魔術がない世界で魔術を使って世界最強

海月13

対するは星の生命

「さぁ、俺とお前のゴーレム、どちらが強いか勝負といこう」

画面に映し出された銀の巨人を見ながら、弥一は手元の左右のレバーを握る。

至るところに配線が巡り、椅子の左右にはレバーとキーボードが配置されている。その光景は誰もが一度は憧れるガ◯ダムのコックピットのよう、いやコックピットそのものである!

そんな夢溢れるコックピットで弥一が操縦しているのは、フェルセン大迷宮の最下層に存在した、あのプラズマの魔導人形である。

元々これは自動で動く魔導人形で、人が中に入って操作する様にはなっていないのだが、弥一はこれを人が中に入って操縦できる様にしたのだ。

なぜかって?

それはロボットは男のロマンだからさ!!

「セルフチェック開始。魔力変換炉、正常値を確認。メインカメラ、異常なし。情報伝達回路、異常なし。残量魔力、97パーセント」

モニターに表示される情報を確認しながら、順々に魔導人形の動作を確かめていく。

「システムオールグリーン。さぁ行くぞ、【インドラ】!!」

【インドラ】。自然現象である雷を擬人化し、アーリア人戦士の理想的武勇神とされるインドのベータ神話の最高神の事で、この機体名である。

「ーーッ!やってしまえ!ミスリルゴーレム!!」

ゴーレムが冗談のようには吹き飛ばされたことに暫し沈黙していたコルトアだが、【インドラ】が動き出すのを見て慌ててミスリルゴーレムを動かす。

ゴーレムは拳を握り【インドラ】に殴りかかる。

【インドラ】は迫り来る拳を逃げようとしない。迫り来る拳は先ほどの雄也たちのときの攻撃とは比較にならない威力を秘めている、が

「遅い!!」

ブースターで加速しゴーレムの懐に潜り込んだ【インドラ】は、加速の勢いを殺さず拳に乗せて放つ。

「なにっ!?」

ゴーレムは腹部が大きくへこみ吹き飛ばされる。ズガガガガガガガガ!!と地面に巨大な二本線を引きながら数メートル吹き飛ばされると、ゴーレムの身体にヒビが入る。

「そんな馬鹿な!?ミスリルを触媒に使ったゴーレムだぞ!?一体あれはなんなんだ!?」

「すごい・・・」

誰もが目の前の非常識な光景に息を呑む。最初は怒り心頭だったコルトアも、今では信じられないとばかりの表情で、飛ばされたゴーレムをみる。

それとは対照的に弥一は【インドラ】
を動かして呟く。

「少し伝達のタイムラグがあるな。ここはもう一度プログラムを修正だな」

元々自立稼働だった魔導人形を、手動で操作するように改造したため、伝達系の部分でどうしてもまだタイムラグが存在する。それでもそのタイムラグはごく僅かな物だ。

「まぁ、さっさと片付けるとするか」

手をくいっと曲げて挑発する。それを見たコルトアはガッ!と地面を蹴る。

「調子にのるなよ人間が!!ミスリルゴーレム!あの巨人を切り飛ばせ!!」

するとゴーレムの腕がうねっと変化し、腕が巨大な剣となる。

「へぇ、ならこちらも剣をだそうか」

武器を出したゴーレムに対抗するべく、弥一も武器を取り出す。

腰に装備した剣の柄のようなデバイスを抜くとデバイスからコードが伸び、腕を接続。そしてコックピットのキーボードを操作して、動力炉からエネルギーを供給する。

供給されたエネルギーはプラズマの光を散らし、デバイスからプラズマでできた刃が現れる。

「なっ!?」とコルトアは何度目になるか驚愕を示し、逆に健たちは「ビー◯サーベル!?もう完全にガ◯ダムじゃねぇか!!すげぇ!!」「弥一くんいつからガ◯ダムマイスターになったのよ・・・」と別の意味で驚愕だ。

