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魔術がない世界で魔術を使って世界最強

海月13

入国前の朝

窓の外で雪が散り積もる光景を眺めながら、セナはトントンとリズムを刻みながら食材を切り分けていく。今は日が昇り始めてまだ外が明るくなってすぐの頃。

一行は昨日の段階でコーネリアが見えていたのだが、下りの道が遠回りになってしまい、昨日のうちには着かなかったので、次の日に入国することにして昨晩は野営をしたのだ。

「セナ〜、狩り行ってくるね?」

「行ってらっしゃい。お肉期待してる」

「任せて!彩ちゃんと健くんと雄也くんも手伝ってくれるから余裕だよ!」

「この辺ってなにがいるんだろうな?」

「さぁ〜?エルさん何か知ってる?」

「この辺だとスノウバードがいますね。キジに似ていて雪のように真っ白な体毛で覆われている鳥です。肉は身が引き締まっていて美味しく、さらにその羽はひんやりと冷たく、寝具などで重宝される高級素材でもあります」

「へぇ〜その羽欲しいかも」

「エルおねぇちゃん!ユノそのとりさんみたい!」

「じゃあ探しに行きますか?マスターもまだ寝ていますし、少し朝ごはんが遅れても大丈夫でしょう」

「うん!いくー!」

『わっふ!』

「そうなると凛緒、スノウバードを狩るのはやめたほうがいいかもね」

結局セナ以外全員がスノウバードを探しに行くことになった。凛緒達は狩りに、エルとユノはバードウォッチングに。

「じゃあみんな気をつけて行って来てね。弥一まだ寝てるから起きたら朝ごはんにしよう」

弥一は昨日思いついた物があると言って夜遅くまで作業をしていたのだ。熱中すると誰の声も入ってこないので誰も止めず、結果弥一が寝たのは午前3時頃になった。
そんなわけで現在も奥の寝室で眠っている。

全員が出て行くとトレーラーの中はシンッと静まりかえり、コトコトと味噌汁を煮込む音だけが反響する。

米も炊き終わり、味噌汁も出来上がって火を消す。おかずは凛緒達がとってくるが、もし取れなかった時のことも考えて保存用の肉を自然解凍しておく。

「することないな.......」

予想より早く終わって、こんなことならユノちゃん達とバードウォッチングしに行けば良かったと外を眺めながら思う。

取り敢えず紅茶を淹れて炬燵に入ってやりかけだった服の修繕をする。裁縫は凛緒の方が得意で、服の修繕はほとんど任せているのだが、自分の服は自分で直しいく。所々動きやすいように改造したりして服を直してしまう。

「...........暇だなぁ〜」

直してしまえばあとはすることがない。焼き菓子も出して炬燵でくつろぐが、部屋は暖かいのに誰もいないから空気が冷たい。

「..........弥一まだ起きないかな?」

そう言って立ち上がり奥の寝室に向かう。トレーラーの奥には二つ扉があり、右が女子、左が男子の部屋だ。

一応ノックしてみるが反応がない。少し待ってゆっくり扉を開ける。

部屋は畳で女子部屋と同じ。奥には各自の物置と大きなテーブルが一つ立てかけられている。

そんな畳の床に布団を敷いて弥一が寝ている。上下する布団と呼吸音から弥一はまだ寝ているようだ。

起こさないようにそっと近づいて顔を覗き込むと、安らかに目を閉じて眠っている。

「ふふ......弥一かわいい」

普段は弥一が先に起きるので弥一の寝顔を見るのは珍しい。優しい表情で眠る弥一にセナは笑みを漏らす。

「..........ちょっとだけ」

そう言って布団を少しめくり、布団の中に潜り込んで弥一の横で添い寝する。

少し冷たい部屋の中、愛する夫の布団に包まる。そこはとても暖かくとても優しい。

ずっと見ていても飽きないと、弥一の顔を見つめながら横になっていたら、自然とまぶたが重くなって来た。

(............ダメ、弥一を、起こさない、と........)

頭ではそう言っても心地よい温もりの睡魔に誘われセナはそのまま眠ってしまった。













(............なんでセナが布団の中にいるんだ?)

