『ザ・ウォリアー』 ~この世界を浸蝕するデスゲーム系の近未来SF&ラブコメディ~
悪夢の始まり
―――一週間前―――
休日に『ザ・ウォリアー』の主狩りの誘いに俺は、こう返した。
「なんか飽きたわ」
「え?」と聞きかえしてきた陽葵の目は死んでいた。
「飽きたって!なんで?」
「なんで?って言われても、俺とお前とじゃレベル差もあるから、同じ場所を歩いても出現モンスターのレベルが違い過ぎて楽しめないし……まして、主狩りは俺なんて力不足だろ?」
「あ、合わせるよ?カナタのレベル内に収まるように」
「いや、お前……敵が現れたら、一心不乱に駆けだして行くだろ?」
「ぬぐ……」
ランカーなのは、ランカーである理由がある。
所詮「エンジョイ勢」と「ガチ勢」は相容れられないものなのだ。
「そ、そんなカナタ君に意識改革を!」
じゃーんと自前の効果音を出して封筒を取り出して来た。
表には大きな文字で、こう書かれていた。
「招待状?」
「うん、『ザ・ウォリアー』の公式リアルイベントの招待状だよ」
「……自慢か?」
「ち、違うよ。フレメンバーもOKって書いてあるから!」
「なるほど……でも―――」
いまどき、封筒で連絡か。
その時は、僅かな引っ掛かりを思える程度だった。
そして――――
リアルイベント当日。
「……」
「……」
2人無言だった。
明らかに人気はない。
道を隔てて夜の海がある。
潮の臭い。押しては返す波の音。
倉庫街と言えばいいのか? たまに聞こえる音は汽笛のみ……
俺は陽葵に尋ねた。
「……迷った?」
「迷ってない……はず!」
陽葵は同封されていた地図を逆さにしたり、縦にしたり、上下前後を動かしている。
ダメだ。典型的な地図が読めない人の行動だ!
「地図アプリのナビは?」
「はっ!その手があったね」
すぐ、携帯端末で地図アプリを起動したのだろう。
彼女は自身満々に歩き始めた。
しかし、数分後―――
「……迷った?」
「迷ってないよ!」
陽葵が足を止めた場所は、倉庫だった。
「地図と地図アプリを照らし合わせても、ここが目的地になってるもん!」
そのまま、止めるのも聞かず、倉庫の入り口に向かって行った。
俺はそれを追いかける。
「……帰るぞ」
「え?折角、ここまできたのに!」
陽葵は不満げに言うが……明らかに怪しい。
公式リアルイベントが、こんな場所で開かれるか?
普通、入り口には人員を配置してものだろう。しかし、周囲には人の気配がない。
なにか、こう……
彼女に悪意を持った人間が、いかがわしい目的で呼び寄せたのではないだろうか?
そんな事を考えてします。
「考え過ぎだよ。この監視社会で計画的な犯罪行為なんてムリムリ」
確かに……陽葵の意見は呑気そうに聞こえるが、陽葵の意見も正しい。
キラリと光るインカム型の携帯端末。
その機能の1つにはビッタリーノという持ち主の生体信号を把握するものがある。
持ち主が有事の際は自動的に警察、もしくは病院に通報が送られる。
さらには宇宙の目。
アメリカのスターウォーズ計画による人工衛星の軍事利用から始まったそれは、あるテロ事件を境に個人への追跡能力を徹底的に精度を高めた。
さらにエシュロンシステム。
メールや電話はもちろん、ファックスまで、犯罪にかかわるキーワードは自動的に記録されている。
個人情報が、プライベートが、何て意見も過去にはあったが……
結局、人類が選択したのは監視社会による安全性だった。
女性が深夜に安心して1人でも歩ける世の中ってやつは実現された。
しかし、それでも、個人の悪意が安全システムを超越する例は0ではない。
限りなく0には近づきはするが……
けど、陽葵は―――「大丈夫だって、ホラ」と後ろを指した。
振り向くとコツコツコツと足音を鳴らして女性が歩いてきた。
こちらに気づくと、足を止めて会釈をしてきた。
俺たちは慌てて会釈を返す。
街灯から放たれる僅かな光源は、頼りなく彼女を照らす。
年齢は俺たちと差がないくらいだろうか?
容姿は―――
スラリと細く長い手足。整った顔立ち。モデルだと言われも違和感がない。
ただし、髪型がポニーテールだからか?
