魔術がない世界で魔術を使って世界最強
再会
コルトアを倒し、『星の生命』と繋がったゴーレムを倒した弥一は昇る朝日を浴びて「ふぁ〜」と欠伸を漏らす。
「やっと終わったか。一晩中だと眠いな」
昼間の依頼からの、この戦いである。流石に眠くなってきた。
弥一が欠伸を漏らし朝日を眺めていると、近づく足音が聞こえる。振り向くとそこには、凛緒、健、彩、雄也の四人がいた。
「やいくん・・・」
「・・・久し振りだな凛緒」
心配そうに見つめる凛緒に、弥一は気まずそうの答える。凛緒も何か言いたそうだが、ようやくの再会に上手く言葉が浮かんでこない、そんな表情だ。弥一も弥一で何から切り出したらいいかわからなくなっている。
しばらくなんとも言えない沈黙が二人の間を流れる。そんな中、沈黙を打ち破ったのは健だった。
「弥一、いろいろ聞きたいことはあるが・・・無事だったんだな」
「ああ、心配かけて悪かった。いろいろあったがなんとか生きてるよ」
そう言って弥一は自傷気味に苦笑いで返す。そんなやりとりで少し気が抜ける。
「それで弥一君、どうしてここに?」
「まぁ、その辺も後で話すさ。まずは戻ろうぜ、流石に眠くなってきたしな」
「それもそうね。私ももう疲れた」
口に手を当て欠伸を漏らす彩。それにつられて他の三人も欠伸を漏らす。夜の暗い中での死と隣り合わせの戦闘は、四人の精神を常に張り詰めさせ、それが安心したことで見えない疲労がドッと出てきた。
疲弊しきった四人の姿に弥一は格納庫からヘカートを呼び出す。
突如現れた黒い大型の車に、四人は眠気そっちのけで目を見開く。眠いせいか目が充血しているので正直怖い。
「なんだその車!?」
「魔力駆動四輪【ヘカート】、ガソリンじゃなく魔力で動く車だ。こいつについても後で話すから、取り敢えず乗れ」
「でも運転できるのか?」
「それはまぁ、魔術師なんで」
「なんでもありかよ魔術師・・・」
驚愕というより呆れた表情の四人は、疲れたので早く休みたいと思いヘカートに乗り込む。
後部座席に彩と健、雄也が座り助手席には凛緒が座ると弥一はヘカートを走らせる。
デコボコの地面を何度もバウンドしながら悪路を進む。激しく揺れるせいで四人は全く眠れず、気持ち悪そうに顔を青くするがそれは弥一も同じ。
範囲手加減するんだった・・・と今更嘆いても遅い。自業自得である。
ある程度進むと『落ちる輝き』の被害範囲を抜け、だいぶマシなところを進み始める。ガタゴトガタゴトと規則正しい揺れが四人を襲い、心地よさが眠気を誘う。
気がつけば後部座席の三人はウトウトと船を漕ぎ始めた。彩は健の肩に頭を預け、健の方もそんな彩の頭に頭を預け二人して仲良く眠っている。雄也は窓に頭を預けていた。
「あの二人本当に仲がいいな」
ミラー越しに二人を見て弥一はスマホで器用に前を向いたまま後部座席の写真を撮り、
「後でこの写真で存分にいじってやる」
と悪そうな顔でニヤリと笑う。そんな様子を凛緒は苦笑いで眺める。
そんな凛緒は眠そうながらも、必死に起きている様子。
「どうした凛緒?寝てもいいんだぞ?」
「ううん、いいの。・・・すこし、こうしていたいの」
「・・・そうか」
二人の間に会話は無い。
それでも凛緒はとてつも無い安心感を覚えていた。
ようやくの再会には今しばらく時間が欲しい、なにせ話したいことが多くあり過ぎて何から話していいのかわからない。
でもそれでいい。これから時間はたくさんあるのだから。
凛緒は穏やかな笑みを浮かべ明るくなった空を見上げる。
そんな凛緒の心情などつゆしらず弥一はハンドルを握る。
(どう切り出したもんかな・・・)
大迷宮のこと、『闇』魔王軍六属のこと、話すことは沢山ある、そしてもっとも重要であろうことが三つ。
一つ、セナのこと。
二つ、ユノのこと。
三つ、エルのこと。
この三つの内容は特に慎重にいかなければいけない。下手に説明すれば嫉妬に狂ったクラスの男子共に殺されかねない。
美少女の嫁に、美人の従者、そして美幼女の娘と嫉妬に狂う要素はぎっしり。怨嗟の宝箱である。
心穏やかに微笑む凛緒とは反対に、心穏やかではない弥一。
((何から話そうか))
両者の思惑が一致する。しかし意味は全く違うが・・・
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
走ること数分、古びた城が見えてきた。城壁付近では魔物の死体が山のように積み上げられている。
その中を突き進み城門の前まで来ると、事前に話が通っているのか門が開けられ、中に入れた。
城壁の内部に入りヘカートを止めて外に出る。
「んんっ〜〜、よく寝た」
「そ、そうね」
「ん?どうした彩?顔が赤いぞ」
「なんでもない!」
健に頭を預けて寝ていたことが恥ずかしかったのか彩は顔を赤くしてそっぽを向く。幸い健が起きる前に彩が起きたので、健が彩が頭を預けていたことは知らないのは良かった。
だが、彩は知らない。その光景をバッチリ見られていたのを、そしてその光景が弥一によって撮られていることを・・・!
