『ザ・ウォリアー』 ~この世界を浸蝕するデスゲーム系の近未来SF&ラブコメディ~

チョーカー

普通の食事風景 その2

 次に俺が手をつけたのはパスタ。

 パスタ―――正確にはナポリタンだ。

 太麺をトマトケチャップで炒めた香り。赤いウインナーにマッシュルーム。
 さらにピーマンに玉ねぎ……まさに王道のナポリタン。
 このナポリタン。イタリア、ナポリでは否定的だ(そもそもトマトケチャップはアメリカ生まれ)。
 しかし、それがどうした? カレーにラーメン、日本では魔改造化された料理は数知れず、誇りこそ思えば、恥じる事なぞ何もない。

 例えば―――
 ジャパニーズソウルフード 寿司。
 これが海外では摩訶不思議な料理として、過剰なアレンジが加えられた状態で出される場合が多々ある。
 有名なところではカリフォルニア巻きか? ほかにも日本料理店と名乗りながらも、あり得ない日本料理が配膳される映像が日本のバラエティ番組での配信を目にする事がよくある。

 しかし、それのどこが悪いのか?

 海外で日本料理が現地の人の手により、現地の人に合わせてカスタマイズされる。
 場所により変化―――否。進化するのが料理ではないか!

 ……まぁ、カリフォルニア巻きは日本人考案らしいけどね。

 俺はスプーンの上でパスタをフォークに巻き付ける。
 そして、それを口へ運ぶ。

 その瞬間―――
 俺の口内でドラゴンが現れた。

 もしも激辛料理を食した瞬間を『ドラゴンが暴れる』と表現する人間がいるかもしれない。
 それは、分かりやすい表現方法だ。 
 がが、これは―――これは違う。

 動の竜に対して静の竜。

 静の竜が表すは不動心。

 竜の住み家、湖畔の底で微動だにしない龍の存在感。
 一瞬で俺の口内はナポリタンの住処に変化した。
 それは、まさに龍が如く。

 麺自体は、もっちりとした食感。それが、僅かに芯が残っている野菜と妙にマッチしている。
 そして、マッシュルームという驚異的な食感のバランサー。
 バランサーと言えばトマトケチャップだ。甘味と酸味のせめぎ合い。

 「はっ!?そうか、そういう事だったのか!」

 俺はナポリタンの真意に気づいた。
 その真意とは―――

 超絶技巧とすら言える絶妙なバランス。

 もはや、無骨とすら思えた赤いウインナーですら調和されているとしか思えなくなっている。


 次から次へ襲って来る驚愕の連続に「ふぅ……」と一息ついた。
 そのまま、スープに……

 『サラサラ……』

 「ん?何の音だ?」

 俺は周囲を窺うが音の出所が掴めずにいた。
 気になるが食事中にキョロキョロと周囲を見回すのも良くない。
 その思い、視線をスープに……

 「ここか!!」

 俺は声を上げた。
 音の正体はスープだ。スプーンですくい上げたスープが零れ落ち、『サラサラ……』と音を出している。
 むろん、幻聴だ。 そんな幻聴が聞こえてくるほど、このスープも他の料理同様に自己主張を行っていた。
 どう見てもコンソメスープ。ただのコンソメスープにしか見えない。
 だが、俺の脳が無意識にスープの音を作り出している。

 『ちがうよ。これ、ただのスープとちがうよ』

 俺の直感が、そう囁くのだ。
 自分の意志を無視して「ゴクリ」と喉が鳴る。
 そして、スープを口にした。このスープは爆発的だった。

 「濃厚。このスープは……その秘密は」

 俺が視線を移した場所は『バベルの塔』―――ハンバーグだ。
 牛肉や魚から出汁を取り、野菜や肉を加えて煮込むのだが……おそらく、ハンバーグと同等の牛肉が使用されている。やはり、素材はどれも上質の素材。これは卓越している。
 ここで初めて俺は、メニューに隠されたメッセージを理解した。
 コンソメとはフランス語で完成されたという意味。

 「これをもって完成する。そう計算されていたのか……」

 ハンバーグは牛肉とチーズ。ソースには赤ワインとトマトが使われている。
 トマトと言えば、ナポリタン。
 牛肉はコンソメスープ。
 ハンバーグの重さを軽減するためのサラダ。
 全ては完成されてメニューであり、俺の脳内に向け強制的にメニューの相関図が叩き付けれた!
 俺が感動の余韻に浸っていると「あの……」とルナさんが声をかけてきた。

 「? なんですか?」
 「いえ、カナタさんって、普段から料理を食べる時はそういう感じなのですか?」
 「そういう感じ?何の事?」
 「い、いえ、なんでもありません。失礼な事を言ってしまいました」
 「?」

 ルナさんは、何を言いたかったのだろう?
 少し、不思議に感じたが……

 だが、俺の目の前には、美味を司る料理が立ちはだかっている。
 「もうダメだ。もう食べれない限界だ……なのに、手が止まらない!」と絶叫する未来のビジョンが浮かんでいる。
 ならば、今は……せめて、今だけは……
 その美味を全身で受け止めようではないか!


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