シニガミヒロイン~プロトタイプメモリー~

山本正純

第1話 拉致された椎名真紀

なぜ自分だけが生き残ってしまったのか。あの時感じた気持ちが、幼い少女の心に深く刻み込まれる。
その喪服の少女は、無数の瓦礫の山を前にして、大粒の涙を流した。彼女の嗚咽は止まることはない。
少女を追いかけた同い年の茶髪の少年は、彼女を慰めることすらできなかった。


目覚める直前まで見ていたのは夢ではない。過去の記憶のリプレイ。喪服の少女だった女子中学生は、洗面台の前で腰の高さまで伸びた長い髪を梳いた。寝ぐせを直し、顔を洗った後で、彼女は鏡を見る。
「真紀ちゃん」
突然誰かが少女の名前を呼ぶ。どこかで聞いたような声に彼女は驚き、目を大きく見開いて、背後を振り向いた。しかし、そこには誰もいなかった。
その少女、椎名真紀は首を傾げ、可愛らしい二重瞼をパチクリした。両親は先月海外の研究所を拠点に暮らしているため不在。つまり、この家で誰かが自分の名前を呼ぶなんてあり得ないはずだ。
真紀は何も分からない。彼女はいつもと同じように朝食を食べ終え、紅茶を一口飲む。少女の視線の先にあるテレビには、ニュースが映し出されていた。
「4月26日。金曜日。ニュースの時間です。昨夜午後6時頃、ゲームセンターホワイトウッドの前で通り魔事件が起きました。被害に遭ったのは十条中学校に通う女子中学生で、現在意識不明です。警察は逃げた男の行方を追っています」
聞き覚えのある地名に、真紀は驚いた。ゲームセンターホワイトウッドは近所にある学生の溜まり場と化したゲームセンター。十条中学校も事件現場の近くにある。真紀も同じ学校に通っているのだ。
この2つの事実は、彼女に疑念を抱かせた。近所でそんな事件があったのならば、救急車やパトカーのサイレンの音を聞いているはずだ。しかし、彼女は昨夜そんな音を聞いた覚えがない。
これは一体どういうことなのか? 訳も分からず少女は首を傾げた彼女は、自室に戻り、紺色のセーラー服に着替えた。
同じ頃、あるビルの一室で、とある人物がノートパソコンの画面を見つめ、頬を緩ませた。その人物の顔は額にハートマークがプリントされた覆面によって覆われている。
ノートパソコンの真っ黒な画面に表示されている文字は、『十条中学校裏サイト』という文字。サイトを閲覧した覆面は、ニヤっと笑い、呟いた。
「準備完了。それでは、退屈な時間を終わらせましょう」
悪夢のような出来事を仕組んだ張本人は、ノートパソコンでメールを打った。
4月26日。金曜日。この日の放課後から椎名真紀の退屈な日常は終わりを迎え、悪夢のような出来事が始まった。