それはさて置き、雄也たちが帰ってきたのを見てクラスメイトたちが集まってくる。クラスメイトは大地たち以外の全員が、弥一がいるのを見て驚く。
それでも結果の方が気になるようで、自然と雄也の方に視線が集まる。
雄也は全員の視線が自分に集まるのを感じると、光り輝く聖剣を掲げ言う。
「この戦い、僕たちの勝利だっ!!」
『おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーー!!!!』
巻き起こる拍手喝采。負傷者も含め全員が声をあげてその勝利を噛み締める。中には泣き崩れる者もいて、その勝利に舞い上がる。
雄也は申し訳なさそうに弥一を見る。勝ったのは弥一なのだが、一刻も早く勝利を全員に伝えたかったため、言ってしまったことに申し訳なさを感じているようだ。
それを理解している弥一はどうってことないといった表情で手を振り、ヘカートを戻そうと思った時、
「パパ〜〜!!」
元気のいい声とともにこちらに向かってくる幼女を見る。幼女、ユノは拍手喝采で騒ぐ人の波を器用に避け人混みを抜けると、弥一に飛びつく。
「パパおかえりなさい!」
「ただいまユノ。いい子にしてたか?」
「うん!あのねパパ、ユノいーっぱいがんばったの!まものをいっぱいたおしたの!ユノすごい?」
「おお!すごいぞユノ!ユノは偉いな〜」
ユノの頑張りを親バカ弥一は褒めるとユノの頭を撫でる。大好きなパパに褒められてなでなでされたユノは、気持ちよさそうに目を細めさらにギュッと抱きつく。
とその時拍手喝采で騒ぐ人々(主に男子)の雰囲気が少し怪しくなり、静かになる。
一方、そんな空気に気付かない弥ー。クラスの視線が見守る中、さらに事件は動き出す。
「おかえり弥一」
「おかえりなさいませマスター」
「ただいま。セナ、エル」
「ママ!パパに褒めてもらえた!」
「良かったねユノちゃん」
銀髪美幼女に続き、現れたのは蒼髪の可憐な美少女と翠髪の美人メイドである。
突如発生したハーレムにその場の全員がフリーズする。誰もがポカーンと言った表情だ。
「今あの子は日伊月の事をなんと言った?パパ!?それに蒼の美少女に向かってママ!?!?』
『マスター。日本語で『ご主人様』・・・美人エルフのメイドさんだと!?!?』
『もしかして二股か!?一体何がどうなってるんだ!?』
クラスの中で様々な意見が飛び交う。野次馬はヒソヒソからガヤガヤに変わり、弥一に様々な視線が突き刺さる。奇異、好奇心、驚愕、嫉妬、怨嗟、と言った視線のオンパレードは徐々に鋭くなっていく。
そんな中、弥一たちに歩み寄る影が一つ。凛緒だ。
凛緒はゆらりゆらりと幽鬼の様な足取りで弥一に近ずくと、ガシッ!と弥一の肩を掴む。
「やいくん・・・」
「は、はい。なんでしょうか」
「この人達について、説明、してくれるよね・・・?」
「ソ、ソレハモチロン」
背後にゴゴゴゴーーッという様な効果音と背景が似合いそうな雰囲気で凛緒が笑う。その目は完全に据わっており、魔術師は得体の知れない恐怖の前に、カタコトになりながら返事をする。
そして弥一が言う。
「まず最初にこの蒼い髪の女の子がセナ・アイヤード。・・・俺の嫁だ」
『はいぃいいいいいいいい!?嫁!?!?」
