公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

結婚式の準備(7)




 産まれてくる赤ちゃんの服を作り始めてから3日ほどが経過。
 
「奥様。それは、こちらの糸の方が宜しいかと思います」
「そうなの?」
「はい。もう少し細い糸の方が――」

 私は、アグネスから渡された糸を針の穴に通す。
 そのあとは、紙型を使って切り取ったあとの布を縫い合わせていく。

「……」

 私とアグネスは、必要以上に話すこともなく二人でチクチクと裁縫を続ける。

「……」

 そんな私とアグネスを部屋の扉の近くで控えているエリンがじーっと見てくる。
 まるで仲間に加わりたそうに見ている。

「ねえ。エリン」
「なんでしょうか?」
「仲ま――、じゃなくて――、エリンも私達と一緒に裁縫でもする?」
「いえ、私はユウティーシア様の体調管理をスペンサー様から任されておりますので」
「そう……」

 どう見ても私達に混じって一緒に作業したそうなんだけど……。

「それより、ユウティーシア様」
「何かしら?」
「その……、作りすぎでは?」

 エリンが、ベッドの横に置かれた籠へと視線を向けて呆れた表情を見せてくる。
 そんな風にエリンが感情を見せるのは珍しい。

「――え? でもオムツとかいっぱい必要よね?」
「ユウティーシア様。200枚も必要ありません。一体、何人の御子を産むおつもりなのですか?」
「「……」」

 無言になる私とアグネス。
 籠が2つくらいを超えたあたりから数えるのを忘れてしまい、色々と赤ちゃんの洋服を作っていたけれど……。
 ハッ! と、して籠を見ると室内には籠が20個近くあり――。

「ちょっと作りすぎたかしら……」
「作りすぎです」

 体調が芳しくないのでベッドの上ではする事と言えば限られるし、最近はスペンサーも忙しいらしく3日間で帰ってきたのは一日だけ。
 紋章官を2人手配してくれることになったので、紋章や家名を覚える必要がなくなったので本当にすることがない。
 おかげで気が付けば一杯、赤ちゃんの為の下着とか服を作ってしまっていた。

「えへへっ……」
「ユウティーシア様。てへぺろをしている場合ではありません」
「そ、そうね……」

 誤魔化そうとしたけど、エリンには通じなかったみたい。

「これだけの……、裁縫した物をどういたしますか?」
「そうね……」

 少し考える。

「孤児院に寄付するとか?」
「それが宜しいかと――。ただ、使っております素材と糸の品質はかなり良い物ですので……」
「直接上げると近隣住民とかと軋轢が出来てしまったり?」
「可能性はありえます」
「……それなら半分は孤児院に寄付をして、残り半分は貧しい赤ちゃんの居る家庭に配布すると言うのはどうかしら?」
「分かりました」

 思ったよりも、すんなりと納得してくれたエリン。
 すぐにエリンの指示で侍女見習いたちが籠に入っているオムツとか靴下とか手袋や洋服を持っていく。
 残ったのは、1割だけ。
 それは私の赤ちゃんの分。

「部屋が広くなったわね……」
「ユウティーシア様は作りすぎです。あと、熱中するのは構いませんが食事をキチンと摂ってください」
「はい……」

 ただ――、やはりというかやる事がないのでクマさんのヌイグルミや、イヌのヌイグルミをせっせとアグネスの教えの元で作る。
 そんなことを続けていたら部屋の中がヌイグルミで埋もれることになり――、エリンに小言を言われたりしたり、仮縫いのドレスのサイズ合わせをしたり、半分ほど出来上がったウェディングドレスの合わせをしたり、本仮縫い後の着付けと確認をしたりとする事がいっぱいあり……と結婚日までダラダラと過ごす。

 そんなお部屋から出ずにゴロゴロと毎日を過ごして居たら結婚日の前日となっていた。



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