に関する記憶が呼び起こされ、椎名真紀は頭を上げ、自分を支えている谷村の顔を見た。
「ごめんなさい。確かに私は、あの震災の時福井県の小さな村で暮らしていたけど、あんまり覚えていないの」
あの日のことは触れてはいけない。そう思った谷村は、頭を下げ謝った。
「ごめん。この話は忘れてください」
谷村は彼女から離れた。悔しい思いを漂わせた彼に、マニフェスト達成を知らせるクラッカーの音が届いたのは、三秒後のことだった。
それから谷村は、制服のポケットから一枚の写真を取り出した。それはいつも学ランの内ポケットの中に入れていたお守りのような一枚。
どこかの桜の木の下で、首筋に小さな黒子がある長髪の小学1年生くらいの女の子が、笑顔でピースサインをしている。その少女の隣には、小学一年生の椎名真紀の姿。写真の日付は七年前の四月七日と印字されていた。
他の荷物は奪われていたにも関わらず、なぜかこの写真だけは手元にある。そのことの意味を知らない少年は、写真に映る真紀の隣にいる少女を見つめた。
「明美」
谷村は少女の名前を小声で呼んだ。一方で
震災のことを聞いた真紀の反応を見守っていたラブは、密にスーツのポケットから一枚の写真を出した。それは谷村太郎が所持している物と同じだった。

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