「セナ・アイヤード。職業は第十階梯の冒険者で、弥一の妻」
衝撃の一言に全員が声を揃えて叫ぶ。そんな中でもセナは堂々と嫁宣言をすると、弥一の腕に腕を絡める。
誰もが唖然となる中、弥一は続ける。
「次にエル。俺の従者だ」
とここでエルがブチかます。
「エルネウィアです。職業は冒険者で、マスターの従者兼愛人です」
「違うだろ!?こんな状況でふざけないでくれ!?」
「しかしマスター、こういうのは『お決まり』ですよ?」
「確かにそういうのはあるけど今はそれが許される様な空気じゃない!!割とマジで誤解されるだろ!!」
『愛人・・・』
『あんな美少女な嫁がいながら、愛人だと・・・』
『許せねぇな・・・』
「ちくしょう!!遅かった!!」
誤解のままエルと弥一の関係がクラスメイトに認知されると、視線の中に汚物を見る様な視線が混じり始める。
天に向かって嘆く弥一は、「後で事情をキチンと話せば伝わる、よな?」と半分諦めの境地に入ると、気を取り直して次に進む。(この時エルは可笑しそうに顔を背けて堪えていた。)
「最後にユノ。」
「ユノです!パパとママのむすめです!」
元気良くニコッとユノが笑うと、その場の全員の空気が和む。純真無垢な天使の笑顔に誰もが骨抜きにされるが、よ〜く今の紹介を思い出して欲しい。
ーーユノです!パパとママのむすめです!
ーーパパとママのむすめです!
ーーむすめです・・・
ーー・・・・・・・
ほらね?おかしいでしょ?
『はいぃいいいいいいいいいいいいい!?!?娘ぇええええええええええ!?!?』
衝撃発言に一同絶叫する。会話の中から推測(とゆうかそれしかありえない)すると、パパとは弥一で、ママはセナのこと。
行方不明になった同級生が戻って来れば、結婚していて子供がいるという常識外れなエロゲ展開にもうついていける強者はいない。
『どうなってるんだ!?』と誰もが思って動かないでいる。そして暫く邪険というか殺意の空気が流れる中、遂に動き出したものがいる。
得体の知れないオーラを放ち、魔王か邪神かのような雰囲気で一歩踏み出したのは、凛緒。魔力を無意識に放っているのか、周囲の塵や砂が浮かび上がり、一歩踏み出すたびに辺りの空気が魔王(凛緒)の空気に侵食されていく。
流石の迫力に誰も動かずにただただ行方を見守る。
「あ、あの、凛緒さん・・・?」
額に大粒の冷や汗を浮かべ、思わず一歩下がる。しかし、凛緒はガシッ!!と両手で弥一の肩を掴み逃がさない。
「ーーーこと、・・・」
「へ?」
「どういうことなのーーーーーーーっ!!!!!!」
「おわっ!ちょ、まっ!頭をガクガクしないでくぇえええ!!」
涙目で叫びながら凛緒が弥一の頭をシェイクする。ガクガクと頭の中を掻き混ぜられて気持ち悪くなる。解こうにも、どこにこんな力があるのかと思うほどガッチリ固定され解けない。
高速でシェイクされ中々にグロッキーな状態になってきた弥一。とそんな所に救世の天使が降臨する。
「弥一から離れて」
そう言ってセナは凛緒から弥一を引き剥がし腕を絡める。
セナと凛緒の間で幻影の稲妻が炸裂する。見えないはずなのに、当たれば即死するのでは?と思うほどの空気が二人の間で巻き起こる。