セナが睡魔に襲われて眠ってしまってから数分後、腕を包む柔らかさと暖かさに弥一は目が覚めた。

そして目を開けると目の前に無防備な表情で眠るセナの顔があった。

きめ細やかな白い肌に、綺麗なまつげ。青い海のような髪はサラサラと落ち、艶やかな小さな唇は規則正しい呼吸をしている。

最愛の嫁の寝顔を見ながらもう何度になるかわからない惚れ直しをする。思わずその唇を襲いたくなる。

「......すぅ.......すぅ......ふふ、弥一かわいい..........」

「一体どんな夢を見てるんだ」

寝言と一緒にセナが寄って来て、その膨よかな胸を押し付けてくる。全身から伝わる柔らかさに思わず手が背中に回る。

ぎゅっと抱きしめれば世界で一番の抱き枕に。そのままもう一度眠ってしまいたい。

「...........ん........弥一?」

セナが身動ぎしパチっと目が開く。浅い眠りだったからかすぐに起きたようだ。

「おはよう。ごめん、本当は起こすつもりだったんだけど、つい」

「いいよ。むしろ暖かくて気持ちよかった。もう少しこうしてていいか?」

「うん。私ももう少しこうしていたい。みんな出ていったし」

「じゃあみんな戻ってくるまで寝るか?」

「うん。最近は野営ばっかりだったから一緒に寝れなくて寂しかった」

「セナは寂しがり屋だな」

「むぅ......弥一は寂しくなかったの?」

「そんなわけないだろ」

甘ったるい会話のあと弥一はセナにキスをする。頬に手を添え、軽く触れる程度に髪を撫でる。

「んっ、ふふ、くすぐったい」

頬には微妙に朱色が差して、セナは嬉しそうにはにかむ。

「その格好いいな」

弥一はセナの服装を見てそう言う。

クリーム色の首まで覆うセーターに、ピチッとしたパンツルックのズボンでクールな印象。その上からエプロンをつけ、髪もアップに纏めている。普段とはまた違ったコーデに弥一は新鮮な気持ちでセナの服装を眺める。

「似合う?」

「ああ、似合ってるぞ。なんていうか新妻って感じがする」

「よかった。王宮で色々と地球の服装を聞いて作ってみたの」

「そうなのか。いつものスカートも似合ってるが、こうした服装も悪くないな」

コーディネートを褒められ喜ぶセナに、弥一も自分の為に頑張ってくれる嫁が嬉しくてさらに抱きしめる。

「ねぇ、弥一」

「ん?なんだ?」

目を合わせてセナが言うと、弥一も聞き返す。少し頬を染めて口を開いた。



「朝ごはんにする?二度寝にする?そ、れ、と、も.......私?」



人差し指で口元を指し、上目遣いで見つめてくる。新妻の定番セリフに、密かにそういったシュチュエーションに憧れていた弥一にとってそのセリフは電気を浴びたような感覚が走った。