住宅街を歩き中学校へ向かう真紀は、一度立ち止まる。突然鞄の中に仕舞っていた携帯電話が震えたのだ。何事かと思いながら、真紀は鞄から携帯電話を取り出す。どうやらメールが届いたようだった。何のメールだったのかと気になった真紀は、新たな謎に直面した。
『椎名真紀様。おめでとうございます。あなたは、とあるゲームのテストプレイヤーに選ばれました。本日の放課後、お迎えに行きます。尚、この不審なメールを警察や家族等に知らせた場合、あなたの秘密を暴露します』
イタズラメールにしては手の込んでいると真紀は思った。
その日の中学校の教室。真紀はいつものように教室のドアを開けようと手を伸ばす。しかし、それよりも早くドアが開き、地毛らしい茶髪の髪に細い目という特徴な男子生徒が一歩を踏み出した。黒色の学ランと黒の長ズボンという校則通りの制服をキチンと身に着けた少年は、目の前に椎名真紀がいることに気が付くと、顔を赤くして隣のクラスへ戻った。
何なのだろうかと首を傾げ教室に足を踏み入れると、同級生の声が聞こえて来た。声のする方へ視線を向けると、茶色に焼けた肌が特徴的な長髪のクラスメイト、山吹日奈子が同級生の女子生徒から噂話を聞いている。
「聞いた? ゲームセンターの前で刺された女子生徒って、隣のクラスの森園さんらしいよ」
初耳な情報を知り、山吹は視線を窓の傍でイチャイチャしているカップルに映した。
「そうなの? あの森園さんが襲われたっていうのに、東君はいつも通りイチャイチャしているのは、おかしいね」
窓の傍では、一組のカップルがイチャイチャとしている。スポーツ万能な体育会系、高身長イケメンという肩書が似合いそうな男子、
東大輔は、学校一の美人と称されるショートボブの女子生徒、蒼乃恵美の肩を抱いている。
それから20分が経過して、黒いスーツを着た太い眉毛に黒縁眼鏡という風貌の男性教師が入ってきた。
担任教師、吉川敦彦は教室を見渡し、二席程が空席になっていることに気が付いた。それと同時に、二人のクラスメイトが教室に入ってくる。一人は丸坊主の筋肉質な男子生徒。もう一人は制服の上から黒いパーカーを着ているショートカットの女子生徒。
「池澤君と黒墨さん。また揃って遅刻か」
担任教師のツッコミが教室に響く。その中で山吹日奈子は、ギロっと遅刻してきた男子生徒、池澤文太の顔を睨み付けた。
いつもと同じ学校生活が終わり、椎名真紀は自宅に戻った。その道中、彼女は何度も冷たく鋭い視線を感じていた。ストーカーではないかと思い周囲を見渡すが、人の気配はない。
急に恐怖という感情が高まっていき、真紀は何かから逃げるように自宅の玄関のドアを開けた。その瞬間、椎名真紀は目を大きく見開く。確かに鍵は閉じられていた。彼女の家には誰もいない。それが事実のはずだった。
しかし、その事実は目の前の光景によって否定されてしまった。玄関の扉を開けた先には、夢で見た謎の覆面の人物が立っている。
突然現れた謎の人物の姿を見た真紀は、顔が強張り、一歩も動くことができなかった。
謎の侵入者は覆面の下で頬を緩め、ドアの前で動けなくなっている真紀の右腕を掴み、強引に自宅の中へ引き込んだ。
そして、侵入者は玄関のドアと鍵を閉め、脅える少女の顔を見る。
「そんな顔しなくてもいいのに。もしかして泥棒だと思った? 真紀ちゃん」
侵入者の声は、今朝聞いた物と同じだということに真紀は気が付いたが、それ以外のことは分からない。そんな少女は、恐る恐る鞄のチャックを開け、中に仕舞われた携帯電話に手を伸ばす。
だが、少女の行動を読んだ侵入者は、真紀の腕を強く掴む。
「警察に通報するつもり? そんなことしたら困るのはあなたなのに」
「どういうこと?」
恐れながら真紀が尋ねると、覆面の人物はニヤリと笑った。
「そんな疑問よりも、学校のことが聞きたいよ。今日の学校はどうだった? 登下校中のことは、言わなくていいですよ、仲間に監視させて、逐一報告を受けているから」
この時、椎名真紀は真実を知った。今朝から続く鋭く冷たい視線の正体は、目の前の怪しい人物の仲間だった。
疑問が解決された後も、真紀は侵入者に反発した。
「そんなこと話す必要ない!」
「じゃあいいや。今朝知らせたから知っていると思うけど、ゲームを始めちゃうよ。退屈な時間を終わらせましょうよ」
次の瞬間、椎名真紀の体は動かなくなった。突然全身に電気が流れる。気絶する寸前、真紀は覆面の人物がスタンガンを持っているのに気が付いた。だが、時既に遅く、真紀はうつ伏せに倒れてしまう。気絶した真紀の姿を見下ろしている覆面の人物は、スタンガンをスーツのポケットに仕舞い、携帯電話を取り出した。
「はい。真紀ちゃんは回収したよ。じゃあ迎えに来て」

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