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魔術がない世界で魔術を使って世界最強

海月13

ジャックポット


一言で言えば宝物庫。

グーデンタームの中心にあるカジノ区のカジノ会場はそう表現するほどのものだった。

会場は恐ろしいほど広く、2階、3階と上にも続いている。その広い会場にはいたる所からギャンブルに勤しむ者たちの歓声や悲鳴が響き、金のやりとりがされている。

天井からは巨大なシャンデリアがぶら下がり、その光が卓上の金、ではなくメダルに反射し、それが様々な場所で起こっているので会場全体が明るい。

そんな金と欲望渦巻く魔境の世界に、入口で佇む弥一たち。

「すげぇ、これが世界最大のカジノ.........」

「どこ見ても金ピカ」

「パパ!キラッキラッ!いーっぱいキラキラしてる!」

予想以上の豪華さに一同少しの間息を呑む。ユノはカジノの煌びやかさにはしゃいでいたが。

しばらくその光景を眺めていると、いくつか視線を感じる。それもそうだろう。後ろには華やかな女性陣がいるのだから。

しかし等の本人たちは注目されていることに興味を示さず、カジノを物珍しそうに見ているだけ。

すると、無駄に爽やかな笑顔を振りまきながら1人の男が近づいてくる。

「やぁ、美しきレディたち。君たちのように美しいレディに会えて僕は運命を感じるよ。どうだい、よかったらあそこのバーで語り合わないかい?」

なんともキザったいというかまるで演劇のようなセリフで男が近づいて手を差し出してきた。ルックスは十分にイケメンの類に入るので、普通なら女性もときめくのだろう。

しかしセナたちはきょとんとした表情の後、逆に気持ち悪いものを見るような目で嫌そうに腕を摩り、セナと凛緒、エルは弥一の後ろに、彩は健の後ろに隠れる。

途端、男がピシッ!と手を差し出した状態で固まる!

大方男は今まで女性にこのような扱いをされたことなどないだろう。故に彼は自分が話しかけさえすれば簡単に落ちると思っていたのだが、あいにくここにはそんなに軽い女はいない。

そんな今までにないショックを受け手を差し出して固まる不恰好な男に弥一が近づく。

男は弥一が近づいてくるとハッ!と気をとりなおし、睨みつける。

「なんだよお前。僕は彼女たちに用があるんだ。わかったらとっとと引っ込んでろ!」

「アァ”?」

随分と勝手な言いように弥一は殺気のおまけ付きで睨み返すと、途端に「ヒッ!?」と情けない声を上げて男がすくみ上る。

弥一は取り敢えず殺気をもう一度強めにプレゼンフォーユーすると、男はグリンっと白目を剥いてその場に倒れてしまった。

「ちっ、面倒くさいなこのゴミ」

嫁に手を出そうとするものにはつくづく容赦しない弥一。自分がやっておいてあんまりな言葉を吐くと、どうしたものか、と視線を投げる。

するとスキンヘッドにサングラスの黒スーツといういかにもヤバそうな格好の警備員の大男たちがやってくると、こういうことは多いのか手慣れた手つきで男を連れ去って行った。