「どうしたんだそのセリフ?」

「その、前に女子のみんなが話してたの。こう言えば弥一が喜んでくれるって。これって地球では新妻が言うって聞いたから」

そう言うとちょっと恥ずかしかったのか、口元を布団で隠してしまう。そんな仕草も愛らしく、弥一の手は自然とセナの頬に。

「意味、わかってるのか?」

コクンと小さく頷く。
意味がわかっていて憧れのシュチュエーションで誘われているとなると、弥一はもう我慢できない。

「じゃあ、セナがいいな」

「んっ......っ、弥一の手、熱い.....」

ギュッと抱きしめた弥一の手はセナのセーターの裾を引き上げ、そこからきめ細やかな背中に伸びる。

触れる手は熱く、スーッと背筋を指でなぞると、ビクッと反応する。そんな反応が可愛いくて弥一はさらに裾を上げて背筋を弄る。

「っ.......あっ、あんまり、動かさないで.....っ!くすぐったくて.......!」

「反応するセナが可愛いから止まらない」

背筋をなぞられるたびにゾクゾクとした刺激が走り、それを必死に堪えるのに弥一の服をぎゅっと掴む。

「ひゃうっ!そんなに、.......いじわる......しないでぇ......」

「セナ、可愛いよ。そんな声聞かされたら我慢できなくなる」

「んっ!あっ、..........ちゅっ.........ちゅっ.......恥ずかしい........ちゅ、んくっ」

「もっと声、聞かせて」

「ひゃっ!あっ、そんなに、胸揉まないで......!あんっ!んんっ!........」

顔を引き寄せ、その唇にキスをする。触れるよなキスではなく、いきなり火傷するような濃厚なキス。

脳髄を溶かされるような快楽に、二人の手はお互いの背中を撫で回し、もっと求めるように激しく舌を絡ませる。

「ちゅっ........あんっ........んっ、あむっ.........弥一、激しい.........んんっ........」

朝からしないようにしているキスを遠慮なく堪能しながら、弥一の手はセナのズボンに伸びていく。
優しく触れる指にビクッと反応してしまう。

「ひゃっ、んんっ.........いやんっ、弥一に、襲われちゃう」

少し茶化すように微笑むセナ。弥一はセナの頭を抱くと、耳元で囁きかける。

「あんなセリフで誘っておいて、やめてと言ってもやめないからな」

「.........うん、やめないで.........昨日は弥一が構ってくれないから、んっ........寂しかったんだから........」

赤くモジモジとしながら我慢できないと言った表情でセナは再び唇を合わせる。啄ばむように短いキス。

「それはごめん。だから、たっぷり愛し合おう」

「うん。最近できなかった分、いっぱいちょうだい」

そんな激甘な会話をしながら、セナは仰向けの弥一に馬乗りになり、エプロンとセーター、ズボンを脱いで下着姿になる。
すると今度は弥一が脱いだエプロンをセナに着せた。

「........なんでエプロンだけ着させるの?」

「ロマンだからだ」

裸エプロンならぬ下着エプロン。チラリと覗く下着と白く艶やかな身体。
男を魅了する妖艶さは弥一から理性という枷を溶かしてしまう。

手が自然と伸びて、キュッと引き締まった腰を抱き、華奢なその身体を引き寄せる。
抱き合うと直にその暖かさと柔らかさが伝わってくる。

「ね、弥一.......続き、しよ.......?」

上気した頬にトロンとした瞳で、艶やかに微笑むセナの表情に、背筋を痺れるような感覚が走る。

「ちゅっ......んんっ、くちゅ......んんあっ、もっと、して.......」

「わかったよ。ちょっと乱暴かもだぞ?」

「うん、むしろ、いい......身体が火照って、我慢できないの.....あむっ......ひゃうっ、んっ......」

互いに手を取り指を絡め、無我夢中で熱くねっとりと舌を絡め合う。弥一はトロンと垂れるセナの青い瞳に、どうしようもない情欲を抱き、少し乱暴に引き寄せセナの身体をまさぐる。セナも甘い声を漏らしながら求めるように身体を寄せ、弥一の首元に何度もキスの雨を降らす。

布団の中でずっといたからか少し二人の体温は熱く、吐息も熱い。しかしその熱さが二人を後押しし、鼻と鼻がくっつく距離で二人は見つめ合う。

「セナ。愛してる.......」

「私も......」

そしてもう一度二人の唇は重なりーーー


『ただいまー』


「「!?」」


玄関から聞こえて来た凛緒達の声にビクッと二人は硬直。

『あれ?セナがいない』

『部屋にいるのでは?』

『ああ、そうか』

凛緒とエルがそう言ってこちらに近づいてくる。ここにこの格好のままいれば怒られることは確定だ。

「(........まずい!セナ、急いで服を着て窓から外へ出るんだ。外へ散歩に行ってたと言えば誤魔化せる)」

「(わかった!)」

このまま続きを、と完全にそういった空気だった二人だが流石に踏み止まった。もう少し遅ければ恐らく止まらなかっただろう。

急いで服を着て窓から出て行くセナ。それと同時に扉がノックされた。

『やいく〜ん。起きてる?』

「お、おう!今起きた」

『セナ知らない?どこにもいないんだけど』

「あー、散歩にでも行ったんじゃないか?」

『かもね。朝ごはんセナが用意してくれてるよ』

「わかった。今行く」

寝間着を手早く脱ぎ、ズボンに少し厚めの上着を着て布団をたたむ。そういえばセナはあの格好のまま外に出たが大丈夫だっただろうか、などと考えながら部屋を出てリビングに出る。

リビングに出ると「あ!パパ〜!」とユノが駆け寄って来た。

抱き着いてくるユノを抱き上げて「おはよう」と頬にキスをすると、満面の笑みでぎゅっと抱き着く。
外にいたからか手が少しひんやりと冷たい。

そのまま炬燵に連れて行こうとすると、一羽の鳥が飛んできて弥一の肩に止まった。

大きさは鷲くらいの大きさで、身体全体が真っ白な羽毛で覆われている。思わず撫でてみたくなり、手を伸ばすと案外人懐っこいのか抵抗することなく撫でさせてくれる。
触るとひんやりとした感触がする。

