『ザ・ウォリアー』 ~この世界を浸蝕するデスゲーム系の近未来SF&ラブコメディ~

チョーカー

第二チェックポイント


 ―――翌日―――

 学校の放課後、俺は陽葵と共に神社へ向かう。
 それまで、決して機嫌が悪くなかった陽葵が神社に向かうたび、無口になっていき……

 「やっぱり、今日は帰るね」

 そう言ったかと思ったら、陽葵の姿は消えてた。
 場所は神社の階段で、本当に目的は目と鼻の先だった。 

 「なんだ、アイツ?何か用事でもあるのか?幽体離脱って設定なのに……」

 俺は首を傾げたが、すぐに切り替える。
 階段を昇り切ると、既にルナさんが待っていた。
 やっぱり、私服。……もしかしたら不登校なのだろうか? 
 そうだとしても、気楽に「学校ってどうしてるの?」って聞くタイミングは失われている。

 「やぁ」と声をかけると
 「どうも」と会釈をセットして返してくれる。

 そんな挨拶もそこそこに―――

 「しかし、第二チェックポイントがこの神社になるとは……」
 「いや、もしかしたら、この神社が『クエスト』の中心になるのかもしれません」
 「え?それは?」
 「いえ、『クエスト』開始のアイテムである地図を手に入れたのは、ここで倒した敵からのドロップでしたので……」
 「なるほど、そういう仕組みかもしれないね」

 そんな雑談をしながら、境内のモンスターを排除して回った。

 「ここですね」

 俺は宙に浮かぶ矢印と地図を確認した。
 地面にも追加された情報として、サークルが浮かび上がっている。
 たぶん、2人でこのサークルの中に入れば『クエスト』のイベントが進行されるのだろう。
 俺は円の中に入る。ルナさんも入ってきた。
 ……随分と狭い範囲だ。
 ルナさんと正面で見つめ合うような形になって……あっダメだ。近すぎて顔も見えないや。
 これって2人PTパーティじゃなかったらどうなっていたんだろう?
 みんな、バラバラの位置に離れる事になるんだろうか?

 そんな事を考えてたら、イベントが始まった。

 俺とルナさんの位置は境内の隅っこ。
 こうやって見ると境内が大きな舞台のように見えてきた。
 そして、どうやら演者は既に登場していたみたいだ。
 女性がいた。当然ながら実物の女性ではない。
 ARの機能として写し出された情報に過ぎない。
 しかし、位置が離れているのもあってか、かなりリアルだった。
 まぁ、今の日本に、それも神社で、紫色の服を着た金髪の女性を見かけたら携帯端末ディバイス『サラブレット』が網膜に直接投射している映像と断定していいと思う。
 そして、もう1人の登場人物が現れる。
 それは男だった。その男性は一言で説明するならば―――

 暗黒騎士

 全身を覆う重厚な鎧。もちろん、色は漆黒。
 なぜか、防御力が高そうな鎧に反して、顔はむき出しの無防備状態。
 昔の漫画風に表現するならば―――

 ルックスはイケメンだ!

 そんなことよりも、彼を暗黒騎士と表現させる最大の特徴は、その禍々しいオーラだろう。
 彼の周囲は黒いモヤみたいなもので歪んでいる。

 「あれが、爺さんの孫だろうなぁ。どう見ても呪われたアイテムを装備してるとしか思えない」
 「しー、声が聞こえませんよ」

 ルナさんに窘められた。

 「それ、ゲーム内の音声を小さくしてるからで、実際の距離は関係なく聞こえるはずですよ?」
 「あっ!」

 これがゲームだと失念していたのだろう。
 ルナさんは端末を弄った。たぶん、音声設定を調整しているのだろう。

 「パーシさま、お待ちしてました」

 おそらくパーシはイケメン暗黒騎士の名前なのだろう。
 呼ばれた本人は、そのまま女性を抱きしめた。
 「あぁ、いけませんパーシさま」と女性はいった。
 そのまま、しばらく抱擁が続く。
 ……なんだ?これ? 
 『ザ・ウォリアー』は、このクエスト用にどのシナリオライターを雇ったんだ?
 そんな俺の心が伝わったのか、ようやく2人は抱擁の時間を閉じた。 

 「あぁアウトよ。お前の望んでいた我が祖父の剣だ」 

 おそらく、アウトは女性の名前なのだろう。
 そう言うとパージは、腰から長剣を抜いて見せた。

 「あれが『呪われし長剣』か」

 俺が、そう呟くと―――

 「何者だ!」

 パーシが叫んだ。
 バレた? ってそういうストーリーか。

 「強制戦闘イベントってやつだな……って、あれ?」

 俺が、武装して飛び出そうとするのをルナさんが引っ張って止める。

 「待ってください。どうやら私たちの事ではないみたいですよ」

 「え?」とパーシの方向を見る。
 彼は呪われた剣を構えているが、その剣先を向けているのは俺たちではない。
 では誰が?
 そう思っていると第三の人物が登場した。
 それは、俺たちにクエストを依頼した老人だった。

 「待つのじゃパーシ。我が孫よ」
 「まだ邪魔をするのですか?どうやら、私の邪魔をするためだけに人を雇ったようですが、このままでは無駄になりそうですね」
 「どうやら、彼らは間に合わなかったようじゃ、だが心配はいらん。わしがここでお前を止めるからのう」

 そういうと老人は剣を抜き、孫に―――パーシに向けた。

 「くそじじぃが!?」

 そのまま戦闘が始まった。
 だが、2合3合と2人が剣を交えると、両者の力量が明らかになる。
 そのまま、老人が力負けして吹き飛ばされた。

 「これで終わりだ。自分自身の剣『黄金の剣』によって生を終えるがいい」

 パーシが剣を振りかざし―――
 そのまま動きを止めた。

 何が起きた?
 俺が呆然としていると横のルナさんが―――

 「ここからが強制戦闘みたいですよ」と宙を指した。

 そこには大きな文字で『GO』サインが浮かんでいる。

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