魔術がない世界で魔術を使って世界最強

海月13

最終決戦


ズドォオオオーーーーン!!

爆発が起きる。爆発は水蒸気となり空気中に漂う。爆発は両者の間で起きていた。

「【純水城壁】!!」

セナがそびえ立つ巨大な水の城壁を造り上げるとそこにプラズマの雷撃が突き刺さる。電撃はその後爆発を起こす。
しかし、水の城壁は健在で、セナは水の城壁越しに彼方を見る。

ゴーレムは次々と雷撃を放つ。閃光は城壁との距離を瞬時に吹き飛ばし疾る、だが全て水の城壁に阻まれてしまう。どれだけ雷撃をぶつけても全て阻まれてしまう。

普通水は電気を通すもの、ではなぜセナの水の城壁は電撃を阻むのか。

それはこの水の城壁の水が普通の水ではないからだ。

理論純水。水が電気を通すのは水の中に含まれる不純物などを伝って電気が流れるためだ。しかし理論上の純水、理論純水は不純物が一切ない、そのため電気を伝える不純物がないので電気は流れない絶縁体となるのだ。

セナはそれを、弥一から教わり理論上でしか不可能な純水を魔法の力で可能にしたのだ。そしてその水を使った城壁は巨大な絶縁体だ。

再び閃光が疾り、水を爆発させる。水の城壁は雷撃を阻むが、その厚みがなくなってきている。

「まだ!【純水障壁】!!」

ゴーレムが放つが電撃はサーベル程の熱量はないが水を蒸発させる程の熱量は持つ、雷撃がぶつかるたびに雷撃の熱量が水を急速に沸騰させ城壁の表面で水蒸気爆発を起こす。

そのため城壁の水が無くなるたびに新たな城壁を作らなければならない。しかも不純物を一切含まない水を作り出すのには極度の集中力と魔力が必要となる。

さらに脅威は雷撃だけではない。

ゴーレムが雷撃による攻撃では有効打を与えられないと理解したのか牽制で雷撃を放ちつつ、サーベルを振り上げこちらに迫る。

「ーーッツ!【爆裂球】!!」

振り下ろされる膨大な熱量のプラズマの塊。あれを【純水城壁】で受けようものなら瞬時に全ての水を蒸発させられ大規模な水蒸気爆発を起こしてしまう。そんな事になれば無事では済まない。

すぐさまセナはサーベルが振り下ろされる軌道上に無数の火の球体を配置。
それをゴーレムは構うことなくサーベルを振り下ろす。そしてサーベルと炎が衝突し、爆発を起こす。
サーベルは爆発を引き裂きながら水の城壁に直撃し、またもや水蒸気爆発を起こす。

サーベルの熱量は大きく今まで以上の水蒸気爆発に寄って視界が霧に包まれる。
霧が晴れるとそこにはーーセナが立っていた。

セナはサーベルのプラズマのを爆発である程度飛ばし、【純水城壁】で防げる威力までに抑えたのだ。
しかし防げたとはいえ【純水城壁】のほとんどは蒸発させられ、水蒸気爆発の影響でセナの衣服は所々が破れ、爆発の衝撃波を脳に受け、軽い脳振とうを起こしてフラフラしている。

こんな状態でもゴーレムは待ってくれない。プラズマを吹き飛ばされたせいでサーベルを作り出すのにはエネルギーがないのかゴーレムはプラズマの雷撃を放ってくる。

「くっ、【純水城壁】!!」

すぐさま新たな【純水城壁】を展開し雷撃を防ぐ。この攻防が先ほどから続いている。その時間、約三分。たったその短い時間の中で受けた攻撃は数知れない。

セナの魔力も人外とはいえ限界がある。それに度重なる消耗と脳震とうのせいで【純水城壁】を作り出す集中力も危うい状況にある。

それでも魔力と集中力を振り絞ってただひたすら守りに徹底する。自分がやられれば後方で勝つための準備をしている最愛の人に危険に晒される。それだけはなにがあっても許されない!

(弥一は私を守ると言った、でもそれだけじゃダメ!私は弥一のパートナー。弥一が私を守ってくれるなら、弥一は私が守る!そうじゃないとあの愛おしい人の隣には立てない!!)

