転移魔王の異世界全力征服

一姫結菜

第一話 とある運命の激突

俺には運命の人がいた。
お互いが、お互いにとって本当にかけがえのない存在であった。
彼女がいれば、他に金も地位も名誉も何もいらない。そう思えるほどにだ。
それが今では、俺は人間世界を支配しようとする四大魔王のルシファー。
一方の彼女は魔王から世界を守る為に立ち上がった勇者のパーティーに属する黒魔法の第八段階まで使える天才魔導士。
もはや、誰の目から見ても戦うのは当然とも言える立場となってしまった。

結果として今、命を懸けた戦いが始まろうとしている。
本当なら、戦いたくない。彼女が苦しむ姿なんて見ない訳がない。彼女を傷つけたくない。彼女を殺したくはない。しかもそれを、自らの手で行うなんて。こんな展開にならないことをどんなに神に祈ったことか。
だが、負ける訳にはいかない。ここで、負けるようなことになれば、彼女を本当に救えなくなる。
覚悟を決めて、戦闘準備に入る。恐らく、戦闘になんぞならずに、ただただ魔王ルシファーとして、世界に住まう人間の敵として、勇者たちを迎え撃つ。

「さぁ、死にたい奴は前にでろ」

ダンジョンの最深部へやってきた勇者一行と対面する。
勇者一行には顔見知りのクラスメイトも何人かいた。それをこれから殺すとなると気が引ける。が、なせばならない。

「行くぞ。力を合わせれば魔王を倒せる」

勇者一行のリーダー剣士の成瀬悠斗は昔から知っている顔なじみで、腐れ縁だ。どんな時にも冷静で、頭脳明晰と言うことではないが、明るくムードメイカ―でいつもクラスの中心にいるような人物だった。

全部で勇者一行は全部で7人。半分が顔見知りであった。

脳内に浮かぶゲームコマンドのようなものから魔法を選択する。
まずは手始めに弱めの第九段階の魔法を発動する。

「ブラスト・エミュレート」

俺の人間離れした悪魔の肉体が放つ魔法はそこらへんの人間の放つ魔法とは同系統の同じ種類の魔法だとしても威力は異なり、魔王ともなれば100倍くらいの差はある。
手の平から放たれた暗黒の波動は勇者一行のタンクを吹っ飛ばし、目論見以上に陣形を崩して7人がばらばらになった。

そこを見逃さずに、自身に強力な攻撃バフをかけて、悪魔の鋭く剣よりも尖がり、ダイヤモンドのような固い爪で盾を持っている男を盾ごと貫通させて殺した。装飾が豪華に施されている一級品であったのは見た目で理解出来たけど、そもそものスペックが弱すぎて紙も同然。
他の魔法使いがバフとかかけてタンクを強化なんてされるのは面倒くさいので、もう一人のタンクを速攻で殺す。
4秒くらいのペースで2人を殺した。彼らに関しては全く、面識がなかったので罪悪感がない。
ただ、これ以上は知り合いが多いので直接やるのは躊躇う。

「セイグリット・グレイズ」

ふと油断した瞬間、彼女が第八段階の光属性の魔法を打ち込んできた。
悲鳴が思わず自然に出てしまうほど痛い。本当に、痛すぎる。
悪魔は光系統の魔法はかなり弱い。ダメージは通常の魔法の4倍のダメージを受ける。このような理由の為に、基本的には冒険者はまず初めに対人には人畜無害な光魔法を覚える。

「くっそ。マジで痛いんだよ。ブラスト・エリュシオン・サチュレーション」

これは正真正銘、最強の第12段階の最強の黒魔法。人間には絶対に使いこなせない領域に存在する魔法である。
最深部のどこかのドームくらい広い空間の天井を覆いつくすような巨大な魔方陣を発動させた。急いで、勇者たちは防御姿勢をとるがそれで防げるような甘い攻撃ではない。だが、同時にこれは俺の甘さでもあった。どうしても知り合いを一人ずつ倒すなんて嫌だったからだ。
魔法陣から降り注ぐ、巨大な闇のオーラが高密度で勇者たちを襲う。一度、触れれば確実に死ぬ。

「セイグリッド・フォール」

だが、一人だけ俺の行動を読んでいたかのように光のオーラで包んで闇のオーラを防いだ。
それが俺の彼女である櫻井春歌であったのは言うまでもないだろう。
ハルカはどんな気持ちで戦っているのだろう。俺と同じで戦うのが嫌なのかな。でも、そんな感じがなんとなく伝わってくる。いや。きっとそれは彼女に俺が無理やり気持ちをこうであって欲しいと願っているだけに過ぎないのかもしれない。

