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魔術がない世界で魔術を使って世界最強

海月13

相川雄也という男

相川雄也は天才である。

その才能は幼い頃から開花し、勉強・運動・音楽など幅広くその才能を周囲に見せてきた。

父親は大手銀行の支店長で、母親は凄腕の弁護士。両親は厳しくはあったっが、雄也は二人が大好きで、両親も雄也の事を大切に思っていた。

普通の子供より賢かった雄也は、なんでもできて周囲の人から愛され、雄也自身も誰かを嫌いということはなかった。

いや、一人を除いて。

それは同じ屋敷に住む父の祖父、相川修善しゅうぜんだった。

「どうしたゆう坊?元気がないの?」

「.....なんでもないよおじぃちゃん」

そういう修善は、もうすぐ70代後半という年齢ながらも、年齢の割に若々しく、そして子供の雄也より子供らしい人だ。

「そんな顔しとると運が逃げて行くぞ?よし!ゆう坊遊びに行くぞ!」

「ちょ、!おじぃちゃんいきなり...!」

「あんたぁぁあ!!どこ行く気だい!この後人と会うんじゃろうが!」

「げっ、バァさん!ゆう坊逃げるぞ!」

「え!?なんで僕までぇえええーーー!!」

「逃がさんわい!!」

こんな風に修善は自由人で、雄也はその祖父のいい加減な部分がどうしても受け入れられなかった。

「ゆう坊!今日はサッカー観に行くぞ!ブラジルに!」

「ブラジル!?地球の真反対じゃないか!」

「ゆう坊!最近学校はどうじゃ?んんっ?好きな子でもできたか?そらじぃちゃんに言ってみ。ほれほれ」

「鬱陶しいっ!!」

「ゆう坊!バァさんから匿ってくれ......って来たあああーーー!!」

「だからなんで僕までぇえええーーーー!!」

「ゆう坊ーーーーー」

毎日毎日そんな風に絡んでくる祖父に雄也は毎回毎回振り回されて来た。

そんな感じで毎日が過ぎて行き、雄也が小学4年になる頃、雄也は普通の生活に飽きて来た。

勉強は授業を聞いていれば毎回テストは100点。運動も県の体力測定では全て1位。地元の少年野球チームやサッカーチームに助っ人で呼ばれ、スカウトされる。クラスの中でも1番の人気者で、先生からの信頼も厚かった。

だが、それだけ。

やればなんでもできる雄也は、小学生ながら、子供特有の何かに夢中になれる熱というものがなかった。

学校に行って授業を受けて、友達と遊んで、家族に今日の出来事を話しながら夕食を食べ、風呂に入って眠る。そんな無機質なサイクルがあった。

だが、退屈な毎日の中で修善の破茶滅茶な行動は、雄也自身内心楽しくはあった。だが、その頃の雄也は賢くとも子供の心であったため、自分の気持ちというものに気づくことはなかった。

そんなある日、雄也がいつも通り帰ってくると、いつも絡んでくる祖父がいなかった。

どうやらお客さんがいるらしく、部屋にいるのだという。

すぐ終わるだろうと思っていたが、なかなか祖父が出てこないので、気になった雄也は祖父の部屋を覗き込んで観た。

すると、部屋では祖父とお客さんと思われる外国の男がテーブル越しに向かい合っていた。しかし向かいあっているのはあくまで体だけであって、本人たちの視線は、テーブルに置かれた一つのチェス盤に注がれていた。

