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魔術がない世界で魔術を使って世界最強

海月13

弥一理性ぶっ飛び事件


 銀郎族の集落を出発してから2日後、夕方になってはしまったが目的の都市グーデンタームが見えてきた。
 グーデンタームは今まで見てきた街の中でも最も大きく頑丈なつくりの城壁で覆われており、遠目からでも松明を持った多くの兵士が確認できる。世界最大級のカジノ都市とあって守りは強固なのだろう。

「おっきい! パパ! すっごくおおきいね! 」

「そうだなぁ~。ここまで大きい城壁は初めて見る。王都よりも大きいかもな」

「弥一、入街検査の列あれじゃないか? 」

「げっ! だいぶ待つことになりそうだな」

 街が見えてくると弥一たちと同じく街に入ろうと入街検査を待っている人の列が見えてきた。この調子でいけば夜まで掛かってしまうだろう。

「まいったな、どうするべきか.......とりあえずエルに遅くなるって送っとくか」

 ポケットからスマホを取り出してエルに『入街検査に時間がかかりそうだから送れる』とラインを送る。

 するとすぐに返事が返ってくる。
 
 内容は『了解しました。すぐに対処いたします』

「え? 」

「どうしたの弥一? 」

「なんかすぐ対処するって......」

「え? どういうこと? 」

「さぁ......? 」

 よくわからないままとりあえず入街検査の列に並ぶ。列に並ぶと当然のごとく注目されてしまう。

 弥一はそっとさりげなくセナたちを隠すように前に立つと軽く威圧を飛ばす。途端に鬱陶しかった視線が消え失せ、視線を送っていた人たちが一斉に目を伏せる。

 煩わしかった視線が消えて弥一がふんっと鼻を鳴らすと、セナがそばに寄ってくる。

「ありがと弥一」

「ん? なんのことだ? 」

「くすっ....んん、なんでもない」

 そう一言いうとセナは微笑んで弥一に寄りかかる。弥一はセナには隠し事ができないなと苦笑いしながら気長に順番を待つ。

 近くの岩に腰掛け、構ってと腕を伸ばしてくるユノを膝にのせて相手をする。健たちも近くの岩に腰掛けてあくびをしながらゆったりと順番を待つ。

 すると10分くらいたっただろうか。こちらに向けて何名かの兵士が駆け寄ってきた。

 そして兵士の中から女性兵士が出てくると、キョロキョロと列を見渡し、弥一たちを見つけると駆け寄ってくる。

「えっと君、ちょっといい? 」

「え? はい...」

 そういうと女性兵士はほっとしたような表情をつくると、弥一に歩み寄りーーーー


「はい。幼女誘拐の現行犯で逮捕」


「..................え? 」


 両手を鮮やかな手際で拘束された。

 何が何だかわからない弥一は咄嗟に避けることもできず、縛られてもなお呆けた顔をする。健たちも「え? 」と弥一と同じように呆けた顔で固まる。

「え? じゃないわよ。黒いコートを着た男が銀髪の幼女を誘拐してると通報があったの。言い逃れしても無駄よ」

「え? ......は、はぁああああああ!? ま、まってくれ! 俺は誘拐なんかしてない! 第一この子は俺の娘だ!! 」

 身に覚えのない罪を着せられ弥一は動揺しつつも正直に話す。ユノはきょとんと首をかしげている。

 そんな弥一に女性兵士は「はいはい」と適当に流す。

「君の年でこんな年の娘がいるわけないでしょ。それにこんなに可愛い子とあなた似てないし。とにかく付いてきてもらうわよ。あっ、もちろん後ろのあなたたちも一緒にね」

 言いたいことはまだある弥一だが、女性兵士は有無を言わせず弥一を連行する。

 この程度の拘束弥一にとってはなんの問題にもならないのだが、ここで逃げ出したりすればこれから街に入ろうというのに面倒なことになる。

 結局弥一にできたことといえば、

「ご、誤解だぁあああああああーーーーーー!!! 」

 と叫ぶことだけだった。























 それから少しして弥一たちは街の中の広場に来ていた。
 あの後いろいろと聞かれたが、弥一は何もしていないのですぐに誘拐ではないと理解してもらえて無事釈放された。ユノが弥一に対してパパと呼び、とてもなついている様子から誘拐ではこうはならないと思ってもらえたのだ。

