魔術がない世界で魔術を使って世界最強

海月13

潜入


朝日が窓から差し込み弥一は目を覚ます。窓からの光が一人部屋・・・・を明るくする。

ベットに上体を起こすと、右手が温かい感触に包まれている。見ればそこには、弥一の腕を抱き枕にして眠るセナがいた。裸で。

そしてもちろん弥一も裸である。

なぜ弥一とセナは一人部屋にいるのかというと、昨晩全員が寝付いた後部屋をもう一部屋借りて二人でそこで寝たからだ。理由はいわずもがな。

「おーいセナ、そろそろ起きてくれ」

「......きしゅ....」

寝ぼけ眼で半分夢の中のセナがそう答えると、弥一は苦笑いでそっと唇を落とす。しばしそのままでいると「ぷはっ」とセナが目を開けた。

「おはよ」

「うん。おはよう弥一」

もう一回今度はセナからするとようやく二人は着替えに移る。全員が起きる前に部屋へ戻るためだ。

そうして弥一はベットから起きようとすると、なぜかセナが起き上がらない。

「どうしたんだセナ?」

「ちょっと疲れてて.......昨日はその、激しかったから.......」

「あー.......」

昨晩は弥一が理性が飛んでいたこともあっていつもより盛り上がった。夜遅くまでカジノにいたあとのことであるので疲労が多いのだ。

「あと、これどうするの?」

とさらにセナは自分の首元を指さす。白く華奢な鎖骨のの上部にあるキスマークを。

「........すまん。その、昨日はいろいろと理性が効かなかったもんで.....第一セナも悪いんだぞ。あんなに可愛くキスねだってくるもんだから」

「そ、それはその、仕立て屋での弥一が積極的だったから。あんなに激しくされたら我慢できないもん....」

そういって頬を朱色に染めながらぷくぅと膨らませ、弥一を押し倒す。

「みんな起きてくるぞ?」

「なら、キスだけしたい.......んっ」

弥一の顔を捕まえて唇を落とす。はむはむと唇を甘噛みして、弥一もセナの後頭部に手を添えて引き寄せる。

しばらく二人は夢中でキスをしていると、セナがそのまま弥一の首元に吸い付く。だいぶ強く吸い付くと、そこには小さなキスマークが。

「ふふっ、これでお揃い」

「なんてことを.......」

「私だけ恥ずかしい思いはさせない。からかわれるなら弥一も一緒」

消せないのならつけてしまえということだろう。夫婦はいつも一緒。キスマークをからかわれるのも一緒ということだ。

「とにかく早く着替えよう。まだ寝てるとは思うけどこれ以上はまずい」

「うん」

ベットから降りて散らかした衣服を回収して着替える。その際弥一の視線が自然とセナの着替える姿に集まる。着替え途中というのは裸とはまた違ったエロさがある。

「もう、見ちゃダメっ」

「わ、悪い」

顔を赤くして注意するセナに弥一はすぐに目をそらし手早く服を着こむ。

二人とも服を着終わると、部屋を整え出ていこうとする。

「待って、最後にキス」

「またか?」

「だって昨日の激しい弥一が忘れられなくて....」

手を頬にあててイヤンイヤンするセナに、仕方ないと昨夜の反省をする弥一は、そんなセナを引き寄せそっと口づけを交わす。

しばらくそのままお互いの息が続く限りキスをして部屋を出るべくドアを開ける。

そして

「「「「あ、........」」」」

ドアの前でしゃがんでいた健と彩に遭遇。

「よう二人とも、朝からなにやってんだ?んん?」

「そう、何か用事?んん?」

「「い、いや~、あ、あはははははは......」」

無言。

健と彩が迷わずダッシュ!

弥一とセナもダッシュ!