いつもはおちゃらけた雰囲気の祖父は、まるで別人のように真剣な眼差しで盤上の局面を見ている。

その時、初めて雄也は祖父がカッコいいと思った。時間を忘れるほど集中し、まるでこの全てに命をかけているような熱い目を。

結局、雄也も時間を忘れ修善の動きに集中し、修善が勝利で試合が終わった頃には、もうとっくに夕食の時間だった。

その日は雄也は興奮して眠れず、次の日雄也は修善に聞いてみた。

「おじぃちゃん、僕にチェスを教えて」

その時修善は珍しく驚いた表情を作り、今までにないほど嬉しそうな顔で頷いた。

そしてチェスを教わる事になったが、ここでも雄也は才能を発揮し、たった一度試合をしただけでチェスを理解し、1ヶ月後には県のチェス大会で優勝を果たしてしまった。

しかし

「ハハハハハッ!まだまだだな!」

「ぐぬぬぬぅううう.........!!」

一度も修善に勝つことは出来なかった。

そして修善はチェスになると人が変わるタイプらしく、キザな二枚目のようになり、まるで相手を嘲笑うかのような態度に雄也は悔しい思いをした。

そのせいか雄也は次こそはと、修善に勝つべく毎日毎日チェスのことばかり考え、中学に上がる頃には日本1位の座を手にしていた。

だが

「ハハハハハッ!!甘いぞ雄也!その程度ではには勝てんぞ!」

「ぐぬぬぬぬぬぅうううううう..................ッ!!」

やっぱり勝てなかった。

日本1位という栄光を勝ち取っても雄也にはどうでもいいことだった。

ただ修善に勝ちたいだけ。

そのためだけに雄也は毎日をチェスに費やし、何度も何度も修善に挑むが、ことごとく敗北。中学になってからの戦績は678戦0勝678敗という散々な結果。

そしてその後も次々と負けては負けての日々が続いたが、それは唐突に終わりを告げた。

末期ガン。あれほど自由奔放だった修善は目に見えて弱っていた。

弱って行く修善に、雄也は目をてられず自然と接する機会も減り、チェスからも遠のいて行った。

許せなかった。どれだけ手を尽くそうとも、どれだけ努力しようとも敵わない絶対的強者で、あれほど強く憧れた背中が小さくなって行く事に。自分ではなく、ガンなんという目に見えないものに倒されて行く祖父が、許せなかったのだ。

それからしばらくして、修善から電話があり雄也は久し振りに修善の元に訪れた。

体は痩せ細り、薬の副作用で髪の毛が抜け、ベットで横になる祖父の姿を雄也は見るのが辛かった。

「おじいちゃん、久しぶーー」

「雄也、チェス盤を出してくれ」

「え?」

突如の修善の言葉に詰まる雄也だが、すぐに頷くと引き出しからチェス盤を出し広げる。

何百回と使われたチェス盤と駒は所々磨り減っているが、世界で一番馴染む。

しばらく二人は無言で駒を動かしていき、1時間後、雄也の敗北で決着がついた。

勝敗が決しても無言の二人。

するとおもむろに修善が口を開く。

「雄也。.......なんだこの弱いチェスは」

「ーーッ!!」

そういう修善の声は今までに聞いたことない、低く、ーーー怒りに満ちた声だった。

今まで修善にそんな声をかけられたことのなかった雄也は息を呑み呼吸を止める。

「雄也。お前はどうしてチェスをやる?」

「どう、してって、....それは、おじいちゃんに勝ちたいから........」

「確かにそれもあるじゃろう。じゃが、違う。本当の理由はお前がよく知っておるはずじゃ」

その言葉が雄也の胸の内に突き刺さる。

雄也には、確かにいつも勝つとハハハハハッ!と高笑いしてくる祖父をボコボコに負かしたい、という気持ちがあった。

だが、その根幹にあった思いはたった一つ。

「......チェスが好きだから」

「そうじゃろ?でなければ儂に負け続けてもチェスをやろうとは思わん」

「でも、おじいちゃんがガンになって、それで僕はどうしたらいいかわからなくて」

そんな弱音を吐く雄也。すると修善は、いつも本気でチェスをするときにつける愛用のメガネを装着し、手でクイッと、メガネシャキーン!させると、

「たわけこの弱者がッ!!」

「ッ!?」

今まで聞いたことのない酷い言葉に雄也は目を見開いて修善を見る。

「儂がガンになって弱ったからチェスから遠のいた?自分がどうすればいいかわからない?ハッ!思い上がるのもはなただしい!お前みたいな弱者が儂の心配などして、チェスから離れるなど100年、いや1000年早いわ!」

カチーンと来た。流石の雄也さんもカチーンと来てしまった。

だが、言い返そうと思って見た祖父の目を見て雄也もはっ、と気付く。

自分が修善に対して怒っていたように、修善も雄也に対して怒っていたのだ。

大好きなチェスから離れてしまった雄也に、そしてその原因を作ってしまった自分に。

「チェスが好きなら何があっても続けろ。儂は自分がお前の足枷にされることが屈辱じゃ。そんな風に考えるなら最低でも儂と同じ立場になってからにせい」

「......同じ立場って......?」

すると修善は少し考え、諦めたようなため息をつく。

「......本当は雄也が高校生になってからいうつもりだったんじゃが、仕方ないの....」

そうして修善はいった。

「雄也、チェスにはタイトルがあるのは知っとるな?」

「うん、それはまぁ」

「儂はいくつもあるチェスタイトルの中でも最高位、レーティング3256のスーパーグランドマスターじゃ」

「.........え、?、えぇええええええええーーー!?!?」

ここが病院ということも忘れ、雄也は絶叫する。

グランドマスターとはチェス界最高の称号であり、グランドマスターになるには、チェスの強さを示す値であるレーティングが2500以上とインターナショナルマスターを3回取る必要がある。

