公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

和解(4)




 そこまで考えたところで、視界が反転する。
 体中から力が抜けていくことを感じながら、ずっと気を張っていたからこそ話していられた事に気が付くけれど――、急速に迫りくる眠気が私の視界を閉ざしていく。

「ティア!」

 私の名前を呼ぶ声が聞こえてくると同時に、愛しい彼が私を抱きしめてくれた。

「……」

 声にならない。
 言葉にならない。
 ただ、耐えがたい睡魔に私の意識が押し流されていく。
 だから、私は微笑む。
 言葉では語れないから。
 それでスペンサーが安心してくれたらいいのだけれど――。

 そこで私の意識は途絶えた。



 木漏れ日から差し込む日差しに私は眩しいと思いながら瞼を開ける。
 
「ここは……」

 辺りを見渡す。
 近くには、巨大な木が存在していて幹の太さは目測でも100メートルは優に超える。
 木の高さに至っては、どれだけあるのか想像もつかない。

 私は、自分が寝ていたベッドから降りて踝まで伸びている草原を素足で踏みしめるけど、草という感触がない。

「どこなの?」

 辺りを見渡すけど、建物も何も一切――、存在せず自分が何処に居るのかすら分からない。
「ここは、リフェルテエの丘よ」

 唐突に声が鳴り響く。
 振り向くと、そこにはユウティーシア・ド・ローランドが立っていた。
 時折吹く風が、彼女の――、腰まである銀色の髪を靡かせる。
 
「リフェルテエの丘?」

 私の疑問に、赤い瞳で真っ直ぐに見てきている彼女は小さく頷く。
 
「ここはね、私がローランド王家の王女として静養していた頃によく来ていた場所なのよ」
「静養?」
「ええ――、だけど……、今はどうでも良いわね。過ぎ去った過去だもの」
「……」

 何て言葉を掛けていいのか分からない。
 彼女は――、ユウティーシア・ド・ローランドは寂しそうな目をしていたから。

「貴女って本当に変な子よね」
「そうでもないと思います」
「そんなことあるわよ。自分が利用されていたと知らされても、自分の境遇を理解しても私を助けようとするのだもの。正直、心配になるわ。でも――、その性格は嫌いではないわ。――さて、一応お祝いの言葉を述べればいいのかしら? エレンシアから結婚の承諾を得られたのでしょう? おめでとう」
「ありがとうございます」

 私は素直に、その言葉を受け取る。
 すると彼女は、やはり小さく溜息をつく。

「やっぱり変な子ね」
「そうですか?」
「ええ、――でも私はあなたに負けたのだから邪魔をすることはしないわ」

 その言葉に私は左右に頭を振る。

「邪魔とかそういうのは私は考えていません。ユウティーシアさんの力になるって私は決めました。だから邪魔するしないではなく力を貸してはもらえませんか?」
「……仕方ないわね」
「それでは、まずは情報のすり合わせをしたいです」
「情報?」

 彼女の疑問に私は頷く。
 アルドーラ公国で色々な場所を見て回って私は多くの疑問を抱いていた。
 それは――。

「ユウティーシアさんは、100年前にユウティーシア・ド・リースノットとして、この国に嫁がれましたか?」
「ええ。肉体に連なる精神の再構築の実験として、私はリースノット王国の王家に生まれたわ。またアルドーラ公国に来るとは思っても見なかったけれどね」
「――え?」

 その言葉に私は、首を傾げる。
 
「ユウティーシアさんは、この国に嫁いできてから現代の地球文明を利用した商売とかされたんですよね? だって公都ルクセンブルグのスペンサーの邸宅にも石碑がありましたし……」
「…………それは、私じゃないわね」
「――え?」





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