魔術がない世界で魔術を使って世界最強

海月13

戦う理由は怖いから

決闘があった翌日、弥一たち勇者は王の間に集められていた。ここで今日は王様と謁見をおこないその後、王様から国に向けて勇者の事が伝えられる。

「やいくん緊張するね。」

「そうか?俺は別にそうでもないけど」

「え、そうなの?」

これよりもの緊張感や威圧感などにさらされてきた弥一にとってこれくらいの緊張など緊張の内に入らないのである。

「それでは皆さんお入りください。」

そうして近衛兵が扉を開けアーリアを先頭に入っていく。

そこは弥一たちが召喚された大聖堂よりも広く所々が金で装飾された壁や柱があり、扉から奥の王座まで質のよい大きな赤いカーペットが続いておりその王座には温厚な雰囲気ながらも相手を萎縮させるような威厳を放つ男が座っており、その周りにはお淑やかな雰囲気の女性にロジャー騎士団長やバーリア最高司祭、ヘンリやメイ、数人の騎士が立っていた。

「お父様。勇者様一同お連れいたしました」

「うむ。ご苦労」

そういって男が王座から立ち上がった。

「私はアーセラム聖堂王国国王のヴィディル・バース・アーセラムである。勇者殿たちにはこの度の戦争への参加、国を代表して感謝する。」

ヴィディルは国王でありながら昔は世界屈指の槍の戦士としても有名であり、自ら戦争に参加し最前線で指揮を取りながら多くの敵を倒し戦争を勝利に導くことから”戦王”と呼ばれるようになりその姿から国民からの信頼は絶大であり戦士を引退してからもヴィディルの信頼は変わらずである。

そんなヴィディルは勇者に感謝を述べると頭を下げた。

一国の王が勇者とはいえ頭を下げるということに周りの騎士などはもちろん弥一も驚いている。国を預かる王が頭を下げるなど国王としては有り得ない事なのだが、ヴィディルは国王であるが人としての礼儀を優先し感謝を込めて頭をさげたことから人としての良さが窺える。彼のそんなどんな相手でも人としての礼儀を忘れず傲慢ではない態度も人気の一つである。そんな内心弥一が感心しているなか、

「頭を上げてください、国王様。僕たちの戦争参加は自分たちで決めたことです、礼を言われるようなことではありまあせん。」

自分で決めたことだから礼は必要ないと我らが英雄相川が前に進み出てくる。

「もしや貴殿が”英雄”の勇者か?」

「はい。僕が”英雄”相川雄也です」

「英雄は世界が危機になると必ず現れ世界を救うと聞く、貴殿には大いに期待しているぞ。」

「はい。必ずや世界を救ってみせます。」

「うむ。ほかの勇者殿たちも大いに期待しているぞ。さてそれでは勇者殿たちよ、これから君たちのお披露目として国民に挨拶をと思うのだがよいだろうか?」

弥一たちは特に迷うことなく頷く

「そうか。それではついてきてくれ」

そうして王座の奥の扉に向かおうとした瞬間、弥一は一瞬ヴィディルからの視線を感じた気がしたが特に気にすることもなく奥の扉に続いていった。

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そこは100人でも余裕がありそうな大きなテラスだった、そしてテラスの下には王城の中庭がありそこは多くの国民が所狭しと集まっており、勇者が現れるのを今か今かと待ち望んでいた。

そんななか、ヴィディルはテラスに設置された演台に立ちよく通る声を響かせる。

「諸君!今日は集まってくれて感謝する!今日まで我が国は魔王軍との戦争を行ってきた、しかし長くの硬直状態が続き消耗し続けている。そんな状態に多くの民は不安がっていることだろう、だがそれも今日までだ!この事態に我が国は勇者を召喚し、強力な力を持った勇者たちが魔王軍との戦争に参加してくれることとなった!!勇者たちが必ずや世界を救ってくれる、だから諸君よ安心してまっていて欲しい!!勇者たちが世界を救うその日まで!!」

その瞬間、中庭中いや国中が歓喜と声援に包まれ誰もがこれで世界が救われると喜び、これから戦う勇者に激励をこめて拍手を送る。

「すごい熱気だねやいくん」

「あぁ。そうだな」

「いまさらだけどこれから戦うことになると思うとなんだか怖くなってきたよ」

「これから訓練をしっかりやっていくんだから大丈夫だって」

「やいくんはすごいね、そんなに勇気があるんだもん。私は怖くて戦う勇気がもてないなぁ。」

そんな凛緒に弥一は

「そんなわけないだろ。俺だって戦うのは怖い、多くの戦いを経験した俺だからこそより凛緒たちより戦いの怖さを知ってる。それに勇気だけで人は戦えない」

「え?じゃあどうしてやいくんは戦えるの?」

「怖いからさ」

「え?」

「怖いから・・・大切な人、大切な何かを失うのが怖いから俺は戦う」

「失うのが、怖いから?」

「父さんを失ったとき俺も母さんも、とても悲しかった辛かったそして何より・・・怖かった。何もしなければ、戦わなければ失うと思うと。」

「・・・!」

「俺は魔術を学んで守る。大切な人を、大切な何かをそれを失わないように。だから俺は戦える」

「・・・そっか」

そうして弥一と凛緒が話している間に勇者お披露目の幕は閉じていった。

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月明かりが静かな夜を照らすなか、弥一は部屋のテラスで夜空を見上げていた。

「怖い、か・・・」

お披露目の際凛緒に話したことで弥一は父親の事を考えていた。

弥一の両親は、父親は世界最高峰の攻撃・生産系魔術師で【魔術王】の称号をもつ魔術師で、母親も世界最高峰の防御・回復の支援系魔術師で【神官】の称号を持つ魔術師であり、弥一はそんな二人の世界最高峰の魔術師の背中を見て育った。弥一は二人に憧れいつか二人を超える最高の魔術師、最強の魔術師となるべく二人から多くの魔術を学んでいった。

しかしそんな時間は長くは続かなかった。

5年前、神級危険生物である神獣”ルバディアドラゴン”の討伐で弥一と父親で最後の止めを刺そうとした瞬間、謎の爆発によって父親は消え弥一は右目を失った。弥一は今まで学んだ魔術を使って父親と一緒に同じ戦場で戦えることが誇らしかったが、その時初めて戦う怖さを覚えた。

その後弥一は右目を失い攻撃系魔術が使えなくなり、父親が残した魔道器の開発を行うようになった。

「父さん、あれからいろんなことがあったよ。父さんが残した魔動器を父さんほどではないけど研究したり、魔術が使えないなら魔術以外でも戦えるようにと思ってあの【剣聖】のじいさんや【狙撃王】のオウラさんのところで剣術とかの武術や射撃の訓練をしたりもした。そしてなにより・・・異世界に召喚されて、魔術師の道ももう一度歩めることができるようになった。」

これまであった事を今は無き父親に向けて語り、最後に

「父さん、俺は最高の、最強の魔術師になれるかな・・・」

そんな弥一のつぶやきは静かな夜の中に消えていった。




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コメント

  • ノベルバユーザー395592

    魔王軍との硬直ではなく膠着状態かな?

    0
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