そして更に、レーティング2700以上の特に優れたグランドマスターは、スーパーグランドマスターと呼ばれ、その人数は全世界でも50人程度。

つまり修善は世界最強のチェスプレイヤーの1人ということだ。

一瞬冗談かと思ったが、それが冗談でないことを雄也は身をもって体験している。むしろその圧倒的強さに納得する。

「儂のガン如きに気を取られておったら一生かかっても儂を越える事はできんぞ。雄也、このを越えることがお前にはできるか?」

「ーーーーッ!!!」

目の前に座る祖父の身体が、頂上が見えないほど大きく見える。

そして息を呑む。その背中に背負う世界最強の称号を、自分が越えることができるのかと。

だが、それもすぐに決まる。なにせその気持ちはあの時祖父のチェスを見た時から変わっていないのだから。

「..........ハハハハハ!そうではなくては!私が倒すべき相手はそうではなくてな!!あぁ!やってやろうではないか!その祖父ーーー」

ーー必ず超えてみせる。

こうして雄也は再びチェスの道を歩み、高校に上がる直前で、

世界最高の称号【グランドマスター】を勝ち取った。


しかし、その姿を祖父に見せる事は適わなかった。


世界最強のグランドマスターは、新しいグランドマスターの就任と共にこの世を去ったのだ。

だが雄也は泣く事はなかった。それは祖父に対して失礼な気がしたから。

その後も雄也は様々なチェスの大会で優勝を掴み、高校1年の時点では、レーティング2930。世界ランク1位のスーパーグランドマスターになった。

そして、現在はーーーー





















「グッ......!なんだ!なぜこうなる!」

「.....フッ」

焦りを表情に出し、髪を掻きむしりながらアーケルは盤上の戦局を見る。

しかし反対に、雄也は余裕の表情で、メガネをクイっとどこか香ばしいポーズを決め、その手にもった駒を優雅に動かす。

その一手でまたしてもアーケルが顔を顰め髪を掻きむしり、その薄い毛根にダメージを蓄積させていく。

盤上で展開されるチェスは、完全に雄也の独擅場。

序盤はアーケルがその戦績に相応しい腕で攻撃を仕掛け、流れに乗っていた。

だがそこだけ。

中盤に差し掛かるに連れ、少しずつアーケルの陣形が崩され、さらに前線が押し下げられてきた。

そして異常に気づいた頃には時すでに遅し。終盤、形勢が一気に逆転し、その時点で雄也が完全に盤上を支配した。

それはまるで合気道が相手の力を使って逆に相手を倒すように、雄也は序盤からすでにアーケルを誘導し、終盤でこうなるよう動いていたのだ。

「.......すげぇ」

そのまるで魔法のような盤上の変化に、チェス素人の弥一も息を呑む。周りの観客も、局面が一つ動くたび声をあげ、完全に引き込まれている。

「さぁ、最後のフィナーレだ」

椅子に座る雄也がそう言ってアーケルに手を差し出す。どこからでもどうぞ?、その手はそういう意味だ。

「くそっ!くそくそくそくそぉおお!!」

それを理解したアーケルは声を荒げ、必死に考えたあと、ポーンを動かし守りを固める。

だが、

「ふん、........甘いぞ!」

雄也が動かしたクイーンが敵陣に穴を開け、陣形を崩す。

チェスは常に新しい戦法が研究され、雄也には地球で培った強豪たちの研究がある。

才能でも、実力でも、研究でも、雄也の方が数段上だ。

そしてーー

「ーーチェックメイト、だ」

勝敗が決した。

誰がどう見ても完全なる雄也の勝利。それも相手のプライドなど粉々に砕いてしまうほどの、圧倒的な勝利。

それを見て、観客たちは一瞬の静寂のあと、会場全体が震えるほどの声と熱量で湧き上がる。

そんな中雄也は眼鏡を取りふう、と息を吐いて元の雄也に戻った。車を運転すると人が変わる人はいるが、雄也の場合はチェスをすると人が変わるらしい。

「さ、ケーティアちゃんの契約書と首輪を外してもらいますよ」

「............わかりました」

運営の男はそういうとケーティアの契約書と奴隷の首輪の鍵を渡してくる。

契約書をその場で破き、鍵を持ってケーティアの前に跪く。

痛々しい首輪にそっと手を伸ばし、鍵穴に鍵を差し込めば、キンッと高い音と共にゴトリとその場に首輪が落ちる。

ケーティアは何が何だかわからないといったような表情で固まっていたが、次第に状況を理解し始めると目の端に涙を浮かべ始め、

