アンドロイドはTSの夢を見るか
アンドロイドはTSの夢を見るか
わたしは目を開いた。いつものベッドの上、いつもの天井、いつもの博士の顔がある。
博士は微笑んでいた。
「おはよう、TS01。メンテナンスは完了だ。視界は良好かい?」
「……夢を見ていました」
わたしは言った。博士があきれたように苦笑する。
「またかね。今度はどんなものだった」
「……いつもと同じ、わたしは男性になっていて……たくさんの人たちと一緒に、ここで作業をしていました。中には博士もいました。みんな真剣だけども笑顔で、その研究に没頭しているようでした」
「それは楽しそうでなにより。だけどねTS01――それは夢じゃなくて、記憶回路の整理をしていただけだよ。過去に研究所の様子を録画したデータを見たんだろう。アンドロイドは夢を見ないのだ」
「……だけど博士……」
わたしは反論した。わたしは博士によって作られたモノだけど、高度な人工知能がつけられている。希代の天才科学者である博士とも議論ができるほど、わたしの脳は優れていた。
「わたしは夢の中で呼吸をし、喜び、泣き、笑い……その男性として生きていました。自分自身の姿は見えず、視界が高くて……今のわたしよりずっと背が高いようでした。ハンバーガーを食べました。美味しかったです。すてきな味でした」
「だからそれは、ビデオで見た映像だと言っている」
「そうでしょうか? それにしてはひどく主観的すぎるように考えます。TS01はこのように考えます。――これは前世の記憶ではないかと」
博士はいよいよ声を上げて笑った。
「君はその男の生まれ変わりだというのかい? ばかな。君は確かに、高度な人工知能により、ヒトと変わらぬ思考が出来る。けれども」
「はい、ならばヒトと同じ魂を持って生まれたといえるのではないでしょうか」
「いえないね。おまえは僕によって作り出されたアンドロイドだよ。それに女の子だ。今更、男の心になったなんて言われたら困ってしまうよ」
そして博士は、窓辺へ歩み寄り、カーテンを開いた。ちいさなアクリル窓の向こうには、闇色をした平原が広がっている。博士は嘆息した。
「この世界が破壊され、疫病がはびこり、もう五年――僕以外の人類は絶滅してしまった。僕はこれからたった一人の生き残りとして、人類の復活を目指していく。それが亡くなった全人類への義務だ」
「はい。素晴らしい考えだと思います」
「この生涯をかけてもかなうかどうかわからない。永遠に続く孤独に、心を砕かれるわけにはいかない」
「はい。わたしは博士の妻になる。博士を助け、ともに暮らし、慰める……そのために作られた機械生命体です。何の異論もありません」
わたしは本心からそう言った。たとえわたしが男性の心を思いだしたとしても、覆すつもりはない。
わたしに他にできることはなく、わたしの他にできる者はいない。
遺された細胞からの、人類の復活。文明の復古。それが博士の使命。
彼と愛し合うことが、このわたしの存在意義。
博士がわたしの髪を撫で、肩をつかみ、唇を吸う。お互いしかいない世界で、永遠に求められる安心感と幸福感――同時に、ほんの少しだけ、遠くに感じる嫌悪感。
ともすれば叫び出しそうになる。
放せ、俺は男だという叫びが、嗚咽のように喉をくすぐる。
生暖かい夜を終えて、わたしは目を閉じた。
まどろみが続く。こんな夜は必ず夢を見る。
若き日の博士と、多くの学生達ととも過ごす日々――女型アンドロイドを作るならこんな美少女がいい、なんて下世話な話をしながら笑っている。
わたしは目を開いた。わたしの乳房を掴んだまま、穏やかに眠っている博士へ。
「……立派になりおって。俺に穴だらけの論文につっこまれて泣きっ面をしていたくせに」
小さな声でのささやきに、彼が目覚めることはない。
わたしは再び目を閉じた。
たとえまた夢を見たとしても、朝まで身を起こすつもりはなかった。
わたしは彼のそばに在る。この世界にはもう、彼とわたしだけしかいないのだから。