「・・・セナさんだっけ?悪いけどこれは、私とやいくんの話なの。関係のない人はすっこんでて!!」
「関係無くない。私は弥一のお嫁さん。誰にも弥一は渡さない!!」
「そ、そんなの言葉だけでしょ!!」
「これが証拠」
そう言ってセナは左手を見せる。その薬指にはキラリと輝く銀の指輪。それは弥一も左手にもある。
「!?それはーーーっ!」
「これで理解した?」
指輪を見て愕然と目を見張る凛緒。セナは「勝った・・・!」といった表情で、満足げに凛緒を見る。
凛緒は「む、むうぅう〜〜〜〜っ!!」と頬を膨らませ睨む。そして負けるものかっ!!と反撃を開始する。
「それでも、私の方がやいくんのことをよく知ってる!小さい頃からいつも一緒だもん!セナさんはわかる?子供の頃のやいくんのこととか趣味とか?」
「くっ!・・・でもそれならあなたが知らない弥一を知ってる」
「そ、それは?」
ふっ、と笑ってセナは迎え撃つ。
「弥一のプロポーズの仕方とか」
「・・・!」
「キスの味とか」
「・・・っ!」
「それと、ベットの中とか」
「・・・!!や、やっぱりそういうことも・・・!!」
最後の一撃に凛緒の顔が真っ赤に染まる。セナと凛緒のやり取りを聞いていたクラスの女子も「きゃー!」と声をあげて大はしゃぎ。
その後、凛緒の反応からこの攻撃が有効と判断したセナは、次々と暴露していく。弥一との初めて結ばれた時のことや、七夕の時のことなど、果ては弥一の性癖まで暴露する始末。
「お、おいセナ?そう言って話はやめような?というかもうやめて下さいお願いしますっ!!」
夜の話を赤裸々に語られ、弥一は恥ずかしさのあまり叫ぶ。しかしセナと凛緒はお互いにどれだけ弥一を知っているか勝負し始め、弥一の言葉が聞こえていないようで、凛音とセナは言い争いを始める。
こうなれば直接止めるか、と近づこうとしたその時、弥一目掛けてナイフや矢のような飛び道具が複数飛んでくる。
「おわっ!?」
咄嗟にその場から跳びのき、飛んできた方向を見ると、そこには嫉妬と怨嗟の炎に身を包んだ男子生徒たちがいた。
「お前らいきなり何すんだ!」
弥一が抗議すると、男子生徒たちが言う。
「うるせぇ!!あんな美少女と結婚したうえに、ベットだと・・・ッ!!!」
「お前みたいな奴がいるから俺たちに彼女ができないんだ!!」
「魔王なんかより先にあのクソ野郎を殺るべきだと思わないか、同志よ!!!」
『オォオオオオオオオオオオオオオオーーーー!!』
「お前ら正気か!?」
赤裸々なセナの話に思春期真っ盛りな男子生徒の嫉妬が限界突破したようだ。身体の疲労も嫉妬と怨嗟で吹き飛ばし、各々魔力を漲らせ、武器を握りしめる。
殺る気満々の男子生徒たちを前に、弥一は焦り防御の魔術障壁を展開する。
その直後、障壁に幾つもの魔法が突き刺さる。魔法は障壁に阻まれ激しい爆発を生む。その威力はどう考えても致死レベル。
「殺す気かっ!!」
「だからそう言ってんだろぉがァアアアア!!!」
「ヤッちゃうよぉ〜。ヤッちゃってもいいよねェエエエエエ!!」
「コロスコロスコロス・・・」
「撤退!!」
狂気と化した生徒(だったナニか)を前に弥一は全力で逃げる。バーサーカーなんて優しいものではない、アレは何かもっとおぞましい邪神か何かの類だ!