デバイスから現れたブレードを二度振るうと、切っ先をゴーレムに向ける。

「かかってきな」

【インドラ】から外に聞こえたその言葉は開戦の合図となり、ゴーレムが地面に跡を残しながら突っ込んでくる。

二本の剣は闇夜でも銀の光を反射し、虚空に銀の線を引く。しかし、銀線が【インドラ】に触れることはない。

左右から迫る銀線、【インドラ】はまず左から迫る銀線を屈んで回避、そして続けて右から襲い来る銀線目掛けて、プラズマのサーベルで斬りかかる。

バヂィイイ!!とミスリルの剣とプラズマの剣が火花を散らし、拮抗する両者を照らす。

異世界の金属と男のロマン、果たしてどちらが勝つのか。その結果はあっけなく表れた。

ミスリルの刀身が赤く発光すると、ジュゥッ!という音と共に融解し、次の瞬間、ミスリルの剣がプラズマのブレードによって斬られた。

さらに返す刃でもう一本の剣も斬り飛ばす。二本の剣を失い、ゴーレムは完全に攻撃手段を失った。

「終わりだ」

一線。戦う術を失ったゴーレムの巨体をサーベルが横一文字に切断し、ゴーレムを沈黙させた。

「核の位置は把握済みだ。このゴーレムはもう動かねぇよ」

「馬鹿なっ、馬鹿な馬鹿な馬鹿な!!この俺のゴーレムがこうも容易くやられるなど!!」

ガッ!ガッ!と地団駄を踏むコルトア。いくらゴーレムに命令しようとも反応がない。ゴーレムの核は完全に融解させられたのだ。

【インドラ】の胸部のハッチが開き弥一が姿を現わす。

「確かにこの世界の水準でそのミスリルゴーレムは破格の脅威だろう。だけどあいにく、俺たちの世界じゃあ通用しない。魔法のゴーレムと魔術のゴーレムじゃあ根本的に違うんだよ。さて、」

