『ザ・ウォリアー』 ~この世界を浸蝕するデスゲーム系の近未来SF&ラブコメディ~

チョーカー

悪夢が終わった日常 後編

 親父と顔を合わすのは嫌だったけど、汗だらけのままで制服に着替えて登校するわけにはいかなかった。
 シャワーで汗を落とすと同時に感情をリセットさせる。

 「……」
 「……」

 そのまま、親父と無言で朝食を食べた。
 俺の反抗的な感情も1時間と継続はしなかった。 

 「行ってくる」

 わざとらしく不愛想な感じで言うと―――
「あぁ、気をつけてな」と親父も不愛想な返事だった。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 学校にたどり着く。
 見えない結界でも張られてるように校門から1歩も足がでない。
 俺は「はっは……」と自虐的に笑った。
 結界なんて現実とゲームの区別がつかなくなったみたいだ。

 「帰るか」

 誰に聞かせるわけでもなく、俺は呟いた。
 学校は大切だ。 内申点も成績は人生を左右させる。
 それがリアルな現実だ。 
 学校の勉強とは違った頭の良し悪しがある?
 いやいや、学校の勉強が人生をeasyモードするのか?それともhardモードになるか?
 その2択の分岐点になるのに蔑ろにしてたら、普通に頭が悪い人だろ?
 そんなことはわかりきっているが……今日は気分がのらない。
 だから、今日はサボろう。そう決めた。
 決めたはずだが……

 「カナタ!おはよう」

 勢いよく背後から突き飛ばされた。
 そのまま、校門の中に…… 
 「……」と無言を貫く俺に、先ほど突き飛ばしてきた犯人は―――陽葵は頭に?マークを連発させていた。


 「?どうしたの?遅刻しちゃうよ?」

 そのまま、まるで当たり前のように俺の手を掴んで引っ張った。
 俺は周りの人の視線を気にしたが、陽葵は何も感じないみたいだ。
 それって、もしかして、陽葵は俺を異性として意識してないんじゃないか?
 そんな疑惑すら脳裏に浮かぶ。
 それほど、陽葵は自然体だった。俺と手を繋ぐのが当たり前のように……
 そのまま―――

 「みんな、おはよう!」 

 クラスに到着すると、挨拶と共に元気よく教室に向かった。
 俺も渋々ながら入室する。
 すると―――

 教室が停止した。

 さっきまで、仲良く話していただろう友達同士が―――
 宿題を忘れたのか、友達に借りたノートを写している級友が―――
 学校まで漫画を持ち込んで読んでるやつまで―――

 作業を止めて、俺を見ている。
 針のむしろ。ナイフのように鋭い視線を受けながらも、俺は自分の席にたどり着いた。
 そのまま、クラスメイトの視線から逃げるように机に伏せた。
 しかし―――

 「あの……」

 声をかけられ、反射的に相手を見てしまった。
 「誰?」と一瞬、口に出そうとしたが、寸前で止まった。
 確か、学級委員長だ。えっと名前は―――桜井瑠璃だ。

 「えっと?なに?」

 自分でも驚くほど不愛想な声だった。
 切り替えたつもりだったが、親父とのやり取りが尾を引いてるみたいだった。

 「いえ、その……」
 「その?」
 「大変だったね」 

 短い言葉だった。けど、その言葉は俺の感情を逆なでするものだった。
 大変だったね? なんで過去形なんだ?
 アレは……お前らは部外者で、もう終わったことになっているのか?
 今すぐ、それを声にしたかった。けど、それを無理やり抑え込む。
 それと同時に―――
 自分の内側に、こんなにも攻撃的な感情が渦巻いている事を知り、衝撃と受けた。

 「あぁ、大変だったよ」

 せめてもの八つ当たりに俺は含みを持たせて、強い口調で言った。
 しかし、それは彼女に通じなかったようだ。言葉通りに受け取り、あまつさえ「そう、よかった」と返して離れていった。
 ここが学校じゃなかったら、彼女が好意で声をかけてくれたのだとわからなかったら……
 そう考えたタイミングで、誰かがクイクイを裾を引っ張ってきた。

 「ねーねー、何、怒ってるの?」

 隣の席に座っている陽葵が見上げながら言った。
 俺はため息を1つ。

 「なんでもねーよ」

 他のクラスメイトが不思議そうな顔でこちらを伺ってきたが、もう気にならなくなっていた。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 何も起こらず、時間はスムーズに進んだ。
 きっと、時間の経過と精神は比例するのだろう。
 気が付けば授業は終わっていた。 
 思い返しても、今日の授業内容は頭から抜け落ちていた。
 楽しい時間は早く感じるというが、俺の授業に対する気持ちは一体……
 しかし、まぁ、楽しい時間の経過が早いなら、今はまるでスローモーションだ。
 足取りは重い。それでも、目的地の病院は目の前だ。
 しかし、まるで結界が……

 「それ、朝もやったか」

 先行する陽葵は振り向いては「最近のカナタ。独り言多くない?」と言ってきやがった。

 「そいつは、酷く面白いジョークだな」
 「?」

 今朝の委員長と同じく、俺の皮肉は通じなかったみたいだ。
 もしかしたら、俺はジョークのセンスが皆無なのではないだろうか?
 目的である病室へ向かう途中、エレベータの中で陽葵に尋ねた。

 「お前、花とか好きか?」
 「好きかな?でもなんで?」
 「いや、お見舞いだったら、花でも用意した方がよかったかな……って思ったんだ」
 「ん~ こういうのは雰囲気じゃない? 私なら、なんでもうれしいよ」
 「そうか、今度は用意しておく」

 ちーんと音が鳴る。
 エレベーターは目的の階層に到着した。
 そして、目的の病室へ。
 一応、ノックしてみる。やはり返事はない。
 隣で陽葵が「は~い」なんてふざけているが無視して扉を開く。

 室内は個室。
 ベットが1つ。
 そこに寝ているの少女だった。

 「やっぱり、不思議な感じだね」と陽葵。

 「自分が寝てる姿を、こう客観的に見るなんてね」

 ベットに寝ているのは―――

 桃林陽葵だった。

 どうして、陽葵が2人いるのか?
 それは1週間前の出来事が原因だ。
    

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