公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

届かない思い(14)バルザックside




「ティア!」

 倒れた娘に駆け寄るエレンシア。
 私も、娘のユウティーシアが倒れた事に動揺しつつ足早に近づく。

「あなた! ティアが!」
「分かっている、無理に起こすな」

 娘を抱き上げ魔法で怪我が無いか確認していくが身体的には何も異常は見られないが――。

「バルザック殿、容体はどうかな?」
「身体的には特には――」

 アルドーラ公国のフィンデル・ド・アルドーラが私や娘の傍で膝をつくと――、娘の額に手を当てる。

「ふむ……、熱などはないが……」
「フィンデル大公、大変に不躾なお願いなのですが――」
「何かな?」
「娘を――、静かな場所で寝かせたいと思っているのですが……」

 本当ならば、リースノット王国のシュトロハイム公爵家まで連れて帰りたいところだが――、先ほどの娘の発言――、私達を親とは認めないと言っていた事から無理矢理に国元まで連れていくのは宜しいとは言えないだろう。

「手配しよう。――ご一緒に、逗留されるのなら――」
「私は、国に戻り事の顛末を国王陛下に伝える所存です。もちろん、この度の第一王位継承権を与えられたルガードの娘に対する暴行・傍若無人な振る舞いについても、報告するつもりです。貴国には迷惑が掛からぬように致しますのでご安心を――」
「ふむ……」

 私の言葉に一瞬だけ思案な表情を見せてくるが。

「分かった。それで、シュトロハイム公爵家夫人は如何なされるか?」
「妻は、アルドーラ公国に滞在させてはもらえませんか?」
「それでは、リースノット王国から見れば人質を取っているように見えてしまうのだが?」
「分かっています。――ただ、今回はルガードの事もありますので――」

 私は自身の手で、王位継承権第一位の人間をこの手で殺した。
 それは、普通では許されない事だ。
 おそらく外交上は問題にならないように計らう事は出来るが――、シュトロハイム公爵家の取り潰しの案も元老院から出てくるだろう。
 これからは時間との勝負になる。 

 そして――、それが分かっているのだろう。
 フィンデル大公は、私の決断を待っているのか沈黙を守っている。

「あなた……、ごめんなさい。私、こんな事になるなんて思わなくて……、娘が――、まさか……」
「エレンシア……」

 娘を、抱きしめたまま謝罪の言葉を紡ぐ妻に――、私は声をかけることが出来ない。
 子供の教育は夫人の仕事である。

 ――それが普通の貴族の在り方。

 それなのにどういうことだろうか?
 娘の口から「親とは思わない」などと言う罵声を浴びせられるとは……。
 努々にも思っても見なかった。

 明らかに、娘の教育が間違っていた。
 そうとしか思えない。
 だが、いまは他国の王が私達のことを見ている場面で、そんなことを話し合うのは愚問としか言えなかった。
 
「フィンデル大公、この度の問題は全て私達の国の問題でご安心してください」

 静かに頷く公王に謝意を述べておく。
 これからのことを――、考えなければならない。





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