魔術がない世界で魔術を使って世界最強

海月13

銀狼の眩しさ


 襲撃があった数分後。弥一達の前では襲撃者改めて銀狼族の皆さんが揃って土下座していた。

「この度は本当に申し訳ない!!」

「いや、あのもう頭を上げてください。誤解も解けましたし」

 八人揃って土下座されるという光景に耐えられなくなり、頭を上げるように言うが、「いいえ!」と頭を上げようとしない。その理由は、

「インサニア様も本当に申し訳ありません!」

『わふ.......』

サニアであった。

 サニアは「またか....」というような表情で小さく鳴く。サニアの正体を知った銀狼族の皆さんが畏まって頭を上げようとしないのだ。

『わっふ、がふぅわふ』

「......わかりました。インサニア様、ではなくサニア様がそう仰られるのであれば」

 どうやらサニアが頭を上げるように言ったのか、渋々銀狼族の皆さんが頭を上げる。

 ようやく話ができる状態になると、改めて弥一が言う。

「えっと改めて、俺は日伊月弥一。冒険者です。こっちは一緒に旅をする仲間達。今回はコーネリアに向かう途中でお二人を保護して、銀狼族の集落に向かうところでした」

「私はグレバス・アーキュレイ。銀狼族のヴァリス族の戦士長だ。この度は妻と娘の恩人に対して無礼を働いてしまって申し訳ない。思わず居ても立っても居られないいられなくて」

「その気持ちわかりますよ。俺も妻と娘が連れ去られたなんて事になったら、そいつらみなごろ"ピー"にしてしまいますから」

 その気持ちよくわかると、さらりと恐ろしい事を言う弥一に健たちは顔を青くしている。「うんうん」とセナも頷いているところに、この夫婦に容赦という言葉はない。

「だから言ったじゃないですかグレバスさん。少し様子見ましょって」

「そうですよ。まったく〜グレバスさんはこういう事になると周りが見えなくなるんですから〜」

「レン、コーサ、お前らの妻と息子、娘が連れ去られたらどうする?」

「「もちろんみなごろ"ピー"でしょ?」」

「お前らも人のこと言えん」

レンとコーサと呼ばれた青年二人が何を当たり前の事を?という表情で答える。

 種族間の繋がりを大事にする銀狼族だからこの反応なのか、それとも夫婦とはこういうものなのかわからない健たちだ。

「ごめんなさい皆さん。うちの夫と仲間がご迷惑を。取り敢えず集落まで案内しますね?」

「おお、そうだった。レン、長に話を通しておいてくれ」

「了解です」

 レンが森へ走って消えると、グレバスの案内でレンの後を歩いて追う。

 獣道が続くが今と成っては慣れたもの。集落の近くであるからか、道は簡単ではあるが整備されていて歩きやすかった。

 そうして十分もしないうちに集落の入り口が見えてきた。

「着きました。ここが我々ヴァリス族の集落です」

 集落の範囲は広く、ヴァリス族は総勢200人を越えるらしい。集落に入ると周りのヴァリス族の皆さんが遠巻きに少し警戒した目でこちらを見ている。見慣れない人間が来たことで警戒しているのだろう。

 さてどうしたものかと弥一が考えていると、野次馬が避けて道ができ、そこから年老いた銀狼の男が現れる。

 男は髪と同じように白く長い髭を摩り右手には杖を持っている。見た目は八十代に見えるのに服の裾から覗く筋肉は年老いてもなお引き締まっているのが分かる。現役時代は相当な戦士だったに違いない。

 男が現れるとグレバス達が頭を下げる。それにつられ弥一達も軽く頭を下げる。グレバス達の態度からしてこの男が先程話していた銀狼族ヴァリス族の長なのだろう。

 そんな男はホッホッホと陽気に笑い言う。

「ようこそいらっしゃった人間の皆さん。私はヴァリス族の長を務めるジキル・トレニーと申します。この度は我々の家族を救っていただき感謝いたしますぞ。さ、立ち話もなんです、どうぞ我が家へ」

