公爵令嬢は結婚したくない!
届かない思い(13)
そんなわけない。
そんなことは断じて……、でも――、仕方ない。
「だって……、貴方に迷惑が掛かるもの……」
「何のために! 私が! 謹慎中の私が此処に来たと思う?」
「――え?」
まだ謹慎中だという言葉に私は驚いてしまう。
だって、大公の命令は絶対な訳で、それを破るなんて――。
「君の事は、エリンから聞いた。ルガードに、君が犯されたという話も――」
「あ……」
言葉にならない声が口から漏れ出る。
彼の口からは聞きたくなかった。
――違う、彼には知られたくなかった。
「だから――」
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめん……なさい」
力なく紡ぐ懺悔を意味する言葉。
「ティア?」
「わたし……、もう穢されてしまったの。貴方には相応しくないの。だから――、だから――、もう私のことは放っておいて……、だって! 私! 今日の会見でルガード様に調教されてしまった内容を全部告白してしまったもの! もう! 私は、貴方には――、スペンサーには相応しくないの!」
心の内側にため込んでいた思いを告白してしまった。
そう、彼に迷惑を掛けるなんて方便にすぎない。
私は、私自身が許せない。
だって――、好きでもない殿方に体を許して――、何度も気をやってしまった自分が情けなくて、利用されてしまった自分が許せなくて……、だから……。
「俺が誰を好きになるのも、それは俺の勝手だ! ティア! 俺は、君がどんな状況に置かれても――、たとえ世界を敵に回しても俺だけは君の味方だと言ったことを忘れたのか!」
彼の言葉にハッ! として顔を上げる。
そこで、ようやく私は後ろから抱き着いてきて、私の顔を覗き込むようにしている彼と――、初めて目が合った。
「ようやく、俺の方を見てくれたな」
「スペンサー……」
「俺は、ようやく分かった。俺はティアを死ぬほど愛している。だから、お前が……」
そこで彼は言葉を切ると私の瞳をジッと見てくる。
彼の青い瞳の中に、私の姿が映っているのが見える。
その映っている私の姿は、とても心細く見える。
「お前が――、本当に俺と一緒に居るのが苦痛なら俺は……、分れるわけがないだろう!」
強く抱きしめてくる彼の腕。
「やっぱりダメだ。どんな事があっても、お前を手放すなんて出来ない!」
「でも、私は……」
「お前が、穢されているというのなら、その穢された理由を作ったのは――、すぐに助けに行けるほどの力が無かった俺の責任だ!」
「私の体はもう……」
「――ルガードに穢されたというのなら俺が消毒してやる!」
「――え?」
「俺が、お前が俺に溺れるくらい愛してルガードの痕跡を消し去ってやる!」
後ろから抱きしめてきていた彼は私の耳を甘噛みしてくる。
それだけで、私の体がビクンッ! と、震えてしまう。
ルガードに抱かれた時には無理やりだったのに……。
スペンサーには、後ろから抱きしめられているだけで安心感を覚えてしまい全てを委ねたくなってしまう。
それに、体はすごく敏感にもなっていて……。
「ティア」
「スペンサー」
私は瞼を閉じる。
そして互いに口づけをしたあと、浴槽から床に流れ落ちるお湯に気が付き魔法石を停める。
お湯が出るのが停止したところで、私は彼に抱き上げられて浴室から出たあと部屋のベッドに降ろされた。
「ティア――」
「おねがい、きて――」
無理矢理、体を求めてくるルガードとは違って、スペンサーは壊れ物を扱うかのように優しく私を何度も抱きしめてくる。
途中から、頭の中が真っ白になっていく。
気が付けば――、部屋の中は外から入り込む日差しで明るくなっていて……。
私は微睡の中、スペンサーに抱かれたまま静かに瞼を閉じた。
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