「弥一、気絶はやり過ぎ」

「俺のセナに手を出そうしたんだから当然だ。ましては今はこんなにも綺麗なんだから尚更だ」

「もう、弥一ったら」

口ではそう言いつつもセナは頬を染め嬉しそうに弥一の腕に腕を絡めて顔を覗き込む。

いつもよりも綺麗な妻の姿に弥一はもう何度目になるかわからない胸の高鳴りに襲われる。
思わず人差し指の上にセナの顎を乗せて顔を上げさせると顔を近づけようとして、

「弥一くぅううんん???」

「................」

視界の端にハリセンを持った彩が迫力のある笑みでこちらに微笑んでいる。

弥一は無言で手を下げた。

そのせいで途中でやめてしまった弥一にセナはむくれた表情を作り見つめる。

「むぅ.......さっきはあんなに激しかったのに」

「わ、悪かった。セナが綺麗すぎて理性が飛んでたんだ」

するとセナが手を胸の前でもじもじさせ、

「なら、その.........あ、あとでさっきみたいに、してくれる.......?」

少し恥ずかしそうに頬を染め、上目遣いで覗き込むセナに、弥一は再び理性が飛び掛ける。しかしそこはグッと堪え、細いセナの腰に手を回して引き寄せて、耳元で囁く。

「ああ。......今までなんか比べ物にならないくらいに、な」

「ーーー!!」

熱く囁かれたセナはビクッと身体を震わせ蕩けた顔で愛おしい旦那を見つめる。

アイスに黒蜜と砂糖をふんだんにかけた吐きそうなくらい甘ったるい空気に、健たちは胸焼けで腹いっぱいだ。

取り敢えず固有魔術【二人の世界】を作り出した弥一をハリセンでしばき正気を取り戻させると、「ゴッホンッ!」とわざとらしく健が咳き込む。

「ところで弥一。ここで稼ぎまくることは理解できたけど、そんなに都合よく行くもんか?」

ギャンブルは勝負であって必ず勝てるという保証はない。ましてやそれがあと二日までにとなると相当だ。

「それなんだが、全員にこれを渡しとく」

そう言って弥一が取り出したのは小さな宝石に紐を通した数珠のようなもの。

それを赤、青、緑と色とりどりの腕輪を全員分取り出し、弥一は自信満々に掲げ、

「これは『幸運の腕輪』だ。これをつけてるだけで運気がアップ!」

胡散臭さ満載である。

まるで新聞の広告に載っている胡散臭い商品のようなものを掲げる弥一に全員疑いの眼差しを向ける。どう見てもただの石をつけた紐だ。

「.........お前ら全く信じてないだろ?」

『うん』

「まぁ、俺も言ってて若干胡散臭く感じるよ......。でもこれは本物だ。この宝石に魔術的処理を施してる。これのお陰で人の運に干渉して運を本当に多少だが一時的に上げることができる。ちょっとしたお守りだと思えばいい」

