公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

揺れる気持ち(5)




「すまない。ティアには言えなかった。本当に君を娶る資格が俺にあるのかと何度も自問自答して――、そして、父上に掛け合ってようやく許可が下りた」
「……」

 さらに強く抱きしめてくる彼――。

「許可?」
「ああ――。一度、破棄された王位継承権を復権することは許されない。だが――、公爵家の創設は認めてもらった。それと、俺の息子や娘に限っては王位継承権の資格を得られるように公国の法を改正した」
「それって……」
「ティア、君はリースノット王国の王妃だと言う事は聞いている。だから――、それに相応しい地位を得られれば君の両親を説得できると考えたが――」

 その言葉に私は、少しばかり苛立ちを覚えてしまう。

「何を言っているの! 私が、地位や名誉なんて求めていると思っているの? それに、お父様もお母様は、私には――」
「ティア!」

 彼が、私の唇を塞いでくる。
 互いに舌を絡ませ合う。
 久しぶりのキス。
 それに酔いしれてしまい、互いの唇が離れたあとも私はボーッとしてしまう。

「実の両親を悪くは言ってはいけない。ティアの両親も、君を大事に思って行動をしただけだから……、人の悪い側面ばかり見たらいけない」
「――で、でも私……」

 小さい頃から見てきた両親に違う一面があるとは到底思えない。
 私を政争の道具にしようとしてきた両親の姿しか思い浮かばない。

「よく聞くんだ。リースノット王国は、君のアルドーラ公国への輿入れを了承した。元老院が――、リースノット王国の国王が許可をした」
「それは全てスペンサーが?」

 すごい。
 他国のことにまで話を持っていけるなんて……。

「違うよ。ティア、君の父上であるバルザック殿が――、君をアルドーラ公国に嫁がせると決めて――、娘であるティアが幸せになればと、伝統あるシュトロハイム公爵家が潰されることを覚悟の上でリースノット王国内の重鎮とグルガード陛下に直訴した」
「う……そ……」

 そんな……、そんなこと信じられない。
 だって貴族としての規範たるお父様とお母様が、そんなことを――、娘の為に――、私なんかの為に――、公爵家がお取り潰しになる可能性があるのに……、そんなことをするなんて……、そんなこと……。

「本当のことだ。だから、フィンデル大公も俺に公爵家を爵家を――、領地を与えることを了承した」
「それじゃ……」
「ルガードの件も含めて、俺が爵位を得ること――、そしてリースノット王国内での問題を含めて全ての問題事を片付けていたら、これだけの時間が掛かってしまった。そして――、ティアが責任を感じていたのは分かっていた。もし君が原因で、シュトロハイム公爵家が無くなってしまうと――、その話を君が聞いたら……、だから屋敷からは出ないように情報が入らないようにした。どんな些細な事も含めて――、でも、そのことでティアが不安になったことは事実だ。本当にすまなかった」
「そんな……」

 私は、纏まらない思考で、スペンサーが教えてくれた事を必死に整理して理解しようとするけど、どうしても分からない。

 両親が私を大事にしてくれた事なんて一度もない。
 何か裏があるのではないのか? と、どうしても考えてしまう。




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