公爵令嬢は結婚したくない!
結婚式(1)
「ティア、もう起きなさい」
何度か体を揺さぶられたところで、私はゆっくりと瞼を開ける。
部屋は、私室で――、昨日はお母様と夜分遅くまでベッドで語りあっていたので、何時の間にか寝てしまっていたみたいで――。
「おかあ……しゃま……?」
「まったく、この子は――」
呆れたような――、楽しそうなよく分からない綯交ぜの表情を見せたお母様はベッドから出ると、
「エリン。娘が起きたから後は任せるわね」
扉を開けると室外で待機しているエリンに指示を出す。
「畏まりました」
少し遅れて頭を下げているであろうエリンの姿が目にはいってくると同時にお母様はエリンを見て――、
「娘を此れからもよろしく頼むわね。少し、目を挟むとすぐにアレだから」
そのような話が聞こえてきたあと、エリンと彼女に付き従う侍女が3人ほど部屋に入ってくる。
「おはようございます。本日は、お体の御加減は如何でしょうか?」
「特に問題はないけれど……」
「それはようございました。それでは、すぐに用意を始めると致しましょう」
「そうね」
結婚式は、王城内の大聖堂で、お昼頃から行われる事なっているけど、身支度をする時間を考えると時間的余裕はあまりない。
軽く湯浴みを済ませたあと、城に来ている他国の賓客に姿を見られてもおかしく思われない程度に、ドレスを着付けたあと、馬車に乗る。
馬車で移動中は、とくにする事もないので貴族街の街並みを見るにとどめるけれど――、何時もよりも多くの家紋が彫られている馬車が、それぞれの貴族家の前に停まっているのが見受けられた。
「今日は、馬車が多く見られるわね」
「はい。今回の結婚式はアルドーラ公国内全ての貴族が参列する事になっていますので、その影響かと思います」
「そう……」
たしかアルドーラ公国内の貴族家の数は4桁近い。
それが全て来ることになると、私が想像していたよりも結婚式は盛大になりそう。
――でも、それはそうかも知れない。
ずっと険悪状態だったリースノット王国とアルドーラ公国が互いに手を取り合うのだから。
そして――、その橋渡しが本人たちだと思われているのだから。
私達が、それを意図としていなくても第三者から見たらそう見えるのだから。
馬車は、貴族街を抜け王城の裏手から――、
幸い、結婚式の3時間以上前と言う事もあり登城してくるような貴族と会う事はない。
そのまま馬車は王城内の敷地を走り大聖堂前で到着する。
「大きいわね……」
馬車を護衛していた女性騎士の手を借りながら馬車から降りた私の目に入ってきた建物。
それは尖塔まで含めた高さ100メートル近くある巨大な建造物で――。
私が持っている地球の知識で言うとウルム大聖堂のような形をしていた。
さらに窓と思われる場所にはステンドグラスが惜しげもなく使われている。
「ルクル大聖堂になります」
「ルクル大聖堂?」
「はい。神代文明時代に作られた遺跡を利用した物と伝承にありますが、ここで結婚式を行うのは、王家のみ許されています」
「そうなのね……」
スペンサーは何も言ってなかったし、私も大聖堂のことは普通の教会のような物だと思っていたから別段気にはしていなかったけど、見上げるほど巨大な建物を式場として利用することを思うと思わず気後れがしてしまう。
「ユウティーシア様。お時間が御座いません。すぐにご用意を致しましょう」
「――そ、そうね」
感じ入っている暇なんてない。
早く用意をしないと――。
他国の前で、彼に恥をかかせる訳にはいかないのだから。
大聖堂の通路を通る。
道中、多くのメイド姿をした女性達とすれ違う。
誰もが忙しなく仕事をこなしている事から、彼女たちも他国の王族や貴族をもてなす事に全力を注いでいる。
そんな姿を見ている否応なしに緊張してくる。
「ユウティーシア様、こちらのお部屋になります」
エリンや、女性騎士達と共に通路を歩き到着した一室に入ったところでアロマの匂いが鼻孔を擽ってきた。
「これは……」
「カモミールのお香です。緊張を和らげる効果があります」
「そうなのね。ずいぶんと用意がいいのね」
「スペンサー様からの指示です。ユウティーシア様は、きっと緊張するからと――」
「そうなの?」
「はい」
私の体調や性格を見透かしたかのように必要な物を用意してくれている彼に少し驚きながらも、大事にされていると――、色々な配慮をしてくれていると――、考えて貰えている事に心の底から嬉しくなる。
「それでは、まずは――」
すぐに湯浴みを行い、体をこれでもか! と、言うくらい丁寧に磨かれた。
そして純白のウェディングドレスを着付けたあとは香油を髪に染み込ませていく。
髪型をハーフアップ気味に整えたあとは化粧を行い用意されたトパーズがメインで使われているイヤリングにネックレスといった宝飾品、無数の宝石などを使って作られたと感じられるティアラを身に付ける。
「ユウティーシア様、とてもお綺麗です」
エリンが、褒めてくれている通りに――、鏡の中で――、私をジッと見つめ返している私は、少し大人びた大人の女性といった雰囲気を醸し出していた。
それはドレスや宝飾品が私自身の魅力を引き出しているからだと思う。
「お世辞でも嬉しいわ。ありがとう、エリン」
「お世辞ではありません。スペンサー様が、いまのユウティーシア様を見ましたらすぐにでも抱きしめてくれるはずです」
「……」
彼女の言葉に彼に抱きしめられている自分の姿を一瞬、想像してしまい顔を朱色に染めてしまう。
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