ハッチから飛び降りて着地すると、パチンッと指を鳴らし【インドラ】をフェルセン大迷宮の地下格納庫に転送する。

そしてもう一度指を鳴らすと、地面から無色の魔術陣が通り過ぎ、腰に愛刀【蒼羽】が転送された。

シャンッ!と抜刀すると、【蒼羽】の刀身が月明かりに反射し輝く。そして魔力を流すと、刀身に刻み込まれた刻印が薄く蒼く発光し、擬似空間切断の魔術が起動する。

そして【蒼羽】の切っ先をコルトアに向ける。

「そろそろ決着といこうか」

「おのれぇえええええええーー!!!」

怒り心頭のコルトアは、地面を放射線状に砕き蹴り、目で追うのがやっとのスピードで飛び出す。しかし怒り心頭でも身体は冷静なようで、上段から斬りかかる。

だが銃弾すら視認する魔術師の目は、突撃してくるコルトアを正確に捉えていた。

上段からの剣にタイミングを合わせ、下から切り上げる。

ガキィイン!!と激しい金属音と火花が散り、両者が拮抗する。初めの内は拮抗していた剣同士だったが、次の瞬間、ミスリルの剣がズパンッ!と切断される。

そのまま弥一は体制が崩れたコルトア目掛け鋭い回し蹴りを放つ。

化け物じみた鋭く重い蹴りは、コルトアの左側に直撃。ベキバギッ!と骨が砕ける音が聞こえ、その状態で冗談のように吹き飛ばされる。

地面を幾度もバウンドし、百メートル飛ばされると、やがてそこで巨大な岩にぶつかり、そのまま半分近くまでめり込む。

「ーーーーガッ!!ば、馬鹿な、なんだその力はっ!」

「おっ、意外としぶといな。この前の『闇』使いとは違うな」

「『闇』使い・・・まさか、『闇』のアルマダか!?数ヶ月前から連絡が無いと思えば、貴様がやったのかっ!!」

「ああ。なかなか面倒な事をしてくれたクソ野郎なら俺が倒したが?」

そう言って飄々と弥一は答える。その態度を見てコルトアは目を見開く。

「奴は魔法研究が専門で魔王軍六属の中では最弱ではあったが、それでもたった一人の人間ごときが敵う相手ではない!貴様、一体何者だ!!」

叫ぶコルトアに魔術師はその名を名乗る。

「魔術師日伊月弥一。いずれ最高父さんを越える魔術師になる男だ」

風に煽られコートの裾が翻る。月を背に立つ魔術師は不敵に笑う。

「魔術師だと、一体それはなんだ・・・!?」

「答える義務はないな」

トンッと踵で地面を蹴る。それと同時に弥一の背後に輝く大量の魔術陣が生まれ、それぞれがコルトアを狙う。

「行け」

合図と共に魔術陣が煌めき、幾つものレーザーがコルトア目掛け、一直線に闇夜を切り裂く。

「ーーーッ!!??」

迫る無数の光に驚きつつも、即座に横に跳ぶ。だが光のレーザーは途中で、まるで反射するように曲がると、コルトアの後を狙う。

「《大いなる大地の力・我が敵を防ぐ壁となれ》!!」

コルトアの前で大地が大きくせり上がり、レーザーと衝突する。激しい音と共に爆発と土煙が上がり、コルトアの姿を見失う。

やがてレーザーが止み土煙が晴れると、ボロボロに穴が開いた土壁と、その奥に
右腕がないコルトアが立っている。

「がはっ!なんだ、今の魔法・・・!詠唱も無しにあれだけの数の魔法を同時発動だと・・・!?」

「無詠唱ってそんなに凄いもんかね?まぁ、確かにこっちの世界には魔術回路がないから仕方ないんだけども。あとこれは魔法じゃねぇ、魔術だ」

「魔術、だと・・・?」

「ああ。さて、そろそろチェックメイトといこうか」

「くっ、!」

背後に魔術陣を展開させ、【蒼羽】の切っ先をコルトアに向ける。

突き出される切っ先を前に、コルトアは敗北を味わう。

自分は右腕を失い、満身創痍の状態。それに比べ相手は、消耗一つなく無詠唱で凄まじい威力の魔法を複数発動してくる。さらに身体能力もあちらが圧倒的に高い。

「ぐっ、ぐぐぐっ!!おのれ、おのれ・・・ッ!!!」

その絶望的なまでの敗北に、コルトアは歯を噛み締めて唸る。

魔王軍最強の一人として周りから恐れられ、圧倒的強者として君臨していた自分が、格下の人間に圧倒的な大差を見せつけられて敗北する。その事実に怒りの炎を燃やす。

そしてその強者としてのプライドがこのまま終わらせるわけにはいかないと叫ぶ。

「粋がるなよたかが人間如きの劣等生物が!!このまま、このまま終わらせるものかぁああああああ!!!」

燃えるプライドを叫び、コルトアは地面を殴る。すると手のひらの中から激しい紫の光が漏れ、その光が地中に流れる。

そして光が地面に染み渡ると、巨大な魔法陣が生まれた。

「フハハハハ!!このままで終わると思うなよ人間!!人間に殺されるくらいなら、自らを糧とし、貴様らも道連れにしてくれる!!」

そう最後に叫んだ瞬間、コルトアの足元の地面がゴバッ!と盛り上がり、コルトアを呑み込んだ。

「なに!?しまった!」

慌てて弥一が叫ぶが、もう遅い。