爆発で【純水城壁】が失くなる。
セナはいつ切れるかわからない集中力の糸をさらに張り、極限の集中力で魔力を更に効率良く循環させより少ない魔力で【純水城壁】を作り出す。

「はぁああああーーー!!!」

作り出した障壁は今までの障壁より分厚い、しかも使用魔力は先ほどの半分だ。

この時セナは新たなスキルに目覚めていた。それは弥一も持っている【思考強化】と魔法を半分の魔力で発動することができる魔法系の最高スキル【消費魔力半減】だ。

後天的にスキルが目覚めることは少ない。強い意志と願い、そのスキルに見合う技量が必要だ。そのため人生で後天的にスキルに目覚めることが出来るのは大体は一つあるいは後天的スキルに目覚めない者もいる。

しかしセナは同時に二つ目覚めた。最愛の人の隣に立つ為に、最愛の人を守る為に。

数十もの雷撃が襲う。雷撃は進化した【純水城壁】に阻まれる。起きる爆発。しかし【純水城壁】は無くならない。

ゴーレムはサーベルを振り振り下ろしてくるが、またも爆発でプラズマを飛ばし威力を減衰させ【純水城壁】で水蒸気爆発が発生。

「きゃあああああーー!!」

だがいくら進化したとはいえ衝撃までは防げずセナはついに吹き飛ばされる。

(ごめん、弥一あと少しなのに)

これまでの時間、四分。約束まであと一分足りない。

約束を果たせなかった悔しさ、力不足な悔しさ、いろんな自分に対する悔しさが襲う。

飛ばされるなか、視界にはゴーレムがサーベルを振りかぶっているのが見える。


まだ、死にたくない

まだ、諦めたくない


まだ、弥一の隣に立ちたい・・・!


