『ザ・ウォリアー』 ~この世界を浸蝕するデスゲーム系の近未来SF&ラブコメディ~

チョーカー

生死の一線


 俺に向かってくる黒犬。

 「それは、もう見たよ」と俺はつぶやいた。 

 飛び上がり、襲い掛かってくる直前だ。
 動きを止めて、しゃがむモーションがある。
 その一瞬の膠着時間を狙って、短剣を投擲した。
 Hitの文字が浮かび、黒犬の攻撃モーションはキャンセルされる。
 それと同時に後方から陽葵が放った弾丸が、吸い込まれていくように黒犬を打ち抜いた。

 ノックバック

 黒犬の体は後方へ飛ばされていく。
 それを追いかけるよう、俺は同じ速度で駆け出す。
 黒犬の体が地面に着地するタイミング。

 連撃 連撃 連撃。

 Comboコンボbonusボーナス Comboコンボbonusボーナス Comboコンボbonusボーナス 

 さらに追撃で回転切りを繰り出す。
 自分がコマか、バターにでもなったかのような錯覚する。
 目が回る?平衡感覚?知ったことか!
 視界はコンボボーナスの文字で埋め尽くされていく。
 黒犬へ「反撃は許さない」と宣言してから飛び上がり、その顔面を切り裂く。
 そこが弱点だったらしい。

 デカデカと空中に浮かび上がる文字は―――

 weakpointウィークポイントbonusボーナス

 すると、陽葵の精密射撃が黒犬の額を的確に打ち抜いた。

 ガリガリと黒犬のHPゲージが削られていく。

 (ん?HPゲージ?)

 俺は初めて、その存在に気付いた。
 視線の隅に浮かぶ、ボスのHPゲージとネームの存在を―――
 ネームはケルベロス? いや、重要なのは名前じゃない。 その横に存在している3つあるHPゲージだ
 本来のボスにはHPゲージなんて親切な物はない。
 ボスのHPを暗記して、戦いながらボスに与えたダメージを引き算しながら戦うのが普通だ。
 ならば―――あのHPには、本来のボスにはない意味があるはずだ。

 そして、1つ目のHPゲージを削り終えた。

 (何が、起きる?)

 するとケルベロスの肉体が赤く変色していく。

 (バーサーカーモードか?いや、そんな単純ははずは……)

 そのタイミングで陽葵の砲撃が黒犬の額に叩き込まれた。
 しかし―――黒犬へのノックバックは発生しなかった。
 weakpointウィークポイントbonusボーナスの文字も発生しない。
 さらに仰け反りもしない。いや、そんなことよりも重要なことに気付いてしまった。
 陽葵の砲撃が何度も叩きこまれているが黒犬のHPゲージが1ミリも減少していない。

 (まさか、バグ?)

 一瞬、激しい恐怖が襲い掛かってくる。
 命を賭けたデスゲームで無敵バグなんても物が存在していたら、必然的な死があるだけだ。

 焦りがミスを生んだ。

 無敵になった黒犬に接近を許してしまう。
 黒犬の攻撃が俺を襲う。
 だが、十分すぎるほど余裕をもって防御ガードを―――

 できなかった。

 短剣をクロスさせ、黒犬の前足をきっちりと受け止め、処理したつもりだった。
 しかし、実際には、黒犬の前足は俺の防御をすり抜け、そのまま俺の体をすり抜けていった。

 「え?なに?」

 何が起きたのかわからない。だが、その直後―――

 「うがあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!?」 

 体中に激痛が走り抜けていった。

 不意打ち気味のダメージは思考を遅らせる。
 体は俺の意識から離れた。痛みから逃げ出すため、両膝を曲げて地面にうずくまる。
 自分の口から発せられているとは思えない異音が口から洩れている。
 HPも見れば1撃で3割近くも削られていた。 
 命のリミットは残り7割か。すでに黒犬は俺を見下ろし、攻撃を再開しようとしている。
 自然と視線は黒犬から外れ、距離が離れている陽葵へ向かう。

 (バカ、何やってんだ)

 陽葵は自身の役割を捨て、こちらに向かって走っていた。

 (こっち来るな。お前も死ぬぞ)

 声がでない。陽葵に意思が伝わらない。

 (動け、動けよ!死んだぞ!俺だけじゃなくてよぉ!)

 何とか膝を立てる。見上げると黒犬が攻撃のモーションに入っていた。
 俺の命を刈り取ろうする一撃。どう考えても逃げられない。

 (あーこれから、しぬんだろうな。おれはいいけど、アイツ、おれはしんだら……泣くんだろう。それは、それだけは……なんかいやだな)

 黒犬の前足が俺に触れるか、否か―――
 そのタイミングで爆発が起きた。
 その爆発の正体は―――

 「すまねぇ。命を賭ける準備が遅れちまった」

 

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