転移魔王の異世界全力征服

一姫結菜

第三話 チュートリアルと四人の策士





「それでは早速ですが、ゲームのチュートリアルを始めさせていただきます」 

 無機質なボーカロイド系の音声によって目が覚めた。目が覚めたばかりなのに全然、眠気は感じない。催眠術によって意識を奪われたような気分だ。

「まず、一つお伝えしたいのはあくまでこれはゲームです。その事を念頭に置いて、お聞き下さい」

 ボーカロイドのような人間を模して造られた感のある3Dアバターが頭上にに現れた。
 どこぞのヲタクが作ったのかしらないが、金髪ツインテールに短いひらひらスカート。加えて、ハイソックスと豪華に属性を取り揃えている。
 さらに、下から覗いても謎の光によって下着は見えない。

 白い。ただそれだけの空間では光に包まれていて、自分の体すらボヤけて良く分からない仕様になっている。まるで、コナン君の犯人が判明する前の状態の光バージョンみたいだ。
 俺は少し、咳こんでみたが声にエフェクトがかかっているらしくていつもとはかなり違う。
周りにも同じような状況の人がたくさんいる。

「皆さんにはこれから実際に、ネクロマンス・フロンティアの世界に行ってゲームクリアを目指してもらいます」

 ネクロマンス・フロンティアは10年前くらいから存在する古参のMMORPGの一つだ。
 広大なマップ領域と、国や街。ちいさな、集落に至るまで細部にまでこだわって作られている。PCの性能にもよるが、本物よりも本物な景色。なって、言われるクオリティだ。
 さらに、ゲーマにはうれしいやりこみ要素が満さいで、村人一人一人が他のNPCとは違い、細かい設定があり、会話も個性豊かで本当に生きている人間と話している気分になるらしい。数あるMMORPGの中で人気がとても高く、課金要素が少なく評価は高い。

「ゲームクリアって何をすればいいんだ?」

 ハルキではない誰かが聞いた。同じく声にエフェクトがかかっていて性別すら分からない。

「大きく分ければ、方法は二つあります。一つはご存知の方がいるかと思われますが4人の魔王を倒すことです。もう一つは、魔王が世界を征服することです」

「そんなの無理に決まっている。魔王討伐なんて、10年間の間誰も出来なかったじゃないか」

 ハルキはあまりゲームをやらない。別に嫌いな訳ではないのだが、創作活動が忙しすぎて他のことに時間が回せないでいる。

「プレイヤーは104人。内訳は魔王が4人、勇者が100人となっています」

「クソゲーじゃないか。魔王四人が協力すれば、そんなの1日でクリアできるでしょ」 

 ハルキもその主張に同意した。だが、

「ゲームをクリアした人には、100億円をお渡しいたします。さて、それでも協力する人は現れるでしょうか? 嘘ではなく、これは本当ですよ」

 場が騒然とした。
 100億円なんて普通の人生を送っていたら死んでも手に入らない額だ。

「さらに、魔王にはある特権があります。それが絶対服従の力です。魔王は全てのプレイヤー、およびNPCを一定の条件のもとに奴隷にすることが出来ます。皆さん、奴隷をご存知ですよね? 奴隷は魔王に逆らえません。18禁展開をし放題な訳です。このネクロマンス・フロンティアはビジュアルにこだわっているゲームです。言わなくても分かりますよね?」

「魔王だけ贔屓じゃん」

「そう言う意見も出ると思いましたよ。魔王ですから、勇者とはある程度待遇に差が出ることは仕方ありませんよ。魔王ですからね。ですが、魔王は一度。倒されてしまうとそこでゲーム・オーバーです。しかし、勇者は何度死んでもペナルティーのようなものはございません。ゲームですからね。SAOほど、過酷ではありませんよ勇者様に関してはね」

 つまり、魔王は様々な特権があるが一度でも死ねば、終わり。
 勇者は何度でも生き返ることが可能。
 この場合、どちらを選択するのが正解なのだろうか。やはり、皆も魔王を狙うだろう。死ねば終わりと言うのはあるが、魔王が圧倒的に有利すぎる。

「ライアーゲームではないのでクリア者が出ても他の方が負債を追うことはありません。以上で説明を終わりますが質問はございますか?」

「こんなことして何が目的なんだ?」
「そもそも、お前らは誰だ?」
「さっさと家に帰せろ」

「あらあら、質問がとても多いことは関心ですが乙女をせかすものではありませんよ。そうですね。目的ですか。一言で言えば、データ収集です。次に、私は誰かと。そうですね…………それは敢えて今は言いませんよ。ゲームをクリアできた時、私たちの正体を教えましょう。最後の質問については、無理とだけお答えしましょう。本当に家に帰りたいのであれば、ゲームをクリアしてみてください」

「これからランダムな場所に勇者となる皆様をテレポートします。良いですか?」

誰も答えなかった。皆、勇者ではなく魔王になりたいと願うので精一杯だろう。
だが、俺はハルカとなら勇者でもいいと思う。二人が一緒なら、どんな困難だって乗り越えられる。現にk魔までの人生、そうやって生きてきたのだ。

