異世界召喚!?ゲーム気分で目指すはスローライフ~加減知らずと幼馴染の異世界生活~

梅谷シウア

7-3例えばゲームみたいな世界かも

『さて、どこから話したらいいかな』
「どこからでもいいですよ。任せます」
 さて、どこから話すかなと、言いながら魔王ハクヤは書斎にある本をいくつも持ってくる。
『とりあえず、これを渡しておこう』
「日記? 誰の~?」
『ユウトの母親、最凶女大魔導士と呼ばれたマレアナの日記だ。渡すというより返すといった方がいいか』
「はい、確かに」
 ユウトは魔王ハクヤから、この世界では見たことのないような、豪華な表紙の日記を受け取り無限倉庫ストレージボックスに片づける。
『じゃあ、君の父であり、僕の兄。元魔王ハデルの話から始めようか』
「分かりました」
 ユウトとマイカ、魔王ハクヤが椅子に着くと、メイドのような恰好をした魔族のお姉さんが紅茶をそっと注ぐ。魔王ハクヤは運ばれてきた紅茶を少し飲んで、うまいと、呟きながら喉を潤す。
『兄さんは、魔王の家の中でもかなり頭の回って、戦うことも得意だった。そして兄さんが魔王として降臨してから2ヶ月ほどたった日の事だ。勇者一行が攻めてきて、命懸けで兄さんを封印したはずだった。けど、兄さんは君の母、最凶女大魔導士マレアナによって助けられた。それから、あの2人がのんびりするためにこの世界を出た。それだけのことだよ』
「この世界を出た? どういうことだ?」
 ユウトは飲んでいた紅茶の入ったカップを机に戻すと、一息ついて真剣な顔で問う。
『どうもこうもあるか。あの2人は女神に勝って、世界を渡ったそれだけだ。そんなこと出来るのはあの2人だけだ』
「女神に勝った? 女神を殺したのか?」
 ユウトは机に乗り出して、反対側に座っている魔王ハクヤを問い詰める。
『殺すまではしなかったんじゃないかな。確か瀕死させて、世界移動魔法についての理屈を知ってそこから完成させたんじゃなかったかな。君達は知ったところで世界移動はできないだろう。世界を渡れるのは一度だけな訳だし』
「そうか。やっぱり帰れないのか」
 ユウトは溜め息を1つつき隣に座るマイカを見た。
「どうかした、ユウくん?」
「いや、なんでもない」
 マイカが隣にいてよかったなどと言えるはずもなく、誤魔化しながら魔王ハクヤの方を向く。
『まあ、帰ることを望むならこの世界について解いて見るというのも手らしいよ。女神も変わって世界移動のシステムはなおさら厄介になったし。いつ、何時も変わらないのは、この世界は誰かによって意図的に作られたものだってことだよ。これを解くのはあの2人でも無理だったらしいけどね』
「誰かによって作られた世界ねぇ。さっぱりだ」
ユウトはお手上げだと言わんばかりに肩をすくめる。
「魔法が使えて、魔族がいて、勇者とかモンスターもいるなんてゲームみたいだよね〜」
「誰かが作ったゲームがこの世界か。面白いし、案外そうなのかもしれないな。だとしたら俺の親族はバグの塊ってことになるけどな」
『ゲームってのが何かは分からないけど、僕らはバグなのかい?』
「ゲームってのは、色々種類はあるけど勇者になって魔王討伐を目指すシュミレーヨンみたいなものだな」
『そりゃ、僕らはバグの塊だね』
「だろ。俺らの親族含め、この世界がゲームなら根本を揺るがしすぎてる」
「ゲーム擬き、いやゲーム気分とか~?」
「ある意味じゃ正しいかもな。ゲーム気分で目指すはスローライフなんてな」
 ユウトは、紅茶を飲んで息を整えてからそういう。
『やはり、僕ら魔族は敵対視されやすいんだな』
「人族と大して変わらないの、不思議なもんだよな」
 ユウトは皮肉なものだと言わんばかりに溜め息をつく。
『そうだな。さて、僕が知っている事はもう終わりだ。あとはその日記を読んでくれ。まあ、ゆっくりしていくといい』
 魔王ハクヤは、そう言い紅茶を飲み切るとその場から立ち去った。
「さて、じゃあ俺らはお言葉に甘えてのんびりするか」
「そうだね、のんびりさせてもらおうか」
 ユウトとマイカは、メイドと思わしき魔族に連れられて客間へと向かう。
「ここか。王城なんかとは比べ物にならないほど設備がいいな」
「久しぶりに2人っきりだね」
「そういや、そうだな。リーティスもいたし、2人でのんびりなんてなかったな。もう1年くらい前、ちょうどこの世界に来た頃に宿に一緒に泊まったな」
 ユウトは、妙に質のいいベッドに腰かけ日記を取り出す。そしてひと息ついてから意を決してそれを開く。
「もう1年も前なんだね~。時の流れって早いね~」
 マイカもユウトと同じベッドに腰かけて、ユウトの開いた日記をのぞき込む。
「時の流れなんて確かにあっという間だな。こっちに来てからバタバタしてたのもあるだろうし」
「そうだね。ここに来てからユウくんのお嫁さんにもなれたし」
 ユウトは少し顔を赤らめ、日記を読み進めていく。
「何か見つかった?」
 読み進めてから、1時間ほど経ったところで紅茶を入れてきたマイカがユウトに問う。
「生憎さっぱりだ。まだ冒頭しか読めてないってのもあるがな。分かったのはうちの母さんは魔術、魔法の才能があったって事。それから俺の両親の頃の世界は魔王が倒されてから、人間同士の戦争ばっかりでな。魔導士なんてのは兵器だった訳だ。最凶女大魔導士と呼ばれた母さんも兵器として使われていたこと。それから戦場から逃げ出した母さんは隠居生活しようとうろついていたんだと。そこで封印から逃れるも弱体化した父さんに会ったんだと。それだけだ」
「どこぞのユウくんにそっくりだね。お義母さんは」
 ユウトはマイカの入れた紅茶を飲みながら、さらにページをめくる。

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