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現実逃避から始まるメンヘラ狂騒曲

片山樹

3

 美穂の可愛らしい寝息が横から聞こえてくる。
身体を俺の方へ寄せ、腕を握るその手は一度も日焼けがしたことが無いように真っ白だった。
そんな手を俺は美しいと思った。
彼女に握られていない右手を使い、彼女の顔に当たっている髪の毛を耳にかける。
ツヤツヤでさらさらとしていた。
コンディショナーを毎日欠かさずにしているのだろう。

 それにしても……。

『わ、わたしも……わたしも……ニートで。引きこもりで。学校行かなくて。不登校児で。つまらなくて。だけど悠斗があの日、わたしに言ってくれたから。約束してくれたから。わたし、生きる希望ができて……それでそれで、それで……』
 彼女が言った言葉が気にかかる。
 あの日……俺は彼女に何を言ったのだろう。
分からない。でもあの日、俺は彼女に何かを言ったそれだけは確かなことだ。
そして彼女を救うことができた。
こんな俺でも誰かの役に立てたんだな。
もう、覚えてないけど。
どんなことがあったのか分からないけど。
あの日に全ては始まってたんだな。
本当に人生ってのは何が起きるか分かんねぇー、だからこそ楽しいのかもしれない。

 よしっ、切り替えて俺も寝るとしよう。
別に夜遅い時間では無いけど。

と、思ったよ。うん、思ったよ。
だけどさ、だけどね。

 寝れねぇーよ!

俺はね、一般的な男子高校生なわけ。
こんな状況になったら、全く寝れないのよ。
鈍感系主人公とは違うわけよ。
あんな奴等とは肝が違うのよ。
ってわけで、俺は美穂を起こさないようにベットから起き上がる。

「ゆ、悠斗……いっちゃやだよぉ〜」
 俺の腕を掴んでいた手はスルスルと落ちていったが服の裾で止まった。
だけど目は瞑ったままだ。
どうやら寝ぼけているっぽい。
俺は優しくその小さい手を外す。

 そしてそのままゆっくりとドアを閉めて、リビングのある1階へと降りる。

 冷蔵庫へと向かい、お茶を取り出しコップに注ぐ。
蝉の鳴き声が微かに聞こえた。
暑さ三倍増しになるから本当にやめてくれ。
 視線が外から中に変わり、
「ん? これ美穂のものか?」
 美穂を座らせていた場所の近くにあったテーブルの上にノートが置いてあった。
どこにでも売ってそうなキャンパスノートだ。
使い古しているのか、曲がっている。

