二面性男子の鏡

山本慎之介

その時─ゲルブラン・パープルside

その男─ゲルブラン・パープルがキューショー団支部長という地位にまで上がれたのは単に彼の努力の賜物であろう。

夜な夜な街へ繰り出し、特に意味もなくバイクを乗り回し騒ぎ立て顰蹙を買い続けていた、一言で言えば「ナリヤン」だった彼がキューショー団に入ったのも単純に悪に憧れたからである。

「俺ならテッペン余裕っしょぉ!」
しかし、井の中の蛙大海を知らず、初めて見たレベルに圧倒される毎日。下っ端の下っ端のままあっさり死ぬのかもしれないとゲルブランは何度も思った。
ただこの男、決めたことを曲げられない性格なのが功を奏したのか災いしたのか、何日も何日も折れずに努力は続けていた。
「いつか、テッペンとるんだ」
今となっては何を大それたことを、と自分でも笑ってしまう。しかしその甲斐あって少しずつ出世を繰り返し、今となってはカツテミカ支部を任される程になったのだ。
恥ずかしいが「カツテミカの紫苑」などという二つ名も付いた。この近辺の裏を知る者には頭を下げられるようになった。
「俺は高くまで来られたかもな」
少なくともカツテミカで自分は最強───
その自負があったのだが、

「無詠唱……だと……!?」

部下を殺したアルビノのドラゴンの報復に来てみると目の前の男が、明らかに戦闘員ではない餓鬼が、無詠唱で魔法を発動させたではないか。

魔法を使う者なら知らぬ者はいない伝説、「無音の奇跡」、その使い手だとでも言うのだろうか。

「そこを動くんじゃないよ!」
ふと我に返ると入り口に怒り心頭の老婆と、純白の毛に包まれたドラゴンがこちらを睨んでいるではないか。
やっと見つけた復讐の相手。しかし「無音の奇跡」の使い手がいる以上迂闊に手出しはできない。

「おい、アルビノ、お前はいつか殺すからな?」
ゲルブランにはテンプレのような捨て台詞を吐き逃げる道しか残されていなかった。

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