魔術がない世界で魔術を使って世界最強

海月13

【バレンタイン特別ストーリー】チョコっとした幸せ

とある昼下がり。セナは王都の商店エリアを歩いていた。だいぶ早いが今晩の献立を考えながら色々と見て回る。

「う〜ん、今日はお肉にしようかな?昨日は弥一の釣ってきた魚だったし.....」

などと言いながら精肉店を見て回る。この時期はガル豚が安い。エルネで食べたガル豚包みの味を思い出してガル豚を買うことにし、肉屋のおじさんに代金を払う。
よく来るお店で、おじさんとも知り合いなので値段を少しまけてもらった。

「後はニンジンにレタス、あっ、弥一から頼まれてたものも買っとかないと」

ゴソゴソとポケットからメモを取り出す。

「えーっと.......『新鮮なニワトリの血』......」

どこで買えと言うのだろう。

 おそらく魔術の触媒か何かに使うのだろうと予想できるが、あいにくセナは新鮮なニワトリの血を売っているところなど知らない。
これは諦めてもらおう。

ポケットにメモを仕舞って再び歩き出す。

街は流石王都と言うべき活気があり、商人の盛んな掛け声やセナと同じように買い物をしている主婦の笑い声も聞こえる。
 そして様々な露店から色んないい匂いも漂ってくる。

周りの活気に吊られて財布のヒモも緩みそうになるが、そこはしっかりとしないといけない。確かに一家の収入は冒険者組合の報酬などでかなりの額がたまっているが無駄遣いはいけない。

そんなすっかり主婦のような考えを持ちながら、セナは通りを見て回る。

と、その時隣の露店から嗅いだことのない甘い匂いがする。

主婦たる前にセナも立派な年頃の少女。甘い匂いもには逆らえず、ふら〜っと寄ってみると元気なお兄さんが話しかけて来る。

「いらっしゃいませ!って弥一さんの奥さんじゃないですか」

「こんにちはカドモンさん。カドモンさんいつから露店なんて?」

「いや〜軽く息抜きみたいなもんですよ。店の方は今日は休みにしてこっちの露店の方で珍しい食べ物なんかを売ってるんですよ」

そう言って頭を掻くカドモンと呼ばれた青年は、よく弥一が行くお店の店主だ。
路地裏にある小さなお店だが、扱う商品は珍しい鉱石や触媒などで知る人ぞ知る隠れ名店だ。
カドモンは弥一に連れられて店で何度か顔を合わせている。

「それで奥さんどうです?今日は珍しい食材を仕入れてきたんですが」

そういって見せてきたのは冷凍機能付きの箱に入った黒い板状の物体。一見食べ物には見えないが甘い香りが漂ってくる。

「それは?」

セナが物珍しそうに箱の中を覗き込むと、カドモンは言う。


「チョコレートです」





















王宮の調理場では凛緒、彩、智花、美奈の四人が調理台に向かっていた。

「ゆっくりね」

「う、うん」

彩の言葉に頷くが、智花の視線は手元に固定されている。

智花は手に持つボウルをそぉ〜っと傾けて、中のドロッとした黒い液体を型に流し込む。それだけで調理場に甘い香りが広がる。

「ふぅ〜。できたー」

「お疲れ様。後はこれを冷蔵庫に入れるだけね」

いくつもの型に流し込まれた液体を冷蔵庫に移して彩は後ろを向く。

「そっちはどう、.........」

そして後ろを向けばーーーー

「きゃああああーーー!!燃えてる!ボウルが燃えてるよ!」

「どうしていつのまにか燃えてるんですか!?水!早く水!!」

後ろをむけば、ファイヤーしているボウルを前にあたふたしている凛緒と美奈がいた。

「どうなってるの!?」

どうやらまた凛緒の【料理】スキルが発動したようだ。爆発しないあたりまだましと言うべきか......