「貴様、なぜ今のが防げた」

「何でだろうね。きっと来ると思ったんだよね。魔王の癖に私の大切な人に雰囲気が凄く似ているの。だからって、容赦なく倒すけどね」

「…………人間風情が舐めた口を」

正体が分からないように魔王風に言ったものの。内心では、本当に涙が出そうなくらい嬉しかった。姿も全然違うのに俺のことを理解してくれるなんて。これ以上、嬉しいことはない。

「おいおい。魔王ルシファーさんよ。呑気にお話なんてしなさんなや。その女は予約済みなんだよ。手出し、無用で頼むぜ」

死んだと思っていた剣士の成瀬悠斗が生きていて、光属性の剣で斬りかかってきた。
ルシファーのアバターは所々が悪魔のパーツになっているが基本的には人間型に近くて、斬撃耐性はほとんどないため握力がある程度あれば攻撃が通る。

「いてぇぇぇぇ」

痛覚は姿が変わってもあまり変化していない。傷自体は即座に超回復で回復するが、HPゲージは削れている。
ここまでの戦闘で全体の5パーセントしか削られてはいないが、精神的には結構辛いところがある。

「光属性でも全然効いてないじゃんかよ。流石、チート魔王」

「ダブル・ストライク・フレイム&サンダー」

俺は呪文を唱える。さっきのような雑な広範囲攻撃ではハルカに防がれてしまうと考えたからだ。
2種類の暗黒属性を纏った炎と雷のコラボ。
相殺しようにも第10段階の魔法二つを同時に相殺するような魔法をいくら天才であろうと人間ごとき雑種が使えるはずがもない。
それを理解したユウトは男らしくハルカを庇い、剣を投げ捨て盾になる。

「…………クッソ。これは明らかに俺の仕事じゃないのにな。ハルキの野郎、彼女のピンチだっていうのにどこで何してんだよ」 

そう叫びながらユウトは最強の魔法に鎧一つで立ち向かい無惨にも闇の炎で焼かれてHPを全損させて死んだ。

残りはハルカだけだ。

「セイグリッド・グレイズ」

涙を堪えながらもハルカは俺に立ち向かってくる。
その瞳には仲間の死に対する悲しみと、魔王である俺に対する憤怒が伺えた。
ハルカのそんな顔を長い付き合いなはずなのに、初めて俺は見た。
もはや、受ける光魔法のダメージによる痛みよりも心の痛みの方が強い。

「何やってんだよ」とユウトは言った。俺が魔王であることなんか知らないで言ったのだろう。だが、その言葉は強烈に胸に刺さる。
誰よりもハルカを守らないといけない俺が、あろう事か戦って殺そうとしている。
そんなことを考えていたら、自然と涙が溢れ出していた。

「何で魔王か泣いているのよ。ハルキには会えないし、本当は私だって戦いたくなんかないのに。本当に泣きたいのはこっちなのに」

「っ………」

ここでハルカに殺されたい。
不意にそんなことを思ってしまう。
だが、いくらなんでも人間を何千と殺し、いくつもの街や村を焼いた魔王の正体が彼氏であるハルキであるとはとても言えはしない。
こんな状況なのに、嫌われたくはないと思ってしまう心が俺にはあった。
ハルカに嫌われるくらいなら、死んでも構わない。
だが、それではハルカを救えない。だからこそ、心を殺し。
魔王としてハルカを殺す。救うために殺す。そんな酷い矛盾を抱えながらだ。

背中に生える鋼鉄をも貫通させる6本の触手で、ハルカを狙う。
ハルカは見事な判断で簡易な呪文の爆発で軌道をずらし、何とかギリギリ避ける。
ステータス的には今の俺とハルカは月とすっぽんくらいある。それでも、器用に何度も避けた。
そして、二人は図ったかのように同時に魔法を撃つ。

「セイグリット・グレイズ」
「ライジングボルト・マキシマム」

ハルカの杖から放たれる光属性の魔法と俺の手から放たれる雷撃の槍の一撃がぶつかり合う。
だが、当然のことながら均衡することも無く、そのまま雷の槍はハルカの魔法をいとも簡単に破り、ハルカを襲う。ハルカには槍が貫通し、とても苦しげな表情を浮かべた。
それも一瞬のうちの出来事でHPゲージがゼロとなり、その場で消滅した。

俺は勝ったはずなのに、只只虚しい孤独感だけがその場に残った。どうしてこうなってしまったのか。どうしたら、こんな自体を避けることが出来たのか。何度考えても、答えなんて出ない。
ただ、俺には進むしか選択肢がない。ハルカを救うためにこれから何度も、ハルカを殺すことになってもだ。
俺は魔王ルシファー。たった1人を救うために、世界に滅びを与える者なり。


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