「この鳥は?」

「スノウバードです。この辺りにしかいない珍しい鳥で、ユノ様と一緒に探しに行ったら、どうやらユノ様のことが気に入ったようでついてきたんです」

ユノはよく動物に好かれることが多く、王都の実家でも森の動物とよく遊んだり日向ぼっこしているのをよく見かける。
動物には純粋な子供の心が理解できるのか知らないが、ユノが動物に嫌われたところを見たことがない。

「なまえはね、スーちゃんにするの!」

『ピュー!』

スーちゃんと名付けられたスノウバードは、ユノの言葉が理解できるのか嬉しそうに鳴いて、

「ただいま〜。うぅ〜寒い」

と、そのタイミングでセナが入り口から入ってきた。先程と同じ格好で、エプロンのみ腕に持っている。やはり寒かったようで二の腕をさすりながら入ってきた。

「ママー!みてみて!スーちゃん!」

「スーちゃん?......あ、もしかしてこれがスノウバード?へぇ〜綺麗。可愛いねユノちゃん」

「うん!」

スーちゃんを物珍しそうに見つめるセナ。
と、そこへ凛緒が言ってきた。

「セナどこ行ってたの?」

「ちょ、ちょっとそこまで散歩に.......」

若干裏返った声でそう言うセナに、少し訝しげな目を向ける凛緒。でも一応納得したのか、特に何も言うことなく「ほら、風邪ひくよ」と中へ促す。

「おはようセナ」

「うん。おはよう弥一」

まるで今出会ったかのようにいつも通りに挨拶する二人。一見ごく普通の一コマだが、どこか違和感を感じた凛緒だけはじっと違和感の正体を探す。

そして気づいた。二人にとっては致命的とも言えるミスを。

「.......ねぇ、二人とも。今日はキスしないの?」

「「.....!!」」

その核心をつく言葉に二人は目を泳がせた。二人の頬を冷や汗が伝う。

「い、いや、これからしようかと」

「いつもは先にキスしてからなのに?」

「そ、それは、みんなもいるし」

「いくら注意しても人目もはばからずするくせに?」

何を言ってもすぐに返される凛緒。どう言い訳したものかと考える二人だが、既に真実に辿り着いている凛緒にいくら言い訳しても無駄な気がする。

やがて何も言わない二人の態度に確証を得た凛緒は顔を真っ赤にして詰め寄った。

「やっぱり!!私たちが帰ってくるまでにイチャイチャしてたんだね!大方セナがやいくんの寝込みを襲ってしようとしたら私たちが帰って来て慌てて窓から外に出たんでしょ!!」

「ぐっ...!」

鋭い推理にぐうの音もでないセナ。セナから誘ったあたりも見事に的中している。
旗色が悪くなったセナ。だが負けじと顔を上げる。

「別に私と弥一が朝から何をしようがいいでしょ。部外者の凛緒は黙ってて!」

「ぶ、部外者じゃないもん!一緒に旅をする仲間だし、第一私はやいくんの幼馴染だもん!だから私にも言う権利はある!」

「私は弥一のお嫁さんだから上だね!幼馴染とお嫁さんだとどっちが上だと思う〜?」

「むきいいいいいーーーっ!!セナのあほぉおおおおーーー!!」

「いひゃい!?凛緒のばかぁあああああーーー!!」

お互いにお互いの頬をつねてびよーんする。仲のいいように見えないこともないが、ムキになった二人はそのまま外へ飛び出していった。
そして外から『あほぉおおおおおーーー!!』と魔法の炸裂する音が聞こえて来た。

二人が出て行ったドアをしばし眺め、はぁ....とため息をつく彩。呆れの混じった声で弥一に言う。

「弥一君。止めないの?」

「姉妹喧嘩みたいなもんだしすぐに収まるさ」

「まぁそうね」

「では先に朝食にしましょう。既に肉は捌いてあります」

「おうわかった〜」

エルの言葉に誘われ先に朝食を摂ることに。
外からは未だに爆発音がするが、よくある事なので気にしていたらきりがない。

弥一たちが朝食を食べ始める頃には、全身ずぶ濡れのセナと凛緒も帰ってきて、弥一が錬成して作った簡易シャワーで体を温める。

二人も朝食を摂り始め、ようやく一息ついたところで、弥一が今後の行動方針を口に出す。

「さて、今日ようやく【コーネリア王国】に到着するわけだが、着いたら1週間程度滞在して【コーネリア大迷宮】に挑みたいと思うんだが、それでもいいか?」

「いいけど、1週間も滞在するの?」

そう聞いてくる彩に弥一はディスプレイに周辺の地図を呼び出す。
地図はコーネリア王国を中心に険しい山岳地帯を写す。大きな山脈を丸々囲むように作られた城壁に、その中に山頂の王城を中心に二つの円の内部城壁で区切られた国だ。