弥一は古城の中に逃げる。広い中庭よりかわ屋内の方が囲まれるリスクは減る。
後方から迫る生徒(邪神の眷属)は、殺す事も厭わないレベルの殺意と怨嗟を魔法に乗せ容赦なく放つ。
『殺す"っ!!!!!』
「なんでだぁあああああ!!!」
魔術師と邪神の眷属の戦いの戦場は古城の中に移行する。しばらく、古城の中から激しい爆発音や怨嗟の雄叫びが木霊し、それと同時に弥一の悲鳴も木霊した。
「エルおねぇちゃん、パパとママなにやってるの?」
「・・・ユノ様は私と遊んでいましょうね?」
「うん!エルおねぇちゃんとあそぶー!」
「ユノ様は本当に可愛いですね」
元気に答えるユノの頭を撫でてエルは微笑む。その内心では弥一とセナの説教を決心した。
「やっと終わったか。一晩中だと眠いな」
昼間の依頼からの、この戦いである。流石に眠くなってきた。
弥一が欠伸を漏らし朝日を眺めていると、近づく足音が聞こえる。振り向くとそこには、凛緒、健、彩、雄也の四人がいた。
「やいくん・・・」
「・・・久し振りだな凛緒」
心配そうに見つめる凛緒に、弥一は気まずそうの答える。凛緒も何か言いたそうだが、ようやくの再会に上手く言葉が浮かんでこない、そんな表情だ。弥一も弥一で何から切り出したらいいかわからなくなっている。
しばらくなんとも言えない沈黙が二人の間を流れる。そんな中、沈黙を打ち破ったのは健だった。
「弥一、いろいろ聞きたいことはあるが・・・無事だったんだな」
「ああ、心配かけて悪かった。いろいろあったがなんとか生きてるよ」
そう言って弥一は自傷気味に苦笑いで返す。そんなやりとりで少し気が抜ける。
「それで弥一君、どうしてここに?」
「まぁ、その辺も後で話すさ。まずは戻ろうぜ、流石に眠くなってきたしな」
「それもそうね。私ももう疲れた」
口に手を当て欠伸を漏らす彩。それにつられて他の三人も欠伸を漏らす。夜の暗い中での死と隣り合わせの戦闘は、四人の精神を常に張り詰めさせ、それが安心したことで見えない疲労がドッと出てきた。
疲弊しきった四人の姿に弥一は格納庫からヘカートを呼び出す。
突如現れた黒い大型の車に、四人は眠気そっちのけで目を見開く。眠いせいか目が充血しているので正直怖い。
「なんだその車!?」
「魔力駆動四輪【ヘカート】、ガソリンじゃなく魔力で動く車だ。こいつについても後で話すから、取り敢えず乗れ」
「でも運転できるのか?」
「それはまぁ、魔術師なんで」
「なんでもありかよ魔術師・・・」
驚愕というより呆れた表情の四人は、疲れたので早く休みたいと思いヘカートに乗り込む。
後部座席に彩と健、雄也が座り助手席には凛緒が座ると弥一はヘカートを走らせる。
デコボコの地面を何度もバウンドしながら悪路を進む。激しく揺れるせいで四人は全く眠れず、気持ち悪そうに顔を青くするがそれは弥一も同じ。
範囲手加減するんだった・・・と今更嘆いても遅い。自業自得である。
ある程度進むと『落ちる輝き』の被害範囲を抜け、だいぶマシなところを進み始める。ガタゴトガタゴトと規則正しい揺れが四人を襲い、心地よさが眠気を誘う。
気がつけば後部座席の三人はウトウトと船を漕ぎ始めた。彩は健の肩に頭を預け、健の方もそんな彩の頭に頭を預け二人して仲良く眠っている。雄也は窓に頭を預けていた。
「あの二人本当に仲がいいな」
ミラー越しに二人を見て弥一はスマホで器用に前を向いたまま後部座席の写真を撮り、
「後でこの写真で存分にいじってやる」
と悪そうな顔でニヤリと笑う。そんな様子を凛緒は苦笑いで眺める。
そんな凛緒は眠そうながらも、必死に起きている様子。
「どうした凛緒?寝てもいいんだぞ?」
「ううん、いいの。・・・すこし、こうしていたいの」
「・・・そうか」
二人の間に会話は無い。
それでも凛緒はとてつも無い安心感を覚えていた。
ようやくの再会には今しばらく時間が欲しい、なにせ話したいことが多くあり過ぎて何から話していいのかわからない。
でもそれでいい。これから時間はたくさんあるのだから。
凛緒は穏やかな笑みを浮かべ明るくなった空を見上げる。
そんな凛緒の心情などつゆしらず弥一はハンドルを握る。
(どう切り出したもんかな・・・)
大迷宮のこと、『闇』魔王軍六属のこと、話すことは沢山ある、そしてもっとも重要であろうことが三つ。
一つ、セナのこと。
二つ、ユノのこと。
三つ、エルのこと。
この三つの内容は特に慎重にいかなければいけない。下手に説明すれば嫉妬に狂ったクラスの男子共に殺されかねない。
美少女の嫁に、美人の従者、そして美幼女の娘と嫉妬に狂う要素はぎっしり。怨嗟の宝箱である。
心穏やかに微笑む凛緒とは反対に、心穏やかではない弥一。
((何から話そうか))
両者の思惑が一致する。しかし意味は全く違うが・・・
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
走ること数分、古びた城が見えてきた。城壁付近では魔物の死体が山のように積み上げられている。
その中を突き進み城門の前まで来ると、事前に話が通っているのか門が開けられ、中に入れた。
城壁の内部に入りヘカートを止めて外に出る。
「んんっ〜〜、よく寝た」
「そ、そうね」
「ん?どうした彩?顔が赤いぞ」
「なんでもない!」
健に頭を預けて寝ていたことが恥ずかしかったのか彩は顔を赤くしてそっぽを向く。幸い健が起きる前に彩が起きたので、健が彩が頭を預けていたことは知らないのは良かった。
だが、彩は知らない。その光景をバッチリ見られていたのを、そしてその光景が弥一によって撮られていることを・・・!