結局そのあと早朝から鬼ごっこが始まった。













それからしばらくして。

人外のステータスを誇る夫婦を振り切れるはずもなく、出歯亀二人は、弥一が以前撮ったトレーラーのベットで健が彩を腕枕して二人で昼寝している写真をグループにばら撒かれるというきっつ~いお仕置きを喰らった。

おかげで先ほどから健と彩のスマホが鳴りやまない。きっと問い合わせ殺到だろう。健のは裁判の出頭命令だろうが。

そしてその本人の健と彩は「そのスマホよこせぇえええ!!」と顔を真っ赤にして弥一のスマホを奪いにかかっている。そうとう恥ずかしいらしい。

「ああっと、手が滑ったぁ~」

そう言ってポイっとスマホを別空間にしまう弥一。

健と彩が床に沈んだ!

「パパ、健と彩おねぇちゃんはなんで倒れてるの?」

「好奇心は猫を殺すからだよ」

「??」

ユノは、どういうこと?と首を傾げるが、弥一が髪を解いてあげると忘れて嬉しそうにニコニコ微笑む。

部屋の一角でそんな空間が出来上がっている。そしてそれはほかにも、

「セナぁああ!!昨日の晩どこにいたの!!」

「弥一と他の部屋で寝てた」

「むきぃいいいいいいい!!」

嫉妬に狂いシュパパパパッ!と貫き手を放つ凜緒に、セナは【疾風加速ゲイル・アクセラレイション】を部分的に使用し鮮やかに避ける。

さらに凜緒がセナの首元のキスマークに気が付くと、凜緒の怒りは限界突破。突きからの回し蹴り、からの上段踵落としなどアクロバティックな動きに移行する。

最近体術スキルを習得した凜緒の動きに、セナも壁や天井を蹴っての立体軌道で躱し、本気の【疾風加速ゲイル・アクセラレイション】で応戦。

方や部屋の一角で沈む二人と娘の髪を解く弥一。

方や部屋全体を使って邪魔にならないように超次元の攻防を繰り広げる凜緒と彩。

カオスとしか言いようのないありさまだ。

「...........皆さんさっさと行きますよ?」

「「「「「あ、ハイ」」」」」

にこやかな笑顔で身がマジなエルさん。五人は冷や汗とともに頷いた。








昼から動き出したのは、今日中にカジノで稼ぐため。少しでも多く稼ぐために昼から夜までカジノにいるつもりだ。

カジノ区内の料亭で昼食を取り、仕立て屋で着替えてカジノに入る。今回エルは運営側に潜入のため別行動だ。

そんは訳で今日も今日とて弥一たちはギャンブルで稼ぎまくる。

「フルハウスじゃ!ホッホッホ、どうするお嬢ちゃん?」

長いヒゲを生やしたおじちゃんは、その自慢のヒゲを撫でながら、向かいの椅子に座るユノを見る。

ユノはそのちっちゃな手でトランプを五枚持ち、「う〜ん」と考えて.........