「と、とにかく水を!!」

「----【凍風】」

とそんな時、どこからともなく詠唱が聞こえると冷たい冷気が吹き抜け、ファイヤーしていたボウルが瞬時に凍り炎が掻き消える。

「.....なにやってるの」

呆れた声がすると調理場の入り口にセナがいた。











「つまりチョコレートを作っていたらまた凛緒がやらかした、と?」

「や、やらかしてないもん!ちょっと燃えただけだし!」

「ちょっと.....?」

燃えてチョコレートのように溶けかかっているボウルを見せるとサッと眼を逸らす。

はぁ、とため息をつきつつセナは彩に向き直る。

「それでなんでみんなはチョコレートを作ってるの?」

「街を見て回ってたらチョコレートを見つけたからよ。私たちの世界には女子が意中の男の人にチョコレートを贈る、バレンタインっていう習慣があるの。もっとも意中の人以外にもお世話になった人や仲のいい人に義理チョコを送ったりもするけどね」

2月14日にあるバレンタインデー。日本では女性が男性にチョコレートを贈るのが一般的だが、海外で男性からも女性に花束などを送ったりする。

もともとバレンタインデーはバレンタイン司祭の死を悼む宗教的行事だったが、そのうち若い人たちが愛の告白をしたり、2月は春の訪れを感じる愛の告白にふさわしい季節であることから、この日をプロポーズの贈り物をする日になったという。