パッとみは只の宝石だが、実はこれ純度の高い魔石で、その魔石に概念系魔術の刻印を刻む事で一時的に運を上げることが出来るというものだ。

だが運という概念に干渉するのでいくら純度が高いとはいえ三時間程度が限界なのだが、今回はこれで十分である。

それを聞いた健たちは鳩が豆鉄砲をくらったよな顔で腕輪を眺ていた。

「なんでもありだな......」

「本当はこういうのはどうかと思うが、今回は時間がないからな」

「まぁ、確かにな。よし!なら人助けのために稼ぎまくってやる!」

やる気満々の健に釣られユノも「おー!」と可愛らしく拳を上げ、腕輪を小さな手に括り付ける。

すると宝石に刻まれて刻印が一瞬小さく光るとすぐに消える。魔術の方は問題なく発動したようだ。

全員がそれぞれ腕輪をつけ終わると、いよいよ弥一たちは動き出す。


























「ロイヤルストレートフラッシュ」

そう言って弥一は手札のカードを台の上に投げる。

カードは10・J・Q・K・Aの五枚。確率649740分の1のポーカーにおいて最強の組み合わせだ。

盤上に現れた最強に弥一の行方を見守っていた観客が湧き上がり、対戦相手は「バカな!!」とカードと言葉を吐いて椅子から立ち上がる。

弥一が今やっているのは賭けポーカー。対戦相手はつい今しがたまで連戦に連戦を重ねていた中年のおっさん。

実はこのおっさん、巧妙なイカサマで無双をし続けていたので、弥一は金を巻き上げる相手をこのおっさんに決めた。

勝負中は解析眼によるイカサマ看破で、相手がイカサマを出来ないように牽制しつつ勝負を決めた。

そして試合前に散々挑発しておいたので賭けられた金額はかなりのもの。たった数回の試合ですでに弥一の所持金額は最初の10倍近くにまで膨れ上がっていた。

ちなみにメダルの換金は、1ネクトでメダル1枚で、メダルは100枚で銀メダル1枚に、銀メダル10枚で金メダル1枚の換算だ。

ジャラジャラと音を立てて手元にやってくるメダルを回収していると、対戦相手のおっさんが憤怒の表情で
こちらを指差す。

「ふざけるな!イカサマだ、イカサマに決まってる!だから今の試合は無効だ!」

「酷い言い掛かりだな。イカサマなんてするわけないだろ?」

「ええいっ!黙れ!この私が負けるなどありえん!イカサマに決まっている!」

なんとも傲慢なおっさんに面倒になってきた弥一。一発殺気をお見舞いしてやろうかと思ったその時、

「おいおいそこまでにしないか?楽しいギャンブルに喧嘩なんて無粋なことするもんじゃねぇーよ。な?旦那」

そう言っておっさんの肩に手が置かれ、一人の男性が現れる。

だらしなく着崩したスーツに、ナイフで適当に切ったような髪の30代くらいの男性。口に咥えたタバコのようなものが、ワイルドな感じを醸し出し意外と男にはまっている。

そんな男はおっさんの顔に近づくと、弥一とおっさんにしか聞こえない声で言う。

「それに、イカサマっつーのはあんたが裾に仕込んだカードのことじゃねぇか?」

「ーーッ!!な、なんのことだかサッパリ........」

男の言葉におっさんは明らかに動揺した表情になり、不自然に裾を後ろに隠す。そう、おっさんのイカサマとはカード交換だ。勝負中に右手のコインで音を立てて、自然に右手に意識を集めその隙に左の裾に仕込んだカードを入れ替えるというもの。

意識を集め大胆に、それがこのおっさんのイカサマの手口。手口がわかればなんてことないが人間というのは不思議なもの、全員騙されていた。弥一と、あとこの男以外はだが。

弥一はそれがわかっていたからそれをさせないように左側に人を集めるように仕向けつつ、左手を動かせないよう牽制していた。

あとはおっさんの表情をよく観察し、こちらにいいカードが揃うのを待って勝負を仕掛けるだけ。まぁ、まさかロイヤルストレートフラッシュが出るとは弥一自身思わなかったが。

その後、男がいくつかおっさんに耳打ちすると、おっさんは「ちっ」と舌打ちして去っていく。

「ありがとうございました」

「いいってことよ。ここではこういったいざこざは日常茶飯事だからな。お互いに助け合っていこうぜ」

「それでもありがとうございました。俺はヤイチ・ヒイヅキ、冒険者です」

そう言って弥一が手を差し出すと男は少し驚いたような顔を作る。

「ああ、いや悪い。冒険者ってのはどいつも荒い性格の奴らが多くてお前みたいな礼儀正しい奴は珍しいなと思ってな。俺はマルク・ジェイト、ただの賭博師さ。よろしくなヤイチ、俺のことはマルクでいい。あと敬語は無しだ」

「よろしくマルク」

お互いに手を握って握手を交わす。するとまたしてもマルクは息を漏らし

「へぇ、その歳でなかなかの剣の使い手だな。ただ、これは剣がメインっつーわけじゃなくて剣も使える、そうだな....魔法師か?」

「ッ!?どうして!?」

「おっ、あたりだな?」

たった数秒でマルクは弥一の戦闘スタイルと言い当てた。その事実に弥一は驚愕の表情でマルクを見る。

マルクはニヤリと得意げに笑うとタバコを指で挟み口を開く。

「手の感触でな。硬さ、色、傷、手の形。手っていうのはそいつがどういう風に生きてきたかを教えてくれる。剣士のタコなんかな」

「すごいな、まさか手でそこまでわかるとは思わなかった」

「はははっ!これでも俺は賭博師だからな。ギャンブルってのは手先の器用さ、観察力が重要だからな。もっとも、俺はそんなに強い賭博師っていうわけじゃないが」

なんでもないように言うマルクだが、いくら手にその人の特徴が現れるとはいえ普通あの一瞬でそこまでわかるものではない。自分でそこまで強いわけではないというマルクだが、その洞察力は只者ではない。

と、その時黒服の警備員が二人の元にやってくると、マルクに話しかける。

「ジェイト様、お時間です」

「もうそんな時間か、すまんヤイチ俺は用事がある。また会おうぜ」

「わかった。こっちこそまたな」

ニッと歯を見せて笑うとそのままマルクは警備員と共に行ってしまった。

「さて、次は何をするか」

増えたメダルを金メダルに換金してもらい腰のメダルホルダーに入れて辺りをブラブラと歩く。カジノは小さい頃、結社の仲間に連れられてラスベガスのカジノに行ったくらいなので久々だ。

