魔術がない世界で魔術を使って世界最強

海月13

精霊の里

ヒュゴォオオオオ!!と風切り音が響き頬に強烈な風が当たる。

「・・・・・ねぇ、弥一」

「・・・・・なんだ」

「・・・ここどこ?」

弥一の【解析眼】からウィイインと小さく音がなる。

「高度8900メートル、位置的には迷宮の真上だ。」

【解析眼】から送られきた情報をそのまま伝える。

「そう・・・・・」

そんな返事しか頭に浮かんでこなかった。それもそうだろう転移の時の光で目を瞑って、目を開けたらいきなり空中に投げ出されていたのだから無理もない。

雲を抜けると地上が見えてきた。視界の全てが広大な森で覆われており、横には地平線から太陽が森を明るく照らしながら出てきている。

思わず見惚れてしまうような自然の絶景だったが、今の二人にそんな絶景を楽しむ余裕はない。

「きゃああああああああーーーー!!!」
「父さんめぇえええええええーーーー!!!」

セナは弥一に抱きつき、弥一は父親への憤怒を叫ぶ。

叫んだところで何かが変わる事はなく、地上が凄いスピードで迫る。

「《汝その翼を授けん》!!」

残り3000メートルの辺りで弥一は一節で唱えたのは【飛行魔術】。【飛行魔術】は制御が難しく今の弥一では滑空が限界だがそれでも地面への衝突は免れた

「大丈夫かセナ?」

「う、うん。大丈夫。ありがとう」

【飛行魔術】は弥一一人が限界なのでセナを横抱きに抱える。俗に言うお姫様抱っこでお互いの顔の距離も近い。

お姫様抱っこをされながら朝焼けの美しい空を飛ぶというまるで物語のようなシチュエーションに、セナは顔を真っ赤にし瞳を少しうっとりさせながら弥一の横顔を見つめる。

「このまま出来るだけ距離を稼ぐからしっかり掴まっててくれ。ってセナ?」

「え!あ、うん!わかった掴まってる!」

シチュエーションに酔っているセナが弥一の言葉で現実に戻って来てしがみつく。お姫様抱っこの状態なのでしがみつくと胸が押し付けられその感触に思わず制御を崩しそうになるがなんとか持ち直す。

そのまましばらく東に向かって滑空し、着地。着地したのは精霊の里の前に超えるはずだった山の中腹辺りだった。

「まさか3日かけて向かう場所に立った一時間でつくとはな・・・父さんに感謝していいのかいまいちわかららん・・・」

「それは同意・・・」

と微妙な気持ちを抱き二人は山を越えるために歩き出した。

山自体の踏破はそれ程難しく無かったが魔物もいたため慎重に進むこととなった。

「【風斬】!」

セナが手刀を振るうと振るった直線上に風の刃が生まれ魔物を縦に切り裂く。

それと同時にセナの背後の木から鳥型の魔物が襲って来る。それを弥一はレルバーホークで眉間を撃ち抜く。

「魔物が意外と多いな。さすがにフェーズⅡはいなかったが」

「いい加減鬱陶しい」

こんな感じで山を登り頂上でお昼を食べ、山を越えたところで日も沈み出し今日はここで野宿をする事にした。

「はい。弥一」

「ありがとう。おお、キノコのスープか美味そうだ」

野営用のテントを張り出て来ると丁度完成したキノコスープをセナが渡して来る。

パンとスープだけの簡単な物だが十分お腹に溜まり満足した後装備の点検をして明日のために早く寝る事にした。
次の日の朝セナはぐっすり眠れたのかスッキリした顔で反対に弥一は目元に薄っすらとくまができていた。取り敢えず無事耐えきる事が出来たと言っておこう。

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「そう言えば精霊の里は基本外の人を招かないと言うけどどうなんだ?」