 ヴァリス族の長ジキルがそう言うと途端に野次馬からの警戒した眼差しが無くなり、逆に歓迎の眼差しと拍手が送られてきた。

 妙に照れ臭くなったのか、全員困ったように苦笑いをする。それでも悪い気持ちはしない。

 拍手の渦に巻き込まれながら、弥一達はジキルのあとに続く。

 ジキルの案内で自宅に向かう間の集落の様子を見て回る。やはり産まれながらに戦闘能力が高い銀狼族だからか、広場の一角では模擬戦を行っている若者の姿がある。

 模擬戦以外にも広場では子供達が楽しく笑いながら遊び、保護者達はそんな子供を見ながら微笑ましく笑っている。

 皆暖かく笑い合い集落全体が明るい。そして集落を巡りながら弥一は何処か懐かしい気分になる。それはセナも同じようで、二人は顔を合わせ同じことを考えていたなと微笑む。するとそんな二人だけで無言の意思疎通をする弥一とセナに、凛緒が面白くないと言う感じで頬を膨らます。

「むぅ〜〜、なに二人だけで理解してるの!」

「いや、懐かしいなと思ってさ。セナの故郷もこんな感じの雰囲気なんだ。みんなが一人の家族みたいな感じ」

 記憶を辿り精霊の里での思い出を掘り起こす。あそこもここのように暖かくゆったりと落ち着ける雰囲気の場所であった。精霊の里の滞在時間は短かったが、弥一はとても鮮明に覚えている。逸れ者である弥一を快く迎え入れてくれ、弥一にとっては第二の故郷のように思える。

「なんだかまたみんなに会いたい」

「そうだな。いつか時間があれば寄ってみよう。俺にとってもあそこは第二の故郷だからな」

「弥一がそう思ってくれているなら嬉しい」

 そう言って優しく笑うセナに弥一は見惚れてしまう。セナの表情からは、大好きな故郷を大好きになってもらえた幸福感でいっぱいで、心の底から嬉しいという感情で溢れている。

 もう何度目になるかわからない惚れ直しをした弥一は、「大好きだよ、あの場所もセナも」とセナの手を恋人が繋ぎでそっと手を取り、海のように蒼い瞳を見つめる。セナも頬を染め「わたしも」と見つめ合う。そして二人の距離が自然と縮まり、

「って!ちかーーい!二人とも離れる!」

 凛緒が慌てて二人の間に割り込み引き剝がしにかかる。あまりにも自然に二人の世界を創り出した事に呑まれていた健達はハッ! と我に帰る。二人の固有魔術【二人の世界】は今日も絶好調だ!

「ホッホッホ、若くていいですな」

「すみません案内して頂いているのに」

「いいんじゃよ。若者のこういう態度は懐かしい気持ちにさせてくれる。儂もこんな頃があったのぉ〜」

「少しは自重して欲しいんですけどね....」

 若かりし頃の自分に想いを馳せるジキルと、何処か疲れた表情で答える彩。親友の立場を思うと二人には少し自重して欲しいとは思う。さらに弥一とセナがこうなると大抵凛緒とセナの喧嘩になるので苦労が絶えないから本当に自重して欲しい。

 そんな今にも喧嘩になるのでは、という空気を弥一家のお姫様が明るくぶち壊す。

「ママ!ユノもママのおうちにいきたい!」

 花のような笑顔を向けられ二人の間のバチバチした空気が引いていく。可愛く手を広げて来る娘をセナが抱っこしてにこりと笑う。

「うん、いつかユノちゃんにも見せてあげるからね」

「ママ! やくそくね?」

「もちろん! ね、弥一?」

「おう! 家族で実家に帰省だな」

「えへへ~やったー!」

 喜ぶユノを、優しく包み込むような笑顔で弥一とセナは微笑む。満開の花のような明るい笑顔を咲かせるユノを中心に、優しい笑みで寄り添う弥一とセナの光景は何処から見ても微笑ましい親子だ。たとえ血の繋がりが無くとも、確かな家族の光景がそこにはあった。