「おじちゃん。これってつよい?」

「んん?どれかの..........ってぬぉ!?」

ユノがテーブルに広げたカードの組み合わせは、ロイヤルストレートフラッシュ。確率60万分の1の最強の組み合わせ。

これには流石におじちゃんビックリ。しわしわの瞼を見開いて信じられん、と言った表情だ。

「いや〜、参った参った。まさかロイヤルストレートフラッシュとはのぉ。お嬢ちゃん運がええの」

「ほんと!?わーい!パパかったー!」

両手を上げて降参のポーズのおじちゃんを前に、ユノはバンザーイと弥一に向かって声をかける。

テーブルから離れて愛娘の様子を見ていた弥一は、「よかったな〜」と頬を綻ばせる。

「ほれ、お嬢ちゃん。賭けのメダルだ」

「ありがとうおじちゃん!」

賭けの銀メダル一枚を受け取ると、それを大事そうに持っておじちゃんにありがとうと言うユノ。

「すみませんうちの娘の相手してもらって」

「ホッホッホ、構わんよ。こんな可愛らしいお嬢ちゃんなら大歓迎じゃよ」

弥一が昨日ポーカーをやったと話すとユノもやってみたいと言いだし、初めてのポーカーということで人の良さそうなこのおじちゃんにユノの相手をしてもらったのだ。

「それにしても親子揃ってロイヤルストレートフラッシュとは運がええの」

「昨日のポーカー見てたんですか?」

「ああ。なかなか楽しいポーカーじゃったよ。それにお前さんが負かしたあの男は色々と難癖つけることで有名な奴だったから、むしろスッキリしたわい」

ワハハハ!とおじちゃんが笑う。するとユノがおじちゃんの袖をクイクイと引っ張る。

「おじちゃん!このメダルでいっしょにジュースのも!」

「ええのかい?それはお嬢ちゃんが勝って手に入れたものじゃろう?」

「うん!おじちゃんいいひとだから、ユノとあそんでくれてありがとしたいの!」

ギュッと握ったメダルを持ってニコッと笑うユノ。おじちゃんは「ホッホッホ、ありがとうの」とまるで可愛らしい孫を見るかのような目になる。

「それじゃあお言葉に甘えようかの」

「うん!パパもはやく!」

「はいはい」

ユノに連れられて近くの喫茶店のようなお店に入る。テーブル席の一つに座り注文を済ませる。

「そういえば名乗ってなかったの。儂はビルムット・アーケノンじゃ。よろしくの」

「ユノはユノなの!よろしくねビルおじちゃん!」

「俺はヤイチ・ヒイヅキ、冒険者でこの子の親です。こちらこそよろしくお願いします」

握手を交わしてたわいない雑談をし、注文の飲み物が来る。そしてビルムットが唐突に聞いてくる。

「ところでヒお主らはどうしてここへ?」

「特に理由は。ただ旅の途中にここに寄っただけですよ。世界一のカジノなんて来る機会なさそうですし」

「ホッホッホッそうじゃったかてっきり........」


「......裏カジノに用事があるのかと思ったぞ」


「!! ..........どうしてそう思うんです?」

その瞬間二人の間に緊張が走る。弥一は動揺を悟られないようゆっくりと飲みかけのコーヒーを置き、目の前のビルムットの目をのぞき込む。

ユノも二人の異様な空気を感じ取ったのか、弥一の服をぎゅっとつかみビルムットを見る。

そのビルムットはさっきの穏やかな雰囲気から一変、狙った獲物は逃がさない鷹のような鋭い目つきで弥一たちを視線で射貫く。

それは穏やかで人のいいおじさんなどではなく、一片の変化も見逃さない歴戦の勝負師の目だ。これほど力強く鋭い目はリカードやビィルファの時以来。

さすが世界最大の欲望渦巻く魔境のカジノである。その視線はまるですべてを見透かしているような錯覚を与える。

そんな視線を受けながらも弥一は目を逸らさず受け止める。

それからしばらく無言の緊迫感が喫茶店内の一角を支配する。他の客も異様な雰囲気を感じササッと退散。店員も奥に消えた。

頬を汗が垂れ、いい加減こちらから聞き出すか、と動こうとした瞬間。

「ホッホッホ、すまぬのちょっとした冗談じゃ。ただの老いぼれの戯れじゃよ」

「ただの、にしては随分と鋭かったですけどね.....」

ふっと緊迫感が抜けて普通の空気に戻る。未だ弥一の服を握るユノは、ビルムットが「すまぬのユノお嬢ちゃん」と笑いかけると、ホッと安心したようにニコッと笑う。

「それでさっきの話じゃが、なに簡単なことよ。ここでは勝ちすぎる奴なぞおらぬからな。おるとすればただの馬鹿か、稼いで裏カジノに入ろうとする奴だけ。お主に限って前者はないじゃろう。それにお主は自分に着いておる監視をバレないように気にしておるようじゃったし、自然と裏カジノが目的かと思っての」