そしてそんな王国から山を一つ越えた深い峡谷付近に赤いマークがつけられる。そこが目的地のコーネリア大迷宮だ。

「この大迷宮に移動するためには、山をぐるっと回るか、山を越える必要がある。どっちにしても雪山用に装備を換装しておきたいんだ。全員の装備を強化するとなると少し時間がかかる」

「なるほど、そういうことか」

「特に雄也と健の二人は前衛だから色々と装備を強化しないとだしな。最近レベルが上がってきて武具がついていかないんだろ?」

「あはは、お見通しか」

苦笑いの雄也が申し訳なさそうに答える。アーティファクトである各々の武器は問題ないが、それ以外の武具が身体能力に追いついていないのだ。

弥一はそれをコーネリア技術大国で雪用装備とついでに各人の武具の強化を行なってしまおうと言うのだ。

「すまん弥一」

「いいって気にすんな。アーティファクトの整備と強化なんて俺以外にできないしな。それに武具は自分の命を預ける物だ。少しでも不具合があるといざという時命を落とすぞ」

「わかったわ。今回は弥一くんに任せるわ」

そんなわけで弥一たちは装備強化のためコーネリア王国に1週間近く滞在することになった。朝食がてらの会議も終えて、いよいよ入国する。














シャアアアアアア!と雪の上を滑る音を立てながら弥一たちは物凄い速度で山道を下っていた。
スノーボードで。

「はや〜い!パパ!はやい!」

『ピュー!』

抱っこした腕の中でキャッキャとはしゃぐユノと一緒に弥一もスノーボードで木々を避けながら下る。肩にはスノウバードことスーちゃんも器用に乗って鳴いている。

弥一たちが昨日野営したのはちょうど山の山頂あたりで、山頂からなら滑って下りた方が速いのでは?という健の意見で全員錬成魔術で作ったスノーボードを使って山を下ることになったのだ。

弥一たち地球組は全員スノーボードの経験があったので問題なく滑れた。むしろ昔より身体能力や反射神経、動体視力なども格段に上がっているので、今ではプロのスノーボーダー並みの腕前だ。

そしてセナとエルの方だが、エルは乗り物などの扱いが上手いため、説明して少し滑ると滑れるようになった。セナも若干手間取ったが、【疾風加速ゲイル・アクセラレイション】をうまく併用する事で滑れるようになった。

「セナお先に〜!」

「むっ、負けない!」

身体を倒して雪に手をつきながら大きく曲がる凛緒に、セナも負けじと風の方向を操作して凛緒の後に続く。

倒れた木や岩をジャンプ台代わりに大きくジャンプすれば、上下逆さまで二回転を行い、オリンピックのスノーボード選手もビックリな技を平気でやってのける。

一体どこでそんな技をと思う弥一。
何度か子供の頃綾乃家と日伊月家でスキーに行くことはあり、凛緒もその時スノーボードが始めてだったので、回数で言えば弥一と同じはず。
と言うことは凛緒は感覚でやってのけているのだ。