 そんな親子の光景の外では凛緒が「敗北」という言葉がしっくりくる表情で彩に泣きついていた。

「.......彩ちゃん、レベルが違いすぎるよ。やいくんが遠いよぉ.......」

「ええ、確かにね。弥一君が立派な父親にしか見えないわ。同じ高校生なのに.....」

「あいつ一体この世界でどこまで行く気だ.....?」

「案外魔王も簡単に倒してしまいそうだよね....」

 女として敗北した凛緒が真っ白に燃え尽きる。彩はそんな親友を慰め、健と雄也は尊敬のような呆れのような複雑な視線を弥一に送る。

「ホッホッホ、お二人は若いのに立派な夫婦ですな」

「...........ぐふゅっ.....」

「凛緒! しっかり! 傷はまだ浅いわ!」

 ジキルの何気ない一言に凛緒が奇妙な鳴き声をあげ撃沈する。撃沈する凛緒を必死に繋ぎ止める彩だが、慰めれば慰めるだけ凛緒の顔から表情が抜けて行く気がする。

「さて着きましたぞ」

 真っ白な凛緒を彩が担いで進むとヴァリスの家に着く。木造の比較的大きな家で、入り口にはクマの頭部が飾ってあって少し怖い。家の中に入ると居間に案内される。

 真ん中の机をぐるりと囲むように座ると改めて弥一たちが軽く自己紹介を述べ、今回の経緯を話す。カネーシアとカーネも一緒だ。

「なるほどそのようなことが......」

 弥一の話を聞いてジキルが険しい顔をして唸る。同族の無残な末路を聞いて怒り心頭のようだ。

 そしてじっくり唸ってから唐突にジキルが難しい顔で話し出す。

「....実はこれはまだ一部の者にしか伝えておらぬのだが、聞いてもらえるだろうか?」

「ええ、もちろん」

 全員がこくりと頷くとジキルが重々しく口を開く。

「実は儂には孫娘がおるのじゃが......1週間近く前に盗賊に捕まってしまったのじゃ」

『ッ!?』

 突然の告白に場の空気が緊張を孕む。カネーシアとカーネは信じられないといった表情で口元を抑え、グレバスは知っていたのか悔しそうな表情でうなだれる。

「孫の名前はケーティアと言って今年で9歳になるんじゃ。森の外れで盗賊と遭遇しての、グレバスたちも奮闘してくれたんじゃが、数が多かったのと強力な魔法使いがいて攫われてしまったのじゃ」

 ジキルの話はこうだ。数週間前カネーシアとカーネが攫われてから警戒のためにヴァリス族の戦士が周辺の警戒を行っていた。その際ジキルの孫娘のケーティアが山菜摘みの際に運悪く盗賊と出くわし捕まってしまったのだ。ケーティアの悲鳴を聞きつけ駆け付けたが人数が多く、さらいには人攫い専門の盗賊らしく、あっという間に見失ってしまったのとか。

「申し訳ありません、私の力が及ばなかったばかりに....!」

「いやしかたない。むしろグレバスが奮闘してくれたおかげで死傷者がでなかったんじゃから」

 ジキルの説明にグレバスは地面に拳を打ち付ける。せっかく妻と娘が帰ってきてもグレバスの思いは晴れない。

「それで、そのあとは?」

「必死に捜索したんじゃが、結局手掛かりは奴隷の人攫い専門の盗賊に捕まったということしかわからんかった。混乱を避けるために皆には孫は熱で寝込んでいるといっている。じゃが、いずれ言わねばならん」

 沈むジキルの表示に弥一たちも悲しい気持ちになる。カネーシアとカーネも同じように目に涙を浮かべている。

「そこでじゃ、皆さんに依頼したいのじゃ。日伊月殿、冒険者として依頼したい。内容は孫娘の捜索。報酬として出せるものは少ないが命以外のすべてを払おう。.......頼む」

 深々とその場で頭を下げ床に付ける。大の大人、それも集落の長が忌み嫌う人間に頭を下げるという異常事態。それでもジキルは顔を上げない。唯一の身内である孫娘への気持ちがジキルを駆り立てるのだ。

「私からも頼む」

 グレバスもジキルと同じように深々と頭を下げる。グレバスに続いてカネーシアとカーネも「私も」と続き頭を下げる。たとえ身内でなかろうと、躊躇いなく頭を下げられるのは繋がりが強い銀郎族だからだろうか。

 その絆の深さに弥一たちは強い感銘を受ける。銀郎族の絆の強さはとてもまぶく、とても輝かしいものに見えた。

 いつまでも頭を下げ続けるジキルたちに耐えかねたように雄也が声をかける。

「頭を上げてください!受けます、その依頼。そうだろ弥一?」

「確かに見過ごせない。だがな雄也、手掛かりが一切ないのにどうやって探すんだ?奴隷といってもこの世界にはいくらでもいる。街も少なくてもこの近くには5つ近くある。探すにしても広すぎる」