「あなたにはバレてましたけどね」

バレないように周囲を監視していたつもりだったが、あっさり見破られてしまった。その観察力と洞察力、只者ではない。

そしてこの観察力、どこかマルクと同じように感じる。親戚か何かだろうか?まぁ詮索は良くない。

「それでヒイヅキくん。どれ一つこの老いぼれにはなしてみんか?まぁでも儂はただの老いぼれじゃからすぐに忘れてしまうがの」

「......わかりました」

ここで隠しても無駄だと察した弥一はこれまでの経緯について簡単に話して行く。そして全て話終わるとビルムットは「ふむ.....」と声を漏らし腕を組む。

「なるほどの。裏カジノでのオークションか。確かにここなら銀狼族の子供も取引に出されるじゃろうな.......しかしそうなると少々厄介なことになりそうじゃの」

「厄介なこと?」

「ああ」

そういうとビルムットは口を開く。

「実はの。今回のそのオークションには近くの有権貴族が参加するんじゃ。その貴族は昔からの人間至上主義社でな。珍しい亜人なんかを奴隷として買っては民主の前で見せしめに痛めつけることで有名なんじゃ」

「てことはオークションに参加した場合その貴族が最大の難所というところか.......でも、なんでビルムットさんはそんなこと知ってるんです?」

「なぁに、儂も裏カジノで遊ぶ賭博師じゃからじゃよ。裏カジノの賭博師にとっては今度のオークションについて持ちきりじゃよ。もっとも儂はオークションなどは好かんがの」

「....なるほど」

ビルムットの正体に少し驚くが、その優れた洞察力から相当な腕の賭博師とわかっていたのでそこまで驚かない。

そしてビルムットのおかげで有力な情報を一つ手に入れることが出来た。これは一刻も早く裏カジノに潜入しなければならない。

と、ここでセナから『どこにいるの?』とメールが届く。少々長居しすぎたようだ。

「すみませんビルムットさん、そろそろ行かないと。情報ありがとうございます」

「ホッホッホ、なにこれくらい感謝されるほどでもないがの」

「おじちゃん!ありがと!」

「こちらこそ飲み物ありがとうの。気をつけるんじゃよ?」

「うん!」

元気よく頷くユノにビルムットは手を振り、弥一はもう一度会釈すると、店を後にする。その際厨房の奥からビクビクしながらこちらの様子を伺っていた店員さんたちに軽く頭を下げておく。









「あ、やいく〜ん!」

店から出て集合場所に向かうと、凛緒がこちらに向かって手を振ってくる。

「悪い、少し話をしてて」

「別に大丈夫だよ。ねぇ見てやいくん!こんなにメダルが手に入った!」

そう言って見せてくる凛緒の袋には沢山のメダルが。他のメンバーも同じようにメダルが入った袋を持っている。

取り敢えず一度どこかに座ろうかと休憩所に足を向けた時、一人のスーツ姿の男が弥一たちに向かってくる。

胸元には二枚のコインマークのバッジ。カジノの運営だ。

「お楽しみ中のところ申し訳ございません。ヤイチ・ヒイヅキ様とお連れの皆様ですね?」

「ええ、そうです。えっと、どうかしましたか?」

そう言って弥一は少し困ったフリをする。そして運営の男は丁寧に頭を下げて口を開く。

「昨日からの皆様の連勝ぶり拝見しておりました。そこで皆様、ここよりもっと胸踊るギャンブルをしてみませんか?」

ーーきた。

全員同じことを思うと、コクリと頷く。

「そうですねしてみたいです」

「ではご案内させていただきます」

そういうと男は「こちらです」と弥一たちをエレベーターに誘導する。男は懐からカードを取り出し、それを階指定のパネルに差し込む。

するとエレベーターが勝手に動き出した。どうやらこのカードが裏カジノへ行くためのチケットらしい。

エレベーターはそれからぐんぐんと降りて行き、しばらくするとチンッというベルの音と共にエレベーターの扉が開く。

「さぁ、こちらです」

男が降りて会場へ促す。

弥一たちはもう一度確認すると、緊張の足取りと共にその会場へ踏み入れた。





















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