精霊の里び向かう上で情報は知っておきたいので基本的な事などを聞いておく。

「商人の人とか詩人の人はよく招かれるけどそれ以外は基本招かないかな」

「ん?商人は分かるけどなんで詩人なんだ?」

「精霊の里は娯楽とかあまり無いからいろんな話を話す詩人は結構招かれる。私が封印される前にも歌が上手い詩人さんが来てて私も結構気に入ってた」

そんな昔の話を思い出していると弥一は少し考えるように顎に拳を当てて俯きながら歩く。

「・・・詩人、歌・・・・」

「弥一?」

「ん?ああ、なんでも無い。それより急ごう精霊の里はもうすぐなはずだし」

「?わかった」

弥一の行動にセナは首を傾げるが弥一の後を追って行く。

こうして三時間森の中を進み辿りついたのは天まで伸びるような巨大な樹木が両脇に立つ門だった。

「なんだこの巨大な樹」

「精霊の里が作られた時代からある護身樹で魔物を防ぐ結界の役割も果たしてる」

「へぇ〜」

その巨大さに驚きながら樹を見上げていると視界の端でキラリと光る物が映った。

「!危ない!」

「え?わっ!」

とっさに隣のセナを押し倒し顔の横には手をついて覆いかぶさる。

すると先ほどまでセナの体ががあった位置を矢が通り過ぎすぐ近くの木に突き刺さる。

セナは未だ状況を理解できず顔を赤面させているが、いまはそんな事を気にしている状況では無い。

すぐさまレルバーホークを抜き矢が飛んで来た位置に発砲するが反応がない。

弥一がレルバーホークを発砲した事で異常事態に気づきセナもすぐさま起き上がり臨戦態勢をとる。

弥一は【解析眼】のサーモグラフィーで森を確認すると所々に人の形をした熱源を確認出来た。
あちらはこちらが場所を確認出来ていないと思っている様子で動く気配がない。

それならこちらから仕掛けるのみ。

おもむろに手を地面に添え魔術を構築。
弥一の足元に黄金色に輝くの魔術陣が展開し急速に巨大化、辺りの木ごと覆う。

いきなり足元に広がった魔術陣に相手は驚いて逃げようとするが遅い。

魔術陣からいくつもの黄金の鎖が飛び出し隠れていた全ての人間を拘束する。

隠れていた全員を拘束したことを確認すると魔術陣が消える。しかし黄金の鎖は消えず拘束し続ける。

拘束したのは男四人で弥一は一箇所に集めて全員鎖グルグル状態で正座させる。

拘束したうちの年が一番上っぽい男が顔に憤怒を表し喚く。

「貴様!一体何をする!!」

「それはこっちのセリフだっつーの。いきなり矢なんか打ちやがって。一体どうして撃ってきやがった。」

そう言って【蒼羽】の先を向け鍔を鳴らす。

「貴様なんぞに答える事などない!!いいからこれを外せ!!」

【蒼羽】を向けられた状態でも男は怯むことなく喚き威圧する。それにつられて他の男たちも喚き出す。

そんな男達に弥一は男のものとは比べ物にならないくらいの威圧を荒々しく暴力的に叩きつける。

弥一から放たれる絶大な威圧に男たちは体の芯から凍ったかのように呼吸も忘れ硬直する。

「質問に答えろ。なぜ撃ってきた」

質問に答えさせるため威圧を少し緩めると男たちはぷはっと息を吐き呼吸する。落ち着いたのか先ほどとは違い静かになり弥一の質問に答えようとする。

「そ、それは・・・」

「答えろ」

「わ、わかった!答えるから!・・・俺たちが撃ったのはその女が村に来たら構わず撃てと命令があるからだ。まさかほんとに生きて戻ってくるとは思わなかったがな」

そういって男はセナを睨む。なのでもう一度威圧をぶつけておく。

「命令?誰にだ」

「リ、リカードさんからだ」

その名前が出てくるとセナの表情が一変し青ざめる。そんなセナの変わりぶりに顔をしかめているとセナがたどたどしく口にする。

「リカード・アイヤード。この里の、村長で、私の父親」

「セナの親父さん?」

意外な人物の名前が出てきて弥一も驚く。この里の村長がセナの父親なら、封印を指示したのもセナの父親ということになってしまう。
自分の娘を自ら封印の指示を出すなどと思ったが、

「セナ。お前の親父さんに会う気はないか?」

「え?」

「一つ確認したいことがあるんだ。辛いと思うがそれでも会う気はないか?心配するな、もしなんかあっても必ずお前を守るから」

そんな弥一の言葉にセナは瞳に覚悟を秘め頷く。

「わかった。それに私はもう逃げないと決めた」

「よし。なら行くか。おい、お前!俺たちを村長の所に案内しろ」

「だ、だがしかし・・・」

弥一に呼ばれた男はびくっとなりどもる。一個人の決定で連れて行くことはできないのでどうしたものか悩んで一つ提案する。

「お、俺個人での判断では連れていけない。だ、だから村長の所に向かわせて確認をしてくる、だからそれまで待ってくれ」

「わかった。早くしろ。ただし増援を連れてこようものなら・・・わかるな?」

【蒼羽】の唾を鳴らすと男は大きく頷く。それを確認して弥一が指を鳴らすと男を縛っていた黄金の鎖が光の粒子となって消え、男はすぐさま全力ダッシュで里に向かった。

それから間もなく男が返ってくる。村長の許可も出たらしくセナにフード付き外套を着せ、弥一たちは村長邸に向かうことになった。

里の中は活気に満ち溢れていた。果物店や野菜店などの店が集まる場所で買い物をする人や広場の演題で物語を歌う詩人、走り回る子供たちなど人々が楽しく暮らしていた。
しかし弥一はふと違和感に襲われる。なにがとはわからないが、ぬぐいようのない違和感を感じていた。

それからしばらく歩きたどりついた村長邸は周りの家と同じような作りで、村長だからといって大きな家ではなかった。

10年ぶりにみる我が家にセナは複雑な表情をするが、それでも歩みを止めることはなく、村長邸に入っていった。

入ってすぐに通されたのはリカードの書斎だった。

「リカードさん。連れてきました」

「ああ、入ってくれ」

壁一面を様々な本で敷き詰められ、入りきれなかった本が所々に積み上げられている。手前にはテーブルとソファ、奥には机がありその後ろの窓辺に一人の男が佇んでいた。

真面目で厳格そうな面差しに、黒髪の短髪。頬には一筋の斬り傷。歳は四十代後半といったところだろうか。背は190センチくらいで、頬の斬り傷と厳格そうな面差しのせいで見るものに圧迫感を与える。