 そして不幸中の幸いというか、不本意とはいえ夜になる前に街の中に入ることができた。あのまま待っていれば今頃まだ列の中間あたりだっただろう。

 さて、ここで先ほど弥一を誘拐犯と通報したのは誰なのかという問題が残る。それは今目の前にいる人間、いや古霊種族エルフを見れば明白。

「.......さて、エル。....これはいったい何の真似だ? 」

「こうしたほうが早く街に入れると思いましたので」

「でしょうね!? 本人の世間体を気にしなければな!! 」

 なんの悪びれもなく答えるエルに弥一は声を荒げて怒鳴る。無罪とはいえそれが証明されたのは連れていかれてからのこと、つまり連行された現場を見ていた人は弥一が無罪ということは知らない。あの時の周りの人の視線は地味に痛かった。

「もっと別の対処の仕方はなかったのかよ......あのままじゃ俺はロリコン扱いだったぞ」

「ユノ様が無実だということをすぐに証明してくださるだろうと計算してのことです。さすがですユノ様」

「? ユノのおかげ? 」

「ええ、ユノ様のおかげですよ」

「うん! ユノがんばった! 」

 ユノの頭をよしよしと撫でるエルはとてもうれしそうだ。ユノの頭を撫でるのが好きなエルは3日間頭を撫でられなくて寂しかっあたのだろう。

 子猫の様に可愛らしく目を細めるユノを見ていると弥一も怒る気力もなくなってはぁ、と疲れたようにため息を漏らす。

「はぁ.....とにかくこう心臓に悪いことはしないでくれよ」

「ふふっ、すみません。ですが私も思うところはあるのです。確かに私はマスターの命令最優先ではありますが、.......温泉入りたかったな、と」

「ごめんなさい」

   弥一たちが集落で温泉に入ったのを知ったのはセナからのメールの時。

 弥一の命令第一とはいえエルも女性である以上温泉は惹かれるのだ。移動中は簡易の風呂だったので広々とした風呂には入りたいと思っていたので以外にも根に持っていたりする。

「また今度埋め合わせというかなんでも一つ聞くから」

「本当ですか?」

「ああ、無理のない範囲ならな」

 エルは顎に手を当て少し考えた後

「すぐには思いつかないのであとでもいいですか?」

「わかった。思いついたら言ってくれ」

「ありがとうございます」

 弥一の提案でエルは機嫌を取り戻したようで、嬉しそうにほほ笑む。

 取り敢えず問題は収まったようなので本題に移る。

「エル。宿屋の方に案内してくれ」

「了解しました。皆さん付いてきてください」

 エルは気を引き締め直すと、全員を連れて歩き出す。

 進んでいくのは表通りから外れた細い脇道。表通りの華やかな空気とは一変して暗く近寄りがたい空気が漂う。

   エルの先導でその脇道を奥へ奥へと進んで行くと、やけに扇情的な衣装の妖艶な女性たちがチラホラと見える。女性たちは弥一たちを見ると投げキスやら胸元を寄せてウィンクなどを向けてくる。

   どうやらここは娼婦館が立ち並ぶエリアらしい。健と雄也居心地悪そうに顔を赤くし、彩と凛緒も同じく赤くして顔を伏せる。

   そして弥一はというと特に気にすることなく、逆にユノの教育に悪いとユノを抱っこして視界を塞ぐ。セナと言う絶世の美少女の嫁がいるのに今更そこいらの美人程度では動揺することはない。