「それで、せっかくチョコレートが手に入ったんだから。チョコを作って送りたいって凛緒と智花が言うもんだからみんなで作ってるの」

「あ、彩ちゃん!」
「そこまで言わなくていいの!」

真っ赤にして怒る凛緒と智花。智花は大地に、凛緒は弥一に渡したいらしい。

「それでセナはどうしてここに?」

「私もみんなと同じ理由」

そうして空間魔術付与のカバンからさきほど買ったチョコレートの箱を取り出す。

「セナもチョコレート買ったの?」

「うん。それでこの間凛緒がチョコレートのこと喋ってたの思い出して、作り方を教えてもらおうと思って来たの」

「それじゃあセナも一緒に作る?凛緒のが失敗しちゃったからまた作らないといけないから」

「それじゃあ教えてもらっていい?」

「ええ。セナも弥一君にチョコ渡すの?」

「今の話を聞いたら渡さない道理がない」

「ぐっ!し、しまったぁ.....」

セナも参加するとわかって凛緒が頭を抱える。料理の腕ではセナには敵わないとわかっているから内緒で作っていたのにこれでは意味がない。

「はいはい落ち込まない。さ、凛緒ももう一度作り直しましょう。セナと一緒にね」

「わかった。私のチョコレート冷蔵庫に入れておくね」

「うぅう~~~!こうなったらセナには負けないもん!」

「......ボンバーしないでね?」

「むきぃいいいいいーーー!!」

顔を真っ赤にして地団太を踏む凛緒。「ふふふっ」と不敵に笑うセナは、サッとカバンから手早くエプロンを着て髪を後ろで一つにまとめる。

ふわっとまう蒼髪が美しくエプロン姿がとても似合っている。まさに若奥様といった風だ。

そんなセナの格好に彩たちは思わず息を呑む。同年代の女子としてはエプロン姿が似合うというのは羨ましい。

「それで、どうやって作るの?」

「そうね、基本はチョコレートを溶かして型に流し込んでトッピングしたりするだけ」

「溶かせばいいの?」

そういうとセナはフライパンにチョコを入れて炎の魔法を使う。

「って違う!チョコは直火にあてちゃダメ!」

「え?違うの?.....っ!チョコが!」

最初は順調に溶けていたチョコだが、徐々にボソボソと固まりだした。これでは型に流し込めない。

「チョコはこうやって湯煎して溶かすの」

「ゆせん?」

彩はチョコレートを包丁で細かく切るとそれをボウルに入れる。そして今度は別のボウルを用意し水を入れて火にかける。

ある程度温まってくると、彩はチョコが入ったボウルをお湯につける。

するとチョコが液体状に溶けだし、先ほどのセナのように固まることなくトロトロに溶けてきた。

「こうやってお湯を使ってゆっくり溶かすの。お湯も熱すぎると油分が分離するから注意してね」

「へぇ~。なるほど、こうやって溶かすんだ」

「ふっふっふっ、セナ~知らなかったの~?」

珍しく料理で失敗したセナに、凛緒はそれはもう嬉しそうな顔で聞いてくる。

カチンッときたセナはとりあえず凛緒のお湯にこっそりと【凍風】をして水をキンキンに冷やしておく。

「これならセナに勝てるかも......って、あ、あれ?急に溶けなくなった?あ、あれれ??」

突然溶けなくなったチョコに凛緒が困惑の表情を浮かべる。セナは知らん顔をして鼻歌を歌いながら順調にチョコを溶かしていった。

だいぶ溶けてくるとボウルをお湯から出す。

「そして、今度はそれを型に流して冷やして固めるだけ」

ボウルを傾けて型にチョコを流し込む。そして智花と同じように冷凍庫に入れて終了。

「簡単だね。でもこれじゃあただチョコの形を変えただけじゃない?」

「うん、その通り。だから今度はちょっと手を加えて作るわよ。幸いチョコレートはたくさんあるから試してみましょ」

「よろしくお願いします彩先生」

ぺこりと頭を下げてお願いすると二人で調理台に向き直る。智花と美奈も同じように隣に立つと、ボウルを持った凛緒が声を上げる。

「セ~ナ~~~~~~!!魔法で私の水冷やしたでしょ!?」

「なんのことだか知らない」

「うううううううううーーー!!」

「いひゃい!?むひゅ~!!りおのあほぉ~!!」

「ふきゅ!みひゅ~!セナのばかぁ~!!」

お互いにほっぺをつねって伸ばして争う凛緒とセナ。その姿は姉妹の喧嘩のようだ。

そんな二人に三人は呆れたようにため息を漏らし苦笑いを浮かべる。そろそろ止めようか、と思った時、調理室の入り口に人が現れる。

「なにやらいい匂いがしますね?」

「甘い匂い!」

「姉さん、メイ、待ってください」

入り口に現れたのは、アーリア、メイ、ヘンリの三人だ。

「こんにちはアーリア、ヘンリ、メイちゃん」

「こんにちは彩。...ところで皆さん何をなさっているのですか?」

「チョコレートを作ってるの」

そういってセナにした説明をもう一度する彩。すると三人も興味深そうに聞く。

「でしたら私たちも参加しても?」

「ええ、一緒に作りましょ」

「あ、でもエプロンがないですね。とってきます」

「そう思って用意してございます!」

どこからともなく元気な声が聞こえると、いつの間にかアーリアたちの背後にいたアーシアが手に持ったエプロンを掲げている。ちゃんと三人のサイズぴったりのものだ。

「アーシアちゃん!?いったいどこから」

「え?普通にやってきましたけど?」

当たり前のような顔で答えるアーシア。しかしこの場のだれもが声を掛けられるまで気づかないというのはびっくりだ。こういうこともあるのかもしれない。

「じゃあそのアーシアが持ってるエプロンは?」

「メイドたるものいついかなる時も主が必要としているものを用意するのは当然です!と師匠からいろいろなことを教わりました!ほかにも足運びとか気配の断ち方なんかも教わりました」

どうやらアーシアに気が付かなかったのは偶然ではないらしい。

よく見ればアーシアの足運びや呼吸法、動作などが出会った頃とは比べ物にならないくらいにとても精錬されている。

彩やアーリアたちは知らないが、実は王宮に仕える執事やメイドはエルの『メイド・執事研修』、もとい魔改造を受けていた。

メイドや執事の質の向上はもちろん、メイドや執事として主に気を使わせない気配の断ち方や、主を守るための荒事や暗殺に対処する方法や戦闘技術を叩き込まれており、メイドや執事一人一人が王宮騎士団レベルの技術を身に着けていたりする。そのレベルは参加したメイドや執事すべてが【気配遮断】や【体術】などのスキルを習得するほど。

