公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

結婚式の準備(1)




 翌日からは、結婚式に向けてのドレスの新調作業。
 幾つかのドレスのモデルデザインから好みの物を選んで自分の身体のサイズに仕立ててもらうセミオーダの納品期間は1か月から3ヵ月ほど。
 だけど今回は完全に、1からドレスを作るため、掛かる時間は半年から1年掛かる計算となる。
 でも、結婚式までは1か月を切っているので、それを補う為に――、地球とは違い完全に手作業となる事もあり人海戦術でドレスを仕立てて貰うことに。
 その為、アルドーラ公国の有名どころの店に所属している針子さんを総動員する運びとなっている。

「これなどは如何でしょうか?」
「少し色合いが薄いのではないのか?」
「どうして、ここにお父様が……」
「まずは、最初のドレスに合う装飾品に関しては我がリースノット王国の威信が掛かっているからな」
「そうですか……」

 私は、採寸された後に何度も繰り返された色合いの確認と生地のチェックをお母様と行っていた事もあり疲れてしまっていた。
 ちなみに、お父様の隣にはお母様も居て――。

「ティアには銀細工が似合うと思うわ」
「うむ……、たしかに――」

 二人して、私が結婚披露宴でドレスに合わせるネックレスやイヤリングを見ながら色々と意見を言っている。
 そして――、スペンサーと言えば、今はこの場にはいない。
 彼は会場の設営や各国の王侯貴族への結婚式招待状作成などを一手に受け持っていて朝に分かれてから一度も会っていない。

 正直、もうすぐお昼に差し掛かる事もあり疲れてきた。
 
「少し休憩にしませんか?」
「そうだな」
「そうね」

 私の提案に両親は頷くと、すぐに人払いをしてくれたあと侍女たちが飲み物や軽食を持ってきてくれる。

「それにしても、娘が結婚だと思うと感慨深い物があるな」
「そうね……」

 お父様の言葉に、同意するお母様。

「ティア」
「何でしょうか?」

 そのまま、お母様は私の方を見てくる。

「昨日は、よく眠れたのかしら?」
「はい?」

 私は、ティーカップを両手で持ったまま思わず首を傾げてしまう。
 何の意図があって聞いてきたのかと考え――、

「そういうことはしていませんから!」
「あら? そうなの? でも、妊娠安定期に入るまでは駄目よ?」
「分かっています。王宮から手配頂いた主治医の方からも、その点については説明を受けていますから」
「そう、それならいいのよ」

 私は、内心溜息をつきながら紅茶を飲む。
 そして、野菜などが挟まれているサンドイッチを口に運ぶ。
 咀嚼してから、紅茶で流し込む。

「そういえば、エレンシアは悪阻が酷かったがティアは大丈夫なのか?」
「……」

 そういうデリケートな話は、女性には振って欲しくないんですけど……。
 もう少しお父様は、空気を読んでほしい。
 私はチラリと助けを求める為に、お母様の方を見る。

「バルザック、娘の体調を心配しているのは分かるのだけれど、もう少し考えて発言するようにして」
「すまないな」

 全然、悪く思ってなさそうなのが声色から分かってしまうけど、人払いをしたとは言っても数人の侍女は室内に残っているし、専属侍女となったエリンも居る事から、家長であるお父様には私からは強く言い出せない。
 
「あの、お母様」
「何かしら?」
「私が公爵邸に残してきた仔犬は無事ですか?」

 とりあえず両親が揃って時間が取れたことだし、妹の事を聞こうと思う。
 ただし、室内には侍女などが居るので妹のことを直接聞くのは、色々と困ることになりそうなので、まずは妹のアリシアに預けた仔犬の事を聞く。

「ティアが飼っていた犬よね?」
「はい。アリシアに預けてきた犬です」
「アリシア?」
 
 以前に聞いた時にも、お母様は知らない素振りを見せたけれど、やはり妹の事は覚えていないようで――。

「バルザック、アリシアという娘は公爵邸に居たかしら?」
「記憶にないな。ティアの勘違いではないのか?」
「……」

 思わず無言になってしまう。
 やはり、お母様だけでなくお父様の記憶からも妹の存在が消えてしまっている。
 それは、ユウティーシア・ド・ローランドが言ったとおりで――、やはり現実を見せられるとショックで……。

「ティア、どうかしたの?」
「いいえ……、少し疲れてしまったみたいで……」

 咄嗟に言い訳をしたところで――。

「そこの者、娘を寝室まで運ぶように――」
「畏まりました」

 エリンが恭しく頭を下げると、私の傍まで来て立たせてくれる。
 本来なら一人でも歩けるけど、体調不良を告げた手間、素直に従っておいた方がいい。

「あの装飾品の方に関しては……」
「色合いは覚えたから、あとは任せておきなさい」

 そう返してくるお母様に私は安堵し部屋から出て王城内に用意された来賓室へと向かう。


 

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