   だからセナさん組んだ腕をギチギチと締め上げるのやめてください、と思う弥一だった。

   そしてそんな娼婦館エリアを抜けると、暗がりにぽつんとロウソクの火が灯る扉が見える。扉の上には
宿屋を示す記号のみ。

「もしかしてここか?   」

「はい。ここは書類上『存在しない』隠れ宿屋なのです。これからの我々の事を考えればもしもの時に便利ですし」

「なるほどな」

   確かに荒事も想定されるわけで、そうなれば宿も普通の宿屋じゃない方が良いだろう。

「それでは入りましょう」

   古びた扉を開けて中に入る。

   内装は外とは打って変わって意外にも綺麗だった。    
   暗い色の落ち着きのある木材に、調度品一つ一つにまで細かい職人の技が光り、ロビーを薄暗く照らす松明が落ち着いた高級感を醸し出している。

「ようこそおいでくださりました」

   すると受付の奥から一人の老紳士が現れ軽く会釈する。どうやら従業員のようだ。

「予約しておいたエルネウィアです」

「はい、部屋は大部屋2つご用意しております。これが鍵になります。どうぞお寛ぎください」

   老紳士はエルに2つ鍵を渡すと再び奥に戻ってしまった。どうやらここは老紳士一人しかいないのか、人の気配がしない。

   老紳士が消えると2階の大部屋に移動する。男子は203号室、女子は204号室で女子は荷物を置くと男子部屋に集合する。

   全員が適当に座るのを確認すると、エルが仕入れた情報を話し出す。

「まずはカーネ様のおっしゃっていた銀狼族ですが、ケーティア様だということがわかりました」

「!?   本当か!」

「はい。ただ、珍しい銀狼族と言うことで厳重な情報規制と警備が付いているらしく居場所まではわかりませんでした。すみません、もう少し時間があればわかったのですが」

「いいや十分だ。第一目標が達成できたんだ、あとは取り戻すだけだ」

   ケーティアがここにいると言うことが証明されたのは嬉しい。最悪なのはその銀狼族がケーティアでなかった場合だったのだが、それも杞憂に終わった。

   とそこで彩が手を挙げる。

「でもなんでまだここにいるのかしら?こう言ってはなんだけど、そんなに貴重なら直ぐに誰かに買い取られてもおかしくないのに」

   確かにそれもそうだ。ここは多くの資産家や有権者が娯楽目当てで集まる街。いくらでも買い手は居るだろう。

「それなのですが、どうやらケーティア様は二日後に行われる奴隷オークションの目玉商品として出品されるそうです。ですのでそれまでは運営側も売る気はないようです。しかもそのオークションは裏カジノと呼ばれるVIPだけが参加できるカジノのオークションらしいのです」

