公爵令嬢は結婚したくない!
結婚式の準備(2)
来賓室に到着したところで、エリンの手を借りてドレスを脱いだあとは寝間着に着替える。
本当は、沐浴をしたかった。
けれど疲れてしまい眠かったのでベッドに横になる。
「ユウティーシア様。それでは、何かございましたら――、すぐにお呼びください」
「ありがとう、エリン」
扉から出て行ったエリンは、外に立っていた衛兵と少し話すと扉を閉め――、すぐに室内は静かになる。
私は、ベッドの上に身体を横たわらせる。
「疲れた……」
私は、部屋の中の――、テーブルの上に置かれている本を見ながら小さく溜息をつく。
貴族の名前と家紋を覚える作業もしないといけないのに疲れて、本を読んで学ぶところではないのがきつい。
「もう殆ど時間が無いのに……」
一応、アプリコット先生からは他国の王族クラスの名前や家紋なら教えて貰ったけど、それに連なる公爵家や政務を取り仕切る上級貴族までは教えられていない。
せいぜいリースノット王国の隣国であるアルドーラ公国と軍事国家ヴァルキリアスがギリギリの範囲。
魔法帝国ジールや、帝政国、海洋国家ルグニカ、セイレーン連邦などは論外。
「考えれば考えるほど大変よね……」
ベッドの上で横になりながら、私はベッドの上に横になる髪を手で弄りながら溜息をつく。
それと共に弱気になってしまう。
一般人なら、そこまで教養などは必要ない。
でも私の場合は、新しく興される公爵家の夫人となる身。
それも、ローレンシア大陸の中で大国と呼ばれるアルドーラ公国の公爵家。
対概的にも、リースノット王国の血筋を持つ私には色々と制約というか仕事という物が入ってくると思う。
そうなると今までのように勝手は出来なくなる可能性はあるわけで……。
そこまで考えてしまうと気分的に滅入ってしまう。
「本当に結婚していいのかな……」
結婚する事は、正しいってことは分かっている。
彼と結婚したいという気持ちはある。
それに、彼と人生を共にしたいという意志はある。
だけど……、良く分からないけど――、結婚することで色々な事が変わってしまう事が分かってしまうと落ち込んでしまう。
「はぁ……」
何度も気持ちを固めたのに、すぐに思考が悪い方向へと進んでしまう。
「私って本当に弱いよね……」
そう考えてしまうと思わず涙が出てしまう。
感情が――気持ちが制御できずに、どうしようもなく泣いてしまう。
ベッドに置かれている大きな枕に顔を埋めて泣き声が外に漏れないようにするけど……、どうしてか分からないけど次から次へと涙が零れでる。
彼に――、スペンサーに会いたい。
はやく彼に抱きしめてもらいたい。
どうして、私はこんなに弱くなってしまったのか。
「スペンサー……」
――コンコン
「――ふぇ?」
唐突に扉がノックされたかと思うと、扉が開くと彼が――、スペンサーが姿を見せて……。
「泣いていたのか?」
「…………うん」
私は、彼に涙を見せたくない。
枕に顔を埋めたままくぐもった声で答えを返す。
「そうか。エレンシア殿が、ティアの様子を見て来て欲しいと頼んできたから急いできたんだが……、早く来てよかった」
「お母様が……?」
「ああ――。本当は、エレンシア殿が付き添いたかったみたいだが、俺に頼んできたんだ」
「そう……なの?」
彼は、私と語らいながらベッドに腰を下ろすと、私が両手で抱えていた枕に手を振れるとずらしてくる。
すると彼と目が合ってしまい――。
「大丈夫か?」
「うん……」
「目が真っ赤だぞ。何かあったんじゃないのか?」
「……」
彼に、結婚したあとの事が不安になってしまって泣いてしまったとはいえない。
「ティア」
そう言いながら彼は私の肩を掴み抱きしめてくる。
彼の身体が――、その熱が伝わってくる。
「スペンサー……」
「本当に、ティアは自分で何でも背負う癖がついてしまっているな」
「……ごめんなさい。私、貴方のことが好き! ……でも、結婚してからの事を考えると今の生活から一変してしまうと考えてしまって……、それで不安になってしまって……」
「それで泣いていたのか」
私は小さく頷く。
本当に私は弱く脆い。
「そうか……」
彼は静かに頷く。
その様子から、呆れられてしまったと思ってしまったけど……。
「ティア」
「……」
「俺は、ティアが躓いた時――、疲れてしまった時――、立ち止まりそうになった時――、悲しい時――、嬉しい時――、そう! どんな時でもティアを支える。だから、どんなに不安になった時でも、どんな時でもいい。俺を頼ってくれ」
「スペンサー?」
「それとも俺は頼りないか?」
「ううん。そんなことないわ。貴方の腕に抱かれていると安心するもの。先ほどまでの不安感が嘘のよう――」
「そうか」
「うん」
軽く彼とキスを交わしながら言葉を返す。
「私、がんばるわね」
「ティア、まずは子供を第一に考えればいい。紋章官も早めに用意するから、根を詰める必要もないからな」
彼は、室内のテーブルを横目でチラッと見たあと私に声をかけてくる。
「ごめんなさい」
「謝らなくてもいいからな。まずは、自分の身体と子供のことを最優先に考えればいいからな」
「うん」
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