薄れる意識のなか、そう願ったセナ。

そして目を涙を堪え目を瞑った瞬間、暖かいものに包まれる。

「・・・え?」

心地の良い暖かさに意識を戻し、目を開けるとそこには最愛の人がいた。

「遅くなった、待たせたなセナ。ありがとう」

「や、い、ち・・・」

弥一はサーベルに襲われる寸前のセナを助け出し空へと舞う。

ゴーレムはブースターを使った追いかけてくるが弥一の方が速い。すぐにゴーレムは地面に着地し雷撃を放つ。

弥一は即座に詠唱し、最強の盾を顕現させる。

「《神の盾!全てを阻む純白の輝きよ》!!」

銀の輝きが閃光を阻む。幾度も撃てど閃光が銀の盾を貫く事はない。
弥一は雷撃を防いでいるのを確認するとセナに【飛行魔術】を掛けておろす。

「ありがとうセナ、ようやく準備が整った」

「それが準備?」

弥一の手の中にある筒に目を向ける。先ほどミスリルで作った時より少し大きくなっている。

「ああ、これであいつが倒せる。セナはここで待っててくれあとは俺がやる」

「わかった、頑張って弥一」

頬に軽いキスをする。それだけで弥一は負ける気はしなくなった。

「ああ、俺の可愛い嫁をこんなにしやがったんだからタダじゃおかねえ」

そういって弥一は地上のゴーレムに向き直り、一気に飛び出す。

ゴーレムは一人飛び出した弥一目掛けて雷撃の雨を浴びせる。弥一はそれを躱し、躱し切れないものは【金剛障壁】の重複展開で防ぎ、距離を縮める。

一撃でも当たれば致命傷。雷撃の雨は視界を埋め尽くさんばかりに雨あられと襲いかかる。同時に三つの【金剛障壁】を周囲に展開し雷撃を防ぎ、躱し、受け流す。

「うぉおおおおおおおーーーー!!!」

腹から声を出し、雄叫びを上げながら少しでもゴーレムとの距離を縮める。受け流した雷撃が顔の横をかすめ、冷や汗をかきつつもなんとか躱しながら進み、加速する。

そして、ゴーレムとの距離が残り十メートルとなった所で筒を思いっきり振り絞り、投擲。

筒は回転しながらゴーレム目掛けて飛んでいく。
ゴーレムは飛来してくる筒を目掛け、雷撃のを放つ。そして雷撃は筒を直撃しーーー何事もなく飛んでくる。

「クロムやニッケル、コバルトなんかの耐熱合金に電気絶縁性に優れたエボナイトでコーティングした特製爆弾だ。とくと味わえ!」

弥一はセナが作った四分の間、【錬成魔術】を使ってこの爆弾を作っていたのだ。

【錬成魔術】で壁のなかに埋まる鉱石や物質を取り出し、それで爆弾をコーティングする材料を生成。
クロムやニッケルなどのを使い、熱に強い耐熱合金を作ってそれで爆弾を包み、爆弾と耐熱合金の間にエボナイトと呼ばれる生ゴムに多量の硫黄を混ぜ、加熱して得られる電気絶縁性に優れる物質を挟む事で、熱と電気に強いコーティングを作り出し、更にそこに【耐熱魔術】と【耐電魔術】を【刻印魔術】で刻む事でプラズマの雷撃に耐え得る物となった。

筒の爆弾は雷撃の直撃を受けても表面を少し焦がすだけで構わずゴーレムに吸い寄せられるように飛んでいく。

ゴーレムはサーベルを振りかぶり、爆弾を直接潰しにかかる。
いくら耐熱・耐電に優れているとしてもサーベルの直撃を受けては融解させられてしまう。

サーベルは弧を描き、爆弾に触れる直前、爆弾が爆発する。

ドォオオオオオンーーー!!と大きな音を立て、ゴーレムの近くで爆発する。
爆発の煙で覆われるなか、弥一はセナの所まで戻ってくる。

「やったの!?」

「まだだ。あの程度の爆発じゃああのゴーレムは破壊できない」

「え?」

弥一はあの程度ではゴーレムを破壊できないとすでにわかっていた。ではなぜあの爆発を投げたのか、セナはわからない表面を浮かべる。

しかし、効いていないのならうかうかしていられない。すぐさま煙に目を向ける。

煙が晴れるとそこには装甲が少し焦げただけのゴーレムが立っていた。爆発の威力は小さくゴーレムの装甲表面のプラズマを吹き飛ばすだけだったようだ。

煙からゴーレムが見えるとすぐさまレルバーホークを発砲。
爆発のせいでサーベルと表面のプラズマが吹き飛ばされたおかげで銃弾はゴーレムに命中し、初めてゴーレムに攻撃が当たった。だが、あの巨体に銃弾一発のダメージは小さすぎる。

「弥一、そんな攻撃じゃ効かない!」

セナは焦ったように言う。しかし、弥一が浮かべたのは悲観でも絶望でもなく笑みを浮かべる。

その笑みは勝利の笑み。

「いいや、これで終わりだ」

ゴーレムは再びプラズマが溜まったようで、サーベルを作り腰を落として跳躍の姿勢になる。

この攻撃を受ければ二人に勝利はない。唯一のチャンスも完全に潰れた。

しかし弥一は勝利を確信した目で、勝利を紡ぐ。

「《魔鉱錬成》」

そう紡いだ瞬間、腰だめに今にも飛んできそうだったゴーレムの膝が崩れ、目の光が徐々に小さくなり、消える。

突然ゴーレムが動かなくなり、呆気なく勝利をした事にセナは理解が追いつかない。

「い、いったいなにが・・・?」

「それはこれだ」

弥一はポケットから何かを取り出しセナに見せる。掌から出てきたのは、ミスリルの細かい破片だ。

「これでどうやって?」

そんな細かい破片があれだけの巨体のゴーレムを止められるとは思わない。セナは更に困惑した表情を見せる。
弥一はゴーレムを止めたからくりを丁寧に解説していく。

「爆弾による爆発の目的はゴーレムに直接攻撃する為じゃない、爆風でプラズマを飛ばし、爆煙に紛れてゴーレムの周りにこのミスリルの破片を散布することだったっんだ」

「破片をまくことが目的だったの?」

「ああ、それでゴーレムの周りに浮遊した破片はゴーレムが外の空気を出入りさせる時に吸気口から侵入して体内に溜まる。そしてそうなった所でこれを使う」

弥一はレルバーホークの弾倉から一つの弾丸を取り出す。その弾丸は普通の弾丸をは違い宝石がはめ込まれていた。

【鉱石魔術弾】。鉱石に【刻印魔術】で魔術式を刻んだこの弾丸は遠隔で魔術を扱うことができる。
弥一はこれを使ってある魔術を使用した。

「この【鉱石魔術弾】でゴーレムの体内に溜まったミスリルに【魔鉱錬成】を使って中のミスリルを変化させ内部から破壊したんだ。あれだけのあれだけのスペックをあの大きさに限界まで抑えてるんだ、少し配線なんかを切断すればそれだけで動けなくなる。これがゴーレムを倒したからくりさ」