それはさて置き、雄也たちが帰ってきたのを見てクラスメイトたちが集まってくる。クラスメイトは大地たち以外の全員が、弥一がいるのを見て驚く。
それでも結果の方が気になるようで、自然と雄也の方に視線が集まる。
雄也は全員の視線が自分に集まるのを感じると、光り輝く聖剣を掲げ言う。
「この戦い、僕たちの勝利だっ!!」
『おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーー!!!!』
巻き起こる拍手喝采。負傷者も含め全員が声をあげてその勝利を噛み締める。中には泣き崩れる者もいて、その勝利に舞い上がる。
雄也は申し訳なさそうに弥一を見る。勝ったのは弥一なのだが、一刻も早く勝利を全員に伝えたかったため、言ってしまったことに申し訳なさを感じているようだ。
それを理解している弥一はどうってことないといった表情で手を振り、ヘカートを戻そうと思った時、
「パパ〜〜!!」
元気のいい声とともにこちらに向かってくる幼女を見る。幼女、ユノは拍手喝采で騒ぐ人の波を器用に避け人混みを抜けると、弥一に飛びつく。
「パパおかえりなさい!」
「ただいまユノ。いい子にしてたか?」
「うん!あのねパパ、ユノいーっぱいがんばったの!まものをいっぱいたおしたの!ユノすごい?」
「おお!すごいぞユノ!ユノは偉いな〜」
ユノの頑張りを親バカ弥一は褒めるとユノの頭を撫でる。大好きなパパに褒められてなでなでされたユノは、気持ちよさそうに目を細めさらにギュッと抱きつく。
とその時拍手喝采で騒ぐ人々(主に男子)の雰囲気が少し怪しくなり、静かになる。
一方、そんな空気に気付かない弥ー。クラスの視線が見守る中、さらに事件は動き出す。
「おかえり弥一」
「おかえりなさいませマスター」
「ただいま。セナ、エル」
「ママ!パパに褒めてもらえた!」
「良かったねユノちゃん」
銀髪美幼女に続き、現れたのは蒼髪の可憐な美少女と翠髪の美人メイドである。
突如発生したハーレムにその場の全員がフリーズする。誰もがポカーンと言った表情だ。
「今あの子は日伊月の事をなんと言った?パパ!?それに蒼の美少女に向かってママ!?!?』
『マスター。日本語で『ご主人様』・・・美人エルフのメイドさんだと!?!?』
『もしかして二股か!?一体何がどうなってるんだ!?』
クラスの中で様々な意見が飛び交う。野次馬はヒソヒソからガヤガヤに変わり、弥一に様々な視線が突き刺さる。奇異、好奇心、驚愕、嫉妬、怨嗟、と言った視線のオンパレードは徐々に鋭くなっていく。
そんな中、弥一たちに歩み寄る影が一つ。凛緒だ。
凛緒はゆらりゆらりと幽鬼の様な足取りで弥一に近ずくと、ガシッ!と弥一の肩を掴む。
「やいくん・・・」
「は、はい。なんでしょうか」
「この人達について、説明、してくれるよね・・・?」
「ソ、ソレハモチロン」
背後にゴゴゴゴーーッという様な効果音と背景が似合いそうな雰囲気で凛緒が笑う。その目は完全に据わっており、魔術師は得体の知れない恐怖の前に、カタコトになりながら返事をする。
そして弥一が言う。
「まず最初にこの蒼い髪の女の子がセナ・アイヤード。・・・俺の嫁だ」
『はいぃいいいいいいいい!?嫁!?!?」
「セナ・アイヤード。職業は第十階梯の冒険者で、弥一の妻」
衝撃の一言に全員が声を揃えて叫ぶ。そんな中でもセナは堂々と嫁宣言をすると、弥一の腕に腕を絡める。
誰もが唖然となる中、弥一は続ける。
「次にエル。俺の従者だ」
とここでエルがブチかます。