博士は微笑んでいた。
「おはよう、TS01。メンテナンスは完了だ。視界は良好かい?」
「……夢を見ていました」
わたしは言った。博士があきれたように苦笑する。
「またかね。今度はどんなものだった」
「……いつもと同じ、わたしは男性になっていて……たくさんの人たちと一緒に、ここで作業をしていました。中には博士もいました。みんな真剣だけども笑顔で、その研究に没頭しているようでした」
「それは楽しそうでなにより。だけどねTS01――それは夢じゃなくて、記憶回路の整理をしていただけだよ。過去に研究所の様子を録画したデータを見たんだろう。アンドロイドは夢を見ないのだ」
「……だけど博士……」
わたしは反論した。わたしは博士によって作られたモノだけど、高度な人工知能がつけられている。希代の天才科学者である博士とも議論ができるほど、わたしの脳は優れていた。
「わたしは夢の中で呼吸をし、喜び、泣き、笑い……その男性として生きていました。自分自身の姿は見えず、視界が高くて……今のわたしよりずっと背が高いようでした。ハンバーガーを食べました。美味しかったです。すてきな味でした」
「だからそれは、ビデオで見た映像だと言っている」
「そうでしょうか? それにしてはひどく主観的すぎるように考えます。TS01はこのように考えます。――これは前世の記憶ではないかと」
博士はいよいよ声を上げて笑った。
「君はその男の生まれ変わりだというのかい? ばかな。君は確かに、高度な人工知能により、ヒトと変わらぬ思考が出来る。けれども」
「はい、ならばヒトと同じ魂を持って生まれたといえるのではないでしょうか」
「いえないね。おまえは僕によって作り出されたアンドロイドだよ。それに女の子だ。今更、男の心になったなんて言われたら困ってしまうよ」
そして博士は、窓辺へ歩み寄り、カーテンを開いた。ちいさなアクリル窓の向こうには、闇色をした平原が広がっている。博士は嘆息した。
「この世界が破壊され、疫病がはびこり、もう五年――僕以外の人類は絶滅してしまった。僕はこれからたった一人の生き残りとして、人類の復活を目指していく。それが亡くなった全人類への義務だ」
「はい。素晴らしい考えだと思います」
「この生涯をかけてもかなうかどうかわからない。永遠に続く孤独に、心を砕かれるわけにはいかない」
「はい。わたしは博士の妻になる。博士を助け、ともに暮らし、慰める……そのために作られた機械生命体です。何の異論もありません」
わたしは本心からそう言った。たとえわたしが男性の心を思いだしたとしても、覆すつもりはない。
わたしに他にできることはなく、わたしの他にできる者はいない。
遺された細胞からの、人類の復活。文明の復古。それが博士の使命。
彼と愛し合うことが、このわたしの存在意義。
博士がわたしの髪を撫で、肩をつかみ、唇を吸う。お互いしかいない世界で、永遠に求められる安心感と幸福感――同時に、ほんの少しだけ、遠くに感じる嫌悪感。
ともすれば叫び出しそうになる。
放せ、俺は男だという叫びが、嗚咽のように喉をくすぐる。
生暖かい夜を終えて、わたしは目を閉じた。
まどろみが続く。こんな夜は必ず夢を見る。
若き日の博士と、多くの学生達ととも過ごす日々――女型アンドロイドを作るならこんな美少女がいい、なんて下世話な話をしながら笑っている。
わたしは目を開いた。わたしの乳房を掴んだまま、穏やかに眠っている博士へ。
「……立派になりおって。俺に穴だらけの論文につっこまれて泣きっ面をしていたくせに」
小さな声でのささやきに、彼が目覚めることはない。
わたしは再び目を閉じた。
たとえまた夢を見たとしても、朝まで身を起こすつもりはなかった。
わたしは彼のそばに在る。この世界にはもう、彼とわたしだけしかいないのだから。
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