「なるほど。でも無茶はしないで、弥一が飛び出して行ったときはとても心配した。もう危ない事はしないで」

「わ、悪かった。でも、万が一雷撃でゴーレムから遠い所で爆発したら・・・」

「でも、じゃない!」

「はい!すみませんでした!!」

言い訳がましく言う弥一をセナは少し強い口調で叱ると、途端に大きな声で返事をする。とことんセナには弱い弥一なのである。

地面に降り立つとゴーレムは両膝を着いた状態で力無く倒れている。目には光は無く、【解析眼】で見てみると、どうやら内部の機能は完全に停止している様だ。

「それにしても、この魔導人形凄いね。【グリノア大迷宮】のも凄かったけど」

「多分全ての迷宮に何かしらの能力を持った魔導人形がいるんだろうな・・・たく父さんめ、無駄にスゲーもの作りやがって・・・!」

「【グリノア大迷宮】の方は動かなかったけど、こっちは空を飛んだしね・・・」

「大方、ロボットは男のロマンだ!、とか思って作ったんだろうよ。こっちの世界には地球にはない素材があるからな・・・」

二人はゴーレムを眺めながら、はぁ〜と深い息を吐き苦笑いになる。

さてこれからどうしようか、と辺りを見回していると突然、壁の一部が横開きに開く。

「ここにも父さんの工房があるのか?」

「とにかく行ってみよう」

二人は怪しみつつ開いた扉に向かう。しかし二人の警戒とは裏腹に、中には何もない。

「あれ?何も無いな」

「弥一、このボタンはなに?」

セナが部屋の中にあった唯一のボタンを指して尋ねる。ボタンは下向きの逆三角形をしていて、地球のあの装置を思い出させる。

「ああ、もしかしてこれエレベーターか」

「えれべーたー?」

  「動力をつかって、人や荷物を上下に運ぶ箱型の装置のことだ。まぁ使ってみればわかるさ」

弥一は逆三角形のボタンをポチッと押す。するとドアが閉まり、ウィイイーーンと静かな音を立てて部屋が動く。セナは初めてのエレベーターに驚いているようで何度も上と下を交互に眺める。そしてエレベーターに乗って十秒が経過した所でチーンと音がし、到着する。

随分深く潜ったな、と思っているとドアが開く。

開いた先は、住宅のリビングのような構造でとても広々とした空間。正面のには小さな庭がある。奥にはイスとテーブルが並んでいて住居のような空間だ。

二人は中を探索していると、ここに来て謎が現れた。

「ティーカップと焼き菓子?」

奥のテーブルにティーカップが一つと焼き菓子が皿にもられている。
ティーカップの紅茶はまだ湯気を出しておりーーーーーまるで、今さっきまで人がいたかのようだ。

「ーーッ!誰だ!!」

背後に人の気配を感じ、すぐさま後ろを向き、向きざまにレルバーホークを猛速度で抜き、引き金に指を掛け構える。
セナも同じタイミングで振り向き、いつでも魔法が撃てるようスタンバイ。

そして二人が見る先には、エレベーターとは別のドアの前に一人の女性が静かに立っていた。

目と髪は薄い緑色をしており、肌はとても白くきめ細やかで、顔は柔らかい笑みの中に凛とした表情があり、気品の良さを感じる。

そして特徴的なものが一つ。それは、彼女耳だ。

その耳は普通の人よりも長く、先は尖っている。漫画やアニメなんかでお馴染みのエルフを想像する。そしてそれだけでも特徴的なのだが、もっとも耳を差し置いて特徴的な事がある。

(なんでメイド服・・・?)

そう、出てきた女性は黒と白を基調とした膝上辺りのスカートのメイド服を着ている。

耳だけでも驚きなのにメイド服までとなると流石に訳がわからない。ましてやここは【世界六大迷宮】の最深部だ。普通にメイドがいるとは考えられない。

油断せず構えながら弥一がそんな事を考えているとメイド服の女性が口を開く。


「攻略おめでとうございます。お二人とも、そう構えないでください。私はエルネウィア、気軽にエルとお呼び下さい、マスター」

「「・・・え?」」

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