 中身が気になる。
めちゃくちゃ気になる。
美穂のものだよな……これは。

でもダメだ。美穂のなんだ。
見たら……見たら……。

 心の中ではそう思っているが、俺の手は動いていた。
そしてそれをペラペラと捲っていた。

『悠斗のアカウント発見』

『悠斗かっこいい……』

『悠斗からフォローが来たよ』

『悠斗にDMを送ったよ』

『悠斗とお話できたよ』

『悠斗と電話できたよ』

『悠斗は私の宝物』

『悠斗大好きだよ』

『悠斗――』
 これも。
『悠斗――』
 これも。
『悠斗――』
 これも。

 何なんだよ、これは。

 ページをもっと捲る。
それでも悠斗――悠斗――という名前と共に俺のことが書かれていた。
 そしてページは終わりのページの1個前に来ていた。

『悠斗と早く結婚したい。私は悠斗が大好き。私は悠斗と……私は悠斗と……私は悠斗と』
 次のページにそのまま飛んでいる。

「ねぇー、何やってるの? 悠斗?」
 急に名前を呼ばれ、うっかりノートを落としてしまう。

『S◯Xしたい!』

 ノートには赤いペンの様なものではっきりと白い紙の部分では無く、表示の裏のところに書かれていた。

「なるほど。見ちゃったんだ。見ちゃったんだね、悠斗」

 美穂が少しずつ俺に近づいてくる。
彼女の圧倒的な迫力に負けて、後ろにたじろいでしまう。そしてそのまま倒れてしまった。

「ねぇーなんで逃げるのかな? 見たんだったら見たと言ってくれればいいのに」

「………………」
 彼女がポケットからカッターを取り出す。

「ねぇーこれ何か分かる?」

「か、カッターだ……」
 彼女が俺を上から見下ろす。

「うん。そうだよ……じゃあ、問題です。これはどんな時に使うでしょうか?」

「そんなの決まってるだろ。紙を切ったり、画用紙を切ったりするときだ」

「確かにそれもあるよ。だけどね、悠斗。これはこうやって使うんだよ!?」
 そうやって彼女がカッターを俺へ振り下ろす。
俺は手で頭を守る体制へと変えていた。
 当たる。そう思った。
だが一行に当たることは無かった。
俯いていた顔を上げてみる。
するとカッターは止まっていた。
美穂は俺へ笑みを溢して言った。

「悠斗。私からのお願い。私と付き合って」

「………………………………」
 なんだ、そりゃ。
だけど安易に付き合うことなんて。
まだ俺等は会ってから数時間しか経ってないのに。

「俺が嫌だと言ったら?」

「殺す」

「なぜ?」

「悠斗を殺して私もすぐにあっちへ行く。そしてあっちで楽しく暮らす」
 どうやら頭が完全的にイッテルらしい。
だけど俺が否定したら彼女のカッターが来るわけで実質俺には否定権みたいなものは無かった。

「それに……悠斗が昔言ってくれた。私の事好きだって。守ってくれるって言ってくれた……そしてけ、結婚してくれるって言ってくれた!」
 彼女の顔が真っ赤になった。
なるほど、あの日俺は彼女に結婚すると言ったのか。
本当に危ない女の子のフラグを拾ったわけか。
そしてこれでフラグを回収か。
ドラマやアニメ、小説などの類なら良くできたものだったと褒めてやってもいいが些か現実世界となるとそれははいはいそうですね、分かりましたということにのることは無い。それが現実なのだ。
だがそこにカッターと美少女となる。
脅迫もされているし、美少女だ。
それも絶世の美女と言ってもいい。
そんな人から好かれた。
それは名誉のことだ。
だからいいじゃないか。
うん、いいだろう。悪くない話だ。
だがこれだけは言っといてやろう。

「カッターを降ろせ。それじゃあ、本当の愛とやらは手に入らないぞ。俺が怖がっちまう」

「ヤダ。返事が欲しい」

「降ろしたら返事をやる。それでどうだ?」

「ヤダ。先に返事! 早く! 早く!」
 ドンドンと足で床を蹴っている。
どうやら少し機嫌が悪いらしい。

「残念だけどお断りだ」

「へぇ?」
 彼女の顔が一気に崩れ落ちる。
それは物理的にだった。
彼女の膝に力が入らなくなっていたのか、倒れてしまった。そして泣き出した。
その隙を付いて俺は立ち上がる。

「なんで? なんで? 殺すよ。本当に殺すよ。悠斗……他に女がいるんだね。そうなんだね。フォロワーの中からすぐに見つけて殺すから。殺してあげるから。そうだよね、悠斗が……私以外を好きになることなんてないよね。うんうん、ナイナイ、有り得ることがないよ。だって悠斗は言ってくれたもん。私と結婚するって。私を守ってくれるって」

俺は涙を流している彼女に手を差し伸べた。

「美穂……俺と付き合ってくれ。男からこういうことは言わなきゃいけねぇーんだよ。先に言うんじゃないよ。バカ」

 どっちがバカだか。
本当に分からなねぇーよ。

彼女が俺の手を掴む。
そして更に泣き始めた。

「悠斗……悠斗……悠斗……大好き。大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き」

 どうやらこれから少し大変なことになりそうだ。

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コメント

  • 西東 北南(さいとう ぼくなん)

    メンヘラ度がすげぇ
    俺が読みたかった感じの内容でした!
    アザ━━━(*゚∀゚*)ゞ━━━ス!!

    1
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