「もう、大丈夫だよ」

「..........ッ!!う、うぇええええええん........っ!!怖かったよぉ..........!」

そう雄也が優しく笑いかけると、堰を切ったようにケーティアが泣き始め、雄也の胸に飛び込む。雄也もそんなケーティアをそっと抱きしめ背中を摩ってやる。

まさしく感動のシーン。しかしそれに水を差すのは先程負けたアーケル。顔を赤くし「バカなバカなバカな!!」と立ち上がる。

「何故だ!なぜこの私がこんな小僧に負ける!」

「僕はいつかあの人を超えなくちゃならない。強者という席に座り続け、人を喰い物にしてきたあなたのような人が、あの人祖父に挑む僕に勝てるはずがない!」

そう強く言い放てば、アーケルはより顔を赤くし地団駄を踏む。

「くそくそくそくそくそっ!!くそがっ!!ええい!こうなれば勝負など知ったことか!!ここで全員皆殺しにしてくれる!!」

どうやらこの試合そのものを無かったことにするらしい。アーケルがそう大声で叫べは、辺りの観客の中から大柄の男たちがいくつも集まってくる。貴族お抱えの暴力団と言ったところか。

雄也はケーティアを横抱きに抱え、弥一は胸内のホルスターに手を伸ばす。ここで戦闘か、と思われたその時、ビルムットが立ちはだかる。

「いい加減にせい若造が。勝負は勝負。ゲームに負けたはお主じゃ」

「黙れジジィが!私は貴族だぞ!平民ごときが私に意見すると言うのか!いいだろう!お前も極刑だ!」

「まったく、所詮は小物か。そんなお主はここにいる資格はない」

「なんだと!!お前らやれ!」

アーケルがそう指示すれば、手にナイフを持った男が前に飛び出しビルムットにナイフを振るう。

しかしその瞬間横から手が伸びてくると、男のナイフを持つ手を掴みそのまま捻り上げ膝蹴りで骨を砕く。

「ぎぃやぁあああああああああ!!!??」

「ボス、大丈夫ですか?」

「問題ない」

突然現れた黒スーツにグラサンの警備員はそう言ってビルムットに一礼すると、ビルムットは答える。

そのビルムットの表情も、今や喫茶店の時と同じように、いやそれ以上の鋭い瞳になっていた。

どうやら弥一たちが警備員だと思っていた黒スーツの男たちはビルムットの部下らしく、黒スーツの男たちがビルムットを守るように集まってくる。

貴族お抱えの暴力団VS黒スーツの集団。ヤクザとマフィアの対決のような図である。

「あの若造に教えてやれお前ら。ここは勝負の世界。平気でルールを破る無法者を許すなっ!」

「「「「「YES!ボス!」」」」」

ビルムットの一括で黒スーツの男たちが素早い動きで暴力団に迫る。暴力団の方も応戦して、カジノの中心で暴力団とマフィアが衝突する。

数では暴力団の方が多いが、黒スーツたちはまさに少数精鋭といった具合で、暴力団を倒していく。

「ヒイヅキくん、ここは我々に任せて行きなさい。上の奴らの仲間は儂の部下たちがサポートするが自力で突破してくれ。もっともお主らにそんな心配は無用じゃと思うがの」

「ありがとうございます」

「それとそこの君」

「え?あ、はい、僕ですか?」

突然呼ばれた雄也は立ち止まる。ビルムットはその鋭い目で雄也の目を見ると、納得したように頷く。

「お主のチェス実に見事じゃった。真っ直ぐにただひたすらに努力したチェスじゃの。それにお主は良い目をしておる。その背負う覚悟、大切な物、絶対に手放すんじゃないぞ」

「..........!はい!」

ビルムットの言葉に雄也は大きく返事をする。それを笑顔で頷くビルムット。そのあと今度はその横を向く。

「それとマルク。お主どこに行く気じゃ?んん?とっとと戦闘に参加せんか」

「い、いやー師匠。俺、賭博師で、戦闘は苦手でーー」

「おいお前たち。あそこに敵1だ」

「ひぃいいいいっ!!冗談!冗談ですって!!今からやりますよ!」

ビルムットの脅しに泣く泣くマルクがやる気のない動作で戦闘場所に赴く。

戦闘は苦手といっていたマルクだが、実際そんなことはなく、暴力団の男達を複数同時に相手する。

右から殴りかかった来た男の手首を掴み、その力を利用して別の敵にぶつけ、それと同時にしゃがんで相手の攻撃をかわし、下から二人同時に顎に蹴りを見舞う。

おまけとばかりに喫いかけのタバコを相手の額に押し付け、怯んだところをまた投げる。

その動きは仲間の黒スーツの数段上を行き、凄腕のエージェントのようだ。

「さぁ行け!若者よ!

