公爵令嬢は結婚したくない!
結婚式前日(4)
ティア・ド・アルドーラって……。
私の中に居るティア・ド・ローランドが100年前に現世に居た時の名前でいいのよね?
思わず無意識の内に唾を嚥下してしまう。
その間にも、フィンデル大公は部屋の扉を開錠――。
「ここは……」
部屋の中に通されて私は思わず声が出てしまう。
狭い室内は、女性らしい部屋からは程遠く、部屋の壁には数百冊では効かない膨大な本が所蔵されていて……。
「ここは、リースノット王国の王族であったティア・ド・リースノットが暮らした部屋だ」
「父上、ここが? ――ですが、どうして……、いままでは誰も入る事を許されなかった部屋を……」
「祖母のことは儂も会ったことはないから知らないが……」
そう前置きして、私の方を見てくる大公様。
「リースノット王国から、王妃として嫁いでくる女性が居た場合には、この部屋に通すようにとの遺言であってな」
「遺言……」
「うむ」
神妙に――、同意するかのように頷いてくる大公様。
私は、室内に一歩ずつ赤い絨毯を踏みしめるようにして部屋の中心部まで進む。
部屋の中は、書棚だけ。
あとは、頭上に小さなシャンデリア。
壁には、光を取り入れる為の大きな窓。
窓の縁は何の装飾も施されていない木で作られていて、若干の腐食が見て取れて少しだけ黒ずんでいる。
それに、絨毯も窓枠も窓も埃などで薄汚れていて室内の空気は若干淀んでいるようにも見て取れた。
「大公様、誰も入ったことはないのですか?」
「うむ。掃除もしなくていいと遺言にあってな」
「そうでしたか……」
「ティア?」
「ううん。なんでもないの」
私の様子を心配したのかスペンサーが話しかけてくるけど、何も問題ないと言葉を返す。
実際、こんな部屋があるなんて私の中に居るティア・ド・ローランドは何も言ってなかった。
知っていたのなら、教えてくれていたはずだけど……。
少しだけ腑に落ちない気持ちのまま書棚に目を通していく。
「これは……」
「ティア?」
私の呟きにスペンサーは怪訝な表情をしてくる。
そんな彼に何でもないからと声を返しながら――、
「本を手に取っても?」
フィンデル大公様に確認をとりつつ、「問題ない」と、了承を得ることができた。
「それでは失礼致します」
大公様に一言断りを入れてから書棚から本を一冊手に取る。
この世界の公用語は基本的にカタカナで――、日本語に近い。
そして、私が手に取った本は表紙には魔法陣に組み込む為の漢字とカタカナでだけでなく、一般的には普及していないひらがなも利用されていた。
私が手に取った本に書かれていたのは、『過去の私へ』と、書かれた本。
意味が分からない……だけど――。
何となくだけど、これは……。
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