公爵令嬢は結婚したくない!
婚姻式(1)
思わず溜息が出てしまう。
「それで、その……、洗脳魔法に対する防御力が皆無ということは……」
「そういう相手とは戦わないようにすることが一番ね。あと、絶対に他人には教えないことかしら?」
「はぁ……」
教えられる訳がない、
教えたらどうなるのか考えただけで恐ろしい。
「でも、私とユウティーシアさん以外では以前の……100年前の体を使う事が出来なかったんですよね?」
「そうなるわね」
彼女は、ティーカップに口をつけたあと答えてくる。
「そうなると、石碑を用意した人が誰か分からなくなりますね」
「ええ……」
「――あっ!」
「どうかしたのかしら?」
「今気が付いたんですけど」
「何か?」
「エルノのダンジョン内の神代文明の遺跡で草薙雄哉という人物と会ったのですけど……、その時に、彼は私から依頼されて杖を作ったと言っていました」
「そう……」
私の話を聞いた彼女は小さく頷く。
「それなら、彼に聞くのが早いかも知れないわね」
「はい。リメイラール教会の勇者とコンタクトが取れればエルノのダンジョンにも行けますから……」
ユウティーシアさんは、私の言葉に微笑み返してくる。
すると周囲の風景の輪郭が薄くなっていき――。
目を覚ますと、そこは部屋で……。
室内には私しかいない。
「どのくらい寝ていたのかしら?」
地球人の――、草薙雄哉の記憶を付与された私としては時計という知識を保有している。
正確に言うのなら、草薙雄哉の記憶を根幹に公爵令嬢としての私――、ユウティーシア・フォン・シュトロハイムが形成されたと言ってもいい。
だから正確に言うのなら転生ではないと思う。
それでも、時計という知識を持っていることから時刻が簡単に分かる道具は便利だなと思ってしまう。
「エリン」
「どうかなさいましたか?」
室内に入ってきた侍女となったエリンが恭しくはいってくる。
「あれから、どれくらいの時間が経ったのかしら?」
「鐘としては3つほどです」
「そう」
ということは6時間ほど寝ていたということになる。
思ったよりも寝ていたのに、それでも眠くて堪らない。
「ユウティーシア様、何かお召し上がりになられますか? 昨日から何も口にしていないと聞いております」
「そうね……」
正直に言うと食欲がまったくない。
「何か飲み物を頂けるかしら?」
「それでは果物の飲み物などご用意致しましょうか?」
「お願い」
「少しお待ちください」
部屋の中で待たされること数分。
「ユウティーシア様、トマトジュースになります」
「ありがとう」
受け取ったグラスに口をつける。
仄かな酸味が喉を潤していく。
全て飲み終えたあとにグラスを渡すと、私はベッドの中で横になる。
「それでは何か御用がありましたら、何時でも、お申し付けください」
エリンが部屋から出たあと私は目を閉じる。
すぐに意識は落ちた。
――お母様が、リースノット王国への帰路につかれてから翌日の朝……、スペンサーが、部屋を訪ねてきた。
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