これは過去の魔人襲撃の時のように再び魔人が襲撃してきた場合の保険として、弥一がエルに頼んでおいたものだ。

しかし弥一は、自分の身は守れるくらいの技術を身に着けさせればいいと思っていたのだが、気が付けばか炊事洗濯から戦闘までこなすスーパーメイド・執事集団が完成しており、弥一をして「やりすぎだろ....」と言わせるほどだった。

しかしエルは語る。


『できれば弓や剣を持った兵士5人程度ならお盆で制圧できるくらいにしたいですね』


いったいエルは何を目指すつもりなのだろうか。


「.....そういえば最近コメットさんが気が付けば後ろにいることが増えたような」

「....確かに。西村先生も『最近ソフィアさんに背後を取られることがある』とか言ってた」

どうやら全員そういう経験があるのか怪訝そうな表情を作る。

ちなみにコメットとソフィアは智花と西村の専属メイドだ。

すると頬を腫らした凛緒が聞く。

「それで、師匠って誰?」

「エルさんです!」

「「「「...........あぁ、弥一くんか」」」」
「...........うちの旦那がごめんなさい」

全員すぐに黒幕まで行きついたらしい。セナが申し訳なさそうに謝る。

「まぁとにかく、エプロンがあるなら三人も作りましょ。アーシアも作る?」

「いいんですか!ありがとうございます!」

「アーシアも作ろ!」

「はい!メイ様も頑張りましょうね!」

ということで気を取り直し、四人も加えてチョコづくりが始まった。

「それじゃあ全員それぞれで作ってみようと思うけど、わからないことや作りたいものがあったら言ってね」

「彩はお菓子作りとか得意なの?」

「まぁそれなりにね。健によく作ってるから」

『ほほぉう~~』

さらりと暴露した彩に全員興味津々の表情で見つめる。全員の視線を受けて、彩が自分の失言を理解し顔を赤らめる。

「ち、ちがっ....!健が家に来る時に茶受けで出してただけだから!」

「さぁ、チョコ作りますか〜」

『はーい』

「って聞きなさいよ!!」

彩の叫び声を聞かないふりして全員がチョコ作りに勤しむ。

彩も顔を赤くしつつ、自分のチョコを作り始める。せっかくだし義理チョコをクラスメイトの男子全員作ろうかなと考えて作ったが、一つだけ他のチョコより凝ったチョコが出来た。