地面はコルトアを呑み込むと、急速に膨れ上がり、巨大な人間を形作っていく。その大きさはみるみる膨れ上がり、最終的には五十メートル近くまで大きくなった。

巨大な土塊の巨人。ゴーレムだ。

『オオオオオオオオオオオオーーーー!!!!』

「ちっ!あの野郎、自身を核として取り込みやがった!」

ゴーレムの叫びが風に乗って戦場を舞う。弥一は毒付き、すぐさま指を鳴らして魔術を放つ。

光のレーザーは、ゴーレムとの距離を瞬時に消し飛ばし着弾する。ゴーレムの胴体を貫き、穴を開ける。だが、次の瞬間には穴が塞がっている。

「驚異的なスピードだな。おそらく粉々に消しとばしてもあっという間に再生するだろうな」

うへぇー、と弥一は嫌そうな表情を浮かべる。

どうしたもんかと悩んでいると、満身創痍と言っても大袈裟ではなさそうな雄也たちがやってきた。

「弥一!お前無事だったのか!?」

「おお、健!数ヶ月ぶりだな。だけど悪い、その話は後にしてくれ。今はあのゴーレムをなんとかしなきゃならない。・・・くるぞ!」

そう言って顔を上げ天を仰ぐ。すると五十メートルのゴーレムが、巨大過ぎる拳を振り下ろしてきた。

五十メートルという巨体に見合わぬ速度で繰り出された拳は、ゴウッッ!!!と空気の唸りと共に、弥一たちの頭上に落ちてくる。

全員一斉にその場から飛び去る。それによってゴーレムの拳は何も無い大地を打ち、ゴバァアアン!!とクレーターを作る。

「あぶねぇえ!!どうする弥一!あんなの喰らったらひとたまりもねぇ!さっきのロボでどうにかなんねぇのか!?」

「【インドラ】はまだ試作段階だから、これ以上の稼働は出来ないんだよ!」

「ならこれなら!!」

聖剣ルナ・エルームに炎を纏わせ雄也はゴーレムの足を狙う。聖剣の重く鋭い一撃はゴーレムの足に衝撃と爆炎を与え、大木ほどの足の一部を吹き飛ばす。

しかし次の瞬間には、大地から地面が盛り上がり足を完全に修復する。

「そんな!?早過ぎる!!」」

「離れろ相川!!」

驚異の再生スピードに驚く雄也目掛け、ゴーレムが作り出した巨大な棍棒が振り下ろされる。

「《縛れ》!!」

一節の権言と共に黄金の魔術陣がゴーレムの足元に浮かび上がる。発生した黄金の鎖が幾重にも絡まり、ゴーレムを拘束する。ゴーレムの動きが止まった隙に雄也がその場から離れる。

「《練り上がれ怨嗟の赤・その赤は怨嗟に燃える呪いの炎・なれば我が前に赤き運命を》!」

周囲に赤の魔力光が走り、魔術陣が描かれ弥一の足元に魔術陣が展開する。魔術陣の二重の外周円がそれぞれが反対方向に高速回転すると、地面をどこまでも赤い炎が包む。

炎は地を這い爆発するように駆けると、黄金に縛られたゴーレムに纏わりつく。激しい炎がゴーレムの全身を薙ぎ、その巨体を瞬時に呑み込む。

『ゴオオオオオオオオオオオオーーーー!!』

「凄い・・・!何あの魔法」

「魔法の炎じゃねぇよ、魔術の炎だ。それも『死』の運命を持った呪いのな」

魔法の威力に驚く彩に弥一は答える。

弥一が放った炎はただの炎ではない。生けるものに『死』の運命を突きつける呪いの炎だ。これを喰らったが最後、死ぬまで炎が消えることはない。

ゴーレムに這う炎はゴーレムの隅から燃やしていく。ゴーレムは必死に再生しようとするが炎が燃やす方が早い。やがて目に見えてゴーレムが苦しみだす。

「よし、これならーーーっ!?」

留めとばかりに魔力を滾らせようとしたその瞬間、赤い炎の中でゴーレムの体が薄く発光する。

刹那、ゴーレムから莫大な魔力が吹き荒れ、赤き魔術の炎が吹き飛んだ。

「んだと!?バカな、呪いの炎だぞ!?それになんだこの魔力はっ!」

溢れ出す上質な魔力の奔流が吹き荒れ、爆発の後に起こるような強烈な衝撃波によって、あらゆるものが吹き飛んだ。

「なんだこの上質な魔力、しかも量が半端ない。こいつはいったい・・・」

「ねぇ弥一君!あれ!」

彩が何かを見つけたのかゴーレムの足元を指さす。そこには先ほどまで普通の大地だった部分が、砂になっている。


まるで大地が枯れたように。


「大地が、死んでる・・・まさか、あいつ『星の生命』に繋がってるのか!?」

「やいくん、『星の生命』って?」

「『星の生命』文字道理、星がもつ命のことだ」

動物、植物、物、それぞれには必ず命という寿命がある。それはもちろん星にもだ。

様々な命の中でも星の命は無限にも等しく莫大であり、星に根ずく命に恵みとして命を与えるほどだ。

つまり、そんな莫大な命と繋がっているということは、

「あのゴーレムは『星の生命』と繋がり、星から命を吸い上げてそれを再生に使っているんだ。そして呪の炎が効かなかったのは、『死の運命』を『星の生命』で打ち消したから。それくらい『星の生命』は莫大なんだ。くそっ!」