「うっ、だけど.....」

 雄也の気持ちは弥一も痛いほどわかる。皆同じように助けたいという気持ちが現れる。だが、手がかりが銀狼族の奴隷というだけで他は何もわからないのでは探しようがない。この集落の周辺には大きな街が5つあり、小さな街を含めればもっとある。更には既にもうどこか遠くに連れていかれている可能性もある。見つかる確率はとても低い。

 それはジキル達もわかっている。それでも見つかる確率がごく僅かだとしても、可能性が残されているのであれば願わずにはいられない。

 痛いほどの沈黙がしばらく流れる。弥一も必死に考えるが探しきれる方法がない。ユノの時は式神の魔力をたどればよかったが、今回はそのような手段はとれない。

 全員がどうしたものかと頭を悩ませる中、突如カーネが「あっ!」と声を上げ、全員の視線がカーネに集まる。

「どうしたカーネ?」

 グレバスがカーネの顔を覗き込むと、カーネが少し焦ったように答える。

「あ、あのね。今思い出したんだけど、実は街の牢屋に捕まってるときにぼそりと監視の人がしゃべってるのを聞いたの。......『珍しい銀郎族もう一匹仕入れた』って」

『!?』

 カーネの一言に場の空気がガラリと変わる。その言葉はカネーシアとカーネ以外にももう一人捕まっていることになる。

「ジキルさん。この周辺に別の銀郎族の集落はありますか?」

「いや、この周辺に他の集落はありわせん。知っている集落でもここから2か月の場所にしかない」

 ケーティアが捕まったのは約1週間前。もしほかの集落から銀郎族を攫ってきたとしても往復で4か月近くはかかる。ということは他の集落から攫われたのでは時間が間に合わない。もし本当に4か月かけて攫ってきたのかもしれないがその可能性は極めて低いだろう。

「てことは、捕まったもう一人はケーティアの可能性が高い」

 その一言で場の空気が明るくなる。捜索が絶望的だと思われていたが、これで希望が持てた。

「よくやったぞカーネ!!」

「きゃっ!お父さん苦しい!」

 娘の手柄にグレバスはカーネを強く抱きしめる。苦しそうにもがくカーネだが、久しぶりの父親の抱擁に嬉しそうな表情を作る。

 カーネの証言でジキルの表情も柔らかくなる。これでようやく希望が持てた。

「ところでカーネちゃん。その街はどこなの?」

 凛緒が尋ねると、グレバスに抱きしめられて喋れないカーネに変わり、カネーシアが答える。

「私たちが捕まっていた街はグーテンダームです」

「グーテンダーム?」

「ここから南に進んだところにあるファンメス王国の領内にある街ですね。」

 知らない弥一たちに代わってエルが説明を始める。

「グーデンダームは世界的に有名なカジノの街です。世界中の有権者や資産家、果ては強大な裏組織たちが集まることからファンメス王国も下手に手を出せず、ほぼ国の中で独立したのような状態の街ですね。表向きにはカジノを楽しむ場所ですが、裏の方では人身売買や非合法な奴隷のオークションなどが行われているとか」

 エルの説明の通りグーデンダームはその性質上ファンメス王国や各国も手が出せない無法地帯と化している。あまりの影響力ゆえ、麻薬や人身売買、非合法の奴隷オクークションなどの犯罪が行われていると知っていても国が介入できず、見て見ぬフリをしているのが現状だ。