彩自身も一つだけ無意識に作ってしまったが、自然と渡す相手が決まっていた。









ーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ただいま〜」
「お邪魔しま〜す」

チョコ作りを終えて夕方。セナと凛緒が家の玄関を開ける。二人とも作るのに熱中して遅くなってしまった。

玄関で靴を脱いで廊下を歩く。するとなにやら甘い香りが漂ってきた。

そして甘い香りが漂ってくるのと同時にリビングの扉が開かれ、可愛らしいピンクのフリフリエプロンをきたユノがセナ目掛けて小走りに駆けて来る。

「ママおかえり〜!」

「ただいまユノちゃん」

「こんばんはユノちゃん」

「こんばんはりおおねぇちゃん!」

愛らしい娘の頭をセナは撫でていると、扉から弥一とエルが出てくる。

「おかえりセナ。いらっしゃい凛緒」
「おかえりなさいませセナ様。ようこそお越し下さいました凛緒様」

そうして出てくる二人。しかしセナと凛緒は弥一の姿を見た瞬間、「ぷっ....!!」と吹き出す。

なぜなら弥一は、ユノとお揃いのピンクのフリフリエプロンを着ていたからだ。


「.....っ!!や、弥一 、どうしたのその格好......ぷっ.....!!」

「くっ.....!!に、似合ってるよ....ぷっ....!!」

「笑ってんじゃねぇーよ!!」

愉快そうに腹を抱えて必死に笑いを堪える二人に弥一は叫ぶ。

「はぁ、とにかく二人とも上がれ。今日は俺たちが晩飯作ったから」

「あ、ごめんね。帰るのが遅くなって」

「いいって。いつもセナに任せてばっかりだからたまには旦那がやらないとな」

「ふふっ、ありがと。あ・な・た」

そう言って弥一の口に唇を重ねて『ただいまのキス』と『ありがとうのキス』をする。

まぁ、全員がいるところですると当然不満が上がるわけで。

「ママずるい!ユノもパパにちゅーしたい!」

「むううううううう〜〜!!」

同じように頬を膨らませるユノと凛緒に苦笑いしながら、リビングに入る。

リビングのテーブルにはカレーとサラダがズラッと並んでおり、凛緒の分も用意されていた。

「なんとなくくる予感がしてな」

「ありがと。じゃあこっちで食べてから帰ろうかな」

凛緒を加えて五人で席に着くと、いただきますの言葉で食べ始める。

ユノが弥一に『あーん』をしたせいで、セナと凛緒がどちらが『あーん』をするかで揉めて、エルにドパンッ!されるという事件は起きたが温かい食事の光景だ。

「.....ん?なんだか深い味わい」

「本当だ。コクがあるというか」

額を真っ赤にしたセナと凛緒が揃って首をかしげる。弥一が作ったカレーはセナの作るカレーと比べて少し深い味わいだ。

「おっ、うまいか?」

「うん、すっごく美味しい。でもなにを入れたの?」

「ん〜?内緒だ」

セナに頼まれても弥一は珍しく答えない。むっ、と頬を膨らませ問い詰めようとするとすかさずユノが口を挟む。

「パパ、パパ!このかれーすっごくおいしい!おかわり!」

「それならよかった。よし!じゃあいっぱいたべるユノには肉を多めにやろう!」

「おにくー!」

子供用の皿に肉多めのカレーを載せてあげると、キラッキラッした目でカレーを見つめぱくっといく。

カレーを美味しそうに食べる可愛い娘の姿にセナは出かけて言葉を引っ込めて、ユノの口の周りを拭いてあげる。

凛緒とエルもその光景を微笑ましく眺めながらカレーを口に運んでいく。

そして全員が一回はおかわりをしたせいで、多めに作ったカレーがすっからかんになってしまった。

『ごちそうさまでした』

全員で合唱すると「食った〜」と弥一が背もたれにかかる。

「パパ、あれ」

「そうだな。よし、セナと凛緒はちょっと待っててくれ。エル」

「はいマスター」

「「??」」

なにがなんだかわからない二人を置いて三人が奥のキッチンに消える。

しばらく待っていると三人が戻ってきた。ユノは後ろで手を隠している。

「ママにプレゼントがあるの!」

そう言ってセナの前に来るとユノがとびっきりの笑顔とともに、

「はいママ!はっぴーばれんたいん!」

そう言って赤いリボンで装飾された小さな箱を手渡す。

それはバレンタインチョコだ。

「これユノちゃんが作ったの?」

「うん!ユノ、ママだいすきだから!」

「ユノちゃん.....!ママも大好きだよ!」

愛らしすぎる娘の姿に辛抱堪らなくなったママはぎゅっと抱き締める。存分になでなでした後弥一に説明の視線を送る。

「昨日カドモンさんの店にユノと行ったらチョコレートを貰ってな。バレンタインは家族や友人にも送ったりするから、ユノがセナにチョコを贈りたいって言い出して、セナに内緒で今日作ってたんだ」