リカードはこちらに向き直るとセナをみて一瞬微かに目を見開いたがすぐに元の表情になり今度は弥一を見る。

「君は?」

「日伊月 弥一」

「どうしてここへ来た?」

「あなたと話がしたいからです。なぜ、セナを封印したんですか」

リカードはすぐには答えず一度間を置き、その質問にはっきりと答える。

「それは忌み子だからだ」

「ーーツッ!!」

セナが息を呑む。覚悟を決めたとは言っても、本人のはっきりと聞かさせると自分の中の何かが壊れるような絶望感。それに耐えることができなかったセナは部屋を飛び出していった。

そんなセナが駆けていった扉を見つめ、弥一はリカードに向き直る。

「いかなくていいのか?」

「今のセナには一人で考える時間が必要だ。それにあんたには聞かなくちゃならないことがある」

「なんだ」

口調を変えた弥一を特に気にすることもなくリカードは問うてくる。

「忌み子とは?それにあんたはどうしてセナを殺さず封印した?封印するくらいなら殺してしまえば簡単なはずだ」

「・・・君には関係ない。」

リカードは答えない。しかしその顔はどこか苦痛に満ちている顔だった。

そして弥一はその顔を見て可能性を示した。

「答えない。いや、答えられない・・・・・・。そうなんだな」

「!君はいったい・・・!」

その言葉で確信した。自分の仮説が正しいことを。そうしてわかった。封印の秘密を、なぜリカードが答えられないのかも、全部わかった。

リカードが信じられないといった表情で弥一を見る。その瞳には微かな希望が見える。

「俺は魔術師。魔術師、日伊月弥一。あとはまかせな」

弥一は立ち上がるとそう一言つげ部屋から出ていく。

誰もいなくなった部屋でリカードは一人、弥一がでていった扉に向かい頭を下げていた。

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リカード邸を出た弥一はすぐさまセナのもとに走る。場所はすでに【探査魔術】で確認済みだ。

走って5分くらいの森の池にセナはいた。池のほとりで一人うずくまっていた。

「セナ・・・」

セナの横に立つとセナは泣き腫らした目で弥一を見つめてきた。

「ねぇ、弥一・・・私、必要ないのかな?」

セナの呟きには様々な感情が混ざり合っていた。

「そんなわけないだろ、俺はお前が必要だ。」

「ありがと。・・・でもお父さんは私を必要としていない」

辛く苦しい言葉がのしかかる。10年前、自分を周りは恨み憎み封印した。暗く誰も居ない静かな世界でただひたすらに生き続け弥一と出会って守るといった。だからもしかしたらみんなもと期待した。でもやはりだめだった。忌み子といわれセナの心にはただひたすらの絶望しかなかった。

しかし弥一は言う。

「それはちがう。リカードさんはセナを必要としているし、愛している」

「え?」

そんな言葉信じられないと言おうとしたが弥一の目がその言葉が真実だと伝えていた。

「いまからすべて暴きに行くぞ」

セナの腕を掴み引っ張っていく。

「え?え、ええ!?」

セナはなすがままに弥一に連れて行かれた。



セナが連れて行かれたのは里の広場、そこにはいま多くの観客の前で物語を歌う詩人がいた。
どうしてここに連れてこられたのかわからないセナは戸惑う。

「ね、ねぇ弥一。いったいなにが・・・」

「セナ。あの詩人に見覚えは?」

「え?詩人?・・・あっ、あの人10年前の詩人だ。うん、確かに見覚えがあるけどそれがどうかしたの?」

「そうか。これで確定的だな。」

そういって弥一はレルバーホークを構える。構えた先にいるのはーーー

ーーー今なお歌う詩人。

「!!弥一何を!?」

セナが弥一の突然の行動に慌てて止めようとするが弥一はそのまま引き金を引く。

発射されたのはプラズマを纏いマッハ5まで加速した弾丸。

弾丸は詩人の眉間に吸い込まれその頭蓋骨を貫く・・・ことはなかった。

「えっ・・・」

弾丸は何かに跳ね返されたかのように詩人の後ろに逸れる。

しん、と水を打ったように静まり返った広場で詩人は何かを払ったあとのような格好で静止していた。詩人だけでなく広場にいたすべての人が微動だにせずまるで固まっていた。

セナが辺りを見渡すと広場の人だけでなく、果物店の店主、買い物をする主婦、かけっこをしている子供たち、すべてが時が止まったかのように固まっていた。

そんな異常事態にセナは顔を青くする。

「な、なに、これ・・・。みんなどうしたの・・・!」

「これがセナの日常を壊した原因だ。」

「原因って・・・?」

そういって弥一は広場に目を向け言い放つ

「なぁ、そうだろ?詩人さんよ」




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