ラブコメ漫画だと、美人くのいちキャラで出てきそうなイメージになってしまってる。
もちろん、客観的な印象ではなく、俺個人の印象だが……
そんな彼女は畏まった感じで話しかけてくる。俺ではなく陽葵にだ。
「あのヒナタさんですか?『砲撃姫』の?」
「そうですよ。あなたは『ドラゴンアーマー』さんですよね」
「え?私の事、ご存じで?」
「もちろん、県内ランカー100人の顔と名前くらいなら諳んじてますよ」
陽葵は笑顔で言うが、相手の『ドラゴンアーマー』さんとやらは絶句していた。
上位ランカーを覚えてるだけなら普通かもしれない。
しかし、県内ランカー100人の顔と名前まで覚えてる人間は、そうそういないだろう。
「ところで、公式リアルイベントの会場って、こちらで合っているのですか?」
ドラゴンアーマーが聞く。もちろん、俺ではなく陽葵にだ。
きっと、俺の事は眼中にないのだろう。
「丁度、私たちも不安だったんですよ。良かったら一緒に入りませんか?」
「えぇ、もちろん!是非!」
女子2人は仲良く手を繋いで倉庫の中に入っていった。
仕方なく、俺もついていく。
しかし、女の子の『ドラゴンアーマー』さんとは言いずらい。
本名は無理でも、せめてプレイヤーネームくらいは聞いておかなければ……
この時の俺は、こんな呑気な事を考えていた。
休日に『ザ・ウォリアー』の主狩りの誘いに俺は、こう返した。
「なんか飽きたわ」
「え?」と聞きかえしてきた陽葵の目は死んでいた。
「飽きたって!なんで?」
「なんで?って言われても、俺とお前とじゃレベル差もあるから、同じ場所を歩いても出現モンスターのレベルが違い過ぎて楽しめないし……まして、主狩りは俺なんて力不足だろ?」
「あ、合わせるよ?カナタのレベル内に収まるように」
「いや、お前……敵が現れたら、一心不乱に駆けだして行くだろ?」
「ぬぐ……」
ランカーなのは、ランカーである理由がある。
所詮「エンジョイ勢」と「ガチ勢」は相容れられないものなのだ。
「そ、そんなカナタ君に意識改革を!」
じゃーんと自前の効果音を出して封筒を取り出して来た。
表には大きな文字で、こう書かれていた。
「招待状?」
「うん、『ザ・ウォリアー』の公式リアルイベントの招待状だよ」
「……自慢か?」
「ち、違うよ。フレメンバーもOKって書いてあるから!」
「なるほど……でも―――」
いまどき、封筒で連絡か。
その時は、僅かな引っ掛かりを思える程度だった。
そして――――
リアルイベント当日。
「……」
「……」
2人無言だった。
明らかに人気はない。
道を隔てて夜の海がある。
潮の臭い。押しては返す波の音。
倉庫街と言えばいいのか? たまに聞こえる音は汽笛のみ……
俺は陽葵に尋ねた。
「……迷った?」
「迷ってない……はず!」
陽葵は同封されていた地図を逆さにしたり、縦にしたり、上下前後を動かしている。
ダメだ。典型的な地図が読めない人の行動だ!
「地図アプリのナビは?」
「はっ!その手があったね」
すぐ、携帯端末で地図アプリを起動したのだろう。
彼女は自身満々に歩き始めた。
しかし、数分後―――
「……迷った?」
「迷ってないよ!」
陽葵が足を止めた場所は、倉庫だった。
「地図と地図アプリを照らし合わせても、ここが目的地になってるもん!」
そのまま、止めるのも聞かず、倉庫の入り口に向かって行った。
俺はそれを追いかける。
「……帰るぞ」
「え?折角、ここまできたのに!」
陽葵は不満げに言うが……明らかに怪しい。
公式リアルイベントが、こんな場所で開かれるか?
普通、入り口には人員を配置してものだろう。しかし、周囲には人の気配がない。
なにか、こう……
彼女に悪意を持った人間が、いかがわしい目的で呼び寄せたのではないだろうか?
そんな事を考えてします。
「考え過ぎだよ。この監視社会で計画的な犯罪行為なんてムリムリ」
確かに……陽葵の意見は呑気そうに聞こえるが、陽葵の意見も正しい。
キラリと光るインカム型の携帯端末。
その機能の1つにはビッタリーノという持ち主の生体信号を把握するものがある。
持ち主が有事の際は自動的に警察、もしくは病院に通報が送られる。
さらには宇宙の目。
アメリカのスターウォーズ計画による人工衛星の軍事利用から始まったそれは、あるテロ事件を境に個人への追跡能力を徹底的に精度を高めた。
さらにエシュロンシステム。
メールや電話はもちろん、ファックスまで、犯罪にかかわるキーワードは自動的に記録されている。
個人情報が、プライベートが、何て意見も過去にはあったが……
結局、人類が選択したのは監視社会による安全性だった。
女性が深夜に安心して1人でも歩ける世の中ってやつは実現された。
しかし、それでも、個人の悪意が安全システムを超越する例は0ではない。
限りなく0には近づきはするが……
けど、陽葵は―――「大丈夫だって、ホラ」と後ろを指した。
振り向くとコツコツコツと足音を鳴らして女性が歩いてきた。
こちらに気づくと、足を止めて会釈をしてきた。
俺たちは慌てて会釈を返す。
街灯から放たれる僅かな光源は、頼りなく彼女を照らす。
年齢は俺たちと差がないくらいだろうか?
容姿は―――
スラリと細く長い手足。整った顔立ち。モデルだと言われも違和感がない。
ただし、髪型がポニーテールだからか?
ラブコメ漫画だと、美人くのいちキャラで出てきそうなイメージになってしまってる。
もちろん、客観的な印象ではなく、俺個人の印象だが……
そんな彼女は畏まった感じで話しかけてくる。俺ではなく陽葵にだ。
「あのヒナタさんですか?『砲撃姫』の?」
「そうですよ。あなたは『ドラゴンアーマー』さんですよね」
「え?私の事、ご存じで?」
「もちろん、県内ランカー100人の顔と名前くらいなら諳んじてますよ」
陽葵は笑顔で言うが、相手の『ドラゴンアーマー』さんとやらは絶句していた。
上位ランカーを覚えてるだけなら普通かもしれない。
しかし、県内ランカー100人の顔と名前まで覚えてる人間は、そうそういないだろう。
「ところで、公式リアルイベントの会場って、こちらで合っているのですか?」
ドラゴンアーマーが聞く。もちろん、俺ではなく陽葵にだ。
きっと、俺の事は眼中にないのだろう。
「丁度、私たちも不安だったんですよ。良かったら一緒に入りませんか?」
「えぇ、もちろん!是非!」
女子2人は仲良く手を繋いで倉庫の中に入っていった。
仕方なく、俺もついていく。
しかし、女の子の『ドラゴンアーマー』さんとは言いずらい。
本名は無理でも、せめてプレイヤーネームくらいは聞いておかなければ……
この時の俺は、こんな呑気な事を考えていた。
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