公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

洗脳魔法への抵抗力はゼロです




「……んっ」

 お父様とお母様の馴れ初めの話を聞いていて――、私は何時の間にか寝てしまっていたようで……。
 朝方は肌寒いアルドーラ公国ならではと言っていいのかあれだけど、私はベッドの中で――、まだ心地よい眠気の中――、微睡んでいた。

 しばらくすると意識はハッキリとしてくる。
 そこで私は、おかしなことに気が付いた。

「お母様?」

 ベッドの中には、お母様の姿は無くて――。
 寝ぼけていた意識のまま、部屋の中を見渡すけど、やっぱりお母様の姿はない。
 
「どこに行ったのかしら?」

 外を見る。
 日差しと部屋の中の温度から、朝方というのは間違い無さそうだけど……。

「エリン、いるかしら?」
「ユウティーシア様、おはようございます。どうかなさいましたか?」

 扉を開けて入ってきたエリンが畏まって挨拶をしてくる。

「お母様は、どちらに?」
「エレンシア様は、リースノット王国に朝早く出立されました」
「――え?」

 一瞬、何を言っているのか理解できなかった。
 昨日の今日で、すぐにリースノット王国に帰るなんて……、何の相談も無く帰国されるなんて思わなかった。

「エレンシア様から手紙を預かっております」

 エリンから手紙が入っているであろう封書を受け取り開封する。
 手紙を取り出したあとは、文字に目を走らせる。

 ――そこには……。

 私とスペンサーの結婚を祝福してくれているということ。
 お腹が大きくなってからの挙式は大変なので、なるべく早い段階――、出来れば一か月以内には挙式を設けたいということ。
 その為に、国元に帰ることが書かれていた。

「お母様……」

 とても嬉しい。
 思わず、涙が頬を伝ってくる。
 嬉しさから涙が出るというのは、他人の記憶を持っている私からしたら知っている現象ではあったけど、その記憶には嬉しさから涙が出るというのは無かった。
 だけど……、今なら――、その言葉の意味が良く理解できる。

「ユウティーシア様。本日は冷えますので、飲み物をご用意致します」
「ありがとう」

 彼女は微笑むとハーブティーを用意してくれる。
 すぐにティーカップに注がれ――、私は口をつける。
 程よい暖かさが、体を温めてくれる。

「ねえ? お母様は、リースノット王国へは、もう旅立ったのかしら?」
「はい。明け方と共に出立為されました」
「そうなのね」

 ハーブティーを飲み終えたあと、ベッドに体を預けて目を閉じる。
 妊娠してから、ずっと眠い。
 目を閉じれば、すぐに夢の中へ――。
 

 
「また来たのね」

 気が付けば、また夢の中――、ユウティーシア・ド・ローランドのいる場所に私は立っていた。

「はい。来てしまいました」
「まったく……もう……」

 溜息をつきながらも、そのかけてくる言葉は幾分か柔らかくなっている事に私は気が付いたけど、言わぬが花ということもあるので余計な事は言わない。
 私は何も言わずに、彼女が腰をかけている長椅子に座る。

 そんな私の動作をずっと見ていた彼女は――、「エレンシアから許可を頂けて良かったわね。婚約おめでとう」と、御菓子を摘まみながら祝福の言葉をくれた。

「ありがとうございます」
「いいわよ。別に――、貴女も私に力を貸してくれるのでしょう?」
「はい」
「そう……、でも無理はしたら駄目よ? 妊娠時は自分の体だけじゃなくて子供の事も考えないといけないわよ?」

 ――真剣な表情。

「はい。分かっています」
「そう。分かっているならいいの。石碑の事が無ければ、貴女の子供が大きくなるまで待っていてもいいのだけど……」
「問題は、石碑を誰が書いたかですよね?」
「ええ、少なくてもアルドーラ公国に私が嫁いだ時には無かったわ」
「ユウティーシアさんは、アルドーラ公国にはどのくらいの時間居たんですか?」
「そうね……。3年ほどかしら?」
「――え?」
「どうかしたの?」
「だって白亜邸は、嫁いできたティア・ド・アルドーラの為に作られたって……」
「白亜邸は知らないわね」
「あの……3年ほどって……死んだという事ですか?」
「正確には違うわね。精神接続が3年しか持たなかったということ、たぶん第三者から見たら意識不明の寝たきりになっていたと思うわ」
「それって……」
「どうかしたの?」
「これは推測ですけど、意識を失った体を誰かが乗り移っていたという事は考えられないですか? それで石碑を作ったとか……」
「それは無理よ。だって、作られた体は円環の女神も関与しているのだもの。つまり私専用の体ってことになるの。それを利用できるのは私以外には――、精神防護壁が存在しない貴女だけなのよ?」
「精神防護壁が無い?」
「そうよ。そうしないと人格を変更するときに体に大きな負担が掛かるもの。――でも、問題があったの。それは洗脳魔法とかに極端に弱くなってしまった事くらいかしら?」
「それって……大問題なのでは……」

 呆れて物が言えない。
 私が簡単に洗脳されてしまっていた理由がようやく分かったから。




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