公爵令嬢は結婚したくない!
束の間の日々(1)
「ユウティーシア様、お待たせしました」
エリンさんは、二人の男性とメイドの方を連れて戻ってくると、すぐに指示を出してお茶の用意を始めてくれる。
その様子を見ていた私は、申し訳なく思いつつも石碑の方へと視線を向ける。
「一体、どういうつもりなの……。それに、ユウティーシア・フォン・シュトロハイムって……」
100年前に、どうして私が存在しているのか。
時間の流れというのは基本的に一方通行であり、空間は連続体として存在している事から時間の流れというのは絶対的であり、時間逆行は出来ないはず。
――それなのに、石碑には私の誕生日や王位簒奪レース、そして――、成人の事まで書かれている。
「ユウティーシア様、ご用意が出来ました」
「ありがとう」
設えられた椅子に座り、用意されたお茶を口にする。
私は、紅茶を口にしながら、石碑のことを考えていく。
私が守りたい物――、そして私が守れなかった物と文字が書かれている。
今の私が守りたい物は、たくさんありすぎてどれか分からない。
ただ一つに決めるとしたら……、愛する彼の事くらいで――。
でも、それが正しいのかは分からない。
「ユウティーシア様、今日は、これからは如何致しましょうか?」
「そうね。一度、部屋に戻るわ」
とりあえず王位簒奪レースで何かが起こることは確定していて――、その時に正体不明の存在が海洋国家ルグニカを襲う……、それだけは確定している。
そうなると私が魔法を使いこなして戦えるようにならないといけない。
その為には、衛星都市エルノのダンジョン内の神代文明時代の遺跡で受け取った魔法書は大きな力になるはず。
まずは魔法書を読み込んで力を蓄えないといけない。
お茶を嗜んだあとは、部屋に戻りエリンさんが壁際で待機している間、椅子に座り魔法書を開きながら文章に目を走らせる。
魔法書には、この世界アガルタの事が大まかに書かれていて――、それは魔法にも色濃く影響として現れることが表記されていた。
「ユウティーシア様、そろそろお休みになられては?」
「――え?」
気が付くと部屋の中は薄暗く――、太陽が沈みかけているのが窓からも見て取れる。
あまりにも熱中していたことで時間が過ぎるのを失念していたようで。
「お食事などは如何いたしましょうか?」
「そうね。何か軽い物を頂けるかしら?」
「畏まりました」
部屋からエリンさんが出ていったあと、魔法書を閉じる。
「そういえば……、スペンサーは大丈夫なのかしら?」
王城に向かうと聞いていたけれど……、リースノット王国が何か手を出してこなければいいのだけれども。
思いに耽ったところで扉が数度ノックされる。
「エリン?」
ずいぶんと早く食事の用意が出来たのね? と思ったところで扉が開く。
「ティア、もう大丈夫なのか?」
部屋に入ってきたのは、いま最も会いたかった殿方で――。
私は椅子から立ち上がると、無意識の内に駆け寄って彼に抱き着いていた。
彼も私のことを抱きしめ返してくれる。
「おかえりなさい」
「ああ、ただいま――」
彼と口づけを数度交わしたあとで、抱き上げられる。
「あっ――、まだ湯浴みをしていないの……」
邸宅内を散歩していて、多少は汗を掻いたことを思い出す。
「大丈夫だ。俺も政務で汗を掻いたからな」
「そういう意味ではないの」
「大丈夫。ティアの匂いを強く感じられるから――」
彼が、私を抱き上げたまま何度も口づけをしてくる。
そんな風に求められると拒否できない。
「スペンサー、エリンがね。食事を持ってきてくれるって……、だから――」
他の人に、情事を知られたくない。
きっと、いつも見たいに声が出てしまうから。
「途中で、エリンと話をしたから大丈夫だ」
「何が、大丈夫なの?」
「貴族の共寝など使用人が見ることや聞くことは良くあることだ」
「――え!? ええ!?」
そんなの初耳なのだけれど!
「ティアの部屋の隣には、優秀な女性騎士を数名配置してある。もちろん、俺達が情交をしている時でもな」
そんな現実、知りたくなかった。
それって、つまり私の嬌声を誰かに聞かれていたって事に他ならないから。
「まって!」
「どうした?」
「私達の情事を誰かに見られたり聞かれるのは、すごく恥ずかしいの。だから、出来れば……」
「ティア――」
「スペンサー?」
「気にならないくらい気持ちよくしてやるからな」
「そういう事じゃないから!」
あっという間に服を脱がされてしまう。
最初は、隣に人が居ると思って意識していたけど、途中から訳が分からなくなって――。
日が昇ってきたところで、彼に抱きしめられながら瞼を開けたところで、私は小さくため息をつく。
何度もスペンサーと男女の交わりをしたからなのか分からないけど、彼に触られるだけで、抵抗できなくなっている。
それに、前は痛いだけだったけど……、最近は――。
「はぁ……」
「どうかしたのか?」
どうやら、スペンサーも起きていたみたい。
「ううん。なんでもないの」
「それならいいんだけどな」
「――んっ」
彼に胸を揉まれ体が勝手に反応する。
「スペンサー?」
「そんな表情を見せられると――、それに朝だからな……」
「……ええ!?」
夜に、あれだけしておいて――、まだするとか……。
もう腰に力が入らないのに!
「今日は、会談が何もないから一日でも大丈夫だ」
「私が大丈夫じゃないから!」
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