改めて凛緒の底知れない運動神経に驚愕しつつ、腕に抱くユノを落とさないよう気を配りながら滑っていく。

「パパ〜、ユノもすべりたい〜!」

「ユノにスノボはまだ早いから、あとでソリを作ってあげるから我慢してくれ」

「そり?」

「うーんとな、ソリって言う板に座って滑る乗り物だ。サニアと一緒に乗れる用の大きいやつ作ってやるからな〜」

「ほんと!?やったー!」

スノボにサニアを乗せてやることができず、今は霊体化しているのでユノは嬉しそうに笑う。

「お〜い!弥一!あれじゃないか!?」

先行する健からの声で前を見る。

巨大な山を中心にぐるりと囲む巨大な城壁。
近くに来てわかるが、技術大国だけあって城壁も砲門の数や壁の素材などが他の国の城壁以上に強固に作られている。

だが城壁も無骨な印象はなく、むしろ丁寧に揃えられて作られれている為、洗礼された美というものも感じる。

「もう少しで城壁だ!一旦近くで止まって歩いて行くぞ!」

その号令を受けて全員森から抜ける前に近くの岩に隠れて止まる。
弥一もザッと止まりユノを下ろす。全員のボードを回収して異空間に放り込む。

「全員必要な荷物だけ背負ってくれ。流石に荷物が少ないと不自然だ」

厳しい雪の環境と険しい山脈の連なるこのコーネリアまで辿り着くには本来ならば相当な苦労が必要となる。弥一たちはへカートを使って快適に山を越えることができたが、本来ならば吹雪を凌げる場所を探しつつ時間をかけて行軍するしかないのだ。

なので弥一は無駄に大きなリュックを出してそれを全員に配る。見た目は重そうだが、中身はあまり入っていないので見た目ほど重くは無い。

「それと、防寒対策もしといてくれ」

「あー、流石にこの環境で外套だけは無理があるよな」

健の言葉の通り全員外套しか着ていない。魔術で温度を快適に保つ加工がされているのだが、見た目はただの外套な為見ていて異常だ。

「じゃあ、あっちの岩陰で着替えてくるね?」

「わかった」

そういう訳で全員着替える。便利な外套ではあるが、便利過ぎる故にめんどくさいことにもなるのだと知った弥一だった。

数分後、全員見た目暖かな防寒対策をして森を抜ける。今日は晴れて日差しも暖かいが、空気が冷たく太陽があっても寒い。

見渡す限りの白い雪の汚れなきキャンパス。太陽の日差しが反射して雪面をキラキラと銀色に輝く。
極寒の地だからこそ見える景色がそこにはあった。

「綺麗.......!」

「日本じゃこんな景色見れないな」

彩と健に弥一も頷く。土地開発の進む日本では広大な大自然の雪化粧というものは拝める機会がない。

「この辺りは観光地も多いそうですから、入国してあとで回ってみるのもいいかと。それにコーネリアの最大の観光名所は地下ですから」

「地下?」

「コーネリアは元々鉱山採掘場なのです。この領地最大の鉱山採掘場に国を作った訳なので、地上に出ている部分は氷山の一角に過ぎないんです」

コーネリアの地下はいくつもの階層で区切られており、今もなお鉱山採掘場としての働きを持っている。またこの付近の山々は火山も多いらしく、地下はとても温暖な空間で観光地としても機能する。

「だとしたら早く行って色々と見て回りたいな」

「珍しい鉱石とかあるといいんだが。鉱石魔術触媒が不足気味だし」

「武器の製造も一流が集まるのでこの際装備を一度強化するのもありですね」

「なら私色々と揃えたいんだ!ナイフとかの暗器も充実させたいし!」

「凛緒。あんたは私と行動よ。文句は認めません」

「え!?なんで!?」

そんな会話をしながら城壁に近づいて行き、巨大な門が見え始める。詰所には待ち人が、国のある場所のせいか一人もいない。

衛兵も久しぶりの来客に少し驚いた表情で弥一たちを見る。
弥一はそんな衛兵に向かっていく。

「ようこそコーネリアへ。この時期に地上からの来客は珍しいですね」

「どうも。地上から?」

「このコーネリアは時期的な影響で山からの流通ができない時があるので、地下に近くの街からコーネリアまでの間を通る精霊車という乗り物があるんですよ。この時期は大抵の観光客や商人は精霊車に乗ってやってきます」

「へぇ〜!そんなものがあるんですね!」

精霊車と名前を聞く限り列車のような乗り物だと推測できる。流石技術大国なだけはあると改めて感心していると、衛兵が紙を渡してくる。

「この入国書にサインをお願いします。それと入国料としてお一人七千ネクトをいただきます」

「はい、わかりました」

一通り入国書に目を通して、全員の名前を書いていく。ユノは待ちきれない様子で「はやく!はやく!」とセナの手を引っ張ってはしゃいでいる。そんなユノをセナが抱っこして待っていると、サインをし終えた弥一は衛兵にお金と一緒に入国書を渡す。

衛兵は目を通し、問題ないとわかると詰所の中に入っていき、人用ゲートのレバーを上げて門を開く。

「それではどうぞ。ようこそコーネリアへ」

門をくぐり、弥一たちは浮き足立つ気持ちを抑え、技術大国コーネリアへ足を踏み入れた。



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コメント

  • ノベルバユーザー128919

    最高です!

    1
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