「エルネウィアです。職業は冒険者で、マスターの従者兼愛人です」
「違うだろ!?こんな状況でふざけないでくれ!?」
「しかしマスター、こういうのは『お決まり』ですよ?」
「確かにそういうのはあるけど今はそれが許される様な空気じゃない!!割とマジで誤解されるだろ!!」
『愛人・・・』
『あんな美少女な嫁がいながら、愛人だと・・・』
『許せねぇな・・・』
「ちくしょう!!遅かった!!」
誤解のままエルと弥一の関係がクラスメイトに認知されると、視線の中に汚物を見る様な視線が混じり始める。
天に向かって嘆く弥一は、「後で事情をキチンと話せば伝わる、よな?」と半分諦めの境地に入ると、気を取り直して次に進む。(この時エルは可笑しそうに顔を背けて堪えていた。)
「最後にユノ。」
「ユノです!パパとママのむすめです!」
元気良くニコッとユノが笑うと、その場の全員の空気が和む。純真無垢な天使の笑顔に誰もが骨抜きにされるが、よ〜く今の紹介を思い出して欲しい。
ーーユノです!パパとママのむすめです!
ーーパパとママのむすめです!
ーーむすめです・・・
ーー・・・・・・・
ほらね?おかしいでしょ?
『はいぃいいいいいいいいいいいいい!?!?娘ぇええええええええええ!?!?』
衝撃発言に一同絶叫する。会話の中から推測(とゆうかそれしかありえない)すると、パパとは弥一で、ママはセナのこと。
行方不明になった同級生が戻って来れば、結婚していて子供がいるという常識外れなエロゲ展開にもうついていける強者はいない。
『どうなってるんだ!?』と誰もが思って動かないでいる。そして暫く邪険というか殺意の空気が流れる中、遂に動き出したものがいる。
得体の知れないオーラを放ち、魔王か邪神かのような雰囲気で一歩踏み出したのは、凛緒。魔力を無意識に放っているのか、周囲の塵や砂が浮かび上がり、一歩踏み出すたびに辺りの空気が魔王(凛緒)の空気に侵食されていく。
流石の迫力に誰も動かずにただただ行方を見守る。
「あ、あの、凛緒さん・・・?」
額に大粒の冷や汗を浮かべ、思わず一歩下がる。しかし、凛緒はガシッ!!と両手で弥一の肩を掴み逃がさない。
「ーーーこと、・・・」
「へ?」
「どういうことなのーーーーーーーっ!!!!!!」
「おわっ!ちょ、まっ!頭をガクガクしないでくぇえええ!!」
涙目で叫びながら凛緒が弥一の頭をシェイクする。ガクガクと頭の中を掻き混ぜられて気持ち悪くなる。解こうにも、どこにこんな力があるのかと思うほどガッチリ固定され解けない。
高速でシェイクされ中々にグロッキーな状態になってきた弥一。とそんな所に救世の天使が降臨する。
「弥一から離れて」
そう言ってセナは凛緒から弥一を引き剥がし腕を絡める。
セナと凛緒の間で幻影の稲妻が炸裂する。見えないはずなのに、当たれば即死するのでは?と思うほどの空気が二人の間で巻き起こる。
「・・・セナさんだっけ?悪いけどこれは、私とやいくんの話なの。関係のない人はすっこんでて!!」
「関係無くない。私は弥一のお嫁さん。誰にも弥一は渡さない!!」
「そ、そんなの言葉だけでしょ!!」
「これが証拠」
そう言ってセナは左手を見せる。その薬指にはキラリと輝く銀の指輪。それは弥一も左手にもある。
「!?それはーーーっ!」
「これで理解した?」
指輪を見て愕然と目を見張る凛緒。セナは「勝った・・・!」といった表情で、満足げに凛緒を見る。
凛緒は「む、むうぅう〜〜〜〜っ!!」と頬を膨らませ睨む。そして負けるものかっ!!と反撃を開始する。