「行くぞ雄也!」

「ああ!ケーティアちゃん、しっかり掴まってて」

「........うん!」

ビルムットに背中を押されて二人は駆け出す。人混みを駆け抜け、襲ってくる暴力団を蹴散らしていく。

「それで弥一!どうやってここを出る!?」

「任せろ!すでに手は打ってある!」

その時、突如エレベーターのドアが爆発する。爆発の元を見ればそこには二つの影。

「弥一!こっち!」

「急いでやいくん!」

そこにはセナと凛緒がいた。実は弥一はこの展開を予想してほかのみんな先に脱出通路の確保に向かってもらったのだ。

「行くぞ雄也!このままエレベーター通路の中を登って行く!」

「嘘でしょ!?何メートルあると思ってるの!?」

「心配するな!セナの風魔法と俺の飛行魔術があれば一瞬だ!」

そのまま喋りながらエレベーターの入り口にたどり着くと、弥一は凛緒とセナを抱え通路に落ちる。雄也もその後に続くと、すぐに謎の浮遊感がやってきて、五人が重力を無視して上に猛スピードで上がる。

エレベーターで5分とかかった道を、約2、3分で登りきり、エレベーターの入り口を斬り裂いて表カジノの方に出る。

いきなりエレベーターの入り口が斬り裂かれたと思ったら人が登ってきて客は動揺するが、その客の中から複数の男たちが弥一たちに飛びかかる。

「オラァアア!!」

「ぐはっ!」
「がっ!」

が、それは同じく飛び出してきた健が男たちを殴り飛ばす。

「ちょっと健!置いてかないでって!私弓なきゃ戦えないんだから.......きゃっ!どこ触ってるのよっ!」

「ぐぼっ!!」

彩の右ストレートが綺麗に男の鳩尾に喰いこむ。男は今まで感じたことのない衝撃に泡を吹いて倒れてしまった。

「......あの右ストレート、世界を狙えるな」

「......うん。5センチくらい喰いこんでたよ」

未来の世界チャンピオンかもしれない友人を眺めながら呑気に感想を漏らす。

しかし今はそんなことを言っている場合ではない。すぐさま健と彩も連れてカジノの出口を目指す。

「マスター!こっちです!」

「パパー!早くー!」

カジノを出れば入り口にへカートで乗り付けたエルとユノがいた。雄也とケーティア、セナ、凛緒、彩を車内に入れ、弥一と健は屋根に登る。

「荷物は宿屋からすでに回収済みです。いつでも出られます」

「よし!出せ!」

「了解です!しっかり捕まってて下さい!」

弥一の指示でアクセルを全開で踏む。ギャギャギャッ!とタイヤが地面を踏みしめ、初速で猛スピードを叩き出す。馬車通りを車両が走り、エルの操縦テクニックで迫る障害物を避けて進む。

「マスター!城門に敵影複数!どうやら待ち伏せです!」

城門に目を向けると、門の前で槍と盾を構えた男たちがいる。ここで止める気だろう。しかし

「構わん!!突撃ーーーっ!!」

「了解です!」

さらにアクセルを踏み込み、待ち構える集団に突撃する。

「か、回避ーーーl!!」

止まらないどころかさらに速度を上げた物体に、男たちはとっさに横に避ける。

そして空いた道をへカートが疾走する。

城門を抜け、橋を渡れば、そこは星の輝きがいっぱいに広がる夜空の下。

城門がある程度遠くの方に見える距離まで来ると、へカートを止めて追っ手を確認する。

「.........追って、なし。救出作戦成功だ!!」

その一言で一斉に歓声を上げる。

みんな一様に喜びの表情を浮かべ、ケーティアは再び泣きながら雄也に抱き着く。それを雄也は優しく微笑みかけ抱きしめてやる。

胸の中に感じる暖かさが、自分が救った暖かさ。

雄也は自分の力がこの小さな女の子を救えた事に、喜びと、そして感謝を感じる。修善と繋いだチェスが、
人1人の命を救ったのだ。

「(おじいちゃん。僕は、今日ほどおじいちゃんとの戦いに感謝したことはないよ)」

修善とのチェスの経験がなければ勝ち得なかった勝利。この勝利は、雄也と修善が2人で繋いだものだ。

「(だからおじいちゃん、ありがとう)」

たった一言。だがその一言で十分な気がした。

見上げる空は自分の知る空ではないけれど、でもその空の上から、雄也は祖父が見守ってくれている気がした。









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