ああ、赤ずきんちゃん。

極大級マイソン

最終話「赤ずきんちゃんときのこシチュー」

 オオカミ「はぁはぁ。か、狩人さんってすごく足が速いんだな、だいぶ遅れて来ちゃったよ」
 赤ずきん「あ、オオカミさん!」

 オオカミは、狩人を追って山の斜面を走っていましたが、気力と精力に溢れた狩人に追いつくことが出来ず、息も絶え絶えでようやく赤ずきんがいる元まで辿り着くことが出来ました。

 赤ずきん「遅かったねオオカミさん。もう帰っちゃったのかと思ったよ」
 オオカミ「いや、ぼくオオカミの年齢で言えば結構歳だから、山の斜面を走るのきつくって……」
 お婆ちゃん「何言ってんだい! まったく、その歳で年寄り気取りなんて50年早いよ!」
 オオカミ「あ、赤ずきんちゃんのお婆ちゃん。……風邪をひいたと聞きましたが、大丈夫なんですか?」
 お婆ちゃん「ん? 一体いつの話をしてるんだい。わたしゃ風邪なんて一晩寝たら治っちゃったよ。毎日トリュフ食べてるおかげだね」
 オオカミ「はぁ……」
 お婆ちゃん「トリュフは良いよ〜。噛めば噛むほど元気になる! トリュフのおかげでわたしゃ毎日元気でいられるんだ!」
 オオカミ「……なんか、赤ずきんちゃんのお婆ちゃんって感じだね」
 赤ずきん「えっ、それってどういう意味?」
 オオカミ「ところで、先にここへ来たはずの狩人さんがどこへ行ったか知りませんか?」
 お婆ちゃん「あの兄ちゃんならホレ。あそこでお爺ちゃんと一緒に遊んでるよ」

 お婆ちゃんが指し示した方向をオオカミが見ると、そこでは狩人とお爺ちゃんが、剣と拳を交えて戦っていました。

 狩人「ちぃっ、なんて硬い爺さんなんだ! 岩をも切り裂く俺の剣術でもビクともしねえ!!」
 お爺ちゃん「貴様こそ、儂の奥義をアレだけ受け流すとはやるではないか! ……だが、この技で終わりじゃい!! ハァッ!!!」

 お爺ちゃんは拳の連打を狩人に浴びせます。しかし狩人は、その攻撃を華麗に避けてカウンターに転じようと剣を振ります。
 剣と拳の攻防戦。互いに一歩も引かない勝負が、終わることなくいつまでも続いているのでした。

 赤ずきん「お爺ちゃん達まだ戦ってるね〜」
 お婆ちゃん「男って奴は、いくつになっても子供のまんまだからね〜」
 オオカミ「……しかし、2人共休む暇も無く戦ってますね。いつになったら帰れるんでしょう……」
 お婆ちゃん「しょうがないねぇ……」

 そう言ってお婆ちゃんは、戦いの真っ最中な狩人とお爺ちゃんの元へ歩いて行きます。

 オオカミ「あ、危ないですよ!」

 オオカミは叫びますが、お婆ちゃんは止まりません。テコテコと2人の近くに来たお婆ちゃんは、おもむろに両方の腕を振り上げました。
 そして、

 狩人「グェッ!?」
 お爺ちゃん「ガハァッ!!」
 オオカミ「……え?」

 その時、オオカミには何が起きたのか分かりませんでした。只、お婆ちゃんが両方の腕を振り下ろした瞬間。戦っていた2人がまとめて地面に倒れ、そのまま動かなくなったのです。
 呆然とするオオカミには構わず、お婆ちゃんは仕事を済ませた顔で、孫の赤ずきんの元まで戻ります。

 お婆ちゃん「さあ、帰るよ赤ずきん。今晩はうちで食べなさい、美味しいきのこシチューを作ってあげるからね」
 赤ずきん「えー、私きのこはもう飽きた。アップルパイが食べたいよ〜」
 お婆ちゃん「じゃあ、赤ずきんがお見舞いに持ってきてくれた、リンゴを使って作ろうかねえ。……もし、リンゴが残っていたらの話だけど」
 赤ずきん「ギクッ!」
 お婆ちゃん「おおそうだ。そこのオオカミさんも、わたしの家で食べてきなさい。ウサギの肉くらいなら、ご馳走してあげるからさっ」
 オオカミ「あ、はい。それなら是非……」

 オオカミが頷くと、3人はお婆ちゃんの家に向かいます。……狩人とお爺ちゃんを、置き去りにして。

 オオカミ「あ、あの〜。あちらの2人は?」
 お婆ちゃん「んん? あー適当に放っておきなさい。今日は天気も良いし、外で寝てても風邪引いたりしないだろうし」
 オオカミ「いや、そういう問題じゃなくて……」
 赤ずきん「オオカミさん何やってるの〜。早く来ないと置いてくよ〜」

 赤ずきんはオオカミに、急いで来いと手を振ってきます。
 仕方なく、オオカミは気絶する2人を置いて、山を降りていくのでした。
 オオカミが山を降りる最中、後ろの方から微かに声が聞こえてきました。

 狩人「…………へっ、また決着をつけられなかったな」
 お爺ちゃん「ああ。……だが、次こそは」
 狩人「負けねえぞ、爺さん」
 お爺ちゃん「勝つのは儂だ、小僧。…………くくくっ」
 狩人「はははっ」



 赤ずきん「………………ねえ、お婆ちゃん」
 お婆ちゃん「何だい赤ずきん」
 赤ずきん「狩人のおじさんとお爺ちゃん。どうして会うたびに喧嘩するのに、最後はあんなに楽しそうに笑うのかな?」
 お婆ちゃん「それはね、赤ずきん。それが『男』ってやつだからさ」
 赤ずきん「うーーん? ……私にはよく分からないわ。男の人って、みんなあの2人みたいな感じなのかしら?」
 お婆ちゃん「ふふふっ。……いつか赤ずきんが森を出て、色んな人と出会えたら、きっと自然と分かることさ」
 赤ずきん「あっ! じゃあ私、お婆ちゃんと一緒に町に行きたい!」
 お婆ちゃん「いいよいいよ。ちょうどトリュフを売りに、町まで行こうと考えてたからね」
 赤ずきん「わーい!」

 赤ずきんは嬉しそうに笑います。お婆ちゃんもにっこり笑います。
 ついでに、倒れている狩人とお爺ちゃんも笑っています。
 そしてオオカミは、赤ずきんとお婆ちゃんの後ろで、苦笑いを浮かべていました。

 オオカミ「……こんな人間たちじゃ、オオカミだって手を出せないよ」

 童話の悪者、オオカミ。悪を極めた彼だからこそ、分かることがあります。
 人間は恐ろしい。少なくとも、この森の人間はちょっとおかしい、と。

 オオカミ「ま、人間の肉が嫌いなのは本当だけど」
 赤ずきん「オオカミさーん!」
 オオカミ「ああ、今行くよ!」

 そう言って、オオカミは今度こそ赤ずきんの元へ向かいましたとさ。

 --ここは、物語の世界。ちょっと変わった童話の世界。
 きっとここは、正しいものは殆ど無い、嘘と虚構が渦巻く世界。
 ですが、たった1つだけ、真実があるとすれば。



 狩人「ああ、赤ずきんちゃん。やはり君は美しいっ!!」
 赤ずきん&オオカミ『って、何で狩人のおじさんが!? ていうか、題名のオチそれかよ!!』



 終わる?

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