「それでも、私の方がやいくんのことをよく知ってる!小さい頃からいつも一緒だもん!セナさんはわかる?子供の頃のやいくんのこととか趣味とか?」
「くっ!・・・でもそれならあなたが知らない弥一を知ってる」
「そ、それは?」
ふっ、と笑ってセナは迎え撃つ。
「弥一のプロポーズの仕方とか」
「・・・!」
「キスの味とか」
「・・・っ!」
「それと、ベットの中とか」
「・・・!!や、やっぱりそういうことも・・・!!」
最後の一撃に凛緒の顔が真っ赤に染まる。セナと凛緒のやり取りを聞いていたクラスの女子も「きゃー!」と声をあげて大はしゃぎ。
その後、凛緒の反応からこの攻撃が有効と判断したセナは、次々と暴露していく。弥一との初めて結ばれた時のことや、七夕の時のことなど、果ては弥一の性癖まで暴露する始末。
「お、おいセナ?そう言って話はやめような?というかもうやめて下さいお願いしますっ!!」
夜の話を赤裸々に語られ、弥一は恥ずかしさのあまり叫ぶ。しかしセナと凛緒はお互いにどれだけ弥一を知っているか勝負し始め、弥一の言葉が聞こえていないようで、凛音とセナは言い争いを始める。
こうなれば直接止めるか、と近づこうとしたその時、弥一目掛けてナイフや矢のような飛び道具が複数飛んでくる。
「おわっ!?」
咄嗟にその場から跳びのき、飛んできた方向を見ると、そこには嫉妬と怨嗟の炎に身を包んだ男子生徒たちがいた。
「お前らいきなり何すんだ!」
弥一が抗議すると、男子生徒たちが言う。
「うるせぇ!!あんな美少女と結婚したうえに、ベットだと・・・ッ!!!」
「お前みたいな奴がいるから俺たちに彼女ができないんだ!!」
「魔王なんかより先にあのクソ野郎を殺るべきだと思わないか、同志よ!!!」
『オォオオオオオオオオオオオオオオーーーー!!』
「お前ら正気か!?」
赤裸々なセナの話に思春期真っ盛りな男子生徒の嫉妬が限界突破したようだ。身体の疲労も嫉妬と怨嗟で吹き飛ばし、各々魔力を漲らせ、武器を握りしめる。
殺る気満々の男子生徒たちを前に、弥一は焦り防御の魔術障壁を展開する。
その直後、障壁に幾つもの魔法が突き刺さる。魔法は障壁に阻まれ激しい爆発を生む。その威力はどう考えても致死レベル。
「殺す気かっ!!」
「だからそう言ってんだろぉがァアアアア!!!」
「ヤッちゃうよぉ〜。ヤッちゃってもいいよねェエエエエエ!!」
「コロスコロスコロス・・・」
「撤退!!」
狂気と化した生徒(だったナニか)を前に弥一は全力で逃げる。バーサーカーなんて優しいものではない、アレは何かもっとおぞましい邪神か何かの類だ!
弥一は古城の中に逃げる。広い中庭よりかわ屋内の方が囲まれるリスクは減る。
後方から迫る生徒(邪神の眷属)は、殺す事も厭わないレベルの殺意と怨嗟を魔法に乗せ容赦なく放つ。
『殺す"っ!!!!!』
「なんでだぁあああああ!!!」
魔術師と邪神の眷属の戦いの戦場は古城の中に移行する。しばらく、古城の中から激しい爆発音や怨嗟の雄叫びが木霊し、それと同時に弥一の悲鳴も木霊した。
「エルおねぇちゃん、パパとママなにやってるの?」
「・・・ユノ様は私と遊んでいましょうね?」
「うん!エルおねぇちゃんとあそぶー!」
「ユノ様は本当に可愛いですね」
元気に答えるユノの頭を撫でてエルは微笑む。その内心では弥一とセナの説教を決心した。
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