一階ではポーカーやブラックジャックなどのカードゲームが多くあり、二階はスロットなどのマシンゲームが多い。

滑車と風魔法で動くエレベーターに乗って二階に上がると、一階以上の騒々しさだ。人々の歓声の中にスロットマシンの機械音が混じっている。

「すげー.......てか、スロットマシンあるんだな........」

そんなどうでもいいことをいいながら次のゲームを探していると、『おおーー!!』と熱い歓声が上がる場所があり、そこに目を向けると見知った顔、健がいた。

「おらぁあああッ!!」

拳を一発。地面を砕きかねない程の力強い踏み込みから放たれた拳は、一際大きな機会の一面に突き刺さる。

すると機械の上部で回っていた三つの数字のうち右の数字が『7』で止まる。

このスロットは回転速度はどうということはないのだが、ボタンは鋼鉄で作られており並みの力ではボタンを押すことさえできない。

しかし健は【身体強化】でボタンを殴る。

「もう一丁ッ!!」

続けて今度は一発目の隣の巨大なボタンらしきものを殴ると、真ん中の面が『7』の数字で止まる。

「これで.......ラストッ!!」

ズバァアアンッ!!と一層大きな衝撃が走り、拳が最後のボタンを殴って止まる。

そして上部の最後の数字は、『7』。

スリーセブン、大当たりジャックポットだ。

その途端機械、巨大スロットマシンが振動すると、排出口からジャラジャラとメダルが排出される。

「よっしゃー!大当たりだ!」

「大当たりだ、じゃないわよ!!」

バシンッ!と健の頭を彩がしばく。

「誰が有り金全部賭けてんのよ!もし失敗したらどうする気だったのよ!」

「イテテテ........べ、別にいいじゃねぇか。結局五倍になったんだし」

「ええぇい!黙らっしゃい!!今後健のお金の管理は私がします!」

「え!?冗談だろ!?」

「何か!?」

「イエ、ナンデモゴザイマセン」

鬼の形相でハリセンを持って手を叩く彩に即座に正座の健。その姿は金にだらしない夫を叱っている妻の絵だ。

「まったく何やってんだか」

カジノのど真ん中で正座で説教の二人の姿に弥一はため息をつきつつ、奥の方へ向かう。

「パパ〜!」

ステテテーー!と走ってきたのはユノ。その手には大きな袋を持っており、ユノの後ろにいるセナも同じように大きな袋を持ってやってくれる。

「ねぇパパ!みてみて!」

ユノが満面の笑みで袋を掲げてくるので中を覗くと、そこには袋いっぱいの金メダルが。

「うお!?どうしたんだこれ!?」

ざっと見ただけでも袋には数万枚枚近くある。さらに、セナの方の袋を見ると、こちらも数え切れないほどに。弥一の所持金額を余裕で超えている。一体どうやって稼いだのだろうか。

「あれでユノちゃんが当ててね」

そう言ってセナが指した方には、他のマシンとは明らかに違うとわかるほどの豪華さのスロットマシンが。

「あのマシンはここの名物らしくて、数学が回り出すと画面が見えなくなるの。その状態で十つの数字を揃えるらしいよ。難易度が高過ぎてほとんど運任せだから、賭けの倍率も他とは比べ物にならないんだって。

「それでユノは......」

「一回で全部『7』で、倍率は10000倍。しかもユノちゃん持ってたメダルの半分近くも入れたから.......」

「ま、マジか.........」

セナが苦笑いで、弥一は引き攣った笑みを浮かべる。いくら腕輪の効果があるとはいえこれは異常だ。おそらく元からユノは運が物凄く強いのだろう。

「ねぇパパ、ユノすごい?」

「あ、ああ、ユノはすごいな。俺なんかあっという間に抜かされたよ」

たった一回のゲームで億万長者となった娘に、教育上大金を持たせるのはどうだろう?と 考えるが、当の本人はお金など興味ないようで、ただただ大好きなパパに褒めてもらいたいといった表情だ。

でもユノのお陰で運営にも目をつけられただろうし、オークションの際のお金が増えたのは事実。弥一はユノの頭を優しく撫でるとユノは嬉しそうに笑って、ギュッと腰に抱きついてきた。

「そういえばエルはどうした?エルにセナとユノのこと任せたはずだけど?」

「あれ?そういえばどこに........?」

キョロキョロとあたりを見渡すが見当たらない。エルにはユノとセナの護衛を任せていたのだが、どこに言ったのだろう?

「ここですが?」

「うおっ!?」

突然後ろから声をかけられ驚く弥一。

「一体どこに行ってたんだ?」

「申し訳ありません。セナ様とユノ様に手を出そうとした不埒な輩がいたので」

と言って手をハンカチで拭うエル。その手に薄っすらと赤いものが見えた気がするが気にしない。

「なるほどわかった。そういえばちょうど実験のために新鮮な血が欲しいと思ってたんだ。エル、そのゴミどもはどこだ?」

顔は笑っているが目が笑っていない弥一さん。そのまま服の内側にあるホルスターに手が伸びる!