吹き荒れる莫大な魔力と驚異的なゴーレムの再生スピードの正体に、弥一は地面を蹴って毒づく。『星の命』と繋がるということは、その星そのものになるということ。地球では創造人間ホムンクルスと同じで、星に関与する魔術は最大の禁忌とされている。

「それじゃあ、まさか・・・!」

「ああ、このまま奴を放置しておけば奴は完全に星と同化しちまう。そうなったらもうどうしようもない。奴を倒しきることは不可能になる」

「そんなっ!!」

弥一の説明に凛緒は息を呑む。それは凛緒だけでなく、他の人間も同じ。

絶望的な状況に重い空気が流れる。

そんな中ふと、傍で魔力の流れる。魔力の源を見るとそこには不敵に口元をゆがめる弥一の姿。その魔力は小さいながらも高濃度に濃縮されており、それはまるで、抑えきれない水が勢いよく漏れ出すように。

「星と繋がったゴーレム、流石は魔王軍最強なだけはあるな。バケモノだ、でも、」

そう区切って弥一が八重歯を向いた途端、周囲が不自然に揺れ始める。

弥一の周囲にバチバチと迷走電流のように深い蒼の魔力の稲妻が明滅。すると地面が揺れだし、稲妻の明滅と共に周囲の塵や土が浮き上がる。

凛緒たちが揺れで地面に手を付き、突如発生した不思議な現象に目を見開く。そしてその現象を生み出した原因は、静かに口を開く。

「だからこそ、倒しがいがある・・・!」

直後、弥一から爆発的な魔力の奔流が溢れ出す。生み出した衝撃波がすべてを薙ぎ倒し、弥一は瞬間的に空へと舞う。

ゴーレムはその弥一から溢れ出す膨大な魔力に気づき、脅威と認識すると両手から石の槍を無数に放つ。

迫る数の暴力に対し、弥一は金剛障壁を展開して防ぐ。

「半端な攻撃じゃあ俺は倒せねぇよ!!」

障壁の裏側から幾多の魔弾を放ち、魔弾に紛れてレルバーホークをフルブレット。

魔術と金属の弾丸は迫る石の槍を破壊しながら闇夜を切り裂き、ゴーレムは咄嗟に腕を掲げる。

弾丸はゴーレムの腕に着弾し、腕を吹き飛ばす。しかし、次に瞬間には切断部から土が盛り上がり腕が再生している。

「半端な攻撃じゃあ倒せないのはそっちも同じか」

ゴーレムは腕を再生させると、腕を弥一目掛けて薙ぎ払う。その速度は以前の攻撃より速く、重い。

ゴーレムの腕を弥一は【蒼羽】で受ける。伝わる重い衝撃を後ろに飛ぶ事で受け流し、地面に着地すると【蒼羽】を地面に突き立てる。

そしてそのまま弥一は駆け出す。地面に一本の線を引きながらゴーレムの周囲を疾風のごとく駆け抜ける。

『オォオオオオオオオオーーーー!!!』

ゴーレムが吼える。すると砂漠の大地が広がり、ゴーレムから莫大な魔力が吹き荒れる。

「あのやろう何する気だ」

駆けながらゴーレムを観察すると、次の瞬間、ゴーレムの身体に木の根が生えて纏わり付く。

そして木の根と一体化したゴーレムは、弥一を一睨みする。

直後、地面が大きく揺らぎ、地面を破って木の根が弥一に殺到する。

「思ったより同一化が早いな!」

【蒼羽】を地面に突き立てたまま振り返り、火の魔術で焼き払う。

炎は木の根を炭一つ残さず燃やし尽くす。だが、燃やした端から次々と木の根が生えてきて弥一を強襲する。

「厄介だなっ!」

いちいち火の魔術で焼き払っていては、時間が足りない。こうしている今もゴーレムは『星の生命』と同一化しようとしている。急いで手を打たなければ取り返しがつかなくなる。