「ママびっくりした?」

「うん、すっごく!ありがとねユノちゃん」

「エルおねぇちゃん!やったね!」

「ええ。ユノ様大勝利!ですね。それで、セナ様私からも」

ユノに続いてエルも同じく赤いリボンで装飾された小箱をセナに渡す。セナはそれを大事そうに受け取る。

「ありがとうエル!嬉しいよ!」

二人のチョコをテーブルに置き、ユノを抱きかかえて抱き締める。

ユノは嬉しそうに抱きしめられた後、セナから離れ、今度は凛緒に向かう。

「りおおねぇちゃんにも!はい!はっぴーばれんたいん!」

「私にもあるの!?うれしー!ありがというね?ユノちゃん!」

「りおおねぇちゃんもだいすきだから!」

「もう、可愛い!やいくん!ユノちゃん貰っていい!?」

「ダメに決まってんだろ!」
「ユノちゃんはうちの子よ!」
「ダメです!」

弥一・セナが声を上げて却下する。普段は静かな口調のエルも声を上げる。こればかりは見過ごせないらしい。

しばらくユノの可愛さに悶えていると、エルもセナと同じようにチョコを凛緒に渡し、凛緒は微笑む。

「ありがとねエルさん。部屋に帰って大事に食べるね?」

「こちらこそ。喜んでいただいて何よりです」

セナと凛緒は二つのチョコを前にして嬉しそうに微笑む貰えるものとは思ってもみなかったので、喜びが激しい。

そして、二人はその喜びの表情のまま、本命へと向きなおる。

視線を感じ取った弥一は、ポケットから二つの箱を出す。

「ハッピーバレンタイン、二人とも。俺からも二人にバレンタインチョコだ。....地球では貰う側だったからなんか変な気分だな」

二人は差し出されたチョコをまるでガラスの宝石のように大切に受け取る。その二人の表情は、一目で心の底から嬉しいとわかるものだった。

「嬉しい。....本当に嬉しい。ありがとう、弥一.....!」

「ありがとう、やいくん.....!大切に保管するね!」

「いや食べてくれよ?」

ツッコむ弥一だが、二人は聞こえてないのか、それはそれは嬉しそうな表情で、男女構わず魅了してしまうほどの表情を作っている。

そこからしばらく大事そうな目で見た後、二人は目を合わせて同時に苦笑いを浮かべてしまう。

「まさか先に仕掛けられるとはね?」

「失敗だった」

二人だけでの会話に弥一たちはついていけないが、二人はカバンから箱を取り出しーーー

「「ハッピーバレンタイン」」

そうして弥一たちと同じようにチョコを差し出してきた。

「セナと凛緒も作ったのか!?」

「ママも!?」

「そうだよ〜。ユノちゃんに先越されちゃったけどね?はい、これユノちゃんの」

「ほんとう!?わーっ!ママありがとー!」

セナも同じことを考えていたことに心底驚いたようなユノだったが、すぐにチョコと聞いて喜びを露わにする。大好きなママが同じことを考えていたことがユノにとって一番嬉しいのだ。

凛緒も少し恥ずかしいそうにしつつも、ユノとエルにプレゼントを渡す。

セナもエルに渡し終えると、二人は弥一に向き直り、

「「ハッピーバレンタイン!」」

と再び笑顔で弥一にチョコを渡す。凛緒は緊張しているのか、足がプルプルしている。

「ありがう二人とも、スゲー嬉しいよ」

「そ、その、私のは上手くできたかわからなくて.....地球では結局市販チョコだったし...」

凛緒が少し落ち込んだ様子で弥一の表情をうかがう。

地球ではバレンタインは凛緒もチョコを作ろうとしたが、結局は爆破してしまって市販のチョコになっていた。

そんな料理をしようとすると爆破してしまう凛緒がチョコとはいえ自分の手で作ったのだ、どのような出来でも嬉しい。セナもチラッと視線を送ってくることからセナも凛緒を手伝ったのだろう。

そう思うと弥一は凛緒から貰ったチョコの包装を丁寧に剥がし、箱を開ける。

凛緒のチョコは、一口サイズの可愛らしいチョコが五つ入っていた。一つ一つの形は不格好でお世辞にも綺麗に出来てるとはいえない。それでも、このチョコからは作り手の相手に対する気持ちがしっかりと感じられる。