「くそっ、よりにもよって裏オークションか.......」

   オークションまで秘密にされるとなると潜入するのも容易ではない。

   しかしオークションなのは好都合。オークションであれば買い取れば余計な荒事になることもなくなる。

   そうなると次の行動方針は決まった。

「よっし、ーーーーカジノに遊びに行くか!」

『.........はい??』

   突然のカジノ宣言に、全員目が点になる。しかしエルだけは弥一の言葉を予想していたのか頷いている。

   取り敢えず雄也が手を挙げる。

「弥一、今の話聞いてた?あと二日しか時間がないんだけど」

「ああ、わかってる。だから急いでカジノに遊びに行くんだ」

『???』

   弥一の説明に、より疑問が浮かぶ。全員の反応を苦笑いで見ながら足りない補足をする。

「今回は救出するにしても時間的に厳しい。だから堂々とオークションでケーティアを買い取って救出する」

「でもオークションは裏カジノなんでしょ?どうやって入るの?」

「カジノで稼ぎまくればいい。カジノの運営側も無視できないほどにな」

   カジノや賭博場では稼ぎすぎてはいけない。運営に目をつけらる程の勝ちを続けてしまうのは、その後の報復を考えなければいけないからだ。

   このグーデンタームは古くから続く金と欲望が渦巻く世界一のカジノの街。当然闇も沢山抱えており、その後の報復などゴザらだろう。

   だが今回はそこを逆手に取る。

「俺たちが勝ちを続ければいづれ運営からコンタクトがあるだろう。そこでちょちょいーっと暗示を掛ければ、あとは無事オークションに参加できるというわけだ」

「なるほど」

   一応納得したのか全員頷く。ユノは何のことかサッパリと言ったようにキョトンとしている。

「そう言うわけでエル、まずはカジノに行くための服を調達したい。どこがある?」

「でしたらカジノの中にある仕立て屋がおすすめです。カジノの中にはレストランもあるので夕食を食べてからにでも行きましょう。ちなみに私は『アルテール』という中華料理屋に行ってみたいです」