「はい。じゃあ、行きますよ。3、2、1……ジャーンプ」

 ガイドの女の声に合わせて、周りの人が皆、一瞬で消えた。そして、何故かはテレポートしなかった。

「…………嘘だろ」

「お宅。もしかして、勇者の方が良かった系の人? 相当なドMさんだね。死ぬとか言わてるけど、でもその前に豪遊できればいいしね。それにこのゲームの魔王はチートだって言うしそもそも死なないっしょ」

「幸運な4人の諸君。知っていると思うけど、君たちが魔王ね。それでね、一つ言い忘れていたことがあるの。わざと言わなかったんだけど、魔王には支配者力というHPやMPとは別のステータスがあります。それは魔王らしく振舞えば、振る舞うほど上昇します。しかし、魔王は魔族の王です。勇者である人間と慣れ合えば、当然、部下である魔族の方々からは反感を買います。そして、最悪の場合、革命を起こされます。と、なると即ゲーム・オーバーだからね。注意してね。私からはこのくらいかな。習うより慣れろって感じかな。じゃあ、3分後にテレポートさせますよ」

丁度良い、この時間に俺はどうしても言いたいことがあった。
きっとこの場にハルカがいるならきっと提案に乗ってくれる素振りを見せるはず。例え、姿が分からなくてもきっとハルカがいるなら見つけられる。

「協力してさっさとゲームをクリアしないか? 賞金は平等に4等分すればいいじゃないか?」

「いや、馬鹿だろ。誰が平等に分けるんだよ。俺らは誰も本名を知らないんだぞ。誰だって持ち逃げが可能だ。今、例えこの場でで本名を名乗ってもなそれが正しいと証明することなんてできないんだよ」

「そうや。誰も協力なんかしないで。もし、お宅が無理にでも攻略しようとすれば、きっと3人で力を合わせてお宅を殺すよ。別に、お宅じゃなくても抜け駆けしてクリアを目指す輩がいるとその他の勢力で取りあえず殺すよ。当然でしょ。100億円だぜ。だから、このゲームはきっと誰にもクリアされない。そう作られているんだよ。精々、俺らは魔王らしく奴隷たくさん作って、可愛い女の子で遊びましょうや。別にお宅が女の子ならイケメンでもかまへんけど。あまりに長期間、戦局が変わらないと運営側もきっと諦めてくれるでしょ。それが一番平和よ」

「軽薄そうな貴殿の言う通りだ。どうせ、100億円なんて嘘に決まっている。たかが、一企業に出せる額ではないわ」

「ならだ。この場で自己紹介でもしないか。確かに、本物だと証明することなんて出来ないけど、魔王同士。呼び合う名が無いのは不便だろ? 俺はハルキ。風見春樹だ」

「確かにそれはそうやな。俺は健吾。生まれは東京の20歳の現在無職様や」

「国枝東郷。35歳、官僚だ」

「くっそエリートやないか。気持ち悪いわ」

「お前こそえせ関西弁はやめろ。聞いていて、不愉快だ」

「もしかして、関西の人かいな。これは失敬。でも、こんな声のトーンもクソもない状況で個性を出そうと頑張っている点を評価してもらいたいもんやで」

「・・・・・・天塚日和」 

最後にボソッと呟いた。多分、女の子で間違いない。他の2人は微妙にわからないけど。

「えらい暗い子やな。まぁ、これで全員か。3分って以外と長いもんやな。おっと、丁度始まるようやな」

やはり。何となくは感じていたが、ハルカは魔王に選ばれなかったか。

これは俺が考える中で一番最悪なシナリオに近い。

彼らの言うことももっともだ。俺とて考えなかった訳では無い。いくらチート魔王だとしても、 同じ性能のチート魔王3人に勝てるはずがない。

せめて、ハルカが魔王なら2対2になる。そうなれば、状況は一変する。
もしかしたら、金目当てで俺たちに加わるという人が現れるだろう。そうすれば、3対1。もしくは全員で協力という展開になったかもしれない。
仮に、2人が徒党を組んで徹底的にクリアを阻止するというスタンスに出たところで、俺とハルカならば問題ない。
即席のただの遅延目的で徒党を組んだ程度の関係で、運命の赤い太い糸で結ばれている俺とハルカに勝てるわけがない。
頭脳で勝っていようと2人組というのは信頼関係が何よりも大切になってくる。

たが、ハルカどころか知り合いはゼロ。話した感じ協力して貰えそうな感じもない今、クリアなんて絶望的だ。

しかし、俺がやるしかない。勇者が魔王を倒すなんてきっと無理だ。それこそ、仮に出来たとしても十年以上の歳月が必要になる。

きっとこの場の誰もが分かっているが、これだけのことをすることが出来るなんて国枝さんも言っていた通り一企業に出来るはずがない。何らかのもっと深い目的がある。
だからこそ、時間切れなんてつまらない展開はきっと絶対にありえない。

『それでも、俺はどんな無理ゲーだろうと絶対にクリアしてやる。元の世界に戻って、ハルカとゲームの続きを作るんだを』
声には出さないが、俺は心の中に強く誓った。



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