公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

和解(8)




 私は、彼と接吻をした余韻に浸っていたこともあり、そこに立っていたのはお母様だと分かったけれど、すぐには思考が上手く動かずにいて――。
 そんな私の様子に、お母様は溜息をつく。

「スペンサーさん。娘と、今日は二人きりにしてもらえるかしら?」
「それは……」

 私の方を心配そうに見てくる彼。
 お母様について苦手意識を理解している私としては彼に傍にいて欲しいし、彼もそれを知っているから気遣ってくれているのだろう。
 それよりも……。
 
「お母様……どうして此処に……」
「娘が目を覚ましたと連絡を貰ったのよ?」

 きっとエリンが、気を利かせたのかも知れない。
 でも――、いまは逆効果だから! と、心の中で必死に突っ込みつつも表情を変えることなく――。

「……そ、そうなのですか」
「ええ。心配して見にきてみれば殿方と逢瀬をしているとは思わなかったわ。――まぁ、未来の夫となる者となら分からなくもないから良いのだけれど――」

 その言葉に私は思わず赤面してしまう。
 そういえば、お母様はスペンサーとの結婚を認めてくれたんだった。
 それなら、少しくらいは……。

「スペンサー。今日は、お母様と二人きりにしてもらえるかしら?」
「大丈夫なのか?」
「ええ。少し苦手だけれど……」
「ティア、それは本人の目の前でいうのは良くないぞ?」

 それは分かっているけれど、やっぱりお母様と面と向かって話すのは苦手で――。

「うん。気を付ける」
「何かあったら、すぐにエリンに伝えるように」

 どうやらエリンは部屋の外で待機している模様。
 少し考えれば侍女にあたる人が身分の高い人の近くにいるのは当たり前とも言える。

「分かったわ」

 最後に彼は私の額にキスをして私から離れ、「それではエレンシア殿、失礼致します」と、お母様に言葉をかけたあと部屋から出ていく。
 廊下へと続く扉が閉まったあと、お母様は小さく溜息をつくと、

「久しぶりに二人きりで話すわね」

 ――と、お母様が話を切り出してきた。

「はい」

 小さく首肯しながら私も同意する。
 こうして、お母様と二人きりで話すのはミトンの町以来かも知れない。
 そんなことを思っていると、お母様は私が寝ているベッドに入り込んでくる。
 成人した殿方が3人ほど眠れるベッドと言う事もあり、スペースに余裕はあるけれど、いきなりベッドに上がってくるとは想像していなかった。
 あんなに貴族としての振る舞いに煩かったお母様が何の断りもなく人が寝ているベッドに入ってくることに私は驚いた。

 だからこそ、「――お、お母様!?」と、思わず感情が声に反映されてしまう。
 
「何を驚いているのかしら?」
「――えっと……、いきなり寝台に入ってくるとは思わなかったので、本当は一言断りとか……」
「そうね……。本当は、それが正しい在り方よね」

 私の傍まで近寄ってきたお母様は私をまっすぐに見てくる。




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