「おお!いいっすね!餃子!チャーハン!小籠包!弥一、すぐ行くぞ!」

「ちょっと健、はしゃぎ過ぎよ。ちゃんと野菜も食べなさい」

「ママ!ぎょーざっていうのたべてみたい!」

「うん、じゃあ晩ご飯はそこで食べようね?私も中華料理作ってみたいから食べに行きたい」

「お前ら目的忘れてないか....?」

   久々の中華料理と聞いて浮かれるみんなに、弥一はため息をつきつつも内心ちょっと楽しみである。中華料理など異世界に来てからは食べていないから懐かしいのだ。

「それじゃあ各自必要なもの持って10分後にホーム集合な?」

『了解』

   女子が部屋から退散すると、男子組も荷物整理をし、特に必要なものはないのですぐに出る。

   程なくして女子も集合しいよいよ夕食のため街の中心にあるカジノ区へ向かう。














   グーデンタームは上から見ると三つのエリアに分けられる。

   一番外の最も広いエリアは一般住宅や商業区が並ぶ市街区。

   次に市街区の内側は、貴族や有権者、資産家が住む中区。

   そして一番中央に位置するのが今回の弥一たちの目的であるカジノ区。

   そんなカジノ区の入り口に弥一たちはやって来ていた。
   カジノ区は巨大なドーム状の建物で出来ており、区が一つの巨大な施設となっている。

「はい。書類検査は以上です。それでは一人七万ネクト、合計五十六万ネクトをお支払い下さい」

「はい。五十六万ネクトです」

   カジノ区に入るためには高い入場料が必要になるのだが、弥一はちょうどの金額を袋に詰めて渡す。

「それではようこそ!夢と欲望の渦巻く世界最高のギャンブルへ!今宵が貴方達にとって最高の一夜となることを保証いたします!」

   バッと両手を広げ大げさに演技する青年が扉を開ける。

   そして飛び込んで来たのは、煌びやかな世界。

「わ〜っ!」

「すごい.....!」

   飛び込んで来た光景に一同声を漏らす。

   一言で言えばそれは一つの街だった。

   入口のゲートから見えるだけでも様々な建物が並んでいる。街路には花や噴水がありそれをキラキラ輝く街灯が照らす。

   そんな一つの街のような奥まで続き、その街全てを大きく高い天井が全て覆う。天井にはガラス窓が使われており、キラキラ輝く街並みを月明かりが優しく照らしている。

   ここはカジノ区の中にある商業エリア。ギャンブルに挑む者が準備をする場所である。

「パパ!パパ!きれい!とーってもきれい!」

「そうだな、想像以上でビックリだ」

   ぴょんぴょんはしゃぐユノに弥一も頷く。ここまでの施設は異世界で初めてだ。いや、地球でも見たことない。

   そのまましばらくカジノ区のスケールの大きさに驚愕していると、エルが歩き出す。

「さぁ、皆さん行きますよ。腹が減っては戦は出来ぬ、です。しっかりと食べていきましょう」

「そうだな!よし!飯だー!」

   エルの案内でゲートから歩いて二分程度の中華料理店に入る。

   赤い柱に龍の模様、円形のテーブルまで想像していた中華料理店と同じだった。

   なぜ地球と似てる?という疑問は取り敢えず置いといて、今は食事優先。

   大きめのテーブルに案内され五分くらい待っていると、すぐに料理が運ばれて来た。

   餃子、チャーハン、海老チリ、北京ダックなどとにかく次から次へと出てくる。そしてテーブル真ん中の回転する台に料理が所狭しと並べられると、どうやら全て揃ったらしい。

   美味しそうな匂いを漂わせる料理を前にユノや健は待ち切れないといった様子。

   そんな二人に苦笑いのまま、弥一は手を揃えて合掌。

「それじゃ、いただきます」

『いただきます』

  合掌と同時に全員自分の好きな物を取って口に運び、その美味しさに頬を緩ます。

   弥一もまずは近くにあった海老チリを取って食べる。
   噛むと海老のプリッとした食感が返ってくる。そして直ぐに海老本来の甘い旨味が口いっぱいに広がり、かと思えばピリッとした辛さが広がる。