「マスターご安心を。すでに私が処分.......いえOHANASIしてきましたので問題ないかと。これも飲ませておきましたし」

サッと手持ちポーチからエルが取り出したのは緑色の液体が入った小瓶。そう例の息子が機能しなくなるやつだ。

これは決して女子が常日頃持ち歩いているものではない。しかし弥一はもしもの時のためにエルに持たせているのだ。

ユノとセナに手を出そうとすればドンドン息子を被害に遭う奴が増えていく!

「........それならいいか。全く、どこへ行ってもうちの嫁と天使に手を出そうとしやがる。認識阻害用の魔導器を早急に作るか」

「その時はお手伝いいたします。あとマスターこの薬も改良しましょう。......一針で一生機能しなくなるくらいの強力なやつに」

ユノが可愛くてしょうがないエル。最近その過保護っぷりが弥一に似てきた気がする。

ブツブツ改良点を議論しあっている弥一とエルに、ユノはきょとんと首を傾げ、セナは苦笑いでユノを抱っこ。

とそんな時雄也がエレベーターから出てきた。そしてやはりというか複数の女性に絡まれている。雄也本人は困ったように苦笑いを浮かべているが、その表情に女性たちは頬を赤らめうっとりとした顔になる。

「弥一あれ」

「あー、助けた方が良さそうだな」

雄也だけではどうしようもないと判断し、ササっと集団に近づくと、雄也に認識遮断の魔術を付与して女性たちの意識から雄也を外す。

「あれ?」

「相川様ーーー?」

急に雄也が見えなくり女性たちはあたりを見回す。その隙に雄也は人混みを抜けて弥一を合流を果たす。

「助かったよ弥一」

「いいってことよ。それにしても随分な人数だったな?」

「休憩にと思ってバーみたいなところで飲み物飲んでたらいつのまにか囲まれてて........」

そう言って肩を落とす雄也。イケメンも意外と苦労するんだな、と思う弥一だった。

「そういえば凛緒知らないか?他は見つけたんだけど」

「凛緒なら三階にいたよ」

「じゃあ行ってみるか」

セナ達とまだ説教をしていた彩と正座で足がプルプルしていた健を連れてエレベーターに乗る。

三階はルーレットが中心の階。雄也が飲んでいたバーらしきものもあった。

「えいっ!」

と入り口付近の一角から凛緒のものと思わしき声が聞こえ、人集りを分けて進む。

そして目に入ったのは、不規則に動くダーツの的に向かう凛緒の姿。

ちょうど投げ終えた後らしく、ダーツの矢が一本的のど真ん中で刺さっている。

「やっ!」

手首のスナップを聞かせてもう一投。矢はシュンッと音を立てて飛んでいき、まるで的からあたりにある来たようにど真ん中に命中。しかも、前の矢の矢尻に刺さった。

普通はありえないような奇跡にそれを見ていた観衆は大いに湧き上がる。まぐれだという声が多いが、凛緒は気にすることなく、というかまるで聞こえていないのか、ただただ不規則に動く的を凝視して矢を構える。

運命の第三投。

「ふっ!」

一瞬の呼吸とともに美しいフォームで矢を投擲。それは一直線に突き進み的に、いや、矢尻に突き刺さった。

『おおおおおおおーーー!!』

湧き上がる観衆。二度目の奇跡、いや狙った奇跡に観衆の勢いは止まらない。

「わっ!?なになに!?」と等の本人凛緒本人は、ようやく周りに気づいたようでテンパっている。だが観衆は騒ぎ立て、凛緒が足元に置いていたメダルの袋に次々と金メダルが投げ込まれていく。