とその時、上空から炎の矢と風の魔法が木の根目掛けて飛んでくる。

木の根に着弾した炎の矢は、木の根を伝い炎が広がる。そして風の魔法が広がった炎をさらに拡散させ、木の根を燃やして行く。

そしてそこに二つの影が落ちてくる。健と雄也だ。

「弥一!こいつは俺たちが引き受ける。そのうちにあいつを止めてくれ!」

「日伊月!ここま任せてくれ!【精霊付与】!!」

炎を纏った聖剣ルナ・エルームを握る雄也と、雄也の【精霊付与】によって炎を纏った籠手を掲げる健。二人は炎の海の中、うねる木の根を見据え、それぞれが構える。

「・・・わかった。二人とも、頼む!!」

二人の覚悟に、弥一は安心して背を預け、再び【蒼羽】で地面に線を引きながら駆け出す。

遠くでは彩と凛緒も、矢や魔法を放って健と雄也のサポートをしている。たかが根ならあの四人にかかれば大丈夫と、考えた結果だ。

走る、ひたすらに弥一は地面に傷をつけながら走る。ガガガッと地面を削り、線を引いて行く。その形はまるで巨大な魔術陣。

「これで、どうだっ!!」

キンッという音と共に【蒼羽】を引き抜き、地面に手を付く。そしてバチバチと蒼い魔力を迸らせ、描き上げた図形、魔術陣に魔力を流し込む。

蒼い魔力光が線を伝わり、巨大な魔術陣の魔術が発動する。

「【断絶結界】これでもうお前は終わりだ」

直後、ゴーレムから溢れていた潤沢な魔力が消える。更にはゴーレムを覆っていた木の根がボロボロと枯れていきなくなる。そう、『星の生命』との接続が切れ
たのだ。

大規模儀式魔術【断絶結界】。対象を物理的、魔術的など、対象にあらゆる干渉を強制的に断絶する儀式魔術。

完全に『星の生命』と繋がっていなければ切断できる。弥一はこれを直接大地に魔術陣を刻む事で、ゴーレムと『星の生命』との接続を断ち切ったのだ。

「正直、キツかった。あと少し遅かったら【断絶結界】でも断ち切れなかったからな。さて、」

【蒼羽】を滞納し、ゴーレムを見上げる。

ゴーレムは、今完全に『星の生命』との接続を絶たれ再生ができない状態。しかし、再生が無くともゴーレム自身も十分脅威。

『ゴォオオオオオオオオオオオ!!!!!』

憤慨するようにゴーレムが雄叫びをあげる。空気をビリビリと揺らし、その手に持った棍棒を振り上げる。それは「まだ終わらない」と言っているようで。

「いいや、もうお前は終わりだよ!!」

振り上げるゴーレムを前に、弥一は詠う詠唱をする。

「《空に流れる数多の煌めき。かつてその輝きは天に昇り、天に落とされ巡り巡った。静かにそよぐ夜の帳を飾る幾千幾多の輝きに呑まれ、輝きの礎となれ》」

白い魔力の光の柱が天に昇り、天空を埋め尽くす巨大な白の魔術陣が形成される。大小様々な魔術陣が集まり作り出した巨大魔術陣はまるで、夜の星々を表すよう。

詠う黒衣の少年は、最後に静かに呟いた。


「《輝き、大地の盤上に還れ》」


告げられた詠唱に、空の魔術陣は答え、闇を猛烈に照らす。光の柱は逆さまに魔術陣からゴーレム目掛けて落ちてくる。次々と絶え間無く光は落ち、辺りを雷のような轟音と光で塗りつぶす。

その光景はまるで流星が落ちるように。

落ちる流星の名は大魔術【落ちる輝き】。弥一の持つ大魔術の一つである。


やがて流星が止む。後に残されたのは半径五十メートル近くが大きく陥没した大地。至る所が大きく陥没していて、無事なところは弥一が立っているところと、健たちがいるところだ。健たちの所には集中強化した金剛障壁を展開したうえで、【落ちる輝き】が落ちないように調節していた。

世紀末のような惨状のなか、最も陥没が激しいところがある。そこには粉々に消し飛んだゴーレムの残骸が残っていた。

「あんたのゴーレム、ひとりの魔術師として尊敬するよ。だけど、相手が悪かったな」

消えた敵に対して魔術師として賞賛を述べる。

史上類を見ない戦いはこうして終結を迎えた。

闇夜の戦場に光が差す。東を見れば真っ赤な朝日が昇っている。

戦争は新しい日の始まりと共に終わりを迎えたのだった。


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