   カジノ区に並ぶ店は全て一流の高級店で、どの中華料理をとっても高級店に相応しい美味しさだ。

「パパ、それなーに?」

「ん?海老チリだよ。海老に少し辛いソースをつけた料理だ」

「ユノも食べたい!」

「うーん、ユノにはちょっと辛いかもな」

「だいじょうぶだもん!パパちょーだい!」

「わかったわかった」

   ユノの分の海老チリを取り分けてやると、ユノが小さな口を開けてこちらを向く。どうやら食べさせて欲しいようだ。

「ほら、あーん」

「あーん!」

   パクッと少し小さ目の海老を食べてしばらくモグモグすると、ユノ顔が徐々に赤くなり目にうっすらと涙を浮かべる。まだユノには早かったようだ。

「ほら言わんこっちゃない」

   水の入ったコップを持ってユノに飲ましてあげると、ユノは顔を赤くしながらもコクコクとゆっくり飲む。

「ユノ大丈夫か?」

「う、うん....へいき、だもん。からくないもん.....」

   辛いのが悔しかったのか涙目で見栄を張るユノ。そんなユノを弥一は頭を撫でて慰め、代わりに行く前に食べたいと言っていた餃子を渡す。

   若干警戒しつつも餃子を一口食べると、両目を見開きキラキラさせて夢中で餃子を食べ始めた。

「はい、弥一もしっかり食べてね?」

「お、小籠包。ありがとセナ」

   小籠包を食べたいと思って小籠包を見ると、いつの間にかセナが小籠包を取り分けて弥一に差し出す。流石正妻、夫のことならなんでもお見通しということか。

   そうしてあれほどあった料理が、三十分後にはすっかり綺麗さっぱり無くなってしまった。

「うはー食った食った」

「ちょっと、お行儀悪いわよ健。ほらほっぺにソース付いてる」

「ん?おお、サンキュー彩」

   なんとも自然な流れで彩が布巾で健の口元を拭う。

  それを全員暖かい目で眺め、一息つくと支払いを済ませて店を出る。ちなみに代金も高級店だった。

「さて、夕食も食べましたし、服を買いに行きましょう。これからいくところは世界中の資産家や有権者が集まる場所、キチンとした服装でなければカジノ施設へは入れません」

   そういうことで一同は次のお店へ。中華料理店などの食事処が並ぶエリアを離れ、服の仕立て屋やアクセサリー店などが並ぶエリアへ。

   どこもかしこも高級店ばかりで、地球ではこういうところに縁がなかった健たちはとても居心地が悪そうだ。しかし弥一と雄也は自然体で歩く。

   魔術師は貴族も多いので、弥一はパーティーなどで必要な物を買いに高級店に行くことはよくあった。しかし雄也はごく普通の一般人。

   やはりイケメンは違うのだろうかと思う弥一だった。

   そしてそんな高級店の一つに入ると、すでに予約を入れていたのか、店員に奥の部屋へと通され、一人一人に専属のコーディネーターがついた。

   準備ができたら控え室に集合と言って全員バラバラに別れる。その際ユノは弥一に付いて行こうとしたのでセナに預けた。


ーー四十分後ーー


「もう懲り懲りだ.........」

「うん、まさかここまで時間がかかるなんてね.......」

「ああ、男の俺らでも三十分近くかかったんだから女子なんか相当だろうな..........」

   控え室では健、雄也、弥一がソファーに腰掛けグッタリとしていた。

   三人とも長い時間を掛けてのコーディネートに疲労困憊の様子。

   健は黒のダブルスーツでそれに合わせて髪をオールバックにしている。雄也は白のスーツで爽やかな雄也の印象にピッタリだ。

   そして弥一は黒の礼服なのだが、まだ着慣れない感じの残る健や雄也とは違って意外にもしっくりくる。

「なにかと昔から社交界なんかに行く機会が多かったからな。魔術師には貴族も多くいるし」

「なーるほどな」

   とそんな時扉がノックされる。どうやら女子の方も終わったようだ。

   「パパー!」

   明るい声で抱きついて着たのは白いミディ丈のふわっとしたワンピースドレス姿のユノ。頭につけた花柄のカチューシャがユノの花のような笑顔と相まってとても愛らしい。

   ユノはにへらとちょっぴりお化粧をした笑顔を向けるとその場でくるりと回ってみせる。

「パパ、どう?」

「めちゃくちゃ可愛いぞ!よく似合ってる!どこのお姫様かと思ったぞ!」

「ほんと!?やったー!パパにかわいいっていってもらったー!」

   可愛い娘のドレス姿に弥一パパはユノを抱きかかえてその場でくるくる回りだらしなく頬を緩める。

   そんな親バカ全開の弥一が暴走していると、今度はエルと彩が入ってきた。

「ごめんねー遅くなって.....ってなにやってるの弥一君.......?」

「見てくれよ彩!うちの娘が可愛いすぎる!」

「マスター!ユノ様をもっとこっちに!」

   この主人に従者あり、とドレス姿のユノを見た瞬間にカメラを構え激写するエル。

   そのエルは淡いグリーンのロングドレス姿だ。そしてこのドレス、体のラインがハッキリと出るようなタイプのドレスなので、激しいボディラインが丸わかりで、その上背中と胸元が大きく開いているので、正直目のやり場に困る。

   二人の親バカに引き気味の彩は、膝下程度のロングドレスで、その上から七部丈のカーディガンを羽織っている。

「お、彩綺麗じゃないか。意外に似合ってるぞ」

「い、意外にってなによ..........でも、あ、ありがと......」

   顔を俯かせる彩の耳が真っ赤になっていて、いつもなら弥一ははやし立てるところだが、今はそれより大切なものがある!と一心不乱でエルと写真を撮りまくる。

 するとまた扉がノックされ、凛緒が入ってきた。

 凛緒はフィット&フレアーラインのドレスだ。普段はまっすぐにおろしている長い艶やかな黒髪も今は根元で纏められて前に垂らされている。軽く赤いルージュを引いた唇は大人っぽさを引き立て、凛緒の黒い艶やかな髪と相まってお淑やかな淑女となっている。

「ど、どうかなやいくん...?私こういうの着たことなくて.....へ、変じゃない...?」

 頬を赤くして恥ずかしがりながらも凛緒は絶対に聞き漏らすものかと弥一の目を見る。そんな凛緒に弥一は頬を少し赤くする。

 いつもの凛緒の雰囲気とはまた違った様子に弥一も目を引かれ、頬をかく。

「その、なんだ.....いいと思うぞ?似合ってる」

「.......!ほんと!?よかったぁ~....」

 弥一が褒めると凛緒は安心したように胸をなでおろす。初めてのドレスで緊張していたようだ。

 凛緒もそろうと残るは弥一の本命のセナのみ。最愛の嫁のドレス姿に心踊らせながらその時を待つ。

   そしていよいよその時がやって来た。

   ドアが開きセナが入ってくると弥一は息を呑む。

   セナはコーンフラワーブルーのスレンダードレスで、海のように流れる蒼髪を上品な月形の髪留めでアップに纏めている。さながらそれは静かな海に映る月のよう。覗くうなじも上品さと色香を醸し出し、チャイナドレスのような深く入った裾のスリットからチラリと覗く美脚が艶めかしく思わず視線が吸い寄せられる。いつもの可憐さとは違い大人の女性としての色香のギャップからセナの魅力がより引き立てられている。