「あっ!やいくん!ねぇこの状況なに!?」

「凛緒のせいだな。ていうかお前ダーツそんなにうまかったんだな?」

「いや?ダーツなんて子供の頃におもちゃでやったことあるだけだよ?」

なんと凛緒、ちゃんとしたダーツはこれが最初だという。腕輪の効果では三つ連なるほどの奇跡など起こせない。これはちゃんとした凛緒の技術だろう。

「........そういえばちょっと前に凛緒、町の投擲師の人と勝負して泣かせてたわね。本職よりも強いなんて......って」

「槍もだもんな。中島がしょげてたぞ」

なにかと戦闘に特化した才能をもっている凛緒。なぜ職業が解呪師なのか疑問に思う一同だった。

「さて、全員揃ったところで取り敢えず現状確認といくか」

近くの食べ物屋に入り個室に入ると、メダルが入った袋をテーブルの上に並べる。

全員袋がぎっしりだが、ユノは特に多かった。トップはユノだろう。

「パパほめて!ほめて!」

「偉いぞユノ〜。よく頑張ったな〜」

「えへへへ〜」

ユノを膝に乗せて頭を撫でる。子猫みたいに目を細めてにへらと笑うユノはとても可愛らしい。

と、メダルの計算を終えたエルが顔を上げる。

「マスター集計終わりました。なんと.......二十五万金メダル。現金換算で2億5千万です」

『に、2億5千万っ!?』

とんでもない金額に皆驚きの声を上げて、ハッとあたりを見回すが、ここは個室だ。

彩と健は信じられないと言った表情で顔を引攣らせ、弥一は「またかここの感じ........」と冒険者組合でのことを思い出す。

弥一達がカジノにいた時間はせいぜい二時間程度。二時間で2億儲けたとなるとまじめに働くのが馬鹿らしくなる。ギャンブル中毒になる人の気持ちが少しわかった気がして怖い。

「それともう一つご報告です。私たちがカジノで目立ったため、運営も目をつけて来ました。見張りがいたので間違いないかと」

「なら目標第一段階は成功だな」

初日から運営が目をつけて来たのは行幸。裏カジノに行くためにも最低でも明日までには運営と接触したい。

「それじゃ今日はこれくらいで帰るか。この調子なら明日にでも接触できるはずだし、今日はもう帰ってゆっくりしよう」

気がつけばもう夜の十一時近く。カジノにはしゃいでいつもより遅く起きていたユノはそろそろ限界が来たようで、目をゴシゴシと擦って眠そうだ。

セナがユノを抱き上げて髪を優しく撫でるとユノはそのままセナの腕の中で寝てしまった。着飾ったユノの眠り姿はまるで童話の眠り姫のようで愛らしく、やいちは思わずスマホをパシャリ。エルはカメラをカシャシャシャシャーー!!

メダルを近くのカジノ内の銀行に預け、全員はカジノを後にする。

そしてカジノからでて仕立て屋で服を着替えて少し歩いたところで、弥一は小声で全員に警告を促す。

「........付けられてる。カジノの運営の手の者だろう。人混みに入ったら認識阻害の魔術を掛ける。そしたら全員バラバラに宿屋を目指せ」

『........了解』

チラリと後ろを向けば、行き交う様々な人々がいるだけ。だがその中に歩きながら楽しそうに雑談する男二人組がいる。一見ただの通行人に見えるが、二人の視線のみはこちらをはっきり捉えている。

道を右に曲がり、夜中でも露店が騒がしく開いている道に出ると、人混みに入ったところで全員に認識阻害の術を掛ける。そして弥一がハンドサインを出し、全員一斉に走り出す。

弥一はセナを横に抱えると、小道に入って壁を蹴って登り、通りが見渡せる場所に上がる。

すると真下ではさっきの男二人が慌てて人通りを探っている。しかし既にそこには誰もおらず、全員小道を使ったり、健と彩は弥一達と同じように屋根の上を跳んで宿に向かっているのが見える。

「どうやら上手く巻けたようだな」

「うん。あの二人だいぶ焦ってるみたい。あ、帰って行ってた」

セナの言う通りに、男二人組はすぐに走ってカジノの方へ走り出した。見失ったことを報告しに行くのだろう。

「さて、それじゃあ俺たちも帰るか」

「ん。私たちの眠り姫起こさないようにね?」

「眠り姫って起こすもんなんだけどな」

はは、と笑ってユノを抱いたセナを横抱きにしてタタッ!と屋根を蹴って通りの向こうの家の屋根に飛ぶ。

ここから宿屋までは数百メートルといったところ。キラキラと街の灯りが煌めく上空を走り、ちょっとした空のお散歩。

弥一とセナはお互いに微笑むと、美しい街の夜景を目に焼き付け、その景色に酔いしれる。

宿屋までの少しの空の散歩は、意外にも長く感じられた。





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コメント

  • 海月13

    最近春とあってか忙しくなかなか投稿ができませんでした。遅くてすいません。次回の投稿も多分遅れます。すんません!!

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