弥一は一番形が不格好なチョコを取り出すとそのまま口に運ぶ。

「おぉ!うまいぞ!」

「ほ、ほんとう?」

「ああ!凛緒、ありがとうな?」

弥一の心からそう思っているのを感じ取った凛緒は、パァアア!と表情が明るくなり嬉しそうに涙を浮かべる。

「うん!」

頷く凛緒は子供のように無邪気な笑顔で溢れていた。






























凛緒が帰った後、寝室のソファでくつろいでいると、セナがティーセットを持ってやってくる。

「ユノは寝たか?」

「うん。ぐっすり。よっぽど今日のチョコ作りがんばったんだね」

「ああ、セナのために張り切って作ってたぞ」

「ふふっ、嬉しいなぁ〜」

テーブルにティーセットを置くとセナは弥一の隣に座り、ユノから貰ったチョコをあける。

ユノのチョコは可愛い動物型のチョコで、狼が少し多い。そこからユノらしさを感じて、思わず笑みがこぼれる。

「うん!美味しい」

「それはよかった。ユノも頑張った甲斐があったな」

「ねぇ、弥一もチョコ開けてみて。感想が欲しい」

セナに懇願されて、弥一はセナから貰ったチョコを開ける。

中身は凛緒と同じ一口サイズのチョコだが、別のチョコでトッピングしたのか、チョコにも一つ一つ違いがある。

一つ取り出して口に運ぶと、チョコの甘い香りと味が広がる。

そしてそのあと、ほんのりとビターな苦みが広がっていく。

「これは、........コーヒーか?」

「正解。甘いだけじゃ飽きると思ったし、弥一甘すぎるのあんまり好きじゃないでしょ?」

「よく知ってたな?」

「私は弥一の奥さんだもん」

えっへんと胸を張るセナの頭を撫でる。

「めちゃくちゃ美味いよ。ありがとうセナ、愛してる」

ちゅっと軽いキスを口にすると、セナが頬を染めて恥ずかしそうに可憐にはにかむ。

恥ずかしいのを誤魔化すようにセナはチョコの一つをとって弥一の口元に持っていく。

「食べさせてあげる。はい、あーん」

「あーん......」

セナに食べさせてもらうとそれだけで美味しく感じられる。ココアパウダーのかかったチョコは甘さに深みがある。

「もう一個いる?」

「もらおう」

「じゃあ.......ふぁい、」

「ッ!?」

なにお思ったのかセナがチョコを口元に持ってきて軽く噛むと、その状態で弥一に顔を突き出してくる。

俗に言う口移しだ。

目を閉じて弥一を待っているセナに、ゴクリっと唾を飲み込み、少し緊張しつつも肩を掴んで顔を近づける。

「んっ......あむっ.....はむっ.....んんっ.....」

唇を重ねるとチョコが押し出され弥一の口の中に転がり込む。それと同時にセナの舌も入ってきて、二人はお互いに舌でチョコを奪い合うように絡ませる。

「んっ、んっ.......はんっ.....んちゅ.......んあっ、んっ......やいひ...あまい.....おいしい......」

「俺もだ。世界で一番甘いよ......んっ」

「んんっ....チョコが、こっひに.....んっ.....やいち......もっと、きて.......んっ!」

甘く囁くおねだりといつもと違うキスに弥一は理性の限界。

セナを抱き締めそのままソファに押し倒す。

「んあっ....はぁ、はぁ....チョコでベトベト」

「本当だな。というかいつもよりセナがエロすぎて理性が限界だ」

「え、エロくないもん」

「嘘つけ。こんなことしてくる奴がなにを言うか」

セナが反論しようとするが、弥一はセナの口にチョコを入れて黙らせる。

するとセナはチョコを口に含んだまま、

「食べたいの.....?」

「.....ああ、スゲー食べたい」

そう言うとセナは微笑んで手を広げて、


「じゃあ.......私を、食べて」


プツリと弥一の理性が切れると、荒々しくセナの唇を奪い、唇とは反対に胸を優しく揉む。

それから一晩中二人はお互いにいつもより激しく情熱的に愛し合った。




コメント

  • Mrata

    すごくおもしろくて、楽しませてもらってます!
    これからも頑張って下さい!!

    8
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