   セナは弥一を見ると少し照れつつもはにかみ、弥一に歩み寄る。

「おまたせ。どう弥一?似合ってる.......弥一......?」

   といつもならここで『綺麗だ』や『愛してる』の一言でも言うような弥一が無言でいることに、セナが不思議そうに首をかしげる。

   他もどうした?と不思議そうに声をかけようとするが、その先に弥一が動き、そのまま目の前のセナを抱きしめると、自然な流れでキスをする。

『ーーーッ!?』

「んんっ!?」

   突然の弥一の行動に全員瞬時に凍りつく。セナも何が何だかと言うような表情で弥一を見るが、弥一はお構いなしに濃厚なキスを始めた。どうやら弥一さん、完全に理性が飛んだらしい。

   周りで全員が見ているのに弥一はやめようとせず、それどころかより一層激しくセナの唇に大人のキスをしていく。

「ちゅっ、んんっ!.......んぁっ、んっ!ま、まって弥一!みんなが、見て、る.......んんっ!!」

   周りで全員がキスを見ている事にセナが羞恥心で顔を赤くし、弥一を止めようとするが、弥一は止まらない。

   やがてセナが羞恥心とキスのせいで立っていられなくなると、弥一はそのままソファにセナを押し倒す。弥一は顔を離すと、上気したセナの頬に手を添え潤んだ瞳を覗き込む。セナも激しく情熱的なキスにやられ、今はもう弥一しか見えておらず、お互いに二人だけの世界で見つめ合う。

   するとここでようやく弥一が口を開く。

   セナの耳元に顔をうずめて赤く染まった小さな耳に甘く囁く。

「セナ、綺麗だ。いつもとはまた違った色っぽさがあって、思わず襲っちまいたいくらいに」

「〜〜ッ!!」

   甘く囁く声がセナの体を震わせる。今までにないほどの積極的な弥一にセナの胸はバクバクと高鳴り、今にも蕩けてしまいそうになる。

「なぁ、セナ.......いいか?」

「!........うん、いいよ。.....きて?」

   弥一の首に腕を絡め、そっと目を瞑る。そのまま弥一は顔を近づけていきーーーーーーーー


『って、いいわけあるかぁあああーーーー!!!』


「ごはっ!!」

   側頭部に強い衝撃が走り、弥一がボールのように飛んでいく。

   顔を真っ赤にし、ぜぇはぁぜはぁ、と息を荒くして拳を引っ込める彩、健、凛緒。二人の世界に呑まれ我を取り戻した三人が弥一を全力でぶん殴ったのだ。一般人であれば即死の威力で。

「ふ、ふ、二人とも何やってるのっ!!!」

「そうだよ!!やいくんはともかくセナも止めてよっ!!」

「そ、それは、弥一がいつもより激しくって......」

「エルおねぇちゃん〜、みーえーなーいー!」

「ユノ様にはまだ早過ぎます」

    エルに視界を遮られ講義の声を上げるユノだが、ユノを溺愛するエルはユノの教育のために絶対に手を退けない。子供には早すぎる。

    すると倒れていた弥一が「う、う〜ん.......」と頭を抑えながら身を起こす。

「いててて.......い、いきなり何すんだお前ら......」

『それはこっちのセリフだ!!』

   全員が総出でツッコミを入れる。

   結局その後、三十分近く弥一は怒鳴る彩と凛緒、ユノの教育に悪いと怒るエルに正座で反省させられ、“弥一理性ぶっ飛び事件”として書類送検された。


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