   普通の手段で救出するのは難しい。グーテンダームではギャンブルこそが力なのだ。であればギャンブルにはギャンブルという正式な勝負でケーティアを救い出さねばならない。

「それなら勝って救い出すまでだ。全員それでいいな?」

『おう!』

「本当にありがとうございます」

   一致団結してケーティアを救い出すと決めた弥一達に、ジキルはこれまた深々と頭を下げる。

   さて動き出すにしろ行動は速めにすべきだ。ジキルが集落周辺の地図を持って来ると全員で覗き込む。

   グーテンダームはヘカートで移動すれば2日とかからない場所に位置する。場所は分かったがこれ以上の情報は少ない。そこで、

「エル、先にグーテンダームに潜入して情報を集めてくれ。内容はケーティアがいるかどうかと、グーテンダームの運営に関する情報すべてだ。行けるか?」

「お任せを。我が主マイ・マスター

   胸に手を添え恭しく頭を下げると、次の瞬間には、まるで最初から居なかったように消えている。
 
「.......なんかすげー主従してるな。かっけぇ」

「うん。なんと無くその気持ちわかるよ」

   サッと命令を飛ばし何も言わずただただ優雅に命令を遂行するという関係に男二人は羨望のような目を向ける。羨望の眼差しを受けながら弥一は少しカッコつけすぎたかも、と恥ずかしくなる。

「もうそろそろ夜ですから皆さん今日は是非泊まっていってください。ここには露天風呂もありますし、ささやかながらおもてなしさせていただきます」

   ジキルがそう言うと女性陣が色めき立つ。旅では小さな浴槽はあったのだが、女性としてはのびのびとお風呂に浸かりたいのだろう。

   そんなわけで弥一達はジキルの好意に甘えることにした。ジキルの家は妻や娘夫婦と一緒に暮らしていたが、ケーティアを残して流行病で他界されたそうで、部屋はいくつもあるとのこと。

   弥一達は家の近くにある墓にお参りを済ませ、部屋を借りる。部屋は人数分あるというのだが、セナが自分と弥一とユノは同じ部屋にするという事で凛緒とまたまた喧嘩が始まり、収集がつきそうになかったので、放っておいて弥一はユノとサニアを連れてさっさと風呂に直行した。

「ひろ〜い!」

『わっふ!』

「こら、はしゃぐと転ぶぞ」

   バスタオル一枚ではしゃぐユノと、サニアを捕まえると洗い場まで連れて行く。

   露天風呂は20人くらいは余裕で入れるほど広く、柵の向こうには森が広がり、虫や動物などの声や木々が揺れる音が静かに聞こえる。月明かりと松明だけという薄暗さがゆったりとした開放感を与え、とてもリラックスできる。

「サニアおいで〜あらってあげる」

『わふっ!』

「じゃあ俺はユノの頭でも洗おうか?」

「うん!あらって!みんないっしょ!」

   洗面台の前にサニア・ユノ・弥一の順番で並びワシャワシャと洗う。ユノの癖一つない綺麗な銀髪を弥一は丁寧に洗っていき、前の方では片手にスポンジ、もう片手に石鹸を持ったユノがフカフカのサニアの毛並みをゴシゴシする。強目の方がいいのかサニアが気持ちよさそうに目を細めてユノのなすがままだ。

   そのまま洗っていると健と雄也が腰にバスタオル一枚で扉をガラガラと開けて入ってきた。

「遅かったな?何かあったのか?」

「僕はジキルさんとお話をね」

「俺は彩と集落を少し歩いて回ってた」

「ほ〜う、.......デートか」

「ち、違うわっ!!」

   焦りを誤魔化すように健が洗面台に向かい頭を洗う。弥一と雄也はニヤニヤと生暖かい目で健を見てお互いに洗面台に向かい合い体を洗い出す。

体を洗い終わり湯船に身を沈めると、冷えた体の芯まで暖かさが染みて思わず「はぁ〜.....」と声を出し体の力を抜く。

こんなに気持ちいいのにエルには悪い事させたなと思い、今度何かお礼しようと考えた弥一の横で弛緩した声が聞こえる。

「きもちいい〜.......」

『わっふ〜........』

   横ではユノとサニアが並んで首まで湯にしっかり浸かり、ほんわかした顔で目を細める。

   そっくりな二人に苦笑いしつつ、空を仰ぐと真っ暗な夜空に真ん丸の月。どうやら今日は満月の日だったようだ。

「綺麗だな〜........」

見上げた月の美しさに、弥一はそう呟くのだった。

コメント

  • 海月13

    流行に疎い私ですが、この度インフルエンサー......ではなく、インフルエンザになってしまいました。そのせいで執筆が遅れており、今月中は投稿が難しいかもしれません。間に合うようでしたら投稿しますが、投稿できなかった場合はどうか温かい目で見守ってくれると幸いです。今後ともどうかよろしくお願いいたします。
    次の投稿は2/3の節分に節分特別ストーリーを投稿します。

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